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2023年12月3日日曜日

「デーツ」(=ナツメヤシ)が甘くてうまい。しかも栄養価が高い。健康のために毎日1粒食べて「生活習慣化」することを薦めたい

 (乾燥させたドライフルーツとしてのデーツ 筆者撮影)


「デーツ」がうまい。デーツとは「ナツメヤシ」のことだ。ナツメヤシの実のことである。乾燥させたドライフルーツとしてのナツメヤシである。

数年前から毎日食べている。1日1粒ないし2粒。ねちゃねちゃした食感だが、甘くてうまい


(ナツメヤシの実とその断面 Wikipediaより)


ただし、栄養満点なので、食べ過ぎに注意したい。砂漠で疲弊した旅人がオアシスにたどりついて水にありつき、デーツを食べて息を吹き返す。そんなイメージである。

「1日1粒のデーツ」は、すでにわたしの生活習慣となっている。amazon の「定期おトク便」を利用して、毎月かならず入手できるようにしている。


(たわわに実ったナツメヤシの実 Wikipediaより)


「ナツメヤシ」を生まれてはじめて食べたのは、中学生のときだった。

いまは亡き父がはじめての海外出張でエジプトに渡航し、お土産として買ってきたアイテムのひとつがナツメヤシであった。もちろんドライフルーツとしてのナツメヤシで、じつに甘くてうまった記憶がある。

余談だが、銅製のソクラテスの胸像もお土産としてもらった。いまから考えてみれば、父親はギリシアにも立ち寄ったのだろう。

わたしが中学生だった当時は海外旅行などしたこともなかったので(・・そんな時代だったのだ)、いかなる空路でエジプトに渡航したのかまったく関心もなく、したがって聞いたこともなかった。

おそらく、アテネ経由でカイロに渡航したのだろう。地理的には、クレタ島を挟んで、ギリシアとエジプトは対岸にある。

その後、自分自身がギリシアのアテネからイスラエルのテルアビブに渡航しているが、アテネが東地中海地域のハブになっていることは、実際に利用してみると大いに納得されることである。

残念ながら、自分自身はエジプトには行かずじまいとなって現在に至っている。


■ナツメとナツメヤシは似て非なるもの

その後、しばらく味わうことはなかったが、社会人になってから都内の中国物産店でナツメ(棗)を購入して食べていた。乾燥させたナツメの実は、漢方薬としてもつかわれる。

乾燥させるとナツメのほうがシワが多くなるが、形がよく似ている。味もよく似ている。だから、ナツメヤシというのだろう。


(ナツメ=棗 Wikipediaより)


だが、ナツメとナツメヤシは似て非なるものだ。

ナツメ(棗)は、クロウメモドキ科の落葉小高木である。ナツメヤシは、ヤシ科に属する常緑の高木。実の形と味が似ているだけだ。



■ナツメヤシはアラブ世界を代表するフルーツ

さて、わたしが amazon で購入している「デーツクラウン」はKHENAIZI(クナイジ)種で、アラブ首長国連邦(UAE)産である。王室御用達なので「クラウン」がついているということだ。



調べてみるとデーツの主要生産国は、数量ベースでみると第1位がエジプトで、サウジアラビア、イラン、アルジェリア、イラク、パキスタン、スーダンとつづいているが、アラブ首長国連邦が上位にはでてこない。




その意味では、わたしが毎日食べているデーツは、アラブ諸国を代表する産地のものではないということになるが、高級品であることは確かだろう。それは食べてみればわかることだ。

生産量データにはイランやパキスタンが登場するが、デーツは、文字通りアラブを代表するフルーツである。

アラビア半島が原産地のイチジクと同様、旧約聖書やコーランにも登場する「由緒ある」(?)フルーツである。



■「1日1粒のデーツ」で医者いらず!?

デーツ(date)は、英語のつづりだと、曜日やデートを意味する date とまったくおなじであるが、なぜナツメヤシの実をデーツというのかわからない。

日本酒のことを英語で sake と書いて「サーキ」と読むが、英語の sake(セイク)とはまったくなんの関係もないのと似たようなことかな?

英語には An apple a day keeps a doctor away. というコトワザがある。「リンゴ1個で医者いらず」、ということだ。リンゴはカラダにいいから、生活習慣化すべしという教訓だ。

わたしの場合は、A date a day keeps a doctor away. ということになろうか。"A date a day" というのは、英語としては文法的には問題ないが、なんだかヘンな感じだな。

「デーツ1粒で健康維持」は確かなことだ。すくなくとも自分のカラダで実証している。とくに鉄分と食物繊維が多いのは特筆すべきデーツの特徴である。


(デーツクラウンのPR資料より)


<関連記事>

・・「デーツは食物繊維や抗酸化物質など有益な成分が豊富で、加工されたスイーツに比べて血糖値の上昇が緩やかなスーパーフードだ。」

(2025年10月12日 項目新設)


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2021年4月8日木曜日

書評『イスラム世界の常識と非常識』(加藤博、淡交社、1999)-「複合アイデンティティ」によって構成された「イスラム世界」をエジプトに即して考える


『イスラム世界の常識と非常識』(加藤博、淡交社、1999)を読んだ。積ん読すること、なんと20年!  

さきに読んだ『慈悲深き神の食卓』がエジプトを事例として描かれていたので、エジプトついでに本書を読むことにした次第。本というものは、いったん読むキッカケを失うと、あっという間に積ん読化していまう。この著者の本は、斜め読みはしているのだが。 


■「複合アイデンティティ」によって構成された「イスラム世界」

「イスラム世界の常識と非常識」というタイトルだが、この「イスラム世界」というコトバそのものがクセモノだ。

というのは、普遍的な「イスラム世界」というものが現実世界に存在するわけではないからだ。イスラム法学者の説く原理原則にもとづいたイスラム世界は、理想化された世界である。「理想型としてのイスラム世界」という表現も可能だろう。 

著者が取り上げるのは、もっとも長く滞在したエジプトであり、研究テーマがエジプト近現代史でもあることから、エジプト社会の実態に即して「イスラム世界の常識と非常識」が語られることになる。 

著者は注意喚起しているのは、エジプトが大きくわけて4つのアイデンティティが複合して構成されていることだ。 

空間的な大きさから順番に、①イスラム世界、②中東世界、③アラブ世界、④エジプト の4つである。この4つのアイデンティティが複合的に交わり、ときに応じて特定の要素が全面に出てくることになる。

これは国家レベルの話だが、個人レベルではこれに加えて、さらに都市か農村か、男か女か、子どもか大人か、老人か病人か、といったさまざまな属性がからまって、さらに複雑になってくる。

したがって、本書でいう「イスラム世界の常識と非常識」とは、エジプトという特定の地域で、しかも1990年を中心に描いたものとなっていることに注意したい。

考えてみれば当たり前なのだが、おなじ「イスラム世界」といってもエジプトとトルコと違うし、サウジアラビアともイランとも異なる世界ではある。東南アジアのインドネシアやマレーシアはさらに異なる世界だ。

しかも、1990年代と2020年代でも大きく変化しているはずだ。空間的・時間的差異を無視した議論がナンセンスなのはそのためだ。 

そういう観点から、描かれた1990年代のエジプト社会における「イスラム世界の常識と非常識」だが、男性研究者の視点によるものという限界もある。男女の区分が厳格なイスラム世界では、男性のアクセスできる空間には限界がある。研究者と実務家との、現地社会との接触密度の違いもまた存在する。立ち位置の違いである。

研究者としての限界は十分に踏まえた上で、研究者である著者は、配偶者(女性)による出産と育児にかんするレポートで補足を行っている。これはある意味では良心的であり、実際的な配慮というべきだろう。出産と育児は、イスラムの世界観においてきわめて重要な位置づけをもっているからだ。 

エジプトといえば砂漠というのが日本人の連想だろうが、イスラムは「都市の宗教」であって、「砂漠の宗教」ではないという著者の説明はきわめて説得力に富んだものだ。そして、都市と農村の違いもまた、著者によるフィールドワークの体験が読ませるものとなっている。 


■かつてエジプトには「ギリシア人コミュニティ」があった

個人的には、1952年のエジプト革命まで存在したギリシア人コミュニティの話が興味深かった。ギリシアが1830年に独立するまでは、「ギリシア人」なるアイデンティティは存在しなかった。

ギリシア語を母語とするギリシア正教徒ギリシア語を母語とするイスラム教徒アラビア語を母語とするギリシア正教徒・・。アイデンティティというものは、複雑なのである。

アラブ民族主義のナセルによる「エジプト革命」を機に、エジプト在住ギリシア人コミュニティは解体したようだが、ユダヤ人だけでなく、ギリシア人についても調べてみる必要がありそうだ。

このテーマは、2002年に出版された著者の『イスラム世界論』(東京大学出版会)ではより幅広く展開されていることを、本書の読了後に確認した。

なぜギリシア人がエジプトにいたのかという点にかんしては、オスマン帝国時代には、商業や金融を担っていたのがユダヤ人やギリシア人、アルメニア人であったことを知る必要がある。

エジプトは、結局オスマン帝国から独立できないまま、英国の植民地になってしまったのである。ギリシア人は、オスマン帝国時代にエジプトに移住して、カイロやアレクサンドリアでビジネスを行っていたのである。

そういえば、フランスのシャンソン歌手ジョルジュ・ムスタキは、アレクサンドリア生まれのギリシア系で、かつ「ロマニオット」のユダヤ人あった。「ロマニオット」(Romaniote)とは、2000年以上前からギリシアに居住していたユダヤ人集団で、いわゆるセファルディムとは異なる集団である。ムスタキの両親はコルフ島からエジプトに移住したポリグロットである。

まことにもって複雑なアイデンティティだが、「地中海人」というにがふさわしい。カイロもアレクサンドリアも。きわめてコズモポリタンな都市であった。

エジプトとトルコの関係について知るためには、『世界の歴史20 近代イスラームの挑戦』(山内昌之、中央公論社、1996)が参考になる。この本も、積ん読35年以上となっていたが、つい最近読了したばかりだ。




PS 著者の加藤博氏について

著者の加藤博氏は、現在では一橋大学名誉教授だが、残念ながら 私の在学中にはまだ着任してなかったようで、その授業に参加したことはない。 

加藤氏の時代に、経済学部の「西洋文明史」は「文明史」に衣替えしたようだ。

2000年代だと思うが、一般向けのイスラム講座シリーズを受講したことがあるが、前置きの長い話にややウンザリした記憶がある。2020年代であれば、もっと単刀直入な話をすべきではないかと思ったためだ。

(2023年11月15日 本文に加筆した)


 

目 次 
プロローグ 経験としてのイスラム世界 
Ⅰ イスラム世界は存在するのか 
 1 イスラム世界とは 
 2 なぜ、イスラムは人びとの心をとらえるのか 
 3 さまざまな土着文化を抱え込むイスラム世界 
Ⅱ イスラム世界の風土 
 4 砂漠 
 5 都市 
 6 農村 
Ⅲ イスラム世界の仕組み 
 7 政治 
 8 経済 
 9 社会 
Ⅳ イスラム世界の暮らし 
 10 出産-子どもは神様からの贈り物 
 11 育児 
 12 家族と結婚 
 13 名誉と恥 
 14 自己と世間 
エピローグ イスラム世界への徒然なる旅 
あとがき 

著者プロフィール
加藤博(かとう・ひろし)
1948年 愛媛県高松市生まれ。 1980年 一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。 東京大学東洋文化研究所助手、東洋大学文学部助教授を経て 現在 一橋大学名誉教授。
<主著書> 『私的土地所有権とエジプト社会』(創文社、1993年)『文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』(東京大学出版会、1995年)『アブー・スィネータ村の醜聞—裁判文書からみたエジプトの村社会』(創文社、1997年)『イスラム世界論—トリックスターとしての神』(東京大学出版会、2002年)『「イスラムvs. 西欧」の近代』(講談社現代新書、2006年)など。


<ブログ内関連記事>

・・エジプト社会を「イスラムと食」から見る

・・この本には黒海周辺のギリシア人についての記述があるが、エジプトのギリシア人コミュニティの話はなかった

・・「現在のトルコ人は、現地に生きていたギリシア人やアルメニア人その他がトルコ化されイスラーム化されたものが多数派であり、出自とされる中央アジア出身のトルコ族そのものではない」


 
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2014年4月20日日曜日

書評『自爆する若者たち ― 人口学が警告する驚愕の未来』(グナル・ハインゾーン、猪俣和夫訳、新潮選書、2008)― 25歳以下の過剰な男子が生み出す「ユース・バルジ」問題で世界を読み解く



「ユース・バルジ」(Youth Bulge)というコトバと概念が本書『自爆する若者たち  ―  人口学が警告する驚愕の未来』(グナル・ハインゾーン、猪俣和夫訳、新潮選書、2008)のキモである。「ユース・バルジ」とは、増大する若年層が人口構成に偏りを生み出した状態を指した表現である。

しかるべきポジションをゲットできず居場所がない野心的な若者たち過剰にあふれかえる彼らこそ、暴力やテロを生み出し、社会問題の根源となっている。これは現在だけでない、歴史的に見てもそうなのだ。「少子高齢化」ばかり耳にする現在の日本では考えにくい事態であるが、これが世界の現実だ。イデオロギーや主義も、しょせん跡付けの理由に過ぎないのだ。

こんなインパクトある内容を、これでもかこれでもかと描いた本書は、日本語訳が出版されてからすでに6年、原著のドイツ語版が出版されてから8年になる。だが、もしまだ読んでいないのであれば、いまからでも遅くない、ぜひ読むべきだと強く薦めたい一冊だ。


過剰にあふれかえる「息子たち」が問題だ

ドイツ語版のタイトルは、》 Söhne und Weltmacht: Terror im Aufstieg und Fall der Nationen 《 の全訳である。直訳すれば『息子たちとワールドーパワー-諸国家の興亡におけるテロル-』となる。

日本語のタイトルだと気づきにくいが、ドイツ語 Sohn(ゾーン)の複数形 Söhne(ゼーネ)に意味がある。「若者たち」ではない、「息子たち」なのだ。複数形ではあるが、「娘たち」は含まれないのが著者の強調するところだ。

もちろん、男子もまた母親から生まれる以上、出生率という観点から女子もかかわってくるのだが、暴力行為がその本質であるテロにかんしては、直接的に大きく関係しているのは「息子たち」である。しかも、長子相続の対象からはずれた二男・三男以下の息子たちだ。

そういえば、日本にも『楢山節考』で有名な深沢七郎という作家に『東北の神武たち』という作品があったと思いだす。『楢山節考』は「姥捨て山」をテーマにした作品だが、『東北の神武たち』は神武(ずんむ)と呼ばれていた東北の農家の二男・三男を扱ったものだ。土地を相続できない二男・三男たちは、「口減らし」(・・あまりにも直截な表現だ)のため追い出される。

だが、「ユース・バルジ」(Youth Bulge)とは、増大する若年層が人口構成に偏りを生み出した状態を指した表現だ。貧しさから追い出される『東北の神武たち』とは異なり、「食糧革命」以後の状態で出生率が高いと、地位やポジションを求めた野心的若い男子があふれかえることになる。25歳以下の男子が暴力的な存在で死亡率も高いことは、世界的な「常識」である。

「9-11」の同時多発テロの背景には、この「ユース・バルジ」がある。これはまた、アメリカの軍事戦略家の発想だと著者はいう。すでに少子高齢化が始まっている中国は、その観点においては、アメリカの軍事戦略家にとって「敵」ではないのだ。

ビジネス面だけではなく、軍事面においても中国はアメリカの敵ではないという指摘、これはきわめて重要だろう。


 (ドイツ語ペーパーバック版2008年 現代の危機に焦点をあてたカバー)


この点がフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドとの視点と力点の置きどころの違いだろう。文化論や文明論で説明しない点は共通しているが、ドイツ人社会学者ハインゾーンは、「人口爆発」とその規模にに焦点を置いている。トッドのように「家族制度」ではなく、過剰にあふれかえる「息子たち」の規模が問題なのだとしている。

フランス的発想とドイツ的発想の違いだと一般化することはできないが、人口減少問題を移民受け入れで解消してきた「普遍主義志向」の強いフランスとは異なり、「排他的で自民族中心志向」が強く、つねに過剰な人口に悩まされてきたドイツならではの違いではある。

中世においては「人口爆発」問題をスラブ圏への「東方植民運動」、初期近代以降は新大陸である南米と北米への「移民」で解消してきたのがドイツである。いや、そもそもの欧州域内で発生した「ゲルマン民族大移動」(4~5世紀)からして「人口爆発」がその原因であった。


「ユース・バルジ」問題を歴史的に跡づける

「ユース・バルジ」問題は、いま現在の問題だけではない。歴史的に跡づけとさまざまなことが見えてくる。

その意味では「Ⅲ 人口統計に見る征服者の出自とヨーロッパの世界征服という「奇蹟」」という章が、きわめて示唆的な内容である。

いまイスラーム世界で起こっていることは、16世紀から始まる初期近代(=近世)にヨーロッパで起こったことそのものだ。この指摘が意味することは歴史的イマジネーションを鍛えるうえでもきわめて重要だ。

15世紀末の1492年、レコンキスタを完成したスペイン王国はムスリムとユダヤ人を追放したが、その同じ年にはジェノヴァ人コロンブスがアメリカを「発見」するための航海に出発している。この年に欧州域内と欧州域外への巨大な人口移動が開始されたのである。

ヨーロッパで「人口爆発」が起こった理由として著者が指摘しているのは、ペスト(黒死病)で人口激減した結果、産児制限が撤廃され、自慰が禁止されて、「生めよ殖やせ」が奨励されたことである。1648年に終結した三十年戦争では、とくにドイツは人口が1/3に激減したが、その後は「人口増大」政策に大転換している。

この結果、ヨーロッパでは第一次世界大戦が勃発する1914年頃まで人口増が続いたのである。


(ドイツ語ハードカバー初版2006年 欧州もユースバルジが・・・を表現)


ヨーロッパの「ユース・バルジ」はアメリカ新大陸に向かった。スペインとポルトガルからは主に南米へ、英国とフランスからは北米とカリブに向かう。先住民を暴力的に押しのけ殺戮し、ヨーロッパ世界がアメリカ大陸を蹂躙して収奪の限りを尽くしたことは歴史的事実である。さらに、19世紀にはドイツ人とイタリア人も北米と南米に移民する。

ヨーロッパが世界を征服したのは。この「人口爆発」が背景にあったことはきわめて重要だ。

これについては、書評 『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)-「西欧主導のグローバリゼーション」の「最初の500年」を振り返り、未来を考察するために を参照されたいが、アタリの議論に「人口統計学」を重ね合わせると、よく理解できるのである。また、ハインゾーンが「所有権概念の確立」(所有権≠占有権)を重視している点も興味深い。

1900年まではヨーロッパの人口は総計4億6千万人、すなわち世界人口の 1/4 がヨーロッパ人だった(!)のだが、いまや世界におけるムスリム人口は 2010 年に 16 億 人を超え、2030 年には世界人口の 26% に達すると推計されている。2030年には世界人口の 1/4 がイスラームを信じるムスリムとなるのである! この状況を前提に思考しなくてはならないのだ。

世界全体の総人口が83億人を超えるなかで、ヨーロッパの占める比率がさらに大幅に低下するということである。相対的な位置が大幅に低下するのである。

世界の人口の1/4がヨーロッパ人だったからこそあり得たのが、ヨーロッパによる世界征服だっとことを考えれば、ヨーロッパ人がムスリム人口増大に「心理的な圧迫感」を感じるのは不思議でもなんでもない。非白人人口が増大するアメリカも同様だが、それ以上にヨーロッパ人の圧迫感は大きいことが推察される。

いま欧州各地で蔓延する極右も、思想的なものというよりも、労働力過剰による失業率高止まりが原因と考えるべきだろう。「人口増大」はなくても仕事が減れば労働力過剰となる。そう考えれば、日本でも同様の状況にならないという保証もない。

もちろん、ムスリム人口の増大がそのまま世界のイスラーム化になるわけではないだろう。だが、「グローバル化」の意味は、イスラーム圏における「ユース・バルジ」という人口爆発」問題を抜きにして考えることがナンセンスであることがわかるはずだ。

いまは「ハラール」という点でビジネス面でのポジティブな面ばかりを見ている日本のビジネスパーソンも、ムスリム人口増大は、複眼的に見る必要があるだろう。「少子高齢化」は先進国の「常識」であっても、先進国以外では「常識」ではないのである。

人口統計だけが確実に信頼できる未来予測の素材だということは、口を酸っぱくして強調しておきたい。これはビジネスに限らず、ほぼすべての事象について適用可能なのだ。

だからこそ、この本は絶対に読んでおくべきなのである。



 (画像をクリック!

目 次

はじめに
日本語版に寄せて
本書のテーマについて

Ⅰ 古くて新しい世界敵-ユース・バルジ(Youth Bulge)からの過剰な若者たち
Ⅱ 若者たちはどこに住んでいるか?
Ⅲ 人口統計に見る征服者の出自とヨーロッパの世界征服という「奇蹟」
Ⅳ 超大国の昨日と明日-若者の増加と厳格な所有権構造
Ⅴ ユース・バルジと国境なきテロリズム
Ⅵ 入れてもらえる者、もらえない者
参考文献


著者プロフィール  

グナル・ハインゾーン(Gunmnar Heinsohn)
1943年ポーランド生れ。ベルリン自由大学で社会学、歴史学、心理学、経済学、宗教学、ジャーナリズムを学ぶ。社会学・経済学博士。1984年にブレーメン大学終身教授に招聘され、1993年から同大学でヨーロッパ初の「ジェノサイド研究所」を主宰。現代文明の底に流れるものを探ろうと、『なぜアウシュヴィッツか』(1995)、『神々の創造』(1997)、『ジェノサイド事典』(1998)などのほか著作は多岐にわたる。(出版社サイトより)。

訳者プロフィール  

猪股和夫(いのまた・かずお)
1954年生れ。静岡大学でドイツ文学を専攻。卒業後、『小学館独和大辞典』の校正に従事。校正スタッフのチーフを務めた。訳書に『父の国ドイツ・プロイセン』(W・ブルーンス)がある。(出版社サイトより)。


<関連サイト>

Gunnar Heinsohn - Die Jugendblase (Söhne und Weltmacht)
・・「ユースバルジ」(youth bulge)は、ドイツ語では die Jugendblase

「ユースバルジ」(youth bulge)とは?(wikipedia英語版)
The expansive case was described as youth bulge by Gary Fuller (1995). Gunnar Heinsohn (2003) argues that an excess in especially young adult male population predictably leads to social unrest, war and terrorism, as the "third and fourth sons" that find no prestigious positions in their existing societies rationalize their impetus to compete by religion or political ideology. Heinsohn claims that most historical periods of social unrest lacking external triggers (such as rapid climatic changes or other catastrophic changes of the environment) and most genocides can be readily explained as a result of a built-up youth bulge, including European colonialism, 20th-century fascism, rise of Communism during the Cold War, and ongoing conflicts such as that in Darfur and terrorism.


<ブログ内関連記事>

書評 『民衆の大英帝国-近世イギリス社会とアメリカ移民-』(川北 稔、岩波現代文庫、2008 単行本初版 1990)-大英帝国はなぜ英国にとって必要だったのか?
・・本国で雇用がつくりだせない以上、増大する失業者が社会問題にも発展しかねない。そこで活用されたのが、植民地だったのである。そして、この基本姿勢は、大英帝国がもはや存在しなくなった現在も続いているのである。現在もっとも人口過剰、とくに若年層の失業問題に悩んでいるのは中近東諸国であるが、かつての大英帝国や大日本帝国のように、植民地に失業者を大量に送り出すことは、もはや叶わない話である。自国の意のままになる植民地もつことは、21世紀の現在はありえないからだ。

書評 『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー-』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!

書評 『中東激変-石油とマネーが創る新世界地図-』(脇 祐三、日本経済新聞出版社、2008) 
・・過剰人口、とくに若年層の失業問題をかかえる現在の中近東諸国は、大英帝国とおなじ問題をかかえているのだが、はたして解決策は・・・?

書評 『中東新秩序の形成-「アラブの春」を超えて-』(山内昌之、NHKブックス、2012)-チュニジアにはじまった「革命」の意味を中東世界のなかに位置づける
・・「ユース・バルジ」の議論をつかって中東情勢を読み解く歴史家の現代史記述

書評 『世界史の中の資本主義-エネルギー、食料、国家はどうなるか-』(水野和夫+川島博之=編著、東洋経済新報社、2013)-「常識」を疑い、異端とされている著者たちの発言に耳を傾けることが重要だ
・・「食料は一般人の常識とは異なり、1910年代の化学肥料の発明というテクノロジーによってむしろ過剰な状態が続いている。だからこそ食料価格が下落しがちなのであり、そのために先進国は補助金によって農家の所得補償を行わざるを得ないのである。そもそも食料が過剰でなければ地球全体で人口が増加するはずがないという川島氏の主張には説得力がある」

(2014年6月17日 情報追加)


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書評『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!


「人口統計」(デモグラフィー)だけが確実に信頼できる未来予測の素材である。これを歴史人口学の立場から実証研究で示してきたのが、フランス国立人口統計学研究所(INED)に所属する歴史人口学者エマニュエル・トッドである。

本書は、ネット放送されたインタビュー番組を活字化したものであり、日本語版も「ですます調」になっているのでひじょうに読みやすい。「アラブ革命」を中心に、その他の幅広いく歴史人口学の成果を、一般視聴者向けにフランス語で語ったものだ。

ただし、英語圏のものとは違って、かゆいところに手が届くような説明ではない。素っ気ない語りに終始しているので、ささっと読める割には内容はよく吟味しながら読んだ方がいいだろう。

日本語版の副題「デモグラフィーとデモクラシー」がほぼ完全に内容をあらわしているといっていいだろう。デモグラフィー(Demography)とデモクラシー(Democracy)は、ともにデモ(Demo)という接頭語で始まるのでコトバ遊びのようだが、日本語で人口統計やを民主主義と表現したのでは見えてこない重要な視点がそこにある。

ともに「量が質を決定する」という思考をベースにしているのである。。デモ(Demo)とはギリシア語のデモス(Demos)に起源をもつコトバであり、「民主主義」がときに「衆愚政治」に転化しかねない危うさをもっているのは、過った主張をもった多数派が、数の力で少数派をねじ伏せることがあるからだ。


「9-11」後に欧米世界で支配的になったのが、「イスラームは近代とは相容れない」という通念だが、識字率・出生率・内婚率などデモグラフィーに着目して虚心坦懐に統計数字を読み込んでいけば、「アラブ革命」の根底で進行中の社会変化を知ることができるのである。それが民主化運動として爆発したのである。

「アラブ革命」には、イスラームという宗教は関係ないのである。デモグラフィー(人口統計学)から導き出された結論が、読者の思い込みを解き放ってくれるだろう。ある意味では身も蓋もない結論ではあるが・・・。

日本語版の帯には「アラブ革命も予言していたトッド。」とある。「予言」というコトバは売らんかなのキャッチーなコピーだが、ほんとうは「予言」ではなく「論理的帰結」ということだろう。過去データから論理的に導き出される分析内容を、現時点のすこし先の時点にあてはめれば当然の結論が導き出されるということだ。

フランス語の原題は、Allah n'y est pour rien ! : Sur les révolutions arabes et quelques autres, par Emmanuel Todd, Le Publieur (1 juin 2011)、直訳すれば『アッラーはそれにはまったく関係ない!-アラブ革命とそのほかについて』となろう。


地中海をはさんで対岸にあるアラブ語は、原書の読者であるフランス人にとってはきわめてアクチュアルな問題であろう。ドイツもまたフランス人にとっては重大な問題であるようだ。

2008年のリーマンショック後にEU域内で強くなる一方の一人勝ち状態のドイツについて、トッドは以下のような発言をしている。「第10章 ドイツ-昨日はナチス、今日はエゴイスト」。

なぜドイツは、いまヨーロッパ内で、完全に利己主義的な経済政策を取っていると、お考えですか? ドイツは、普遍主義的なヨーロッパ的態度を取ることができないのです。・・(中略)・・ 普遍的なヨーロッパ的人間という何らかの観念に導かれて、ドイツがその強大な経済力をもってヨーロッパ全体の面倒を見てやるという気になる、ということがないのです。ドイツと日本は、沈静化した国で、本物の民主主義国です(ただ、日本人の方が、ユーモアのセンスがありますので、優位に立っていますが.......) ・・(以下略)・・  (*太字ゴチックは引用者=さとう)

ドイツの特殊性を論じるトッドだが、彼がフランス人だからというバイアスも感じなくはない。だが、世界情勢を見るにあたって傾聴に値する見解である。日本人の優位性を指摘する( )内の発言は、日本人としてはありがたい発言ではあるが(笑)

「第11章 「民主化」「進歩」 とは何か?-人類学的要因と外的要因」からも引用しておこう。トックヴィルとは『アメリカの民主政治』で有名な19世紀フランスの思想家のことである。

ドイツは、本物の政権交代型民主主義国ではありません。ともすると大連立を選ぼうとする傾向があります。それは脅威と言っているのではありません。ドイツは、巨大なドイツ語系スイスのようなものだと、言っているのです。・・(中略)・・ 西洋民主主義とは、その最も狭い意味において、その出発点において、その創設的中核というものは、フランス、イングランド、アメリカ合衆国だからです。つまりはトックヴィルの世界なのです。今日、歴史的な西洋というのが、当初から政治面でドイツを含んでいたなどという考えは、妄想というべきなのです。 (*太字ゴチックは引用者=さとう)

そのドイツよりも異質なのがスラブ世界ということだろう。世界はデモグラフィーで説明できるといっても、世界は一つに収斂するわけではない。家族制度のあり方が、フランスとドイツでは歴史的に異なることが背景にあるとするのがトッドの説明である。差異が最後まで残るということだ。

「西洋民主主義の創設的中核というものは、フランス、イングランド、アメリカ合衆国」と説くトッドだが、そのなかでも差異は存在する。以下の分類はきわめて重要である。

イングランド的・アングロサクソン的:自由志向だが、平等志向ではない
●フランス:平等志向で、普遍志向

『新ヨーロッパ大全 全二巻』という大著で、トッドはヨーロッパ諸国民の「国民性」を研究しているので、ぜひ読んでおきたいものである(・・わたしはまだ課題として残してある)。トッドの家族制度に着目した研究は、最近あまり流行らない「国民性研究」の新バージョンといえるかもしれない

日本人にとって関心が深いのは、東アジアの人口動態についてであろうが、異論を感じる点がなくはない。日本と韓国が同じ家族制度というトッドの主張には、正直いって「はてなマーク」を感じる。これは漢族や朝鮮族の「宗族」(そうぞく)というシステムの理解が足りないためであろう。

とはいえ、「文化」で説明しないトッドの方法論はきわめて重要である。また、「経済人」(=ホモ・エコノミクス)仮説では説明しないトッドの方法論は、マルクス主義ではない唯物論ということになるのかもしれない。

梅棹忠夫が提唱する「生態史観」、アングロサクソン圏から生まれた「地政学」、これにトッドを中心とした「デモグラフィー」(人口動態)などで知的武装を行えば、世界情勢の読み方もリアリズムに立脚したものとなることだろう。

トッドは、父親の友人である歴史学者エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリーのアドバイスで、歴史人口学の中心地であった英国のケンブリッジ大学で学び博士号を取得している。アングロサクソン圏の英国で教育を受けた点に注目するべきだろう。ベースは歴史学、それにプラスして人口統計学。フィールドワークなしの理論人類学

本人はこのインタビューではじめて「アナール派」という自己認識をもっていることを述べたらしいが、統計学重視と心性研究というアナール派のメインストリームを歩いているので、とくに不思議とは感じない。

人口統計だけが確実に信頼できる未来予測の素材だということは、口を酸っぱくして強調しておきたい。これはビジネスに限らず、ほぼすべての事象について適用可能だ。





目 次

本書誕生の経緯

第1章 アラブ革命は予見可能だったのか?
第2章 識字率・出生率と民主化
第3章 誤解されているイラン革命と現体制
第4章 イスラーム圏の内婚制と近代化
第5章 トッドの手法-歴史家か、人口統計学者か、予言者か?
第6章 アラブ圏の民主化とフランス
第7章 宗教は関与していない
第8章 老化という西欧の危機
第9章 中国とロシアの民主化
第10章 ドイツ-昨日はナチス、今日はエゴイスト
第11章 「民主化」「進歩」 とは何か?-人類学的要因と外的要因
補章 人口動態から見たアラブ革命

<附> トッド人類学入門(石崎晴己)
訳者解説(石崎晴己)



著者プロフィール

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
1951年生。歴史人口学者・家族人類学者。ケンブリッジ大学卒。フランス国立人口統計学研究所(INED)に所属。作家のポール・ニザンを祖父に持つ。主要著作は、『新ヨーロッパ大全 全二巻』、『文明の接近』(共著)ほか多数。

翻訳者・解説者プロフィール

石崎晴己(いしざき・はるみ)
1940年生まれ。1969年早稲田大学大学院博士課程単位取得退学。現在、青山学院大学総合文化政策学部教授。専攻フランス文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


PS 『新しい歴史-歴史人類学への道』「第3章 数量化革命の道」を読めば、エマニュエル・トッドがルロワ・ラデュリの延長線上にあることが理解できよう




<関連サイト>

@ux sources d'Emmanuel Todd (dailymotion トッド研究室への訪問インタビュー 約10分)

後退する中国、「大惨事」のヨーロッパ-歴史人口学者エマニュエル・トッド氏インタビュー(上) 
(日経ビジネスオンライン、2014年4月14日)
・・重要なインタビュー記事なので一部引用してコメントをつけておく

「中国が経済指標で先進国にキャッチアップするということと、中国が世界をリードして将来をつくっていくということは別問題。中国が米国より効率的な社会となると考えるのはナンセンスであり、単独で支配的国家になると予想するのも馬鹿げている。中国は共産主義体制から抜け出し、前進していると自分で思っているはずだが、私の観点からは、逆に後退しているように思う。」
⇒ まったく同感。だからこそ、日本は中国とのつきあい方は硬軟両様でいくべき

「私はヨーロッパについてひどい間違いを犯した。ヨーロッパがEU統合を機に世界平和の推進力になると予想したが、それは外れた。今や、ヨーロッパは諸国家の平等な連合体などではなく、ドイツを中心とした階層的なシステムに変容しつつある。」 
⇒ フランス人にとっては悔しいことだろうが、「経済パワー=政治パワー」である以上、ドイツがますます強くなるのは必定。しかしその結果はふたたび・・・?

日本人は少子高齢化という衰退を楽しんでいるのか歴史人口学者エマニュエル・トッド氏インタビュー(下) (日経ビジネスオンライン、2014年4月21日)
・・重要なインタビュー記事なので一部引用してコメントをつけておく

歴史人口統計学の統計はとても単純で、人が生まれて死ぬという人間行動が対象だ。データに内部一貫性があるから、統計を勝手に変更できない。・・(中略)・・経済統計に比べ、改竄しにくい点でより安全だ。・・(中略)・・米国は1人当たりGDPを見れば、非常に強い国と言えるが、乳児死亡率を見ると、ロシア、ウクライナ並みだ。この事実は、米国が単に世界で最も偉大な国、技術大国というのではなく、社会に問題が潜んでいることを示している。経済データだけでは、社会に潜む問題に到達するのは不可能だ。GDPだけでは、そういう問題を見極められない」

⇒ 「歴史人口学」という「孤高の学問」について重要な指摘。「GDP統計は誤魔化せても、人口統計は誤魔化せない」のである!

日本人は、出生率が問題であるという事実をかなり意識しているが、それが唯一の問題であることに気づいていない。私は、福島の原発事故問題よりも重要だと思う。私は東北の各県を訪問したし、福島第一原発のすぐ近くまで行った。原発近くの町がどのような状況にあるかも知っている。しかし、長い歴史を見ても、出生率が日本にとって、唯一の重要事項だ。その他のことはすべて、許容できる」

⇒ 日本人は閾値(いきち)を超えた瞬間に突然急旋回することを歴史的に何度も示してきたので、人口問題解決にかんしても、遠くない将来に、劇的な変化があるのではないかとわたしは考えている

「私の中では、アングロアメリカ、特に米国の相対的な位置付けが変化している。・・(中略)・・2002年当時は、ヨーロッパの将来は非常に有望であり、英米をはじめ英語圏のパワーは低下すると予言した。今、それが逆に動いて、ヨーロッパが非常に大きな過ちを犯しそうで、英語圏が何らかの形で復帰しているという形でバランスがシフトしている。・・(中略)・・イラク戦争当時、「米国に追随するな」が日本への助言だった。今はその逆で、「ヨーロッパの道ではなく、米国の後を付いていくべきだ」という助言を日本に贈りたい

⇒ アメリカ嫌いのフランス知識人の発言に左右されやすい付和雷同型の日本の左翼リベラル諸氏に聞かせたい発言(笑)。出生率改善以外は問題だらけのフランスを代表する知識人の発言だけに、発言はしっかりと受け止めるべきだろう。トッド氏の発言いかんにかかわりなく、地政学の観点からいったら、「海洋国家」の日本には米英アングロサクソンとの協調路線は「国是」なのである!



<ブログ内関連記事>

『ソビエト帝国の崩壊』の登場から30年、1991年のソ連崩壊から20年目の本日、この場を借りて今年逝去された小室直樹氏の死をあらためて悼む
・・トッドとは独立に、ほぼ同時期にソ連崩壊を「予言」いや、「予測」していた小室直樹
「2-11」関連-「アラブの春」

書評 『中東激変-石油とマネーが創る新世界地図-』(脇 祐三、日本経済新聞出版社、2008)
・・「人口爆発」によって若年層に偏った人口構成が失業率の高さを生んでいることが指摘

書評 『中東新秩序の形成-「アラブの春」を超えて-』(山内昌之、NHKブックス、2012)-チュニジアにはじまった「革命」の意味を中東世界のなかに位置づける

本日(2011年2月11日)は「イラン・イスラム革命」(1979年)から32年。そしてまた中東・北アフリカでは再び大激動が始まった

エジプトの「民主化革命」(2011年2月11日)

書評 『エジプト革命-軍とムスリム同胞団、そして若者たち-』(鈴木恵美、中公新書、2013)-「革命」から3年、その意味を内在的に理解するために
・・人口動態で説明できる事象以外についてフィールドワークも踏まえて執筆された読むべき内容の本

書評 『アラブ諸国の情報統制-インターネット・コントロールの政治学-』(山本達也、慶應義塾大学出版会、2008)-インターネットの「情報統制」のメカニズムからみた中東アラブ諸国の政治学
・・チュニジアもエジプトも「情報統制国家」である


歴史を「文化論」で説明しないことが重要だ!

書評 『歴史入門』 (フェルナン・ブローデル、金塚貞文訳、中公文庫、2009)-「知の巨人」ブローデルが示した世界の読み方
・・フランスのアナール派を代表する世界的歴史学者フェルナン・ブローデル入門

梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える


ドイツはヨーロッパかという問い

書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓
・・「ドイツははたしてヨーロッパ化されたのか」という根源的な疑問が欧州で復活していることも見逃せない。ナチス以後の「ユダヤ人を欠いたドイツ金融界」は、考えてみれば日本と同じである。これは、英米の金融界との大きな違いであることは間違いない

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る
・・エマニュエル・トッドの日本編集版。歴史人口学の立場からふたたび強大化するドイツを読み解く

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2011年2月19日土曜日

バンコクのアラブ人街 ― メディカル・ツーリズムにかんする一視点



 ここに掲示した写真は、バンコクのアラブ人街にあるエジプト料理店ネフェルティティである。

 ネフェルティティは言うまでもなく古代エジプトの女王の名前。ネフェルティティの胸像は現在ベルリンの考古学博物館の目玉展示物だが、エジプトは返還請求をしているものの、ドイツ政府はこれに応じていない。今回の「エジプト民主化革命」の混乱に乗じた、博物館所蔵品の略奪が発生しており、なおさら返還請求に応じることはなくなったといえよう。

 さて、エジプト料理についてだが、私はこの店でしかエジプト料理は食べたことはないのだが、コメ料理で量がものすごく多くて文字通り閉口したのであった。炊いたインディカ米のうえにヒツジ肉のマトンがのせられたもの。料理名は覚えていないが、半分も食べないうちに腹が受け付けなくなってしまった。

 たしかにエジプトで3年前に、世界的な食料価格高騰を背景にしたコメ暴動が発生したことも理解できる。エジプト人にとってコメは主食の一つである。私は、その機会を最後にエジプト料理は食べていない。

 同じアラブ世界といはいえ、レバノン料理は実にうまい。バンコクのアラブ人街のレストランで食べたレバノン料理はうまかった。だがビールなど酒類がいっさいないのが残念だった。ムスリムではなくても例外はないようだ。歓楽街のバンコクなのに・・・




 日本でもムスリム人口が増えてきて、礼拝所であるモスクも増加傾向にあるといっても、タイ王国の首都バンコクのようなアラブ人街が形成されているわけではない。

 「チュニジア民主化革命」、「エジプト民主化革命」が起爆力となって、アラブ人世界全域に拡大している民衆蜂起は、いま世界ではこの30年間ではなかったほど、中東アラブ諸国の存在が大きくクローズアップされている。

 この機会に、バンコクのアラブ人街について、すこし違った視点から書いておきたいと思う。


タイのメディカル・ツーリズムとバンコクのアラブ人街

 バンコク中心部の繁華街ナーナーにアラブ人街がある。BTS(通称スカイトレイン)の高架をはさんで北側がアラブ人街、南側が白人が中心の繁華街と、きれいに棲み分けがなされている。

 写真でみればわかるように、この地区全体がアラビア語だらけで、とてもバンコクにいるという感じがしない。これが面白いので、バンコクから引き揚げたあとも、私は好んでこの地区のホテルに宿泊することが多い。先にも書いたように、BTS のナーナー(Nana)駅に近いので交通の便がいいという理由もある。どのホテルもアラブ人ファミリーの長期滞在者で一杯である。

 このアラブ人地区にはアラブ諸国だけでなく、インドやパキスタン、ウズベキスタン、イランなどいわゆるイスラーム圏全体のレストランがあってそれぞれの国の料理が食べられるだけでなく、さまざまな業態のサービス業が狭い地区に密集している。





 すでに、タイのあれこれ (18) バンコクのムスリムという文章に書いているが、なによりもここにはバムルンラート病院という、タイのメディカル・ツーリズム(医療観光)の中心ともいうべき大病院がある。パキスタン大使館のすぐ近くに立地しているが、この病院には検査や治療のために長期滞在しているアラブ人が実に多い。

 病院内ではアラビア語だけでなく日本語など数カ国語の通訳が常駐しており、タイ語も英語もできなくてもまったく不自由はない。診療中にも通訳は同席する。下の写真はバムルンラート病院の玄関である。

 

 病院のなかで多いのは圧倒的にアラブ人たちである。これらのアラブ人たちは家族を同伴して長期滞在している。長期滞在のための各種サービスがこのアラブ人地区には密集して存在するので、安心して過ごすことができるわけだ。

 下に掲載した写真は、民間の医療コーディネーター事務所である。アラビア語と英語のみで、タイ語の表記はない。




 同じ東南アジアでは、マレーシアは首都クアラルンプールを中心にリゾート地には長期滞在のアラブ人観光客が多いが、マレーシアがイスラーム圏であることを考えればこれは不思議ではない。

 バンコクの場合、タイ人のムスリムも少なからずいるとはいえ、基本的にタイは仏教国ではある。やはりなんといっても、バンコクが東西交通の要衝であることが大きいだろう。航空便の便数は国際的なハブ空港をもつバンコクのほうがはるかに多い。

 日本でもメディカル・ツーリズムに本格的に取り組もうという方向性もあるようだが、長期滞在には家族同伴であることが常識であるアラブ人にとっては、医療水準の高さだけでなく、飲食を含めた各種アメニティの要素もはるかに大きいことを認識すべきだろう。

 ビジネスで海外を飛び回っているようなビジネスマンはさておき、家族の大半は出身地に固有のアラブ料理しか食べないのが普通だからだ。ムスリムである以上、食事がハラール・コンプライアンスであるかどうかが厳しく問われるだけでなく、人間というものは食べ慣れたものにこだわる保守的な性格をもっている。

 ロンドンやパリなどの欧州の国際都市を除けば、バンコクほど多種多様なアラブ諸国やイスラーム圏全体の料理を食べることのできる都市はそう多くない。その意味においては、メディカル・ツーリズムにおけるバンコクの優位性は当分ゆらぐことはないと思われる。医療水準が高いだけでなく、病院(=ホスピタル)を中核にしたホスピタリティ産業が、クラスター(=産業集積)として自然発生的に形成されているからだ。競争の激しいバンコクでは、ホテル価格も全体的に抑えられている。一年をとおして寒くないことも大きい。
 
 メディカル・ツーリズムの事業開発に際しては、「点と線」の発想ではなく、「面」の発想が必要ではないだろうか。アラブ人街を作ってしまうくらいの本格的な取り組みと構想力が必要かもしれない。

 医療関係者は、ナーナーの南側ではなく、バムルンラート病院を視察するついでに、北側のアラブ人街も一緒に歩き回ることを強くすすめたい。できればそのなかで数日滞在してみるといいと思う。

 そのあとで、男性であれば日本人御用達のタニヤでくつろぐといいだろう。女性であればホテルのスパーでくつろぐといい。日本価格の半分以下で十二分にエステが堪能できるはず。

 海外に出て異文化のまっただなかにいるとき、いかに慣れ親しんだ文化によって癒されるか、五感をつうじて実感されるはずだ。これは海外に出たアラブ人にとっても同じことである。イマジネーションをフルに発揮してほしい。


P.S. 今年(2011年)は年初から中東世界は「民主化革命」のまっただなかにあるので、アラブ人たちの出足が鈍っているとタイ政府は懸念しているという情報を聞いた。この状況がいつまで続くのかは現時点ではわからない(2011年2月27日 付記)。


<関連サイト>

タイ・バンコクの欧米型病院”経営”と日本の医療[橘玲の世界投資見聞録](Zai オンライン 2013年5月30日)
・・バンコクのサミティヴィエート病院についての取材記事。病室内の写真も掲載

タイでアラブを感じる-ナナ駅近くのアラブ人街を歩く (ティラキタ駱駝通信、2013年4月25日)

(2017年5月27日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

タイのあれこれ (18) バンコクのムスリム
・・この記事では、タイ人ムスリムを中心に書いてある。

本日よりイスラーム世界ではラマダーン(断食月)入り
・・井筒俊彦訳の『コーラン』(クルアーン)についても言及。『ハディース』の詳細についても。

「マレーシア・ハラール・マーケット投資セミナー」(JETRO主催、農水省後援)に参加

書評 『ハビビな人々-アジア、イスラムの「お金がなくても人生を楽しむ」方法-』(中山茂大、文藝春秋社、2010)

書評 『日本のムスリム社会』(桜井啓子、ちくま新書、2003)

「ナマステ・インディア2010」(代々木公園)にいってきた & 東京ジャーミイ(="代々木上原のモスク")見学記

「イスラム横町」に行ってみた(2015年5月17日)-東京・新大久保でハラール・フードの世界を知る

(2016年1月24日 情報追加)


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