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2024年3月2日土曜日

書評『兜町の風雲児 ー 中江滋樹 最後の告白』(比嘉満広、新潮新書、2021)ー 面白ろうて、やがて哀しき・・・

 

先月(2024年2月)22日に入って、株価がバブル期の最高値を更新したとかいって騒いでいるが、いったい何年たってるんだ!? そう言いたくなる人も少なくないのではないか?

更新される前の史上最高値が「3万8915円87銭」で、それが1989年12月29日のことだった。ということは、つまり更新するのに34年(!)もかかっているということだ。ヤレヤレ。気が遠くなるね、まさに失われた30年強(>_<) 

とはいえ、おそらく近いうちに「4万円台」をつけるであろう株価*も、そう遠くないうちにまた大きな「調整」が入るというウワサ**もある。

* 予想より早かったが、本日(2024年3月4日)4万円を超えた。(2024年3月4日 記す)
** まずは昨日(2024年3月11日)に下落して868.45円(2.19%)安の 3万8820.49円 となった。だが、これは文中で書いている「大きな調整」ではない。さらに株価は上下変動を繰り返していくだろう。(2024年3月12日 記す)


株価というものは、そういうものだ。相場というものはそういうものだ。山あれば谷あり。谷あれば山あり。上下変動がジェットコースターでないことを願うのみだ。

そんな状況のなか、ふと思い出して未読のままだった『兜町の風雲児 ー 中江滋樹 最後の告白』(比嘉満広、新潮新書、2021)という本を手に取ってみる。読み出したら面白いので一気読みしてしまった。 

意外なことに、「兜町の風雲児」は、バブル経済はまったく体験していなかったのだ。当然のことながら、株価最大時を体験しているのでもない。イメージと実体のズレがそこにある。同時代でリアルタイムに知っているはずなのに、時間がたつと忘れてしまうのだなあ。 

「投資ジャーナル事件」で逮捕されたのが1985年6月19日、それは「豊田商事事件」のすぐあとのことだった。TV中継された豊田会長のように殺されてはまずいということで、警察に確保されたわけである。 バブル経済が始まったのは、その後だった。

「豊田商事事件」にかんしては、ちょうどその年の4月に「社会人」、いや「会社人」となったわたしは、鮮烈な記憶がある。リアルタイムでTV中継を見ていたからだ。

あのTV中継は、わたしの小学生時代に見た「浅間山荘事件」(1972年2月19日)のTV中継に匹敵するだろう。いや、ニューヨークのツインビルに2機目が突っ込む瞬間をTVニュースでリアルタムで目撃した「9・11」(2001年)には及ばないが・・・。

そういえば「銀河計画」なるものがあったが、そういうネーミングを聞くと、ただちにあやしいと思ってしまうのはそのためだ。バブル時代の1980年代後半は、ほんとうに狂っていた。 

それにしても、ハイテク株に着目し「兜町の風雲児」とよばれて当時はブイブイ飛ばしていた中江滋樹だが、数学が得意で相場に目覚めた中学生時代から、2020年にみずからの火の不始末でボロアパート火災で66歳で孤独死するまで、「生涯一相場師」だったわけだ。最後は生活保護を受けていたという。 

毀誉褒貶相半ばした数奇な人生。そういえば、自分のことを中江藤樹の末裔だとか言っていたような記憶があるが、滋賀県の出身なら直系子孫ではなくても一族の可能性はあるのかもしれないな。

読んでいると懐かしい(?)名前が次から次へと登場しては消えてゆく。 文中では名だしされていないが、アイドル歌手の倉田まり子の件もでてくる。ここは正直に中江滋樹氏の発言を信じることにしよう。

とにかくバブル期も、バブル崩壊後も、ほんと金融業界は有象無象が、魑魅魍魎が跋扈する世界であった。1980年代後半から1990年代にかけて金融業界の「中の人」であったわたしは、そんなことを思い出して感慨にふける。 

「兜町の風雲児」といっても、いまの若い人にはまったく意味不明だろう。中江滋樹といっても、その人誰? といったところだろう。すっかり「過去の人」になってしまっている。

この本は、あくまでも中江滋樹本人のナラティブを聞き語りとしてまとめたものなので、どこまで本当の話なのかわからない。 ただし、なんども口にしているように、「株というのは売り」なのだということの強調は、まさにその通りだ。底値で買い、高値で売る。そのタイミングが難しいのだ。

まあ、そうして「伝説」というものは、虚実いりまじりで、後世に語り伝えられていくのだろうか。後世の歴史家は、中江滋樹をどう扱うことになるのであろうか。

面白ろうて、やがて哀しき・・・


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目 次      
はじめに
第1章 早熟すぎる相場少年 
第2章 チャート修業から株レポートへ 
第3章 兜町の風雲児 
第4章 転落、投資ジャーナル事件 
第5章 汚れたカリスマ、再起への闘い 
第6章 金と相場の魔力
風雲の相場師 ー あとがきに代えて

著者プロフィール
比嘉満広(ひが・みちひろ)
1952(昭和27)年生まれ、東京都出身。ジャーナリスト。青山学院大学法学部卒業後、『週刊ポスト』『FOCUS』『週刊新潮』で、40年以上にわたり記者を務めた。イトマン事件、総会屋利益供与事件、オウム真理教事件など、社会・経済事件を中心に取材。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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