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2022年7月31日日曜日

映画『グリーン・ゾーン』(2009年、米国)を視聴(2022年7月30日)- イラク戦争開戦の引き金となった WMD(大量破壊兵器)をめぐる陰謀を描いたエンタメ作品

 
映画『グリーン・ゾーン』(2009年、米国)を amazon prime video で視聴。 翌日7月31日に「無料視聴期間」が切れると急かしてくるので急遽視聴。おせっかいだとは思いながらも、面白そうな映画だったので見ることに。  

「イラク戦争」(2003年)の発端となったWMD(Weapon of Mass Destruction:大量破壊兵器)をめぐる陰謀を暴いた映画。主演はマット・デイモン。イラク駐留の米陸軍准尉で、WMD捜索を任務としたMET(Mobile Exploitation Team:移動捜索班)の隊長を演じている。114分。 

暑いに日には、暑い国を舞台にした、暑苦しい映画を視聴する。エアコンなしの部屋なら、言うことはない。



WMDをめぐるCIAと国務省の暗闘。あくまでも米国に都合の良い人物をイラク指導者として据えようと画策する国務省。WMDなど存在しないとして動いているCIA。国務省の命令で動く陸軍特殊部隊。 

いくら捜索しても WMDなど見つからないことに、偽情報に基づいた命令ではないか、そんな疑問をもつにいたった主人公はCIAに接近することに。そして繰り広げられる陰謀まみれの事件とアクション。 

どこまで真相に近いのか、それとも限りなくフィクションなのかがわからないが、アクション映画でポリティカル・スリラーとして楽しめるエンタメ作品であった。 

(米国版ポスター Wikipediaより)

いまとなっては、開戦の口実となった WMD など最初から存在しなかったことは、誰もが知っている事実である。関係者すべてがダマされていたのだ。戦争の結果、グチャグチャになってしまったイラク。米国がイラク再建に手を焼いたのは当然の報いである。 

いったい「イラク戦争」とは何だったのか、すでに20年も前のことになるが、複雑な思いを感ぜざるをえない。 


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2017年9月28日木曜日

クルド人の独立国家樹立は心情的には共感するのだが・・・。増殖が止められない主権国家の弊害が指摘される現在、「民族自決」原則の積み残し課題はどうなるのか?



イラクのクルド人自治区で独立の是非をめぐって住民投票が実施されると報じられている。(2017年9月25日付け情報)。

イラクとイラン、そしてトルコの三か国にまたがった「クルディスタン」という山岳地帯に居住するクルド人は、いまだに自分たち自身の国をもったことがない民族だ。クルド人にかんしては、「民族自決」が否定されたままなのだ。

第一次世界大戦後、オスマン帝国の崩壊によって、クルド人居住区が三か国に分割されてしまったが、トルコ共和国のケマル・パシャはクルド国家樹立に激しく反対した結果、クルド人は時ぶんんたちの国家をもつことができなかったまま現在に至っている。

(CIAの発表したクルド人居住地域の地図 wikipediaより)


投票が行われても開票に時間がかかり、結果が判明するまでには時間がかかるが、独立支持が過半数を超えると予想されている。住民投票を主催した側は、住民投票の結果、賛成多数となればイラク政府と2年間の期限付きで交渉に入るとしている。


心情的には共感するのだが・・・

個人的には、クルド人の独立国家樹立は心情的には共感するの だが、中東の秩序を大幅に揺るがすことは容易に予想できることだ。大英帝国が設計した「人工国家イラク」は妥協の産物であり、いわゆる「民族国家」ではない。大英帝国の負の遺産というべき存在なのだ。

クルド人国家独立という課題は、イラク内でもハードルが高いだけでなく、なによりもトルコが過敏に反応する問題である。トルコ国内では、たびたびクルド人によるテロが発生している。クルド人は、トルコ国民の13%を占めている。間違いなくトルコは猛反発するだろう。

ISIS(=イスラーム国)掃討戦におけるクルド兵部隊の活躍をみてわかるとおり、かれらは勇猛果敢な戦士でもある。しかも女性部隊すら大いに活躍している。


『クルドの星』(1986~1987年)というマンガ

そんなクルド人テーマにした本は、最近でこそ増えてきたが、かつてはきわめて少なかった。安彦良和氏によるマンガ『クルドの星 全三巻』は、そのなかでも先駆的な作品だ。

日本人の父親とクルド人の母親のもとに生まれた少年を主人公とした冒険活劇プラスアルファ。まあ内容的にはさておき、エンターテイメントとして楽しむべき作品だ。さすが、歴史大作マンガ『虹色のトロツキー』の作者ならではのものだ。いや、ガンダムの作画監督ならではというべきか。

国際情勢は『ゴルゴ13』を筆頭にすべてマンガで学んだというのは自民党の麻生太郎氏だが(笑)、クルド人が置かれた厳しい状況はこのマンガを読めばわかる(はず)。発表は1986年なのでソ連崩壊前、すでに30年前ではあるが、ソ連が崩壊してクルディスタンが旧ソ連のアルメニア国境と接することになった以外は、基本的に大きな情勢変化はない。


「民族自決」原則の積み残し課題はどうなるのか

「民族自決」原則は、帝国主義による植民地主義を否定する米国のウィルソン大統領が、第一次世界大戦後の国際秩序構想として主唱したものだが、いまだ民族独立が実現できない民族は多数ある。

しかしながら、主権国家が細分化され無限増殖しているというソ連崩壊後の弊害が指摘されるようになり、「民族独立運動」そのものにも否定的な見解さえ少なくない。

今週日曜日(2017年10月1日)には、欧州スペインのカタロニア自治区で独立の是非を問う住民投票が行われることになっている。「カタロニアはスペインではない!」。かつて米国留学中に、カタロニア出身の留学生から激しい剣幕で叱られたことを思い出す。「クルドはイラク(あるいはトルコ、イラン)ではない!」

2017年9月のいま、そんな状況にようやく変化が生まれようとしている。その動きについては当事者ではないわたくしも、見守っていきたい。間違いなく「苦難の道」は続くことであろうが。

もちろん、このアジアにおいては、チベットとウイグル、そしてモンゴルもまた同様だ。外モンゴルはソ連の衛星国家としてかろうじて独立を保ったが、中国統治下に残された内モンゴルでは過酷なジェノサイドが行われている。

「民族の牢獄」と批判されていたソ連が崩壊して「諸民族」が解放されたが、いまだ「民族の牢獄」でありつづける中国からの「解放」は達成されていない

クルド人問題は、けっして遠い中東の地の問題ではないのだ。




<関連サイト>

クルド人悲願「独立国家樹立」を阻む難題の山 住民投票は賛成多数になるとみられるが… (池滝 和秀 : 中東ジャーナリスト、東洋経済オンライン、2017年9月26日)

住民投票で独立が遠のいたクルドの根深過ぎる問題(Newsweek日本版、2017年11月11日)


なお、クルド人問題については、拙著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』の第4章(P.268~269)を参照

(2017年11月23日 情報追加)




<ブログ内関連記事>

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」
・・英国が創ったイラクという「人工国家」の不可能性

書評 『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、村井章子訳、文藝春秋、2015)-キーワードは「近代国家」志向と組織の「近代性」にある
・・「自称イスラーム国」の首都ラッカが陥落したいま(2017年10月18日)、オスマン帝国崩壊後の越境による国境線引き問題の焦点はクルド人問題に移行する

ブランデーで有名なアルメニアはコーカサスのキリスト教国-「2014年ソチ冬季オリンピック」を機会に知っておこう!
・・マンガ『クルドの星』で重要な意味をもつアララット山は、ブランディーの名前にもなっているようにアルメニア人にとってはきわめて大きな意味をもつ存在だが、現在はトルコ国内にある

『ソビエト帝国の崩壊』の登場から30年、1991年のソ連崩壊から20年目の本日、この場を借りて今年逝去された小室直樹氏の死をあらためて悼む

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書評 『ノモンハン戦争-モンゴルと満洲国-』(田中克彦、岩波新書、2009)-もうひとつの「ノモンハン」-ソ連崩壊後明らかになってきたモンゴル現代史の真相

「チベット蜂起」 から 52年目にあたる本日(2011年3月10日)、ダライラマは政治代表から引退を表明。この意味について考えてみる

(2017年10月20日 情報追加)


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2015年2月21日土曜日

映画『アメリカン・スナイパー』(アメリカ、2014年)を見てきた-「遠い国」で行われた「つい最近の過去」の戦争にアメリカの「いま」を見る


映画『アメリカン・スナイパー』(アメリカ、2014年)を、日本公開の初日の初回に見てきた(2015年2月21日)。原題は American Sniper、日本語版もそのままカタカナに置き換えた、余計な装飾語のないシンプルなタイトルだ。
 
米軍によるフセイン政権打倒後に治安が極度に悪化したイラク。駐留米軍によるテロリスト掃討作戦を描いた戦争映画である。この映画もまた、米海軍特殊部隊のネイビー・シールズものである。
  
米軍史上最強のスナイパー(=狙撃手)として「レジェンド」と讃えられる主人公クリス・カイル。この映画は、クリス・カイルの自伝をもとに製作されたドキュメンタリータッチの戦争映画であり、主人公とその家族、そして友人たちとの関係を軸にしたヒューマンドラマである。
 
クリス・カイル(1974~2013)は、志願して入隊してから除隊までの6年間の合計4回イラクの任務で、公式記録で合計160人を射殺した実在のスナイパーであった。味方からは「レジェンド」(=伝説)と呼ばれて絶大な信頼を受け、敵からは「悪魔」と呼ばれて、その首には高額の懸賞金がかけられていた。
  
ハリウッド映画をほとんど見なくなったわたしだが、それでも戦争映画は見る。現在84歳のクリント・イーストウッド監督の最新作だが、見に行ってきたのはそれだけが理由ではない。良質なアメリカの戦争映画には、アメリカ社会が抱える問題が集約的に表現されるからだ。生死にかかわるテーマには、アメリカ人の心の奥底も垣間見ることになる。


映画の大半はイラクにおける市街戦

映画がはじまると響き渡るのは、繰り返される「アッラー・アクバル」の音声。「神は偉大なり」を意味するアラビア語によるアザーンである。

そう、映画の舞台はサッダーム・フセイン政権崩壊後のイラクである。映画のほとんどがイラクにおける激しい銃撃戦のシーンである。ラマディ、ファルージャ、サドルシティといった、かつて日本でもテレビ報道をつうじて聞き慣れた地名が舞台である。

秩序がほぼ完全に崩壊し、治安が極度に悪したイラク。米軍が戦うのは正規軍ではない。政権崩壊後に跋扈(ばっこ)するテロリストである。その中心にいるのは、イラクのアルカーイダの指導者であったザルカーウィ。アメリカはこの男を最大の標的としていた。


   
海軍特殊部隊隊員の主人公のミッションは、スナイパーとして海兵隊による索敵作戦の援護射撃を行うことにある。だが、安全地帯から敵を狙撃することに飽き足りない主人公は、海兵隊員たちと行動をともにすることを志願する。海兵隊は、絶対に仲間を見捨てないというモットーがあるが、海軍特殊部隊のシールズもまた同じである。

市街におけるゲリラとの戦いにおいては、私服姿の一般市民がじつはテロリストの協力者ということが少なくない。つまり戦闘員と非戦闘員の識別がきわめて困難なのだ。

子どもや女性もまた、自爆テロ要員として味方の米軍を狙っていつ攻撃をしかけてくるかわからない。非戦闘員の一般市民を殺害すれば罪はきわめて重い。しかし基本的に一般市民の協力をとりつけないと治安維持の任務は遂行できない。

狙撃するか否かは基本的に隊長の判断にもとづくが、ギリギリの場面においてはスナイパー自身の判断にゆだねられる。ストレスのきわめて高い過酷な戦場は血圧を上昇させ、タフで屈強の兵士ですら精神的に極度に疲弊させ、蝕んでいく。

戦場で死傷しなくても精神の病を患うものが続出する。心を病んだまま、トラウマを抱えたままの帰還兵が少なくないのはベトナム戦争のときと変わらない。主人公クリス・カイルの悲劇的な最期もまた、そのことと無縁ではない。

(米国版ポスター)

「遠い国」で行われた「つい最近の過去」の戦争

クリス・カイルはテキサスの生まれ。マッチョな価値観が支配的な保守的な南部の出身である。

子どもの頃からライフル射撃を仕込まれた主人公は、こういう教えをたたき込まれて育っている。

世の中には3つのタイプの人間しかいない。ヒツジ(sheep)と、ヒツジを襲うオオカミ(wolf)と、ヒツジを守る番犬(sheep dog)である。男の子は、ヒツジを守る番犬になれ、と。

きわめて単純明快で、かつキリスト教的な色彩のつよい価値観である。アメリカ南部は「バイブル・ベルト」と呼ばれている地域である。

敵と味方をわける単純明快な価値観は、主人公の行動規範となる。もちろん、女性や子どもを撃つことにためらいがなくはない。だが、みずからのうちに体言化された価値観にもとづいてミッションを遂行する。

だが、世の中すべての人がこの価値観を共有しているわけではない

戦場の現実を知ろうともしない一般市民の無理解。「内向き志向」のつよまる祖国アメリカへのいらだち。日本人にとってだけでなく、アメリカ人にとってすら、出征兵士やその家族や友人を除いては、日常生活とは関係の薄い「遠い国の戦争」でしかないのだという苦い事実。

スナイパーとしてのミッションを完璧に遂行できなかったという不完全燃焼感戦場で仲間たちを助けられなかったという悔恨の念。良き夫であり良き父であろうとするが、「心ここにあらず」と妻のいらだちを誘発してしまう。

使用された音楽はきわめて少なく、映画のかなりの場面でマシンガンの射撃音が響き渡る。音楽はエンドロールの直前で終わる。沈黙のなか流れるエンドロール。クレジットに並んだ人名を見ていると、墓碑銘を読んでいるような気がしてきた。

現在84歳のクリント・イーストウッド監督は、第二次世界大戦も、ベトナム戦争もみな同時代としてリアルタイム見てきた世代である。

クリント・イーストウッド監督には、日米が全面的に戦った太平洋戦争を日米双方の視点で描いた二部作がある。日本側の視点で描いた『硫黄島からの手紙』と、アメリカの少数民族の視点で描いた『父親たちの星条旗』である。いずれも良質な戦争映画である。

『アメリカン・スナイパー』はまた違った余韻が残る。「遠い過去」ではなく、「つい最近の過去」を描いたものだからでもあるだろう。戦争映画ではアメリカ史上最高の興行収入をあげたという。
 
アメリカ人にとってすら、当事者と関係者以外には「遠い国の戦争」であったイラク戦争アメリカの「いま」と、アメリカ人の心の奥底にあるものを知る上でも必見だと思う。





PS 『アメリカン・スナイパー』 は、2014年度の作品への第87回アカデミー賞で「音響編集賞」を受賞した。アカデミー音響編集賞(wikipedia)を参照。音楽をミニマムに、臨場感を出すための効果音の効果が最大限に引き出されたことが評価されたのだろう。(2015年2月26日 記す)



<関連サイト>

映画 『アメリカン・スナイパー』(日本版 公式サイト)

American Sniper - Official Trailer [HD] (オフィシャル・トレーラー)

「史上最強の狙撃手」、イラク帰還兵に射殺される (米テキサス)(AFP、 2013年2月4日)

「アメリカン・スナイパー」モデルを射殺した男が終身刑 (Reuters、2015年2月25日)
・・「米テキサス州の裁判所は24日、米海軍特殊部隊「ネイビー・シールズ」の元狙撃手、クリス・カイルさんを射殺したとして、エディー・レイ・ルース被告(27)に仮釈放なしの終身刑を言い渡した。

(2015年2月25日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

ネイビー・シールズもの

映画 『ローン・サバイバー』(2013年、アメリカ)を初日にみてきた(2014年3月21日)-戦争映画の歴史に、またあらたな名作が加わった
・・米海軍特殊部隊ネイビー・シールズが1962年に創設されて以来、最悪の惨事となった「レッド・ウィング作戦」(Operation Redwing)

映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』をみてきた-アカデミー賞は残念ながら逃したが、実話に基づいたオリジナルなストーリーがすばらしい
・・パキスタン国土内に潜伏するウサーマ・ビン・ラディン殺害計画に動員されたのは米海軍特殊部隊SEALSであった!

映画 『キャプテン・フィリップス』(米国、2013)をみてきた-海賊問題は、「いま、そこにある危機」なのだ!
・・救出作戦を実行し成功したのは米海軍特殊部隊SEALS


イラク戦争とその後の情勢

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ② ・・これもイラク戦争もの

「イスラーム国」登場の意味について考えるために-2015年1月に出版された日本人の池内恵氏とイタリア人のナポリオーニ氏の著作を読む

書評 『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、村井章子訳、文藝春秋、2015)-キーワードは「近代国家」志向と組織の「近代性」にある


戦闘員と非戦闘員が入り乱れる市街戦

書評 『松井石根と南京事件の真実』(早坂 隆、文春新書、2011)-「A級戦犯」として東京裁判で死刑を宣告された「悲劇の将軍」は、じつは帝国陸軍きっての中国通で日中友好論者だった
・・南京攻略作戦は日本軍にとっては戦闘員と非戦闘員の識別が困難な市街戦であった


戦場におけるチームワーク

映画 『加藤隼戦闘隊』(1944年)にみる現場リーダーとチームワーク、そして糸川英夫博士
・・「過ぎし幾多の 空中戦/銃弾うなる その中で/必ず勝つの 信念と/死なば共にと 団結の/心で握る 操縦桿」(主題歌より)


アメリカの保守主義

書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・会田弘継氏作成の「地域別に見たアメリカの思想傾向」の地図を参照


■クリント・イーストウッド監督作品

映画 『インビクタス / 負けざる者たち』(米国、2009)は、真のリーダーシップとは何かを教えてくれる味わい深い人間ドラマだ

(2015年6月14日 情報追加)


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2015年1月28日水曜日

書評『イスラム国 ― テロリストが国家をつくる時』(ロレッタ・ナポリオーニ、村井章子訳、文藝春秋、2015)― キーワードは「近代国家」志向と組織の「近代性」にある



「国民国家」が融解し液状化つつある冷戦後、すなわち「近代」終焉後の世界のなか、「国家」としての自立を志向する「イスラーム国」の本質とはなにかについて多面的に考察した本である。

すでにこのブログでも、「イスラーム国」登場の意味について考えるために-2015年1月に出版された日本人の池内恵氏とイタリア人のナポリオーニ氏の著作を読む と題した記事で取り上げているのだが、ナポレオーニ氏の手になる本書は、よりわたしの問題関心に近いので、さらにくわしく取り上げてみたいと考えた次第だ。

その問題関心とは、中東の情勢のみならず、500年にわたってつづいてきた西欧中心の「近代」という時代が終わり、つぎの時代にむけての「大転換期」をどう見るかということと、このような時代環境のなかで、あらたに「国家」建設を目指すということが何を意味し、今後の国際情勢にどういう影響を与えていくのかという問題関心である。イスラーム過激派の思想そのものへの関心よりも、こちらのほうがわたしにとっては大きい。

日本語版のタイトルは、『イスラム国家-テロリストが国家をつくる時』となっているが、原題は The Islamist Phoenix - The Islamic State and the Redrawing of the Middle East, Seven Stories Press, 2014 である。直訳すれば、『イスラーム主義の不死鳥-イスラーム国と中東地図の描き直し-』となるが、日本語版のタイトルのほうが、むしろ内容を要約しているといってよいかもしれない。

いずれにせよ、2014年に「イスラーム国」がみずからを「カリフ制のもとにおける国家」と宣言し、そう自称している理由をきちんと捉えなくては、事の本質を見誤るということだ。英語圏の政策担当者やメディアが ISIS や ISIL といった略語を使用して、けっして Islamic State(=イスラーム国)とよぶことを避けているのは、デファクトに存在しながらも「国家」とは見なさないという姿勢であり、著者の姿勢はそれとは一線を画している。

その点、日本のマスコミは「イスラム国」という固有名詞を使用している点においては、英米圏のメディアよりもマシであるといえるかもしれない。ISIS(アイシス)や ISIL(アイシル) といった英語の略語は、聴き取りにくいし発音もしにくいという事情もあるのだろう。

1955年生まれの著者は、もともとフェミニストであったが、英米で教育をうけたファイナンスの専門家で、テロリストの資金調達の解明から踏み込んだテロ問題の政策アドバイザーでもあるローマ生まれのイタリア人という立ち位置。イタリアはかつて1960年代の終わりから1980年代にかけて「赤い旅団」による極左テロの嵐が吹き荒れた国である。

じつは、幼なじみが「赤い旅団」のテロリストであったことがのちにわかり、その本人からのリクエストで拘置所で面会を繰り返すようになって気づいたことが、著者が資金調達の観点からテロリズムを研究するキッカケになったのだという。これは著者自身が TED Talk で英語で語っているのだが、テロリストとの会話内容が国際金融関係者との会話内容と酷似していることに気がついたのだという。資金調達という観点からみると、「テロ活動はビジネス」である、と。




「イスラーム国」は「規律」と「純化」を徹底する本質的に「近代的」な存在

本書によれば、イスラーム国が経済的に自立できたのは、中東のイラク情勢とシリア情勢の激動といった背景があるだけでなく、冷戦後の「多極化」という状況も大いに預かっているという。シリアとイラクという「国民国家」崩壊で生じた、ホッブス的な無政府状態ともいうべき政治的真空状態を巧みに利用したのである。

冷戦時代は米ソの「代理戦争」だったものが、冷戦後に進展したグローバリゼーションという多極化時代においては敵と味方が不明瞭な複雑な状況となり、結果として「イスラーム国」は援助をつまみ食いし、さらに原油密輸や身代金ビジネスなどで自前の資金調達を行いながら、特定のスポンサーをもたずに経済的独立を勝ち得たのである、と。

「イスラーム国」以前にも「国家」樹立を目指したテロ組織は、アラファト率いるPLO(=パレスチナ解放機構)があったが、支援国からの豊富な援助で腐敗が蔓延しているのが実態だという。それに対して、「イスラーム国」は腐敗防止のため兵士は薄給で(・・これはメディア報道とは異なる)、しかも戦闘員には厳しい「規律」を重視しているという。

さらには、サラフィー主義による原点回帰という「純化」や「浄化」を志向する組織であることを視野に入れれば、いわゆる清濁併せのむ「帝国」ではなく、民族と宗教によって「純化」した「近代国家」を志向していることが見てとれる。大英帝国の「負の遺産」である、宗派と民族の寄せ集めである「人工国家イラク」と対比せざるをえない。

最新のインターネットテクノロジーやメディア戦略を実行するという「合理性」だけではなく、組織自体が本質的に「近代的」なのである。「非合理的」に見える理想を「合理的」な手段でもって実現しようとしているのである。「純化」や「規律」といえば、まさに「近代」そのものではないか! 

現象としては、領土を確保し領域を拡大するという戦国時代の「国盗り物語」(・・司馬遼太郎の小説のタイトル)的な印象を受けるのだが、「西洋列強」がフレームワークをつくった第一次世界大戦後の、オスマン・トルコ帝国崩壊にともなう中東における国際秩序を打破するというかれらの主張が、経済的にも思想的にも裏付けのある行動であることに注目しなくてはならないのだ。

アメリカという「遠い敵」にテロ攻撃を行い、しかも構成員が外人集団であったビン・ラディンのアルカーイダとは違い、「イスラーム国」は、イラクとシリアという地域から生まれ、地域の問題に敏感なのである、という。反対派を追放したり抹殺するが、それなりに「善政」を敷いて支配下のスンニー派の人々の支持を得ているといわれる。

さらに、イラクのフセイン政権での治安担当者たちが大量に合流しているらしい。外国人をリクルートすることばかりに焦点があたっているが、外人比率は小さい。「イスラーム国」は外人部隊ではないのである。

領土占領によって民族国家を建設するという志向性は、まさに著者が指摘するようにイスラエル建国を想起させるものがある。イスラエルの場合は、遠い過去を現代に再現するという点において、「カリフ制再興」という目標を掲げてそれを実現しようとした点に共通性が見られるのである。おそらく、著者はムスリムでもユダヤ教徒でもないようなので、このような大胆な発言を可能としているのだろう。「イスラーム国」自身も、イスラエルをとくに敵対視していないようだ。敵はシーア派である。

さらにイスラエル建国だけでなく、遠い過去である紀元前の「ローマ建国」にまで言及しているのは、著者がローマ生まれのイタリア人ならではである。被征服者となったサヴィニー族の女性たちにかんする指摘が興味深い。「イスラーム国」による住民支配を理解するカギの一つにもなる。

さきに「戦国時代」のようだと書いたが、著者は日本については言及はしていないものの、日本人としては、「近代化」の開始となった1868年の明治維新には「復古革命」という異なる側面もあり、その思想的背景には、外国人排除をスローガンとした「攘夷」という、「神の国」化による「浄化」という要素が濃厚に存在したことも想起しておいたほうがよいのではないだろうか。「聖戦」という表現も大東亜戦争において使用されたという過去を想起する必要がある。

「イスラーム国」を支える思想的背景のサラフィー主義は、もともとは「近代化=西欧化」を肯定的に捉えたアラブ世界近代化の思想だが、西欧による植民地化によって変貌した。この事実は、「近代国家」樹立を志向する「イスラーム国」について考えるうえで興味深い。


(著者によるテロリストの資金調達ネットワーク分析書 未邦訳)



「イスラーム国」は既存の「国際秩序」における承認を求めていない

米英を中心とする「有志連合」が「イスラーム国」に対して空爆を繰り返しており、それなりに「成果」がでていると米国政府は発表している。

その真偽については判断しかねるが、かつて「大本営発表」という悪しき過去をもつ日本人としては、どうも納得しがたいものを感じることも否定できない。オバマ大統領は、「イスラーム国」の壊滅を目ざしていると公言しているのだが、そう簡単なミッションではないだろう。モグラ叩きに終わってしまう可能性もある。

もし仮に「壊滅」できないのなら、「抱き込む」しかないのかもしれない。つまり既存の国際秩序のなかに取り込んで穏健化を図るということだ。中国共産党を既存の IMF体制に組み込むのと似たロジックである。だが、「イスラーム国家」が将来的に国際的に承認される日が来る可能性があるのかどうか、現時点ではまったく不透明だ。「イスラーム国」自身、日本人人質を殺害するなど、残忍なテロ行為をやめようとする気配もない。

「イスラーム国」は、一方的に「カリフ制度のもとの国家」を宣言したが、「革命政権」ではないので、国際的な承認を求めているわけではない。これがじつにいやっかいな点である。

「王道楽土」を目指してあたらに建国された「満洲国」ですら、結果として英米の支持は獲得できなかったものの、最終的には日本とバチカンを含めた23ヶ国から国際的な承認を得ることに成功していることと比べてみたらいい。満洲国が置かれていた当時の中国情勢は「軍閥」が割拠していた時代であり、現在の中東地域に似ている。

国際的な「国家承認」について考えるには、「イスラーム国」が主張する「カリフ制」と統合シンボルである「カリフ」について、もっと知る必要がある。だが、日本国もその重要な構成国である、近代西欧がつくった既存の国際秩序とは異なる原理にもとづくものであり、「常識」の理解を超えるものがある。「常識」になれきったアタマには、体感的に理解するのは、なかなかむずかしい。

本書が時事的なテーマをあつかいながらも厚みのある内容となっているのは、著者には専門としてのファイナンスだけでなく、西欧の哲学や思想のバックグラウンドが「教養」として身についているからである。さらにいえば、西欧自身をも「相対化」できる視点の持ち主だからでもある。

ヨーロッパの知識階層出身者ならではの、読みでのある本となっているのはそのためだ。じつに面白い本である。日本人読者は、自分なりの読みを行って補足すべきであろう。


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目 次
この集団の名称について
用語集
はじめに 中東の地図を塗り替える (Introduction:  Redrawing of the Middle East)
 タリバンやアルカイダとは違う
 世界の多極化を熟知しその感激をつく
 多くのスンニ派の人々にとっては頼もしい政治運動と映っている
 彼らは道路を補修し、食糧配給所をつくり、電力を供給した
 他のテロ組織から学ぶ
 彼らが犯罪者でなくなる時
序章 「決算報告書」を持つテロ組織 (The New Breed of terrorism?: テロリズムの新種?) 
 「決算報告書」を持つテロ組織
 冷戦下のテロ組織と何が違うか?
第1章 誰が「イスラム国」を始めたのか?? (From al Zarqawi to al Baghdadi: ザルカウィからバグダーディへ) 
 テロリストは国家をつくれるか?
 アル・ザルカウィの伝説
 バグダディの登場
 バグダッド・ベルト
 写真を残さない男
 アルカイダとの路線対立
第2章 中東バトルロワイヤル (Reheasals for the Caliphate: カリフ制のリハーサル) 
 パレスチナ解放戦線という先行例
 一夜にして敵味方が逆転する今日の代理戦争
 代理戦争の政治的矛盾をつく
 人質を転売する市場
 テロをビジネス化し経済的自立を果たす
 シリアにおける最初の偽装国家の建設
 制圧地域内では予防接種も行われるようになる
第3章 イスラエル建国と何が違うのか? (The Paradox of the New Rome: 「新ローマ」のパラドックス)
 ユダヤ人がイスラエルを建国したように
 イスラエル建国とイラン建国
 戦士たちを制服地域の女性と結婚させる
 「イスラム国」が国際社会で認知される日は来るか?
第4章 スーパーテロリストの捏造 (The Islamist Phoenix: イスラーム主義者の不死鳥) 
 「ニューヨークでまた会おう」
 スーパーテロリストの捏造
 予言は公言することで実現する
 欧米は重大な動きを見落としていた
 カリフ制国家の訴求力
 あえて近代的な運営をする
第5章 建国というジハー ド(The Modern Jihad: 「近代」のジハード) 
 欧米の民主主義的価値観を越えるもの
 大ジハードと小ジハード
 「建国」という新しい概念をジハードに与えた
 「アルカイダは一つの組織にすぎないが、われわれは国家だ」
第6章 もともとは近代化をめざす思想だった (Radical Salafism: 過激なサラフィー主義) 
 サラフィー主義は、もともとはアラブの近代化をめざす理想だった
 植民地化によって過激な反欧米思想に変質
第7章 モンゴルに侵略された歴史を利用する (The New Mongols: 新モンゴル) 
 なぜ虐殺をするのか
 タクフィール、背教者宣言
 13世紀のモンゴル人によるイラク侵攻
 欧米は敵を誤っていた
 本質は宗教戦争ではなく、現実的な政治戦争
第8章 国家たらんとする意志 (Contemporary Pre-Modern Wars: 現代の「前近代的」戦争) 
 崩壊過程の国民国家の血を吸って
 なぜシリアとイラクなのか
 第三次世界大戦の性格
 「イスラム国」の戦いと他の武装集団の戦いは違う
 近代国家の再定義
終章 「アラブの春」の失敗と「イスラム国」の成功 (Epilogue: The Arab Spring and The Islamic State) 
 欧米の軍事介入の行方
 第三の道はあるか
謝辞
ソースノート


著者プロフィール
ロレッタ・ナポリオーニ(Loretta Napoleoni)
1955年ローマ生まれ。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で国際関係と経済学の修士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで哲学修士号を取得。ハンガリー国営銀行に就職、通貨フォリントの兌換通貨化を達成、そのスキームは、後にルーブルの兌換通貨化にも使われる。北欧諸国政府の対テロリズムのコンサルタントを務め、各国の元首脳が理事をつとめる民主主義のための国際組織「Club de Madrid」の対テロファイナンス会議の議長も務める。邦訳書に『ならず者の経済学』(徳間書房、2008)と『マオノミクス-なぜ中国経済が自由主義を凌駕できるのか-』(原書房、2012)がある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに補足)。

翻訳者プロフィール
村井章子(むらい・あきこ)
翻訳家。主な訳書にアダム・スミス『道徳感情論』(共訳)、フリードマン『資本主義と自由』、ガルブレイス『大暴落1929』(以上、日経BPクラシックス)、ラインハート&ロゴフ『国家は破綻する』、エセル『怒れ! 憤れ! 』、『コンテナ物語』(以上、日経BP),カーネマン『ファスト&スロー』(早川書房)、『リーン・イン』(日本経済新聞出版社)ほか。


PS 「イスラーム国」(or 「イスラム国」)という呼称について

NHKは2015年2月13日から「イスラム国」の呼称を変更することを発表した。

過激派組織ISについて

2月13日NHKは過激派組織について、これまで組織が名乗っている「イスラミックステート」を日本語に訳して「イスラム国」とお伝えしてきましたが、この組織が国家であると受け止められないようにするとともに、イスラム教についての誤解が生まれないように13日夜から原則として「過激派組織IS=イスラミックステート」とお伝えすることにしました。(*ふとjゴチックは引用者=さとう)

 「過激派組織IS=イスラミックステート」というのはえらく長い。わたしは「自称イスラム国」でいいのではないかと思うのだが・・・ (2015年2月14日 記す)



<関連サイト>

Loretta Napoleoni (wikipedia英語版)

ロレッタ・ナポレオニ: 入り組んだテロの経済 (TEDトーク、2009年7月 日本語字幕)
・・「ロレッタ・ナポレオニは、テロリズムへの生涯の関心を呼び起こすきっかけとなった、イタリアの秘密主義で知られるテロ組織「赤い旅団」と話すという絶好のチャンスを詳述します。 彼女はテロ組織の入り組んだ経済学を調査し、その舞台裏で起こったマネーロンダリングと米国愛国者法の驚くべき関係を明らかにします」(TEDより)

Loretta Napoleoni: The Islamist Phoenix (動画 音声:英語 The Agenda with Steve Paikin, 2014年12月12日)

Loretta Napoleoni explains Islamic State's blueprint for economic success (動画 音声:英語 2014年10月3日 Australian Broadcasting Corporation 放送)

Terror Inc.: Tracing the Dollars Behind the Terror Network (動画 音声:英語 2008年? オレゴン大学における講演)


イスラム国現象が巻き起こす“負の連鎖”の仕組み-シリアの混乱が世界に広がる可能性 (菅原 出、日経ビジネスオンライン、2015年1月6日)

イスラム国 恐怖政治の実態-中東研究センターの保坂修司氏に聞く-(時事ドットコム、2014年)

イスラム国ではなく「ダーイシュ」、 弱点を突いて解体せよ 元バアス党員と元イラク軍人たちが夢想した世界とは (松本 太、JBPress、2015年2月6日)
・・サラフィー・ジハード主義者と元バアス党員や元イラク軍人という二項対立を抱える「イスラーム国」

イスラム国の「真の狙い」など存在しない 錯綜した人質事件の情報(前篇)(黒井文太郎、JBPress、2015年2月3日)
・・「今回の人質事件は、これまでイスラム国が何度も繰り返してきた「外国人誘拐ビジネス」の延長にすぎない・・(中略)・・たとえ敵国でも、解放するか殺害するかは、完全に身代金支払いの有無による」

イスラム国は日本を特に重視しているわけではない 錯綜した人質事件の情報(中篇)(黒井文太郎、JBPress、2015年2月10日)

コラム:イスラム国が人質焼殺映像で得たもの (Peter Van Buren、ロイター、2015年2月12日)
・・「イスラム国は日本人の人質2人とヨルダン軍パイロットを殺害し、メッセージをインターネット上で拡散し、それによる戦略的利益を得た。・・(中略)・・イスラム国はこれが「主義の戦い」であることを理解している。主義や思想は爆撃でダメージを受けることがないことも分かっている。そのような戦いでは、本質的に勝ち負けは存在しない。ただ壮大な戦いに苦しむだけだ。・・(中略)・・そもそもイスラム国への対応は依然として米国の手に委ねられているが、米国は自身の中東でのプレゼンスがまさに戦いの悪化を招いていることを理解しているようには見えない。」

地上軍をISIL掃討に投入せざるを得ない アメリカの“経済的”事情 カネをドブに捨ててきた有志連合軍のISIL空爆 (北村 淳、JBPress、2015年2月19日)
・・中途半端な陸上部隊派遣では「勝利」はおぼつかない

IS人質殺害事件:日本国内評論を総括する 日本は間違いなく標的の1つ 一神教の研究(その9)(宮家邦彦、JBPress、2015年3月3日)

世界は今こそ西欧的発想からの脱却が必要だ 英米メディアが注目するインド人随筆家パンカジ・ミシュラ氏に聞く(石黒千賀子、日経ビジネスオンライン、2015年3月20日)
・・「ミシュラ: それを如実に物語っているのが今の中東情勢ではないでしょうか。今の中東は、まさに欧州帝国主義の産物です。その産物が今、崩壊しつつあるということです。 ご存じのように、1916年に英仏露の3カ国がトルコ帝国領の分割を定めたサイクス-ピコ協定を結び、これら中東の地は欧州帝国主義か独裁者によってしか統治できないようにしてしまいました。この時点で、中東の枠組みはいずれかの段階で崩壊を迎えることは必然でした。・・(中略)・・ 欧州は過去にもこうした既存の秩序がすべて崩壊し、様々な狂信的な発想が台頭してくるという事態を何度もくぐり抜けてきた経験があります。30年戦争や宗教改革などはその一例です。長きにわたり、社会を結び付けていたものがばらばらになっていき、凄まじい暴力が発生し、崩れながら何十年もの混沌の時代に突入していく。これと似たことが今、中東で起きている。 帝国主義以降、西欧が築いてきた古い国民国家という政治的枠組みそのものが限界を迎えているということです」

「イスラーム国」の拡散が止まらない理由 (日本エネルギー経済研究所 中東研究センター主任研究員 吉岡明子、日経BizGate、2015年5月25日)

コラム:「イスラム国」との戦争はどう終わるのか (ロイター、2015年6月23日)
・・「つまり、イスラム国との戦争がどう終わるかという質問は、実際のところ、戦争後のイラクとシリアがどんな姿になるのかという問いを意味する。・・(中略)・・ 非国家組織と国家の間には、非常に大きな差がある。国家は国際的財政援助を求めたり、武器を購入したり、他国政府からの諜報支援を期待することもできる。イスラム国は武装組織としては資金力があるかもしれないが、すでに限界を感じているはずだ。」

アングル:空爆で収入減、イスラム国が次に狙う為替操作益 (ロイター、2016年2月24日)
・・ 「イラク北部モスルを支配する過激派組織「イスラム国」戦闘員は、金融拠点に有志連合の爆撃機から攻撃を受けるなか、住民から金を搾り取るため米ドルとイラク・ディナールの為替レートを操作している。」

バグダディはどちらが捕らえる? IS追い詰めた米露特殊部隊 パルミラ奪回の裏でも暗躍 (ウェッジ、2016年4月4日)
・・いよいよ本丸が落ちるか?

欧米にテロリストが大量帰還へ、IS壊滅後の恐るべき現実 (佐々木伸、ウェッジ、2016年8月1日)
・・「米連邦捜査局(FBI)のコミー長官によって発せられた。長官によると、米主導の有志国連合は最終的にISを壊滅することになるが、IS戦闘員のすべてを殺害、もしくは捕虜にすることはできず、多数がシリアから逃亡し、欧州に、そして米国にも舞戻って来る可能性が高い。 その結果、欧米でのテロの発生はISの壊滅の前と比べて減るどころか、増加するという最悪の状況になりかねない、という。シリアやイラクでのISの壊滅が欧米の治安の安定をもたらすことにはならないということだ。 」

各地で敗退、見え始めた終焉、追い詰められたIS、テロ激化か(佐々木伸、ウェッジ、 2016年8月15日)
・・「拠のシリアでは、トルコとの戦略的な交通の要衝、北部のマンジュビが陥落、第2の拠点化を狙った北アフリカ・リビアのシルトも制圧された。アフガニスタンでもIS指導者が米空爆で死亡した。追い詰められたISが欧州やアジアでテロを激化させる恐れが再び強まってきた。」

イラク、モスル奪回作戦を開始、ISは全員自爆覚悟(佐々木伸、ウェッジ、 2016年10月17日)
・・「オバマ大統領は少なくともイラクだけはIS撃退の道筋を付けて新大統領に引き継ぎたいと考えており、自分の残り少ない任期中にモスルを取り戻したいという思惑があるのは事実だろう。 だが「イラクで学んだことは物事が思った通りにはいかないということだ」(元米当局者)。奪回作戦がイラク軍にとっても修羅場になる危険性は大きく、オバマ大統領の思惑通りに進むかは予断を許さない。」


ISの拠点陥落すれど、新たに生まれる“新首都”(佐々木伸、ウェッジ、2017年6月29日)
・・「過激派組織「イスラム国」(IS)のイラクの拠点、モスルの奪還が目前に迫ってきた。しかしモスルがイラク軍に制圧されても問題は解決したわけではない。急がれるのはモスルの治安の回復と破壊された市の再建だが、宗派対立や利権争いが待ち構えており、戦後処理を誤れば、ISの復活という悪夢が現実になりかねない。」 7月11日時点でモスルハほぼ制圧され、つぎはシリア国内のラッカが焦点になる。されど・・・

「イスラーム国」とは何だったのか? 消滅まで囁かれるその現状(髙岡豊・中東調査会上席研究員、ダイヤモンドオンライン、2017年8月18日)

イスラム国が事実上の崩壊 シリア北部の「首都」ラッカ解放 (産経新聞、2017年10月18日)
・・「イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が「首都」と称してきたシリア北部ラッカについて、AP通信は17日、米軍の支援を受けるシリア民主軍(SDF)報道官の話として、「戦闘は終結し、ラッカを解放した」と伝えた。「首都」の陥落でISが標榜してきた「疑似国家」は事実上、崩壊した。」

ひとまず、これで「自称イスラーム国」は消滅した。だが、いまだ完全に掃討戦が行われたわけではないし、イスラーム国を受け継ぐ思想運動団体は無限に増殖することが考えられる。

(2015年2月11日・13日・21日、3月6日・20日、6月6日、6月24日、2016年2月24日、4月4日、8月3日・15日、10月19日、2017年7月11日、8月18日、10月18日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『ならず者の経済学-世界を大恐慌にひきずり込んだのは誰か-』(ロレッタ・ナポレオーニ、田村源二訳、徳間書房、2008)-冷戦構造崩壊後のグローバリゼーションがもたらした「ならず者経済」は、「移行期」という「大転換期」特有の現象である
・・ナポリオーニ氏の世界的ベストセラーは、すでに2008年にナポ「レ」オーニ名義で日本で翻訳出版されている。「イスラム国」もまた「ならず者」の一つである


イスラーム文明の黄金時代

書評 『失われた歴史-イスラームの科学・思想・芸術が近代文明をつくった-』(マイケル・ハミルトン・モーガン、北沢方邦訳、平凡社、2010)-「文明の衝突」論とは一線を画す一般読者向けの歴史物語
・・十字軍が実行されたヨーロパ中世において、黄金時代のイスラーム文明と比較してヨーロッパは辺境の後進地帯に過ぎなかった


イラクとレバント(=東地中海)

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)

書評 『中東新秩序の形成-「アラブの春」を超えて-』(山内昌之、NHKブックス、2012)-チュニジアにはじまった「革命」の意味を中東世界のなかに位置づける

国際テロリズム

書評 『グローバル・ジハード』(松本光弘、講談社、2008)-対テロリズム実務参考書であり、「ネットワーク組織論」としても読み応えあり

映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』をみてきた-アカデミー賞は残念ながら逃したが、実話に基づいたオリジナルなストーリーがすばらしい

映画 『神々と男たち』(フランス、2010年)をDVDでみた-修道士たちの生き方に特定の宗教の枠を越えて人間としての生き方に打たれる

書評 『巨象インドの憂鬱-赤の回廊と宗教テロル-』(武藤友治、出帆新社、2010)-複雑きわまりないインドを、インドが抱える内政・外交上の諸問題から考察

『エコ・テロリズム-過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ-』(浜野喬士、洋泉社新書y、2009)を手がかりに「シー・シェパード」について考えてみる


極左テロ・極右テロ-日本・ドイツ・イタリア

マンガ 『レッド 1969~1972』(山本直樹、講談社、2007~2014年現在継続中)で読む、挫折期の「運動体組織」における「個と組織」のコンフリクト
・・追い詰められたテロリスト組織は、ついに「総括」の名のもとに内部抗争による虐殺に走っていく

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』(ドイツ、2008年)を見て考えたこと
・・ドイツの極左テロを描いた映画。ドイツも、イタリアも、日本も、戦後の1960年代後半に「極左テロの嵐が吹き荒れた

書評 『裁判官と歴史家』(カルロ・ギンズブルク、上村忠男・堤康徳訳、ちくま学芸文庫、2012)-初期近代の「異端審問」の元史料を読み込んできた歴史家よる比較論
・・イタリア新左翼の活動家であった著者の友人がマコ込まれた裁判弁護のために書かれた本

マンガ 『テロルの系譜-日本暗殺史-』(かわぐち かいじ、青弓社、1992)-日本近現代史をテロルという一点に絞って描き切った1970年台前半の傑作劇画

沢木耕太郎の傑作ノンフィクション 『テロルの決算』 と 『危機の宰相』 で「1960年」という転換点を読む

「ユートピア」は挫折する運命にある-「未来」に魅力なく、「過去」も美化できない時代を生きるということ


■米英中心の国際メディアがもつ意味

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある


16~17世紀のヨーロッパにおける宗教改革という「戦国時代」

「ジャック・カロ-リアリズムと奇想の劇場-」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年4月15日)-銅版画の革新者で時代の記録者の作品で17世紀という激動の初期近代を読む

映画 『王妃マルゴ』(フランス・イタリア・ドイツ、1994)-「サン・バルテルミの虐殺」(1572年)前後の「宗教戦争」時代のフランスを描いた歴史ドラマ

書評 『武士とはなにか-中世の王権を読み解く-』(本郷和人、角川ソフィア文庫、2013)-日本史の枠を超えた知的刺激の一冊
・・「第一次グローバリゼーションのなか、日本に伝来したキリスト教にきわめて近似した一向宗は、限りなく「一神教」に近づいていたのである・・(中略)・・メッセージの明快さとアピール力において、一神教のほうが多神教よりもコミュニケーション密度とスピードが勝っているのは、当然といえば当然だ。信仰の対象を阿弥陀如来のみに一点集中させた一向宗が、容易に地域を越えて拡大したのはそのためだ」


「近代」の意味について日本近現代史に即して考える

『近代の超克ー世紀末日本の「明日」を問う-』(矢野暢、光文社カッパサイエンス、1994)を読み直す-出版から20年後のいま、日本人は「近代」と「近代化」の意味をどこまで理解しているといえるのだろうか?

『王道楽土の戦争』(吉田司、NHKブックス、2005)二部作で、「戦前・戦中」と「戦後」を連続したものと捉える
・・戦前の日本は「神国」のもと「聖戦」を戦った末に敗れ去ったのであったが、「近代国家」としての日本は「近代性」と「神話性」を両輪とする体制であった

「神やぶれたまふ」-日米戦争の本質は「宗教戦争」でもあったとする敗戦後の折口信夫の深い反省を考えてみる

(2015年2月8日、2015年2月11日 情報追加)


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end

2015年1月25日日曜日

「イスラーム国」登場の意味について考えるために ― 2015年1月に出版された日本人の池内恵氏とイタリア人のナポリオーニ氏の著作を読む




英語で ISIS や ISIL と省略形で表現される「イスラーム国」(The Islamic State)について、ようやく日本語で読める情報が増えてきたのは喜ばしい。

なぜなら、人質となった日本人が殺害されるという事態が発生した以上、イスラーム国の存在は、もはや日本と日本人には無縁だとは言い切れなくなったからだ。

これまでわたしは英語情報中心に見てきたが、英語情報には英米特有のバイアスがかかるので限界がある。このためできれば、アラビア語の情報を分析できる著者による日本語情報も見ておきたかった。わたしはアラビア語は読めないので、選択肢が限定される。
  
イスラーム国登場の意味と実態について知るには、『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、文藝春秋、2015)と、出版されたばかりの『イスラーム国の衝撃』(池内恵、文春新書、2015)の2冊がもっとも適当だろう。関連本はできれば3冊以上、最低でも2冊以上の「束」で読むべきである。
  


まずは、後者の『イスラーム国の衝撃』から。アラビア語を駆使する気鋭のイスラーム研究者・池内氏の本は政治思想史と国際関係論から迫った良書。この本を読めば、イスラーム国登場の意味をザックリとつかむことができる。1973年生まれの著者は、20歳代のはじめに「オウム事件」(1995年)という無差別テロ事件を同時代人として知っている。
   
『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』は、英米で教育をうけたファイナンスの専門家でテロリストの資金調達の解明から踏み込んだテロ問題の政策アドバイザー1955年生まれの著者は、ローマ生まれのイタリア人という立ち位置。イタリアはかつて1960年代の終わりから1980年代にかけて「赤い旅団」による極左テロの嵐が吹き荒れた国である。



池内氏とナポリオーニ氏は、「テロリストによる国家建設」という同じテーマを分析していても、よって立つ専門分野が異なり、しかも世代が違うので、つづけて読むとイスラーム国についての理解が補完的な意味で深まることになる。

ともに英米圏の出身者ではないので、英語情報との距離の取り方に注目するべきだろう。なぜ英米が、ISIS や ISIL という呼称を使いたがるのか、両者ともに重要な示唆を与えてくれる。米国政府も英国政府も、ともに「イスラーム国」(Islamic State)を「国家」(state)としては認めたくないのである。あくまでもテロリスト「組織」とみなしたいのである。

池内氏は、イスラーム思想そのものに即しての記述である。とくにアラビア語圏における「終末論」についての考察は見逃せない。ナポリオーニ氏は、経済と財政という、世俗的な要素に即しての記述である。冷戦後のグローバリゼーションとの関係からの分析も見逃せない。

両者をあわせて読むと、「補完的」だというのはそういうことだ。ビジネパーソンとしては、より世俗的な分析に重点をおいたナポリオーニ氏のほうが面白いが、より根源的な理解に迫ろうとするなら池内氏のアプローチもきわめて重要だといえる。

いずれにせよ両者に共通しているのは、イスラーム国をたんなるテロリスト集団とみなしていては本質を見誤るという指摘である。イラクの北部地域と西部地域とシリアの一部で、すでに実質的に「領土」を支配下においているのであり、「国家」建設を目指しているという点に注目しなければならない。
   
両者ともに指摘しているが、仮に軍事力でイスラーム国を壊滅の追い込むことが可能だとしても、同じような志向をもったイスラーム過激派組織がつぎからつぎへと発生することが避けられないのだ。

すくなくとも一冊は読んでおきたい本として推奨しておきたい。



『イスラーム国の衝撃』(池内恵、文春新書、2015)

目 次

1. イスラーム国の衝撃
2. イスラーム国の来歴
3. 蘇る「イラクのアル=カーイダ」
4. 「アラブの春」で開かれた戦線
5. イラクとシリアに現れた聖域
6. ジハード戦士の結集 傭兵ではなく義勇兵
 ジハード論の基礎概念
 ムハージルーンとアンサール-ジハードを構成する主体
 外国人戦闘員の実際の役割
 外国人戦闘員の割合
 外国人戦闘員の出身国
 欧米出身者が脚光を浴びる理由
 「帰還兵」への過剰な警戒は逆効果-自己成就的予言の危機
 日本人とイスラーム国
7. 思想とシンボル-メディア戦略 すでに定まった結論
 電脳空間のグローバル・ジハード
 オレンジ色の囚人服を着せて
 斬首映像の巧みな演出
 『ダービク』に色濃い終末論 90年代の終末論ブームを受け継ぐ 終末論の両義性 預言者のジハードに重ね合わせる
8. 中東秩序の行方 分水嶺としてのイスラーム国
 1919年 第一次世界大戦後の中東秩序の形成
 1952年 ナセルのクーデタと民族主義
 1979年 イラン革命とイスラーム主義
 1991年 湾岸戦争と米国覇権
 2001年 9・11事件と対テロ戦争
 イスラーム国は今後広がるか 
 遠隔地での呼応と国家分裂の連鎖
 米国派遣の希薄化
 地域大国の影響力
むすびに
文献リスト

著者プロフィール

池内恵(いけうち・さとし)
1973年東京生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授(イスラム政治思想分野)。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興会アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。中東地域研究、イスラーム政治思想を専門とする。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年、大佛次郎論壇賞)『書物の運命』(文藝春秋、2006年、毎日書評賞)『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2008年、サントリー学芸賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。





『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、文藝春秋、2015)

目 次

この集団の名称について

用語集

はじめに 中東の地図を塗り替える(Introduction  Redrawing of the Middle East) 

 タリバンやアルカイダとは違う

 世界の多極化を熟知しその感激をつく

 多くのスンニ派の人々にとっては頼もしい政治運動と映っている

 彼らは道路を補修し、食糧配給所をつくり、電力を供給した

 他のテロ組織から学ぶ

 彼らが犯罪者でなくなる時

序章 「決算報告書」を持つテロ組織(The New Breed of terrorism?)

 「決算報告書」を持つテロ組織

 冷戦下のテロ組織と何が違うか?

第1章 誰が「イスラム国」を始めたのか?(From al Zarqawi to al Baghdadi) 

 テロリストは国家をつくれるか?

 アル・ザルカウィの伝説

 バグダディの登場

 バグダッド・ベルト

 写真を残さない男

 アルカイダとの路線対立

第2章 中東バトルロワイヤル(Reheasals for the Caliphate) 

 パレスチナ解放戦線という先行例

 一夜にして敵味方が逆転する今日の代理戦争

 代理戦争の政治的矛盾をつく

 人質を転売する市場

 テロをビジネス化し経済的自立を果たす

 シリアにおける最初の偽装国家の建設

 制圧地域内では予防接種も行われるようになる

第3章 イスラエル建国と何が違うのか? (The Paradox of the New Rome) 

 ユダヤ人がイスラエルを建国したように

 戦士たちを制服地域の女性と結婚させる

 イスラエル建国とイラン建国

 「イスラム国」が国際社会で認知される日は来るか?

第4章 スーパーテロリストの捏造(The Islamist Phoenix) 

 「ニューヨークでまた会おう」

 スーパーテロリストの捏造

 予言は公言することで実現する

 欧米は重大な動きを見落としていた

 カリフ制国家の訴求力

 あえて近代的な運営をする

第5章 建国というジハード(The Modern Jihad) 

 欧米の民主主義的価値観を越えるもの

 大ジハードと小ジハード

 「建国」という新しい概念をジハードに与えた

 「アルカイダは一つの組織にすぎないが、われわれは国家だ」

第6章 もともとは近代化をめざす思想だった(Radical Salafism) 

 サラフィー主義は、もともとはアラブの近代化をめざす理想だった

 植民地化によって過激な反欧米思想に変質

第7章 モンゴルに侵略された歴史を利用する(The New Mongols) 

 なぜ虐殺をするのか

 タクフィール、背教者宣言

 13世紀のモンゴル人によるイラク侵攻

 欧米は敵を誤っていた

 本質は宗教戦争ではなく、現実的な政治戦争

第8章 国家たらんとする意志(Contemporary Pre-Modern Wars) 

 崩壊過程の国民国家の血を吸って

 なぜシリアとイラクなのか

 第三次世界大戦の性格

 「イスラム国」の戦いと他の武装集団の戦いは違う

 近代国家の再定義

終章 「アラブの春」の失敗と「イスラム国」の成功(Epilogue The Arab Spring and The Islamic State) 

 欧米の軍事介入の行方

 第三の道はあるか

謝辞

ソースノート


著者プロフィール
ロレッタ・ナポリオーニ(Loretta Napoleoni)
1955年ローマ生まれ。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で国際関係と経済学の修士号、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで哲学修士号を取得。ハンガリー国営銀行に就職、通貨フォリントの兌換通貨化を達成、そのスキームは、後にルーブルの兌換通貨化にも使われる。北欧諸国政府の対テロリズムのコンサルタントを務め、各国の元首脳が理事をつとめる民主主義のための国際組織「Club de Madrid」の対テロファイナンス会議の議長も務める。邦訳書に『ならず者の経済学』(徳間書房、2008)。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに補足)。




PS 『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、文藝春秋、2015)については、このブログでよりくわしく取り上げているので、関心のある方は、そちらもご参照いただきたい。(2015年1月30日 記す)。



PS 「イスラーム国」(or 「イスラム国」)という呼称について

NHKは2015年2月13日から「イスラム国」の呼称を変更することを発表した。

過激派組織ISについて

2月13日NHKは過激派組織について、これまで組織が名乗っている「イスラミックステート」を日本語に訳して「イスラム国」とお伝えしてきましたが、この組織が国家であると受け止められないようにするとともに、イスラム教についての誤解が生まれないように13日夜から原則として「過激派組織IS=イスラミックステート」とお伝えすることにしました。(*ふとjゴチックは引用者=さとう)

 「過激派組織IS=イスラミックステート」というのはえらく長い。わたしは「自称イスラム国」でいいのではないかと思うのだが・・・ (2015年2月14日 記す)




<関連サイト>

イスラム国現象が巻き起こす“負の連鎖”の仕組み-シリアの混乱が世界に広がる可能性 (菅原 出、日経ビジネスオンライン、2015年1月6日)

イスラム国 恐怖政治の実態-中東研究センターの保坂修司氏に聞く-(時事ドットコム、2014年)

思い立ったら新書−−–−1月20日に『イスラーム国の衝撃』が文藝春秋から刊行されます

中東・イスラーム学の風姿花伝
・・「池内恵(いけうち さとし 東京大学准教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について、日々少しずつ解説します。有用な情報源や、助けになる解説を見つけたらリンクを張って案内したり、これまでに書いてきた論文や著書の「さわり」の部分なども紹介したりしていきます」

『イスラーム国の衝撃』プレヴュー(1)目次と第1章(池内恵、BLOGOS、2015年1月4日)

「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ (池内恵、フォーサイト、2015年1月21日)
・・関連情報のリンク先あり


イスラム国現象が巻き起こす“負の連鎖”の仕組み-シリアの混乱が世界に広がる可能性 (菅原 出、日経ビジネスオンライン、2015年1月6日)

イスラム国 恐怖政治の実態-中東研究センターの保坂修司氏に聞く-(時事ドットコム、2014年)

イスラム国ではなく「ダーイシュ」、 弱点を突いて解体せよ 元バアス党員と元イラク軍人たちが夢想した世界とは (松本 太、JBPress、2015年2月6日)
・・サラフィー・ジハード主義者と元バアス党員や元イラク軍人という二項対立を抱える「イスラーム国」

イスラム国の「真の狙い」など存在しない 錯綜した人質事件の情報(前篇)(黒井文太郎、JBPress、2015年2月3日)

イスラム国は日本を特に重視しているわけではない 錯綜した人質事件の情報(中篇)(黒井文太郎、JBPress、2015年2月10日)

コラム:イスラム国が人質焼殺映像で得たもの (Peter Van Buren、ロイター、2015年2月12日)
・・「イスラム国は日本人の人質2人とヨルダン軍パイロットを殺害し、メッセージをインターネット上で拡散し、それによる戦略的利益を得た。・・(中略)・・イスラム国はこれが「主義の戦い」であることを理解している。主義や思想は爆撃でダメージを受けることがないことも分かっている。そのような戦いでは、本質的に勝ち負けは存在しない。ただ壮大な戦いに苦しむだけだ。・・(中略)・・そもそもイスラム国への対応は依然として米国の手に委ねられているが、米国は自身の中東でのプレゼンスがまさに戦いの悪化を招いていることを理解しているようには見えない。」

IS人質殺害事件:日本国内評論を総括する 日本は間違いなく標的の1つ 一神教の研究(その9)(宮家邦彦、JBPress、2015年3月3日)

コラム:「イスラム国」との戦争はどう終わるのか (ロイター、2015年6月23日)
・・「つまり、イスラム国との戦争がどう終わるかという質問は、実際のところ、戦争後のイラクとシリアがどんな姿になるのかという問いを意味する。・・(中略)・・ 非国家組織と国家の間には、非常に大きな差がある。国家は国際的財政援助を求めたり、武器を購入したり、他国政府からの諜報支援を期待することもできる。イスラム国は武装組織としては資金力があるかもしれないが、すでに限界を感じているはずだ。」


(2015年2月11日、13日、3月6日、6月23日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『イスラム国-テロリストが国家をつくる時-』(ロレッタ・ナポリオーニ、村井章子訳、文藝春秋、2015)-キーワードは「近代国家」志向と組織の「近代性」にある


■国際テロリズム

書評 『グローバル・ジハード』(松本光弘、講談社、2008)-対テロリズム実務参考書であり、「ネットワーク組織論」としても読み応えあり

映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』をみてきた-アカデミー賞は残念ながら逃したが、実話に基づいたオリジナルなストーリーがすばらしい


中近東と東地中海(レバント)

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」
・・第一次世界大戦終了後のオスマン・トルコ帝国崩壊にともない、サイクス=ピコ秘密協定で、イラク側は英国の権益とされた

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010)

書評 『中東新秩序の形成-「アラブの春」を超えて-』(山内昌之、NHKブックス、2012)-チュニジアにはじまった「革命」の意味を中東世界のなかに位置づける

『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)を中心に、現代イスラエルを解読するための三部作を紹介


「アラブの春」とその終焉

書評 『エジプト革命-軍とムスリム同胞団、そして若者たち-』(鈴木恵美、中公新書、2013)-「革命」から3年、その意味を内在的に理解するために ・・エジプトもまた大英帝国の植民地であった


■米英中心の国際メディアがもつ意味

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある


■終末論

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む
・・イスラーム研究の若き俊秀・池内 恵の処女作『現代アラブの社会思想-終末論とイスラーム主義-』(池内 恵、講談社現代新書、2002)について触れてある

書評 『オウム真理教の精神史-ロマン主義・全体主義・原理主義-』(大田俊寛、春秋社、2011)-「近代の闇」は20世紀末の日本でオウム真理教というカルト集団に流れ込んだ


極左テロ・極右テロ-日本・ドイツ・イタリア

マンガ 『レッド 1969~1972』(山本直樹、講談社、2007~2014年現在継続中)で読む、挫折期の「運動体組織」における「個と組織」のコンフリクト

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』(ドイツ、2008年)を見て考えたこと
・・ドイツの極左テロを描いた映画。ドイツも、イタリアも、日本も、戦後の1960年代後半に「極左テロの嵐が吹き荒れた

書評 『裁判官と歴史家』(カルロ・ギンズブルク、上村忠男・堤康徳訳、ちくま学芸文庫、2012)-初期近代の「異端審問」の元史料を読み込んできた歴史家よる比較論
・・イタリア新左翼の活動家であった著者の友人がマコ込まれた裁判弁護のために書かれた本

マンガ 『テロルの系譜-日本暗殺史-』(かわぐち かいじ、青弓社、1992)-日本近現代史をテロルという一点に絞って描き切った1970年台前半の傑作劇画

「ユートピア」は挫折する運命にある-「未来」に魅力なく、「過去」も美化できない時代を生きるということ

(2015年1月30日 情報追加)


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