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2012年10月22日月曜日

書評『ネット大国 中国 ー 言論をめぐる攻防』(遠藤 誉、岩波新書、2011)ー「網民」の大半を占める80后、90后が変える中国



中国が「ネット大国」というのは、けっしておおげさではない。13億人の人口大国の中国であるが「網民」は、なんと4.5億人(2010年現在・・2012年時点では5億人突破*)を越える。「網民」とはネットユーザーのこと、「網」はネット(net)のことだから、「網民」は「ネティズン」(netizen)としてもいいだろう。

日本もネット先進国といわれるが、全人口は 1.2億人しかいない。中国の「網民」が約5億人超という事実は、しっかりとアタマのなかにいれておかないと中国情勢を大きく見誤ることになることが数字でわかるはずだ。情報統制されている中国ではあるが、この5億人という数がハンパではない。数はチカラである。

しかも、「網民」の大半を占めるのが、いわゆる「80后」(バーリンホウ)、「90后」(ジューリンホウ)と呼ばれる、1980年代以降に生まれた若者たちである。大雑把にいってしまえば、1978年の「改革開放」以後に生まれた、まったくあたらしい世代なのである。

一人っ子が当たり前の社会で、しかも資本主義的ビジネス中心主義に舵を切った中国に生まれ育った若者たち。しかも、ネットには完全に習熟し、役人の腐敗や社会矛盾には敏感で、権利意識もはるかに強い。価値観もメンタリーも旧世代とは大きく異なる若者たちである。

こういう背景を踏まえたうえで、「グーグル撤退騒動」、「08憲章」、「尖閣事件」、「反日デモ」、「中国茉莉花(ジャスミン)革命」といった一連の事件をみていくと、日本のマスコミ報道とは異なる現実が浮かび上がってくることが理解できるようになる。規制と検閲を強める政府と、「網民」の攻防戦の具体的な姿がそこにあることがわかるのである。

著者は、中国生まれで13歳で日本に帰国するまで共産中国草創期を現地で体験した日本人。『チャーズ』で衝撃的なデビューをした作家だが、『卡子(チャーズ)』の中文版はいまだに中国では出版が認められていないという。そこには、中国共産党の恥部が包み隠さず書かれているからだ。

中国がかかえる問題を内在的に理解し、ネットの実際にも通じた著者が、深い洞察をもとに、きわめてロジカルに「中国のいま」を語った本である。さすが物理学者であっただけに、内容はきわめて明快だ。

中国への思い入れが深く、中国の原論自由化がなされてこそ「中国革命」は成就するのであると説く著者。「ネット言論」ははたして民主化を導くのか? それを考えるための必読書だといっていい。ぜひすすめたい一冊である。


*注: CNNIC第29次調查報告:網民規模與結構特徵(北京新浪新聞 2012年1月16日)
・・「截至2011年12月底,中國網民數量突破5億,達到5.13億,全年新增網民5580萬。互聯網普及率較上年底提升4個百分點,達到38.3%」とある。すでに「網民」は5億人を突破。 





目 次 

はじめに
第1章 「グーグル中国」撤退騒動は何を語るか
第2章 ネット言論はどのような力を持っているのか
第3章 ネット検閲と世論誘導―“官”の政策
第4章 知恵とパロディで抵抗する網民たち―“民”の対応
第5章 若者とネット空間―権利意識に目覚める80后と90后
第6章 ネット言論は中国をどこに導くのか
あとがき

著者プロフィール

遠藤誉(えんどう・ほまれ)1941年中国長春市生まれ。1953年日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、国務院西部開発弁公室人材開発法規組人材開発顧問などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

中国の対日外交を読み解く:カギは「網民」の民意(日経ビジネスオンライン)・・本書のもとになったネット連載

ビッグデータ分析で、中国政府による検閲の中身が明らかに ゲイリー・キング米ハーバード大学教授に聞く (日経ビジネスオンライン 2014年2月4日)
・・中国政府によって削除される前に入手した膨大なネット書きこみ情報を「ビッグデータ」の手法で解析することにより、検閲手法と方針が明らかになった!
「分かったことは、中国政府が監視しているのは、とにかく「団体行動」であるということです。人を扇動したり、抗議行動に駆り立てたり、政府以外の人間が他人をコントロールしようとする発言は即刻検閲されます。・・(中略)・・中国政府は恐らく、特定の話題に関するソーシャルメディアを監視していて、特定の話題が盛り上がる様子を眺め、突然投稿者たちが1つの方向で議論を始めて明らかに「炎上」した時に動くようです。団体行動を実行に移しそうな炎上の仕方が見られると、すべての炎上した投稿を削除してしまうのでしょう。それが、政府寄りだろうが、反政府寄りだろうが、関係ない。団体行動の芽が見えたらとにかく取り締まる」


中国問題研究家 遠藤誉が斬る (連載 2013年10月2日から現在) 



<ブログ内関連記事>

Google が中国から撤退!?-数週間以内に最終決定の見通し
(2010年1月14日)

Google が中国から撤退!?(続き)(2010年1月15日)

Google が中国から撤退!?(その3)(2010年3月23日)

書評 『蟻族-高学歴ワーキングプアたちの群れ-』(廉 思=編、関根 謙=監訳、 勉誠出版、2010)

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)

書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)

書評 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)-集団指導体制の中国共産党指導部の判断基準は何であるか?


「アラブの春」の前後

『動員の革命』(津田大介)と 『中東民衆の真実』(田原 牧)で、SNS とリアル世界の「つながり」を考える

書評 『アラブ諸国の情報統制-インターネット・コントロールの政治学-』(山本達也、慶應義塾大学出版会、2008)

書評 『エジプト革命-軍とムスリム同胞団、そして若者たち-』(鈴木恵美、中公新書、2013)-「革命」から3年、その意味を内在的に理解するために

(2014年8月9日 情報追加)


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2010年12月22日水曜日

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 を読む-特集テーマは「The World Ahead」 と 「インド、パキスタン、アフガンを考える」




 月刊誌「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版)の「2010年 No.12」のレビューを引き受けることとなった。

 「2010年NO.3」、「2010年No.5」、「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える」に引き続き 4回目である。

 今回も R+より献本をいただいている。

 月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版)そのものについては、私がブログに執筆した 月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.3 を読む を参照していただけると幸いである。「フォーリン・アフェアーズ・リポート」の読み方についても書いておいた。

 前置きはさておき、「2010年No.12」の内容の紹介を行うこととしたい。

 まさに時宜をえた内容、しかも今回の執筆陣は実に豪華なメンバー揃いだ。2010年No.12 の目次は以下のとおりである。

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特集1 The World Ahead

●「アメリカ・パワーの将来-今後を左右するのは中国ではなく、スマートパワーだ-」(ジョセフ・ナイ、ハーバード大学ケネディスクール教授)
●「インターネットは自由も統制も促進する-政治的諸刃の剣としてのインターネット-」(イアン・ブレマー、ユーラシアグループ代表)
●「インターネットと相互接続権力の台頭」(エリック・シュミット Google CEO、ジャレド・コーエン Google Ideas Director)
●「新興国という無責任な利害共有者-時代は「協調なき、多極化」へ-」(スチュワート・パトリック、米外交問題評議会シニアフェロー)
●「アフリカの農業革命が世界の食糧危機を救う」(ロジャー・サロー、シカゴ国際問題評議会シニアフェロー)

●「<CFRインタビュー> アジアは多極化し、中国の覇権は実現しない」(キショール・マブバニ、シンガポール国立行政大学院院長)
●「ロシアの政治・経済を支配するシロヴィキの実態-連邦保安省というロシアの新エリート層-」(アンドレイ・ソルダトフ/アイリーナ・ボローガン、Agenture.Ru 共同設立者)

特集2 インド、パキスタン、アフガンを考える

●「<CFRミーティング> P.ムシャラフが語る政界復帰とタリバーン対策」(パルベーズ・ムシャラフ前パキスタン大統領)
●「<CFRミーティング> アフガン撤退戦略の見直しを」(リチャード・アーミテージ)
●「<CFRインタビュー> コレラ流行はパンデミック化している」(ローリー・ギャレット、米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニアフェロー)

////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 各論文の要旨については、「フォーリン・アフェアーズ・リポート」の公式サイトを参照されたい。月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 にアップされているので参照されたい。


あらたに「スマート・パワー」概念を打ち出したジョゼフ・ナイ教授の論文は、「米国は衰退している」という誤ったメッセージの危険性について警鐘を鳴らしている

 ハーバード大学公共政策大学院(=ハーバード・ケネディ・スクール)教授のジョゼフ・ナイは、オバマ政権のもとでの初代駐日大使就任のウワサが出ていたことにもわかるように、あらためて紹介するまでもなく、民主党(米国)の外交と安全保障政策への影響力もきわめて大きい、日本でも知名度の高い「知日派」の米国知識人である。

 ジョゼフ・ナイの論文「アメリカ・パワーの将来-今後を左右するのは中国ではなく、スマートパワーだ」については、巻頭論文だけに読み応えがある。少なくともこの論文だけでもじっくりと読んでおきたい。

 この論文を読むことで、「米国衰退論」は、米国市民以外だけでなく、米国市民もそのように考えていることがわかると同時に、「米国衰退論」はあくまで心理的なものであり、「拡散しつつあるパワー」のあいだで、米国が「相対的に」衰えたように見えるに過ぎないのである。けっして「絶対的な」パワーが衰退したわけではないことを、さまざまな統計データを子細に検証することで論証している。

 米国の国内外に発っせられてきた「米国が衰退している」という誤ったメッセージがいかに多くの問題を引き起こしてきたか、われわれも一歩立ち止まって、冷静に考えてみるべきだろう。
 これは、日中関係を考える際にも、きわめて重要な視点である。誤ったメッセージを受け取った中国が「尖閣問題」においていかなる行動にでたか、そしてこの中国の行動に対していかなる対応を取るべきか。
 相対的な米国のパワーが衰退しているからこそ、米国単独のパワーではなく、同盟(アライアンス)の意味が大きくなる。これは「衰退しつつある日本」からみても同様である。日米同盟もこの文脈のなかで考えるべきであろう。
 
 国際政治の文脈で、いち早く、軍事や産業などの「ハード・パワー」ではない、文化などの「ソフト・パワー」が重要だと主張したナイ教授は、最近は「スマート・パワー」(smart power)概念を打ち出している。

 「スマート・パワー」とは、情報化時代におけるハードパワーとソフトパワーリソースを組み合わせたパワーのことである。弁証法的に言えば、「正反合」の「合」にあたるものといえようか。もちろん、ハードパワーとソフトパワーは対立概念ではあるが、相互補完的な意味合いを持つので、この二つのパワーが合体したとき、まさに文字通り「賢いパワー」として、きわめて強力なものとなるであろう。

 ただし、ナイ教授が言うように、パワーは善し悪しや大小で論ずべきものではなく、自らがもてるパワーリソース(=パワーを支える資源)をいかに優れた戦略に結びつけることができるかという方法論で決まってくる。だからこそ、賢いパワーなのである。情報化時代における同盟とネットワークのありかたについても示唆の多い論文である。

 この点において、国際政治戦略が、著しく企業戦略に近づいてきたと感じるのは私だけだろうか。企業経営に引きつけて読み過ぎだと言われればそれまでなのだが。

 この論文の一部は、来春2011年に出版予定の、Joseph S. Nye Jr., The Future of Power, public Affairs, 2011 からの抜粋とのことである。
 出版に先立って「スマート・パワー」(smart power)をめぐる議論は活発になされているようだ。

 ジョゼフ・ナイと並んで日本国内でも知名度の高い「知日派」リチャード・アーミテージは、今月号にはアフガンがらみでの発言で登場しているが、ナイとアーミテージとの鼎談が、『日米同盟 vs.中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ/ジョセフ・ナイ/春原 剛、文春新書、2010)と題して、ほぼ同時期に出版されているので、あわせて目を通しておきたい。
 民主党(米国)のナイ、共和党(米国)のアーミテージは、日米同盟にかんしては超党派で盟友の立場にある。




新しい世界秩序形成プロセスにおける、中国とインドというアジアの二大新興国の「復活」について

 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」は基本的に米国中心の世界観の表明である。米国=世界ではないのは当然だが、依然として世界においてきわめて大きな影響力を行使しつづけているのが米国であり、米国自身もジョゼフ・ナイの言うとおり、ハードパワーの行使からソフト・パワーへ、そしてスマート・パワーへと進化発展を遂げている最中である。

 一方、冷戦崩壊後、いまだに新しい秩序形成をめぐってのプロセスのなかにあるわけだが、「冷戦時代」と異なり、攪乱要因となっているものの一つは、新興国の急速な台頭である。

 「新興国という無責任な利害共有者-時代は「協調なき、多極化」へ-」(スチュワート・パトリック)は、「多国間協調なき多極化」状況のなかで、日本はいかなるポジションにおいてプレイすべきかを考えるための示唆の多い論文である。

 米国自身のポジションの変化を正確に見極めておくことが、「同盟国日本」にとっても、日本が国際政治におけるプレイヤーである以上、避けて通れないことであると同時に、日本はもはや新秩序形成の主たるプレイヤーではないのか、というため息も感じざるをえない。

 一方、「<CFRインタビュー> アジアは多極化し、中国の覇権は実現しない(キショール・マブバニ)では、シンガポールの元国連大使が、米国からではない、アジアからみた地政学の観点から、アジアへのパワーシフトについて語っており、日本人からみても「複眼的な視点」をもつうえで興味深いものである。

 アジアの新興国、もちろん現在の世界秩序のなかでは新興国であっても、実際は長い歴史と文明を誇る伝統国なのであるが、その「復活しつつある」二大パワーである中国とインドについて、とくに後者のインド亜大陸をめぐる国際情勢についての理解が深まる論文がいくつか採録されている。

 インド自体がアジアの大国であるが、地政学的な条件からみれば、インド亜大陸は中央アジアとは陸で国境を接しており、アフガニスタンの変動がパキスタンをつうじて、ダイレクトに波及してくる地域である。

 パキスタンのムシャラフ前大統領とリチャード・アーミテージによるアフガン戦略にかんする2つの<CFRミーティング>が収録されているが、臨場感あふれる討論会は、ともに興味深く読むことができた。

 現在外国亡命中のムシャラフ氏が Facebook(フェイスブック)に開いたアカウントには、35万人以上がフォローしているという発言は興味深い。現時点(12月22日現在)では、さらにフォロワーが増大して37万人も目前である。

 なお、ムシャラフ氏の「フェイスブック」アカウントは以下のとおりなので、興味のある人はフォローしてみたらいいだろう。 http://www.facebook.com/pervezmusharraf



テクノロジーとしてのインターネットの本質は、政治的には「諸刃の剣」であり、政府にも非政府組織や個人にもパワーを与える存在。拡散するパワーのなかにおける国家のパワーとは・・・

 巻頭論文で、政治学者のジョゼフ・ナイは、情報化時代における「スマート・パワー」について論じているが、米国自身がトランスフォーメーションの最中にあることは、今月号の「特集1 The World Ahead」に掲載されたインターネット関連の二つの論文を読むと、よりいっそう理解が深まることになる。

 インターネット「相互接続権力」は、米国のパワーの相対的な低下を招いた要因としては、新興国の勃興に勝るとも劣らない重要な意味をもつようになっている。

 インターネットは、ある意味では米国発の「ソフトパワー」であるが、テクノロジーとしてのインターネットの本質は、政治的には「諸刃の剣」であることに注目する必要がある。テクノロジーそのものは価値中立的なツール(道具)であるからだ。
 インターネットは、敵にも味方にも等しく武器になりうる存在である。日本語でいう「バカとハサミは使いよう」という表現を想起する。

 「インターネットは自由も統制も促進する-政治的諸刃の剣としてのインターネット-」(イアン・ブレマー)は、インターネット・テクノロジーは「さまざまな野心や欲望を満たす手段でしかなく、そうした欲望の多くは、民主主義とは何の関係もない」と、インターネット楽観論にクギをさす。米国人だけではなく、日本人も心しておくべき重要な指摘である。

 世界には民主主義を国是とする国家だけでなく、権威主義的で抑圧的な政策をとりながらインターネットを活用して世論をコントロールしている国家もある。

 そしてまたインターネット・テクノロジーを巡っては、利益を動機として動く企業と国家との関係も一筋縄ではいかなくなってきている。情報戦争においてはハイテク企業が軍事産業化しつつある、とも。 

 今年2010年に、サイバー攻撃を受けていたとして、"権威主義国家"中国からの撤退をめぐって大きな話題となったグーグルは、中国がそうみなしているように、米国政府との関係を密接化する方向に動いていることに注目しておきたい。

 今月号に掲載されている「インターネットと相互接続権力の台頭」という論文の執筆者が、グーグルCEOのエリック・シュミットと今年2010年に設立されたばかりのシンクタンク部門グーグル・アイディアズ(Google Ideas)ディレクターのジャレッド・コーヘンの共同執筆であることがその事実の一端を物語っている。

 ここで、グーグルのシンクタンク部門 「グーグル・アイディアズ」(Google Ideas)について触れておこう。

 グーグル、シンクタンク「Google Ideas」設立を計画--統括者は米国務省OB(CNET JAPAN 文:Tom Krazit(CNET News) 翻訳校正:編集部2010年9月8日 09時44分)という記事によれば、設立の経緯とミッションは以下のとおりである。

 最近まで米国務省に務めていたJared Cohen氏は、雑誌「Foreign Policy」のインタビューで、2010年10月中旬から Google の同新部門を統括する予定であると述べた。Google の最高経営責任者(CEO)であるEric Schmidt氏は、同記事をTwitterで紹介している。Cohen氏は、米国務省のデジタル専門家として知られ、YouTube や Twitter といった新しいソーシャルメディア技術に対する政府内の理解促進を支援していた。
 Cohen氏によると、Google Ideas は、広範囲にわたる問題を調査する予定だという。「同組織が取り上げる課題の範囲には、テロ対策、急進派対策、核拡散防止といったハードな課題のたぐいから、開発や市民への権限付与といった人々が取り組んでほしいと望むような課題まで、あらゆるものが含まれる」(Cohen氏)。
 Cohen氏はこれを、「Think/do Tank」と呼んでいる。つまり、Google Ideas は、政府や第三者期間と協力することにより、同組織が作り上げた概念の一部を行動に移すことを目的とする予定であることを意味している。
 Google と米国務省は2010年に入って、検索結果の検閲を巡る Google と中国との論争に関連して、結びつきを強くしており・・(後略)・・

 グーグルCEOのエリック・シュミットは、大統領科学テクノロジー諮問委員会委員を務めるほか、New America Foundation (新アメリカ財団)の理事長を務めている。
 グーグルが米国の政策決定に与える影響や知的貢献の面でも、注目すべき論文であるといえよう。

 この論文で、日本語で「相互接続権力」(interconected estate)と訳された権力は、「第4の権力」(the fourth estate)といわれるマスコミに取って変わらんとする勢いのあるものである。

 インターネットに接続さえできれば、誰でも個人で発言し変化を起こすことのできるパワーを手に入れることができる。そうしてパワーを得た非政府組織と活動家が、世界全体で「パワー拡散」をさらに促進している。

 グーグル関係者による論文の英文タイトルが The Digital Disruption - Connectivity and the Diffusion of Power であることの意味はそこにある。論文の日本語訳タイトルだけを見ていると気がつきにくいが、「パワー拡散」を文言として打ち出すべきであったと思われる。

 上記2つの論文は、秘密の外交文書を入手してウェブ上で公開する「ウィキリークス」(Wikileaks)が、とくに米国政府をゆるがす存在として「事件」となる以前に発表されたものである。
 だが、この2つの論文を読んでおくことは、インターネット接続の自由をめぐる米国政府の抱えるジレンマを含め、この問題を理解するための参考となるだろう。

 ウィキリークスもまた「相互接続権力」としての非政府組織の活動家の一つである。

 すでに、ウィキリークスへの言及抜きに国際政治を論じることは不可能となった。今後の「フォーリン・アフェアーズ・リポート」で、取り上げて大いに議論してもらいたいテーマとして期待している。







<参考サイト>

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12
・・「フォーリン・アフェアーズ・リポート」の公式サイト

<論文執筆者の著書紹介>

Joseph S. Nye Jr., The Future of Power, Public Affairs, 2011
・・2011年2月発売予定

Ian Bremmer, The End of the Free Market: Who Wins the War Between States and Corporations ?, Portfolio Hardcover, 2010
・・amazon.com(米国)では、再び勃興しつつある「国家資本主義」(state capitalism)について、リーマンショックを予測して一躍脚光を浴びた経済学者・ヌリエル・ルービニ教授と one-on-one で論じあっているので、ぜひ目を通すことを奨めたい。

ユーラシア・グループ(Eurasia Group)(日本語版)
・・イアン・ブレマーが社長を務めるグローバル政治リスク分析会社



PS 「インターネットと相互接続権力の台頭」(エリック・シュミット Google CEO、ジャレド・コーエン Google Ideas Director)という論文をベースに単行本が出版されている。『第五の権力-Google には見えている未来-』(エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社、2014)。原著タイトルは、The New Digital Age: Reshaping the Future of People, Nations and Business, by Eric Schmidt and Jared Cohen, 2013 (2014年2月26日 記す)。








<ブログ内関連記事>

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.3 を読む

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.5 を読む-特集テーマは「大学問題」と「地球工学」-

「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える-制度改革か、それとも日本システムからの退出か 1986-2010」(2010年9月)を読んで、この25年間の日米関係について考えてみる

書評 『アラブ諸国の情報統制-インターネット・コントロールの政治学-』(山本達也、慶應義塾大学出版会、2008)


米国が衰退?

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)
・・米国はまだまだ世界の中心であり、今後もそうであろうと考えるべきこと

書評 『自由市場の終焉-国家資本主義とどう闘うか-』(イアン・ブレマー、有賀裕子訳、日本経済新聞出版社、2011)-権威主義政治体制維持のため市場を利用する国家資本主義の実態

TIME誌 March 22, 2010号(日本版) [ANNUAL SPECIAL ISSUES] 10 IDEAS FOR THE NEXT 10 YEARS と New America Foundation について
・・グーグルCEOのエリック・シュミトが理事長を務める New America Foundation (新アメリカ財団)がまとめた未来予測レポート

書評 『日米同盟 v.s. 中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ/ジョゼフ・ナイ/春原 剛、文春新書、2010)


■数学主導の時代へ

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)

月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ


米英アングロサクソン中心のメディア

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある


SNSという「相互接続権力」

書評 『フェイスブック 若き天才の野望-5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた-』(デビッド・カークパトリック、滑川海彦 / 高橋信夫訳、日経BP社、2011)

バカとハサミは使いよう-ツイッターの「軍事利用」について

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)-「無極性時代のパワー」であるウィキリークスと創始者アサンジは「時代の申し子」だ

書評 『スノーデンファイル-地球上で最も追われている男の真実-』(ルーク・ハーディング、三木俊哉訳、日経BP社、2014)-国家による「監視社会」化をめぐる米英アングロサクソンの共通点と相違点に注目 ・・SIGINT(シギント:通信、電磁波、信号等を媒介とした諜報活動)を暴露したアサンジよりも、スノーデンのほうるかに破壊力はすさまじく大きい

法哲学者・大屋雄裕氏の 『自由とは何か』(2007年) と 『自由か、さもなくば幸福か?』(2014年)を読んで 「監視社会」 における「自由と幸福」 について考えてみる

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2010年12月9日木曜日

書評『グーグル秘録 ー 完全なる破壊』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)ー 単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か?





単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か

 かつて「邪悪な帝国」と多くの人から警戒されていたマイクロソフトを上回る巨大な存在となったグーグル。

 フリー(無料)経済の先導役でもあるグーグルは、単なる IT企業であることにとどまらず、社会変革の原動力として、「邪悪になるなかれ」という理念のもと日々進化を遂げている。

 このように書く私は、グーグルは検索で使うだけでなく、現在では新聞は取らずにグーグル・ニュースで記事を読み、ユーチューブで映像を楽しみ、メールもカレンダーもブラウザーもブログもみな、グーグルのクラウド・コンピューティングに多大な世話になっている。広告が入るのでうっとうしいという感もなくはないが慣れてしまえば気にならない。無料(フリー)というのはユーザーにとっては実に魅力的だ。

 つまるところ、原著英語版のタイトル "Googled" ではないが、私自身がすっかり「グーグル化」されてしまっているわけであり、私の日々の生活のほぼすべてがプライバシーも含めてグーグルのアルゴリズム改良に寄与しているわけだ。もちろん、この状況を無邪気にも無条件に肯定しているわけではない。

 だが、グーグルを肯定するにせよ否定するにせよ、その中身をよく知らなくては、表面をなぞったに過ぎないであろう。

 その意味では、本書『グーグル秘録 ー 完全なる破壊』は読者の要望にかなりの程度まで応えてくれる本になっている。

 共同創業者のプロファイリングから、スタンフォード大学を舞台にした立ち上げ時代、最初の鳴かず飛ばずの時代から急成長し、マイクロソフトを上回る存在となっている現在に至るまで、グーグル内部の関係者は言うに及ばず、グーグルによって破壊され壊滅の危機にある業界関係者、競合相手に至るまで実に多くの人たちにインタビューし、調べ尽くしている。

 何よりも当事者と彼らをめぐる人たちのナマの肉声がそのまま紹介されているのがよい。


 本書を読んでいて、なるほどグーグルのような会社は日本からは出てこないのが当然だと思われるのは、エンジニアの能力の優劣の問題ではなく、そもそもの根本的発想が違うからだと強く実感される。

 世界全体をデジタル技術によってデータベース化し、すべてを検索によってアクセス可能なものにするという共同創業者たちの壮大な構想と野望

 サプライサイド(=供給側)ではなく、あくまでもユーザー、つまりデマンドサイド(=需要側)に立った発想であり、世界を変革するという壮大なビジョンとミッションはきわめて明確だ。

 これには、全体主義のソ連から、両親とともに米国に移民したセルゲイ・ブリンの生い立ちも大きく影響しているようだ。

 検索(サーチ)技術を極めることによって、検索の効率性向上に徹底的にこだわる姿勢は、『ネットバカ』の著者ニコラス・カーにいわせれば米国の「テイラー主義」の系譜にあるといえるし、「合理性の兵士」たちといわれた、戦後米国を動かしてきたシンクタンクであるランド・コーポレーションにつどった研究者たちの系譜にもあるともいえようか。

 フレデリック・テイラーとフォン・ノイマンの申し子たちが追求する効率性と合理性、これらはまさに米国のエンジニアの発想そのものである。

 ともにユダヤ系米国人で学者の家に生まれ、ともに自主性を重んじるモンテッソーリ教育を受けた二人の共同創業者セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジというエンジニアたちは、この世界のすべてを数式と論理で解明し、アルゴリズムで表現しようという野望をもつエンジニアである。

 ある意味では、数式と論理という普遍志向がきわめて強く、直線的な思考パターンを示す彼らの世界観は、無意識のうちではあるが、一神教的な世界観が反映されているように思われてならない。

 もちろん、こういう会社を支える投資家と資本市場のというビジネスインフラがあってこそ米国に成り立ちうるものだ。これもまた、ずいぶん昔から指摘されていながら、いまだに日本には定着していないものである。


 「技術的楽観主義」に貫かれ、一般常識や社会性を欠いたエンジニアたちの直線思考。自分たちが信じるものに従って、がむしゃらに突き進み、さまざまな分野で物議をかもし、また既存の業界構造を徹底的に破壊するブルドーザーのような存在。

 ひところ流行った表現を使えば、「IQは高いがEQの低い」経営者に率いられた、「IQは高いがEQの低い」会社であるといえようか。

 このブルドーザーは結果として、次から次へと破壊を続けていったが、ここ数年は世論と政府という大きな壁に激突して、少しずつではあるが社会勉強をしつつあるようだ。

 ただ、著者がいうように、まだマイクロソフトやアップルのように、決定的に大きな挫折には直面していない。これがグーグルにとっての最大の弱点の一つだと著者は指摘している。世界全体を検索可能にするというミッションと邪悪になるなかれというバリューは明確だが、これといった明確な戦略がないまま突き進んでいるからだ。

 本書の英語版原書が出版されたのは、2009年11月のことだが、この世界においては状況の変化は目まぐるしい。最終章の第17章で扱われているが、同じく米国発の SNS 最大手フェイスブックとの競合を見ていると、グーグルですら最強ではないという感想を感ぜずにはいない

 日本ではまだ普及スピードの遅いフェイスブックであるが、グーグルの世界観とはまったく異なる、人間どうしの関係性を見るか見ないかという根本的な発想に違いがある。スマートフォンのOSアンドロイドをめぐるアップルとの対立も含めて、技術をめぐる攻防戦は飽きさせないものがある。

 『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン教授の表現)がつねにつきまとう先端技術ビジネスの世界においては、イノベーションをもって既存企業を脅かした企業は、また新たなイノベーションによって存在を脅かされることになる。盛者必衰というわけでもないが、グーグルとてけっして未来永劫にわたって盤石とはいえないだろう。巨大化した現在、エンジニアの流出が始まっているようだ。

 米国のノンフィクションは非常に長いものが多いが、日本語訳で500ページを優に超える本書もまた例外ではない。「ニューヨーカー」のベテラン記者による本書は、しかしながら最後まで飽きさせずに読ませてくれる内容の本だ。

 創業から現在に至るグーグルの全体像と、そのインパクトの功罪両面について知るうえで、時間を割いてでも読む価値があるといってよい本であるといえよう。


<初出情報>

■bk1書評「単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か」投稿掲載(2010年11月16日)
■amazon書評「単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か」投稿掲載(2010年11月16日)

*再録にあたって大幅な加筆を行ったうえ再編集した。


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<原著タイトル名>

Ken Auletta, Googled: The End of the World As We Know It, Penguin Press HC, 2009
・・amazon.com のレビューはなかなか面白いので一見の価値はある。


目 次

まえがき
第1部 別の惑星
 第1章 君たちは魔法をぶち壊しているんだ!
第2部 グーグルの物語
 第2章 ガレージからの出発
 第3章 活気はあれど収入はなし(1999~2000年)
 第4章 グーグル・ロケット、発射準備(2001~2002年)
 第5章 無邪気、それとも傲慢?(2002~2003年)
 第6章 株式公開(2004年)
 第7章 新たな "悪の帝国" か?(2004~2005年)
第3部 グーグル vs. 旧メディア帝国
 第8章 ユーチューブ買収(2005~2006年)
 第9章 戦線拡大(2007年)
 第10章 政府の目を覚ます
 第11章 グーグル、思春期に入る(2007~2008年)
 第12章 "古い"メディアは沈むのか?(2008年)
 第13章 競争か、協調か
 第14章 ハッピー・バースデイ(2008~2009年)
第4部 ググられる世界
 第15章 ググられた世紀
 第16章 伝統メディアはどこへいく?
 第17章 これからどうなるのか?
謝辞
原注
訳者あとがき


著者プロフィール

ケン・オーレッタ(Ken Auletta)

1942年ニューヨーク生まれのイタリア系米国人。米国のジャーナリストで作家。1992年以来、老舗名門誌「ニューヨーカー」記者。30年近くニューヨークを拠点に政治経済とメディアをカバーしてきた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)。



<書評への付記> 

 それにしても文藝春秋社は『××秘録』というのが好きだな(笑)。『周恩来秘録』など、「秘録」ものの系列につらなる本として出したかったのかな?
 内容はさておき、本の分厚さからいったら、「秘録」ものの系列としては、おかしくない。

 ただ、正直いって日本語訳の訳文はあまりよいとはいえない。なんだか文体が古くさいのだ。
 と思って、訳者プロフィールをみたら私より若い人のようだ。さすがにこんな分厚い本の原著はみていないが、どうも翻訳者キャスティングのミスではないかと思う? 原文はみていないが、なんだかなあという誤訳もところどころなくはない。

 共同創業者であるセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、後にCEOとして招聘されたエリック・シュミット、グーグルの経営者はいずれもエンジニア出身である。ある意味では、グーグルもまた、マイクロソフトのビル・ゲイツや、アップルのスティーブ・ジョブズなどのように、明確なビジョンをもったエンジニア志向の企業風土をもつ。

 カネ儲けそのものよりも、共同創業者たちが自分たちの理想実現のために存在するグーグルは、ビジネスパーソンが経営する会社というよりも、彼らが主張するとおりの社会変革を目的とした会社であるというのはそのとおりであろう。

 グーグルには。持ち時間の20%を自分の研究に使ってよいという「20%ルール」がある。その意味では、エンジニアにとっての楽園である。GE や 3M などにも同様のルールがあることは日本でも知られているが、さすがに「20%」ということはありえない。その点においてグーグルは突出している。
 それでもエンジニアの流出が始まっているというのはグーグルにとっては悩ましいところだろう。米国のエンジニアは自分が面白いと思うことをとことん追求したいというタイプの人間が多いから、報酬を上げただけで引き留めるのは難しいようだ。

 書評本文にも書いたが、フェイスブックがグーグルにとって脅威となりつつあるようだ。グーグルがいっさい「囲い込まない経営」スタイルであるとすれば、フェイスブックは「ゆるいつながり」という友達の輪のなかで情報が共有される仕組みである。哲学が根本的に異なるといってよい。

 経営面にかんしては、グーグルの「囲い込まない経営」には大いに共感を感じる。ただし、今後成長が鈍化するようになると「囲い込み」になる可能性もなくなはい。要注目であろう。


<関連サイト>

著者ケン・オーレッタの公式サイト The Official Ken Auletta Site


<ブログ内関連記事>

書評 『ネット・バカ-インターネットがわたしたちの脳にしていること-』(ニコラス・カー、篠儀直子訳、青土社、2010)
・・グーグルのことを「テイラー主義」の系譜にあるといったのはニコラス・カー。『グーグル秘録』とあわせ読むとその意味がよくわかる。「テイラー主義」とは、経営学の祖ともいうべき19世紀米国のエンジニアであったフレデリック・テイラーが実践した生産管理哲学のことで、徹底的な効率性重視でムダをなくすことを至上命題とした合理主義。その哲学はフォーディズムに継承された。

書評 『フリー-<無料>からお金を生み出す新戦略-』(クリス・アンダーソン、小林弘人=監修・解説、高橋則明訳、日本放送出版協会、2009)
・・グーグルもその先導役の一つである「フリー」(無料)経済についての基本書

書評 『グーグルのグリーン戦略』(新井宏征、インプレスR&D、2010)
・・膨大な量のコンピュータを可動させているグーグルにとって電力消費量削減は至上命題。ビジネス上の目的と社会的責任を同時に推進するグーグルの戦略について

Google が中国から撤退!?-数週間以内に最終決定の見通し
Google が中国から撤退!?(続き)
Google が中国から撤退!?(その3)
・・全体主義ソ連を腹の底から嫌っているセルゲイ・ブリンの思想が反映? 米中関係についても示唆的な「グーグル撤退騒動」


資本主義のオルタナティブ (3) -『完全なる証明-100万ドルを拒否した天才数学者-』(マーシャ・ガッセン、青木 薫訳、文藝春秋、2009) の主人公であるユダヤ系ロシア人数学者ペレリマン
・・ソ連で数学教授であった父親の子どもとして生まれたセルゲイ・ブリン。米国に移住したブリン・ファミリーとはまたく異なる道を選択したペレリマン。「数学をつうじて神に近づこうとする姿勢」には共通性を感じる

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)
・・ともにユダヤ系のセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、ユダヤ教にはあまり熱心ではない彼らも、根底にはユダヤ的発想があると考えてよい

書評 『ランド-世界を支配した研究所-』(アレックス・アペラ、牧野洋訳、文藝春秋社、2008)
・・米国を動かしてきた、フォン・ノイマンに代表さっる「合理性の兵士」たちの牙城であったシンクタンク、ランド・コーポレーションについて

「人間の本質は学びにある」-モンテッソーリ教育について考えてみる
・・グーグルの創業経営者は二人とも少年時代に米国でモンテッソーリ教育を受けている。彼らの発想や行動に与えたモンテッソーリ教育の影響は大きいと思われる。『グーグル秘録』から該当箇所を引用しておいた。

書評 『ユダヤ人が語った親バカ教育のレシピ』(アンドリュー&ユキコ・サター、インデックス・コミュニケーションズ、2006 改題して 講談社+α文庫 2010)・・モンテッソーリ教育とも共通性のあるユダヤ人の子育てについて


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2010年4月12日月曜日

書評 『グーグルのグリーン戦略-グリーン・ニューディールからスマートグリッドまで-』(新井宏征、インプレスR&D、2010)-、IT企業であるグーグルが、なぜこれほど環境エネルギー問題にチカラを入れているのか?




『グーグルのグリーン戦略』(新井宏征、インプレスR&D、2010)の献本が、「R+ レビュープラス」から届いていたのだが、会社開業準備で多忙をきわめていたため、えらくずれ込んでしまった。

 もう待ったなし、ということなので、本日やっと目を通して書評を書いてみることにした次第。

 さて、本書については、結論から先にいうと以下のようになる。

 環境エネルギー問題、とくに電力コスト削減については、大規模なデータセンターを稼働させている民間企業グーグルにとって死活的な問題である。この問題解決のための必死の企業努力が、結果として環境問題解決につながっているということを、もっと整理して、著者自身の視点として明確に書いてもらいたいと思った。

 
 これだけではあまりにも簡単すぎるので、あくまでもビジネスマンである私の観点から、本書についてやや詳しく感想を述べておこう。


 世の中に存在する情報のすべてをデータベース化し、それを整理して公共財として無料で一般公開し、誰にでも使用できるようにする、というのがグーグルのミッションであるが、インターネット上の情報のデータ単位である「ビット」は限りなく「フリー」(無料)にはできても、インターネットそのものを動かす動力源である電力は情報ではなく、しかも現状では電力はかなり高価であり、フリー(無料)というにはほど遠い。

 コスト構造に占める電力消費金額を極限まで下げたいというのが、グーグルが環境エネルギー問題に、一般人の想像以上にチカラを入れている理由だろう。しかも、扱い情報量の急速な増加にしたがって通信量が増加し、今後さらに自社内での電力需要が増大することが確実だからだ。

 インターネット社会を成立させるための基本インフラが電力網であるかぎり、ハード面での省力化投資は不可避なのだ。

 昨年には日本語版も出版された米国のロングセラー『フリー』におけるクリス・アンダーソンの考えをヒントにして、私はそのように考えているのだが、こういった仮説を前提として本書を読むと、環境エネルギー問題においてグーグルが取り組んでいる具体的な施策について、その意味と重要性を理解することができるだろう。

 ところが本書は、多くの読者がおそらく知りたいであろう疑問にダイレクトに答えているわけではない。疑問とは、IT企業であるグーグルが、なぜこれほど環境エネルギー問題にチカラを入れているのか?

 もちろん丹念に読めば、著者が翻訳紹介している、グーグル自身による断片的な言及をつなぎ合わせることによって、私の仮説が必ずしも見当違いではないことが確認できるが、そういった努力を回避する普通の読者にとっては、あまりにも不親切といわざるをえない。

 本書において、著者はグーグルの環境報告書(英文)を翻訳紹介しているのだが、資料集としても徹底しているとはいい難く、不完全である。よくよく注意して読まないと、どこから翻訳で、どこから著者による地の文なのかが明確ではない。

 とくに、グーグルの内部事情に詳しくない、私のような一般読者からみてよくわからないのは、Google.com  Google .org の関係である。たしかに環境エネルギー問題は、後者の Google.org の重要なミッションであることはわかる。しかし、それが Google.com にとっていかなる意味と重要性をもつのか、明確に見えてこないのだ。

 本書に収録されているコラム(P.107)で、グーグル CEO のエリック・シュミットがいみじくも語っているように、「気候変動といういわば漠然とした取り組み」を行うのではなく、「エネルギーインフラの再構築」こそが、グーグルにとってのテーマなのである。

 サステイナブルな「再生エネルギー」が、ビジネスにとってもプラスであることが言及されているが、これは話が逆だろう。企業の立場からいえば、まずコスト削減というビジネス上の要請ありきで、環境問題は後付けの理由ではないのだろうか

 しかし、私はそれでまったく構わないと思う結果として電力コストが下がり、しかも環境破壊を食い止めることができるなら一石二鳥であり、それで万々歳である。つまり、この点においては、企業経営上の問題解決と、気候変動という公共的な政策課題の解決が両立することになるのである。

 「環境報告書」として表現されたグーグルの広報が、抜群に戦略的であるといっていいのは、企業の直接的な動機については明確に書いていないにもかかわらず、結果として環境問題解決に、グーグルが大いに貢献していることを躊躇なく示せることにある。

 地球温暖化という仮説が正しいかどうか、それはイデオロギーに過ぎないのではないか、という見解も最近では有力になってきている。

 しかし、少なくとも個別企業の観点からいえば、グーグルならずとも、電力コストの削減は至上命題である。しかも日本と比較して大規模な停電が発生する確率の高い、ほとんど発展途上国並みとしかいいようのない米国の電力事情(第8章)を考慮にいれると、グーグルが死にものぐるいで、電力を中心としたエネルギー問題に取り組んでいることが、十分に理解されるのだ。 

 本書はそもそものが、R&D と冠した出版社から出た本であり、理科系的色彩の非常に濃厚な本なのだが、細部へのこだわりは良しとしても、全体像が見えにくいのが大きな欠点だ。

 だれが読者層のターゲットになっているのか見えてこないし、書籍としての論理的な階層構造がよくわからないので、目次を読んで見当つけて、ざっと目を通すという読み方も容易でない。

 えらく辛口の批評になってしまったが、もちろん本書に意義がないといっているわけではない。
 グーグルが自社のデータセンタの電力消費を抑えるために、いかにハードとソフトの両面でいかに技術的な努力を行っているか、この点にについてグーグル自身によって書かれた具体的な記述は、実に興味深く読むことができた。こういった具体的な記述は、読む意味がある。

 要は、本としての見せ方の問題なのである。

 テーマ設定そのものは面白いと思うのだが、著者自身の切り口や視点を、もっと明瞭に打ち出すべきであったと思う。そうでなければ、「資料集」として徹底したほうがよかったのではないか。

 やや中途半端な感もないが、類書がないだけに先駆的意味はあるといってよいだろう。
 




PS 読みやすくするために改行を増やした。ブログ記事もまた「歴史的文書」であえるので、内容には手を入れていない。(2014年8月30日 記す)。



<ブログ内関連記事>

『グーグルのグリーン戦略 レビューコンテスト』 で、【準グランプリ】 をいただきました。

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)-単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か?

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 を読む-特集テーマは「The World Ahead」 と 「インド、パキスタン、アフガンを考える」
・・「インターネットと相互接続権力の台頭」という論文の執筆者が、グーグルCEOのエリック・シュミットと今年2010年に設立されたばかりのシンクタンク部門グーグル・アイディアズ(Google Ideas)ディレクターのジャレッド・コーヘンの共同執筆である

書評 『フリー-<無料>からお金を生み出す新戦略-』(クリス・アンダーソン、小林弘人=監修・解説、高橋則明訳、日本放送出版協会、2009)-社会現象としての FREE の背景まで理解できる必読書

「バークレー白熱教室」が面白い!-UCバークレーの物理学者による高校生にもわかるリベラルアーツ教育としてのエネルギー問題入門

Where there's a Will, there's a Way.  意思あるところ道あり
・・孫正義氏の取り組みはグーグルにならったものであろう

(2014年8月30日 項目新設)






(2012年7月3日発売の拙著です)









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