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2024年12月17日火曜日

書評『「"右翼" 雑誌」の舞台裏』(梶原麻衣子、星海社新書、2024)―「中の人」だった著者がフリーになって回顧する「自分史」の20年

 

出版されたばかりの『「"右翼" 雑誌」の舞台裏』(梶原麻衣子、星海社新書、2024)を読んだ。新書カバーのデザインは、「"右翼" 雑誌」そのもの模したもので面白い。もちろん内容も面白かった。  

『正論』や『WILL』など「"右翼" 雑誌」の愛読者から、編集する側に回った1980年生まれの著者は、自衛隊員の子どもとして生まれ育った「右派女性」。 

そんな著者が、あえて左翼用語をつかえば「蟹工船」のような雑誌編集の現場体験を語った、13年間の雑誌編集者としての半生記というか回顧録のような内容。「自分史」的な「中の人」の視点と、退職後にフリーになって距離をおいて見る視点が、複眼的になっていて読ませる内容にしている。 

政治とメディアという外部環境の変化のなか、雑誌編集者としてかかわっていくなかで、立ち位置は変わらないものの、自分自身の考えが成熟していったプロセスが語られる。 外部からはわからない内情はもちろん興味深い。

『WILL』と、そこから分離した『HANADA』で編集長をつとめてきた、現在なお82歳で現役の花田紀凱氏へのインタビューを読むと、その編集姿勢が思想に起因するものではなく、好奇心全開で面白いネタを提供したいという編集者魂にあることが納得される。 

それにしても思うのは、保守派を自称する右派にとっての「天敵」である「朝日新聞」もかつての勢いを失い、リベラル派という左派にとっての「天敵」であった安倍晋三元首相が暗殺されて以後は、右派も左派もともに迷走しているという印象がぬぐえないことだ。ソ連崩壊後の状況を想起させるものがある。 

どうやら、右派と左派という枠組みじたいが陳腐化しつつあるようだ。いっけん左右で分断化が進行しているようにも見えるが、じつは格差問題をめぐって、右派も左派も関係なく上下対立に移行しているのではないか?  双方向性メディアであるSNS全盛時代のいま、TVやマスコミといった「オールドメディア」への不信感が増大している。

そんななか、紙媒体の雑誌の立ち位置はどう変化していくのか、はたして生き残るのだろうか、政治とメディアと読者という関係からも見ていく必要があるだろう。 

ちなみに、わたしといえば、『WILL』も『HANADA』も買って読んだことはない。一部の記事をリアル書店で立ち読みしたことがあるだけなので、「"右翼" 雑誌」の読者としての資格はなさそうだ。 


 (画像をクリック!)



目 次
はじめに 
第1章 「右翼雑誌」はこうして作られる 
第2章 ゲリラ部隊は正規軍にはなれない 
第3章 「最強のアイドルにして悲劇のヒーロー」 安倍晋三 
第4章 ピンからキリまで 「右翼雑誌批判」の虚実 
第5章 読者との壮大な井戸端会議 
第6章 『Hanada』編集長が考えていること 花田紀凱氏インタビュー 
おわりに

著者プロフィール
梶原麻衣子(かじわら・まいこ)
編集者・ライター。1980年埼玉県生まれ。埼玉県立坂戸高校、中央大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。IT企業勤務後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリーの編集者・ライター。紙・ウェブ媒体を問わず、インタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の企画・編集・構成(ブックライティング)などを手掛ける。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


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(2025年3月14日 情報追加)



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2013年12月5日木曜日

雑誌 『ダ・ヴィンチ 2013年 12月号 特集:オトナの♥高橋留美子だっちゃ! 祝!画業35年! スイート&クール永遠の憧れ』 は要保存版



書評雑誌 『ダ・ヴィンチ』を買うのは、もしかするとこれがなんと2回目かもしれない。

この雑誌は創刊の頃 1回だけ買った記憶があるが、それ以降はまったくなかったのは、わたしがほとんど小説を読まない人間だからだろう。『ダ・ヴィンチ』 は基本的に小説読者向けの書評誌だから。

「2013年 12月号」は通算236号とあるから、創刊からすでに20年(!)近いわけだ。早いものですね。

今回購入したのはもちろん 『特集 オトナの♥高橋留美子だっちゃ!』 だから。いわゆるジャケ買いですね。ラムちゃん大好き。これは要保存版であります。

マンガ家の高橋留美子については、4年前に書いたブログ記事 タイのあれこれ (6) 日本のマンガ にもこのように書いてある。

『うる星やつら』といえば、高校時代「少年サンデー」で毎週連載を読んでいた。えんえんと続いていたからね。 男性のあいだでは絶大な人気を誇る『めぞん一刻』 もいいけど、自分としては『うる星やつら』のほうが断然好きだな。

そうです、わたしの世代は高橋留美子マンガの第一世代。高校3年のときだったと思うが、学園ものである『うる星やつら』に新キャラの竜之介(・・男装させられている女子)と海の家を経営するそのオヤジが登場したシーンはなぜか鮮明に記憶しているくらいだ。


(特集号の裏カバー)

「京極夏彦×高橋留美子」対談を読むと、1963年生まれの妖怪もの小説家・京極夏彦の発言には大いに共感。わたしとは同学年(?)なわけですね。しかも、対談している二人がともに水木しげるの影響下にあるというのがうれしい。なるほど、自分が高橋留美子の世界、いわゆる無限ループ的な「るーみっくわーるど」にどっぷりはまっていた理由はそういうところにあるのかもね、と。

「高橋留美子独占インタビュー」を読むと、わたしが『うる星やつら』の連載を読んでいた高校時代、高橋留美子はなんとまだ21歳(!)でデビューした大学生だったことを知った。年の差が5歳なのだが、そんなことぜんぜん考えたことなかったので、あらためてすごい驚きだ。

「あだち充×高橋留美子」対談を読むと、『タッチ』のあだち充は高橋留美子より6歳年上だが、マンガ家としては同期らしい。自分もふくめて、みんな年をとったんだなあ、と。

それにしても35年間も第一線でヒット作を連発しながら走り続けている高橋留美子というマンガ家はすごい、すごすぎる!



『うる星やつら』は大学時代になってからは読んでなかったので最終話をしばらく知らなかったが、『めぞん一刻』は大学卒業後、社会人として完結するまで読んでいたのは、読者として少年誌から青年コミック誌へとシフトしていたからだろう。学園ものマンガは自分が生徒でないと感情移入しにくいからでもある。

その後の『らんま1/2』と『犬夜叉』はもう読んではないのだが、これらの作品で育った世代もいるわけだ。それもまた驚きだ。さらに現在は『境界のRINNE』連載中。恐れ入ります。

なんだかんだで画業35年。70歳過ぎても描き続けたいということで、日本のマンガ家界の生き字引として末永く現役で活躍していただきたいと思う次第。

このほか、描き下ろしマンガ「本が捨てられない」(見開き2ページ)、「高橋留美子独占インタビュー & 解体全書・高橋留美子作品紹介:先生自身のコメント付き」もあり。

もうそろそろ店頭からは消える頃なので、コレクション用に早く買っておいたほうがいいでしょう。





<関連サイト>

・・「特集 オトナの♥高橋留美子だっちゃ!」のコンテンツが閲覧できる






<ブログ内関連記事>

タイのあれこれ (6) 日本のマンガ
・・『うる星やつら』のタイ語版(!)について取り上げている

『水木しげるの古代出雲(怪BOOKS)』(水木しげる、角川書店、2012)は、待ちに待っていたマンガだ!

本の紹介 『人を惹きつける技術-カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方-』(小池一夫、講談社+α新書、2010)
・・高橋留美子は「劇画村塾」にも通っていた

書評 『ゼロ年代の想像力』(宇野常寛、ハヤカワ文庫、2010 単行本初版 2008)-「アフター1995」の世界を知るために
・・同書の「第10章 肥大する母性のディストピア-空転するマチズモと高橋留美子の「重力」」を参照





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2012年2月26日日曜日

Pen (ペン) 2012年 3/1号(阪急コミュニケーションズ)の「特集:エルサレム」は、日本人のための最新のイスラエル入門ガイドになっている


雑誌『Pen (ペン)』(阪急コミュニケーションズ)最新号の特集は、「ユダヤ・キリスト・イスラム 三宗教の聖地へ。エルサレム」である。 

雑誌の特集だが、内容豊富で一冊の単行本にも匹敵する内容になっている。内容は、ユダヤ教とは何か、ユダヤ人とは誰か?、それにイスラエル最新案内をつけ加えたものだ。

まずは目次を紹介しておこう。

目 次
       
【特集】ユダヤ・キリスト・イスラム 3宗教の聖地へ。エルサレム        

唯一絶対の神と結ばれた、聖地の変遷。
3つの宗教から見た、聖なるエルサレム
イエス生誕の地、ベツレヘムのミサに与る。
民族の誇りの象徴、壮大なマサダを望む。
重厚な歴史が凝縮する、巨大博物館へ。
ユダヤ教とは何か? ユダヤ人とは誰か?
神による啓示、聖典トーラーを学ぶ意味。
世紀の発見、最古の聖書を含む 死海文書。
ユダヤ教の視点で、聖書を読み解く。
シャガールが描いた、ユダヤのためのステンドグラス。
遡ること4000年、ユダヤの歴史を知る。
地域住民を牽引する、ラビの1日に密着。
シナゴーグとは、こんな役目を果たす場所です。
生涯を鮮やかに彩る、さまざまな祭りや儀式。
ユダヤ宗教学校では、何を学んでいるのか。
ユダヤ人が、エルサレムに住む意味とは?
超正統派の人々が暮らす、未知のエリアへ。
つながるために活動する、ふたつの組織。
各界で才能を発揮する、ユダヤ系著名人。

【とじ込み付録】イスラエル最新案内

この雑誌の特集については、イスラエル大使館文化部からの情報で知った。現地での取材を含めて全面的に協力しているようだ。ふつうは入れないような施設の内部も取材している。

エルサレムで現地取材した記事と、なによりも大判の雑誌であるだけに、収録された美しい写真の数々がすばらしい。保存版として一冊買っておく価値はある。

日本ではあまり知られていない、ユダヤ教の観点からのエルサレムとイスラエルの特集である。いわば、日本人の一般読者のためのビジュアル版のジュダイカ(=ユダヤ文化総覧)になっている。

聖書は大きくわけて、旧約聖書と新約聖書でなりたっているというのが教科書的な常識となっている日本人にとっては、ユダヤ教による聖書解釈など、日本人読者の多くにとっては新鮮に映るものであろう。

一般に「ユダヤ・キリスト教」という表現で語られるユダヤ教であるが、キリスト教発生以後に発展したユダヤ教が視野に入っていない、誤解を生みやすい表現であることは、あらためて強調しておきたい。その意味では、きわめて意欲的な特集であるといえる。

【とじ込み付録】イスラエル最新案内は、とくにアートやデザイン関係の最新情報がありがたい。

わたしは、イスラエルには1992年に戦争の合間をぬってはじめて訪れて以来、かれこれもう20年もご無沙汰している。ぜひ、そう遠くない将来に再訪したいものだ。

「男のためのハイクオリティ・マガジン」をコンセプトにしている『Pen (ペン)』であるが、イスラエル入門のガイドになっているこの特集は、男女の関係なく買う価値のあるものだと言っておこう。

この特集は2012年12月に阪急コミュニケーションズから再編集のうえ書籍化された。





<関連サイト>

特集「ユダヤ・キリスト・イスラム 三宗教の聖地へ。エルサレム」(Pen)

Ofra Haza - Yerushalaim Shel Zahav (「黄金のエルサレム」 YouTube)
・・いまは亡きイスラエルの歌姫オフラ・ハザの熱唱。オフラ・ハザはイエメン系ユダヤ人。1980年代後半に、東京で開催されたコンサートにいったことがなつかしい。


<ブログ内関連記事>

『イスラエル』(臼杵 陽、岩波新書、2009)を中心に、現代イスラエルを解読するための三部作を紹介

映画 『戦場でワルツを』(2008年、イスラエル)をみた

イスラエル産スウィーティーの季節

『ユダヤ教の本質』(レオ・ベック、南満州鉄道株式会社調査部特別調査班、大連、1943)-25年前に卒論を書いた際に発見した本から・・・

書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む・・「ユダヤ・キリスト教」という一括した表現は誤解を生む元である。

書評 『緑の資本論』(中沢新一、ちくま学芸文庫、2009)
・・ユダヤ教、キリスト教、イスラームの3つの一神教を経済を軸に比較する


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2010年12月22日水曜日

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 を読む-特集テーマは「The World Ahead」 と 「インド、パキスタン、アフガンを考える」




 月刊誌「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版)の「2010年 No.12」のレビューを引き受けることとなった。

 「2010年NO.3」、「2010年No.5」、「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える」に引き続き 4回目である。

 今回も R+より献本をいただいている。

 月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版)そのものについては、私がブログに執筆した 月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.3 を読む を参照していただけると幸いである。「フォーリン・アフェアーズ・リポート」の読み方についても書いておいた。

 前置きはさておき、「2010年No.12」の内容の紹介を行うこととしたい。

 まさに時宜をえた内容、しかも今回の執筆陣は実に豪華なメンバー揃いだ。2010年No.12 の目次は以下のとおりである。

///////////////////////////////////////////////////////////////
特集1 The World Ahead

●「アメリカ・パワーの将来-今後を左右するのは中国ではなく、スマートパワーだ-」(ジョセフ・ナイ、ハーバード大学ケネディスクール教授)
●「インターネットは自由も統制も促進する-政治的諸刃の剣としてのインターネット-」(イアン・ブレマー、ユーラシアグループ代表)
●「インターネットと相互接続権力の台頭」(エリック・シュミット Google CEO、ジャレド・コーエン Google Ideas Director)
●「新興国という無責任な利害共有者-時代は「協調なき、多極化」へ-」(スチュワート・パトリック、米外交問題評議会シニアフェロー)
●「アフリカの農業革命が世界の食糧危機を救う」(ロジャー・サロー、シカゴ国際問題評議会シニアフェロー)

●「<CFRインタビュー> アジアは多極化し、中国の覇権は実現しない」(キショール・マブバニ、シンガポール国立行政大学院院長)
●「ロシアの政治・経済を支配するシロヴィキの実態-連邦保安省というロシアの新エリート層-」(アンドレイ・ソルダトフ/アイリーナ・ボローガン、Agenture.Ru 共同設立者)

●特集2 インド、パキスタン、アフガンを考える

●「<CFRミーティング> P.ムシャラフが語る政界復帰とタリバーン対策」(パルベーズ・ムシャラフ前パキスタン大統領)
●「<CFRミーティング> アフガン撤退戦略の見直しを」(リチャード・アーミテージ)
●「<CFRインタビュー> コレラ流行はパンデミック化している」(ローリー・ギャレット、米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニアフェロー)

////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 各論文の要旨については、「フォーリン・アフェアーズ・リポート」の公式サイトを参照されたい。月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 にアップされているので参照されたい。


■あらたに「スマート・パワー」概念を打ち出したジョゼフ・ナイ教授の論文は、「米国は衰退している」という誤ったメッセージの危険性について警鐘を鳴らしている

 ハーバード大学公共政策大学院(=ハーバード・ケネディ・スクール)教授のジョゼフ・ナイは、オバマ政権のもとでの初代駐日大使就任のウワサが出ていたことにもわかるように、あらためて紹介するまでもなく、民主党(米国)の外交と安全保障政策への影響力もきわめて大きい、日本でも知名度の高い「知日派」の米国知識人である。

 ジョゼフ・ナイの論文「アメリカ・パワーの将来-今後を左右するのは中国ではなく、スマートパワーだ」については、巻頭論文だけに読み応えがある。少なくともこの論文だけでもじっくりと読んでおきたい。

 この論文を読むことで、「米国衰退論」は、米国市民以外だけでなく、米国市民もそのように考えていることがわかると同時に、「米国衰退論」はあくまで心理的なものであり、「拡散しつつあるパワー」のあいだで、米国が「相対的に」衰えたように見えるに過ぎないのである。けっして「絶対的な」パワーが衰退したわけではないことを、さまざまな統計データを子細に検証することで論証している。

 米国の国内外に発っせられてきた「米国が衰退している」という誤ったメッセージがいかに多くの問題を引き起こしてきたか、われわれも一歩立ち止まって、冷静に考えてみるべきだろう。
 これは、日中関係を考える際にも、きわめて重要な視点である。誤ったメッセージを受け取った中国が「尖閣問題」においていかなる行動にでたか、そしてこの中国の行動に対していかなる対応を取るべきか。
 相対的な米国のパワーが衰退しているからこそ、米国単独のパワーではなく、同盟(アライアンス)の意味が大きくなる。これは「衰退しつつある日本」からみても同様である。日米同盟もこの文脈のなかで考えるべきであろう。
 
 国際政治の文脈で、いち早く、軍事や産業などの「ハード・パワー」ではない、文化などの「ソフト・パワー」が重要だと主張したナイ教授は、最近は「スマート・パワー」(smart power)概念を打ち出している。

 「スマート・パワー」とは、情報化時代におけるハードパワーとソフトパワーリソースを組み合わせたパワーのことである。弁証法的に言えば、「正反合」の「合」にあたるものといえようか。もちろん、ハードパワーとソフトパワーは対立概念ではあるが、相互補完的な意味合いを持つので、この二つのパワーが合体したとき、まさに文字通り「賢いパワー」として、きわめて強力なものとなるであろう。

 ただし、ナイ教授が言うように、パワーは善し悪しや大小で論ずべきものではなく、自らがもてるパワーリソース(=パワーを支える資源)をいかに優れた戦略に結びつけることができるかという方法論で決まってくる。だからこそ、賢いパワーなのである。情報化時代における同盟とネットワークのありかたについても示唆の多い論文である。

 この点において、国際政治戦略が、著しく企業戦略に近づいてきたと感じるのは私だけだろうか。企業経営に引きつけて読み過ぎだと言われればそれまでなのだが。

 この論文の一部は、来春2011年に出版予定の、Joseph S. Nye Jr., The Future of Power, public Affairs, 2011 からの抜粋とのことである。
 出版に先立って「スマート・パワー」(smart power)をめぐる議論は活発になされているようだ。

 ジョゼフ・ナイと並んで日本国内でも知名度の高い「知日派」リチャード・アーミテージは、今月号にはアフガンがらみでの発言で登場しているが、ナイとアーミテージとの鼎談が、『日米同盟 vs.中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ/ジョセフ・ナイ/春原 剛、文春新書、2010)と題して、ほぼ同時期に出版されているので、あわせて目を通しておきたい。
 民主党(米国)のナイ、共和党(米国)のアーミテージは、日米同盟にかんしては超党派で盟友の立場にある。




■新しい世界秩序形成プロセスにおける、中国とインドというアジアの二大新興国の「復活」について

 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」は基本的に米国中心の世界観の表明である。米国=世界ではないのは当然だが、依然として世界においてきわめて大きな影響力を行使しつづけているのが米国であり、米国自身もジョゼフ・ナイの言うとおり、ハードパワーの行使からソフト・パワーへ、そしてスマート・パワーへと進化発展を遂げている最中である。

 一方、冷戦崩壊後、いまだに新しい秩序形成をめぐってのプロセスのなかにあるわけだが、「冷戦時代」と異なり、攪乱要因となっているものの一つは、新興国の急速な台頭である。

 「新興国という無責任な利害共有者-時代は「協調なき、多極化」へ-」(スチュワート・パトリック)は、「多国間協調なき多極化」状況のなかで、日本はいかなるポジションにおいてプレイすべきかを考えるための示唆の多い論文である。

 米国自身のポジションの変化を正確に見極めておくことが、「同盟国日本」にとっても、日本が国際政治におけるプレイヤーである以上、避けて通れないことであると同時に、日本はもはや新秩序形成の主たるプレイヤーではないのか、というため息も感じざるをえない。

 一方、「<CFRインタビュー> アジアは多極化し、中国の覇権は実現しない(キショール・マブバニ)では、シンガポールの元国連大使が、米国からではない、アジアからみた地政学の観点から、アジアへのパワーシフトについて語っており、日本人からみても「複眼的な視点」をもつうえで興味深いものである。

 アジアの新興国、もちろん現在の世界秩序のなかでは新興国であっても、実際は長い歴史と文明を誇る伝統国なのであるが、その「復活しつつある」二大パワーである中国とインドについて、とくに後者のインド亜大陸をめぐる国際情勢についての理解が深まる論文がいくつか採録されている。

 インド自体がアジアの大国であるが、地政学的な条件からみれば、インド亜大陸は中央アジアとは陸で国境を接しており、アフガニスタンの変動がパキスタンをつうじて、ダイレクトに波及してくる地域である。

 パキスタンのムシャラフ前大統領とリチャード・アーミテージによるアフガン戦略にかんする2つの<CFRミーティング>が収録されているが、臨場感あふれる討論会は、ともに興味深く読むことができた。

 現在外国亡命中のムシャラフ氏が Facebook(フェイスブック)に開いたアカウントには、35万人以上がフォローしているという発言は興味深い。現時点(12月22日現在)では、さらにフォロワーが増大して37万人も目前である。

 なお、ムシャラフ氏の「フェイスブック」アカウントは以下のとおりなので、興味のある人はフォローしてみたらいいだろう。 http://www.facebook.com/pervezmusharraf



■テクノロジーとしてのインターネットの本質は、政治的には「諸刃の剣」であり、政府にも非政府組織や個人にもパワーを与える存在。拡散するパワーのなかにおける国家のパワーとは・・・

 巻頭論文で、政治学者のジョゼフ・ナイは、情報化時代における「スマート・パワー」について論じているが、米国自身がトランスフォーメーションの最中にあることは、今月号の「特集1 The World Ahead」に掲載されたインターネット関連の二つの論文を読むと、よりいっそう理解が深まることになる。

 インターネット「相互接続権力」は、米国のパワーの相対的な低下を招いた要因としては、新興国の勃興に勝るとも劣らない重要な意味をもつようになっている。

 インターネットは、ある意味では米国発の「ソフトパワー」であるが、テクノロジーとしてのインターネットの本質は、政治的には「諸刃の剣」であることに注目する必要がある。テクノロジーそのものは価値中立的なツール(道具)であるからだ。
 インターネットは、敵にも味方にも等しく武器になりうる存在である。日本語でいう「バカとハサミは使いよう」という表現を想起する。

 「インターネットは自由も統制も促進する-政治的諸刃の剣としてのインターネット-」(イアン・ブレマー)は、インターネット・テクノロジーは「さまざまな野心や欲望を満たす手段でしかなく、そうした欲望の多くは、民主主義とは何の関係もない」と、インターネット楽観論にクギをさす。米国人だけではなく、日本人も心しておくべき重要な指摘である。

 世界には民主主義を国是とする国家だけでなく、権威主義的で抑圧的な政策をとりながらインターネットを活用して世論をコントロールしている国家もある。

 そしてまたインターネット・テクノロジーを巡っては、利益を動機として動く企業と国家との関係も一筋縄ではいかなくなってきている。情報戦争においてはハイテク企業が軍事産業化しつつある、とも。 

 今年2010年に、サイバー攻撃を受けていたとして、"権威主義国家"中国からの撤退をめぐって大きな話題となったグーグルは、中国がそうみなしているように、米国政府との関係を密接化する方向に動いていることに注目しておきたい。

 今月号に掲載されている「インターネットと相互接続権力の台頭」という論文の執筆者が、グーグルCEOのエリック・シュミットと今年2010年に設立されたばかりのシンクタンク部門グーグル・アイディアズ(Google Ideas)ディレクターのジャレッド・コーヘンの共同執筆であることがその事実の一端を物語っている。

 ここで、グーグルのシンクタンク部門 「グーグル・アイディアズ」(Google Ideas)について触れておこう。

 グーグル、シンクタンク「Google Ideas」設立を計画--統括者は米国務省OB(CNET JAPAN 文:Tom Krazit(CNET News) 翻訳校正:編集部2010年9月8日 09時44分)という記事によれば、設立の経緯とミッションは以下のとおりである。

 最近まで米国務省に務めていたJared Cohen氏は、雑誌「Foreign Policy」のインタビューで、2010年10月中旬から Google の同新部門を統括する予定であると述べた。Google の最高経営責任者(CEO)であるEric Schmidt氏は、同記事をTwitterで紹介している。Cohen氏は、米国務省のデジタル専門家として知られ、YouTube や Twitter といった新しいソーシャルメディア技術に対する政府内の理解促進を支援していた。
 Cohen氏によると、Google Ideas は、広範囲にわたる問題を調査する予定だという。「同組織が取り上げる課題の範囲には、テロ対策、急進派対策、核拡散防止といったハードな課題のたぐいから、開発や市民への権限付与といった人々が取り組んでほしいと望むような課題まで、あらゆるものが含まれる」(Cohen氏)。
 Cohen氏はこれを、「Think/do Tank」と呼んでいる。つまり、Google Ideas は、政府や第三者期間と協力することにより、同組織が作り上げた概念の一部を行動に移すことを目的とする予定であることを意味している。
 Google と米国務省は2010年に入って、検索結果の検閲を巡る Google と中国との論争に関連して、結びつきを強くしており・・(後略)・・

 グーグルCEOのエリック・シュミットは、大統領科学テクノロジー諮問委員会委員を務めるほか、New America Foundation (新アメリカ財団)の理事長を務めている。
 グーグルが米国の政策決定に与える影響や知的貢献の面でも、注目すべき論文であるといえよう。

 この論文で、日本語で「相互接続権力」(interconected estate)と訳された権力は、「第4の権力」(the fourth estate)といわれるマスコミに取って変わらんとする勢いのあるものである。

 インターネットに接続さえできれば、誰でも個人で発言し変化を起こすことのできるパワーを手に入れることができる。そうしてパワーを得た非政府組織と活動家が、世界全体で「パワー拡散」をさらに促進している。

 グーグル関係者による論文の英文タイトルが The Digital Disruption - Connectivity and the Diffusion of Power であることの意味はそこにある。論文の日本語訳タイトルだけを見ていると気がつきにくいが、「パワー拡散」を文言として打ち出すべきであったと思われる。

 上記2つの論文は、秘密の外交文書を入手してウェブ上で公開する「ウィキリークス」(Wikileaks)が、とくに米国政府をゆるがす存在として「事件」となる以前に発表されたものである。
 だが、この2つの論文を読んでおくことは、インターネット接続の自由をめぐる米国政府の抱えるジレンマを含め、この問題を理解するための参考となるだろう。

 ウィキリークスもまた「相互接続権力」としての非政府組織の活動家の一つである。

 すでに、ウィキリークスへの言及抜きに国際政治を論じることは不可能となった。今後の「フォーリン・アフェアーズ・リポート」で、取り上げて大いに議論してもらいたいテーマとして期待している。







<参考サイト>

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12
・・「フォーリン・アフェアーズ・リポート」の公式サイト

<論文執筆者の著書紹介>

Joseph S. Nye Jr., The Future of Power, Public Affairs, 2011
・・2011年2月発売予定

Ian Bremmer, The End of the Free Market: Who Wins the War Between States and Corporations ?, Portfolio Hardcover, 2010
・・amazon.com(米国)では、再び勃興しつつある「国家資本主義」(state capitalism)について、リーマンショックを予測して一躍脚光を浴びた経済学者・ヌリエル・ルービニ教授と one-on-one で論じあっているので、ぜひ目を通すことを奨めたい。

ユーラシア・グループ(Eurasia Group)(日本語版)
・・イアン・ブレマーが社長を務めるグローバル政治リスク分析会社



PS 「インターネットと相互接続権力の台頭」(エリック・シュミット Google CEO、ジャレド・コーエン Google Ideas Director)という論文をベースに単行本が出版されている。『第五の権力-Google には見えている未来-』(エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社、2014)。原著タイトルは、The New Digital Age: Reshaping the Future of People, Nations and Business, by Eric Schmidt and Jared Cohen, 2013 (2014年2月26日 記す)。








<ブログ内関連記事>

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.3 を読む

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.5 を読む-特集テーマは「大学問題」と「地球工学」-

「フォーリン・アフェアーズ・アンソロジー vol.32 フォーリン・アフェアーズで日本を考える-制度改革か、それとも日本システムからの退出か 1986-2010」(2010年9月)を読んで、この25年間の日米関係について考えてみる

書評 『アラブ諸国の情報統制-インターネット・コントロールの政治学-』(山本達也、慶應義塾大学出版会、2008)


■米国が衰退?

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)
・・米国はまだまだ世界の中心であり、今後もそうであろうと考えるべきこと

書評 『自由市場の終焉-国家資本主義とどう闘うか-』(イアン・ブレマー、有賀裕子訳、日本経済新聞出版社、2011)-権威主義政治体制維持のため市場を利用する国家資本主義の実態

TIME誌 March 22, 2010号(日本版) [ANNUAL SPECIAL ISSUES] 10 IDEAS FOR THE NEXT 10 YEARS と New America Foundation について
・・グーグルCEOのエリック・シュミトが理事長を務める New America Foundation (新アメリカ財団)がまとめた未来予測レポート

書評 『日米同盟 v.s. 中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ/ジョゼフ・ナイ/春原 剛、文春新書、2010)


■数学主導の時代へ

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)

月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ


■米英アングロサクソン中心のメディア

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある


■SNSという「相互接続権力」

書評 『フェイスブック 若き天才の野望-5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた-』(デビッド・カークパトリック、滑川海彦 / 高橋信夫訳、日経BP社、2011)

バカとハサミは使いよう-ツイッターの「軍事利用」について

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)-「無極性時代のパワー」であるウィキリークスと創始者アサンジは「時代の申し子」だ

書評 『スノーデンファイル-地球上で最も追われている男の真実-』(ルーク・ハーディング、三木俊哉訳、日経BP社、2014)-国家による「監視社会」化をめぐる米英アングロサクソンの共通点と相違点に注目 ・・SIGINT(シギント:通信、電磁波、信号等を媒介とした諜報活動)を暴露したアサンジよりも、スノーデンのほうるかに破壊力はすさまじく大きい

法哲学者・大屋雄裕氏の 『自由とは何か』(2007年) と 『自由か、さもなくば幸福か?』(2014年)を読んで 「監視社会」 における「自由と幸福」 について考えてみる

(2014年2月26日、2016年6月13日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)





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2010年3月27日土曜日

『フォーサイト』2010年4月号(最終号) 「創刊20周年記念号 これからの20年」を読んでさまざまなことを考えてみる




 『フォーサイト』2010年4月号(最終号)を読んだ。

 3年間の継続購読をしていた私は、2010年2月で購読期間がきれたのだが、のこり2冊を購読するため追加料金を払って入手した。やはり長年読んできたし、最後まで見届けたいという気持ちもあったからだ。画竜点睛を欠くわけにはいけないしね。


■署名記事の是非という本質問題を考える

 あらためてここで振り返って考えておきたいのは、署名記事の是非についてである。

 『フォーサイト』は署名記事であり、先行していた『選択』と比べて新鮮味があったのは事実である。

 記事に署名を入れることで責任の所在を明確にし、執筆者のバックグランドまで含めた個性を把握した上で、掲載記事や掲載論文を読むことを可能にする点、これは大きなメリットであるし、現在では新聞記事も署名記事が増えているのはその流れであるといえよう。

 一方、先に名前を出した『選択』や英国の『The Economoist』は現在でもかたくなに、無署名記事を中心にしている。

 署名記事にしない理由は、『選択』の場合は、情報ソースを明かさないことでディープなインサイド情報を書くことができることであり、実際メディア関係者が覆面で執筆しているようだ。『The Economist』の場合は、昔からそうしているという以上の理由は見いだしにくいが、執筆者そのものよりも編集長の個性が何よりも中心にあるという姿勢のあらわれであろうか。

 署名記事と無署名記事のメリット/デメリットはよく知ったうえで、情報を取り扱う必要があるし、そのためのノウハウも確固として存在する。

 さて、『フォーサイト』はどうであるか、ということにかんしては、署名記事ゆえのメリットもあるが、デメリットも少なからずあるような気がしなくもない。署名記事の場合、内容もさることながら執筆者名でその記事や論文を読む選択をすることがあり、せっかく中身がよくても執筆者が自分の好みでない場合、オミットしてしまうことも多々あるからだ。もちろん逆の場合のほうが多いことは確かだが。

 また、掲載している記事や論文が玉石混淆で、非常に優れた内容のものもあれば、なんだこれはというような記事も少なくない。総花的な編集方針なので、政治経済の記事以外の企業関係の記事には少しがっかりさせられるものが多い。これは先にもみたように署名記事の限界が現れているものと思われる。

 「世間」のなかで生きている日本人にとって、しかもメディア関係者という、さらに狭い「世間」のなかで生きていく人間にとって、本当の意味での記事は書きにくいだろう。

 命かけてまで書くという気概をもったジャーナリストもまた、この国では生きるのは難しい。無署名原稿でなければ書けない記事というものがある。とくに企業関係の記事は、キレイごとだけの記事だと面白くともなんともない。

 こういった本質的な問題を、ウェブ版ではどう解決していくのか、あるいは現在のフォーマッットのままただ単に発表媒体を印刷媒体からインターネットに移行するだけなのか、注視したいと思う。


■ 「創刊20周年記念号 これからの20年」?

 以上、本質的な話について考えてみたが、最終号の特集について触れておこう。 「創刊20周年記念号 これからの20年」と題して、さまざまな特集記事を掲載している。目次を哨戒しておこう。太字ゴチックは私の注目記事。

「待ち受ける「2つの未来」」(インタビュー:ニーアル・ファーガソン)
「社会保障改革に立ちはだかる「既得権益層」」(鈴木亘)
「人口減少社会でも「豊かさ」は実現できる」(大竹文雄)
「暗雲垂れこめる「製造業の未来」」(新田賢吾)
「アジアの養殖業は世界の胃袋を満たせるか」(中田誠)
「激化する「食料」と「環境」の相克」(井田徹治)
男たちへ、女たちへ、若者たちへ(書面インタビュー:塩野七生)

人物篇 次の20年の20人
地域篇 これからの20年の世界
アメリカ/ロシア/中国/朝鮮半島/ヨーロッパ/中東/インド/東南アジア/アフリカ/中南米

今後20年のフォーサイト・スケジュール


 ざっと読んでみて「これからの20年」といえるような記事は、正直いってあまりなかった。ほとんどの記事が、現時点の問題をそのまま延長線上のものとして取り上げているに過ぎないからだ。

 このブログでも何度も書いているように、「20年先のことを透視できる」のはいかさま相場師たちや預言者たちだけであろう。それですら大半がはずれるというのが、この世の常である。

 私は、経営企画担当として経営企画業務を長年やってきているが、5年先ですらわからないのに、なんで10年先や20年先がわかろうか、というものだ。

 そんななかでも読むに値する論文が、「人口減少社会でも「豊かさ」は実現できる」(大竹文雄)であった。将来推計の人口分布をもとにした経済学者の論文は読む価値のあるものである。これはぜひ目をとおすべきだと推奨しておきたい。

 また、「男たちへ、女たちへ、若者たちへ」(書面インタビュー:塩野七生)は、もちろん読む価値がある。20年後は確実に死んでいると明言している、1937年生まれの作家の若者へのアドバイスはきわめて潔よい。塩野七生の『男たちよ』は私の人生の指南書でもあるが、司馬遼太郎ではないが、塩野七生にはぜひ若者向けに遺書(?)を残して欲しいものだと思う。


■ニーアル・ファーガソンという「今後20年間で」注目しなければならない歴史学者

 結局のところ、いまのような激動期は、10年先や20年先の確実な予測などできるわけがない。その意味では、「待ち受ける「2つの未来」」(インタビュー:ニーアル・ファーガソン)は面白い。

 ニーアル・ファーガソン(Niall Ferguson)という歴史家の名前は、恥ずかしながらこのインタビュー記事を読むまで知らなかったが、現在ハーバード大学の歴史学教授とハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の経営管理学教授を兼任し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の歴史学と国際関係論の教授を兼任する気鋭の歴史学者である。Wikipedia(英語版)の記述によればそうある。

 1964年にスコットランドに生まれた気鋭の歴史学者である。専攻は金融史と経済史、および植民主義の歴史とのことで、日本語に翻訳された著書には、『憎悪の世紀 上下-なぜ20世紀は世界的殺戮の場となったのか-』(仙名紀訳、早川書房、2007)と『マネーの進化史』(仙名紀訳、早川書房、 2009)があるようだ。「今後20年間で」注目しなければならない歴史学者のようだ。

 詳しくは直接『フォーサイト』の本文を読んでいただくのがよいと思うが、私の心に「刺さった発言」を引用しておく。太字ゴチックは引用者によるもの。

ファーガソン まさに歴史的なターニングポイントです。大きな視野でいうならば、「西洋の上昇の終焉」という歴史的転換期です・・(中略)・・こうした西洋(この場合、日本も含む)の衰退と裏腹に、中国やインドを筆頭とする東洋は、経済危機から打撃を受けることもなく、成長を続けている。
 私の見通しが正しければ、西洋はいま、500年以上居座ってきた支配的地位からすべり落ちようとしている。つまり07年の危機は単なる経済危機ではなく、世界的な力のバランスが西から東へと移行していく歴史の転換期なのです。

ファーガソン 歴史学者として学んだのは、「未来」は一つではないということ。未来は「フューチャーズ」(*)と複数で語るべきなのです。そして、私たちには複数の未来の中から道を選び取っていく選択肢がある。

(*引用者注:フューチャーズ futures と複数形にすると「先物」(さきもの)のことをさす。さすが金融史専攻の歴史学者である。日本語版の編集者はこういうシャレをきちんと日本語で説明しておくことが必要。いまひつ気配りが足りないな・・・)

ファーガソン 中東からアフリカにかけての出生率の高い地域で、満たされない思いを抱える若い男性が危険なエネルギーをためている。百年前はこれがドイツであり日本であった。こうした怒れる若者の圧力が、領土拡大の背景にあった。だが、高齢化し、成熟した日本やドイツにそんな圧力はない。その意味でも沸点は移動した。


 つまるところ、 「創刊20周年記念号 これからの20年」特集の、私にとって最大の収穫は、ニーアル・ファーガソンという「今後20年間注目すべき歴史学者」を発見したことに尽きるかもしれない。ファーガソンの著作は、時間をみつけて読んでみたいと思っている。

 いまほど歴史学の重要性が増している時代もないだろう。歴史作家の塩野七生は、「日本人は垂直(歴史)思考が不得手」と述べているが、歴史ドラマや歴史小説が好きでも、それは歴史的思考とは異なるものである。ドラマや小説は、時代背景を過去に設定しただけの現代ものであり、いくらドラマをみても垂直的(=歴史的)に思考する訓練を行うことはできない。もちろん、エンターテインメントとして楽しむのはまったく問題ない。

 まあ、私などの表現を使えば、垂直的は通時的といいかえてもいいが、「通時的」(ディアクロニック)な思考と「共時的」(シンクロニック)な思考、いいかえれば歴史的思考と構造的思考の両面でものを見なければ、ワンランク上のビジネスパーソンにはなることができないだろう。

 この点にかんしては、歴史的には衰退過程にあるとはいえ、まだまだ西欧に学ぶべきものは多い。その上で、市場としての中国やインドでビジネスチャンスを発掘していくことが、これからの日本人ビジネスパーソンに求められる課題ではなかろうか。

 こんな期待に応えてくれるインテリジェンス雑誌が欲しいものである。

 ウェブ版の『フォーサイト』が、この期待に応えてくれることを望みたい。

 

PS 読みやすくするために改行を増やし、小見出しを加えた。本文には手を入れていない。また写真を大判にした。 (2014年年3月3日 記す)。


 
<参考サイト>

◆ niallferguson.org(歴史家ファーガソンの公式ウェブサイト 英語)
◆ Niall Ferguson on Twitter(歴史家ファーガソンのつぶやき)


<ブログ内関連記事>

■未来は過去に読む-歴史研究から

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

書評『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)


■塩野七生の歴史的思考

賢者が語るのを聴け!-歴史小説家・塩野七生の『マキアヴェッリ語録』より

書評 『日本人へ リーダー篇』(塩野七生、文春新書、2010)-ときどき「おお、これは鋭い」と思えるような指摘がある

600年ぶりのローマ法王と巨大組織の後継者選びについて-21世紀の「神の代理人」は激務である

書評 『想いの軌跡 1975-2012』(塩野七生、新潮社、2012)-塩野七生ファンなら必読の単行本未収録エッセイ集

■署名=ブランドの意味について考える

「セルフブランディング」と「セルフプロデュース」、そして「ストーリー」で「かたる」ということ-「偽ベートーベン詐欺事件」に思う (2014年2月)
・・「署名記事」にはゴーストという疑惑が100%できないという問題点もある。そもそも雑誌記事といえども編集者の手によって加筆修正がされ、タイトルが変えられることは常識である。記事そのものについても署名記事の署名は、信用を担保するという意味においてブランドとしての機能と同じである

(2014年3月3日 情報追加)


      

       
P.S. この記事をもって、ブログ掲載記事が300本目となった。250本目のときにも書いたが「継続はチカラなり」、ブログ開設から11ヶ月で300本書いたが、これで「ほぼ毎日更新中」の公約は、看板に偽りなしと実証できているものと、自分をちょっとだけ褒めてやりたい。仕事が忙しくなってから(・・でないとまた困るのだが)も、「ほぼ毎日」できるか、私にとって限界への挑戦となる。
 今後もさらに、350本目、400本目を目指して、とりあえず小さな目標(苦笑)でがんばります!
 読者の皆様には、この場を借りて感謝申し上げる次第です。






(2012年7月3日発売の拙著です)








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