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2021年2月10日水曜日

書評『ロヒンギャ危機 ―「民族浄化」の真相』(中西嘉宏、中公新書、2021)― 2021年2月1日に発生したクーデター直前のミャンマー国内の政治情勢を知るための好著

 

先日2月1日に勃発したクーデターによって混乱が続いているミャンマー。この問題は、メディアでの取り上げも比較的多いので、関心をもって見守っている人も少なくないだろう。 

もちろん、わたしもその一人だが、この機会につい最近でたばかりの『ロヒンギャ危機-「民族浄化」の真相』(中西嘉宏、中公新書、2021)を読んでみた。ミャンマーが国際的に非難が浴びせられた、2017年の少数民族ロヒンギャの虐殺と難民問題の解明を試みた内容だ。 

出版日は2021年1月25日、そのすぐあとの2月1日にクーデターが勃発したことになる。結果としてこの本は、「ロヒンギャ危機」をつうじてクーデター勃発前のミャンマーの政治状況を知ることができる好著となった。 

イスラーム教徒でかつ「無国籍」状態におかれてきたロヒンギャの問題は、ミャンマーの国内問題であり、かつ国際問題である。 

ビルマ人仏教徒が8割以上を占める多民族国家ミャンマーにおける「少数民族問題」である。ナショナリズムは国民統合にために必要であるが、ナショナリズムには正負の両面がある。 ナショナリズムの「負の側面」である「排除の論理」が働いていることが背景にある。

 国際問題となっているのは、隣国バングラデシュとの関係であり(・・だがミャンマーもバングラデシュもロヒンギャに国籍を与えるつもりはない)、かつ虐殺問題と難民問題が国際法廷に持ち出されたからでもある。人権問題であり、かつイスラーム世界の問題でもあるからだ。 

さかのぼれば英国植民地時代の「分断統治策」に、さらにはベンガル湾に面したラカイン州が独立王国でなくなった18世紀まで遡るべき問題であるが、英国からの独立の際に求心力となった「反英ナショナリズム」が、「民族・言語・仏教」という形でその核となり、これが「反イスラーム」という「排除の論理」につながっていく。

ロヒンギャ危機の詳細は、専門研究者としての立場からファクトベースの公平な記述がなされているので、本文に直接あたっていただきたいが、国軍主導の「民政移管」によって実現した「言論の自由」が、FBを中心にしたSNSをつうじて「反イスラーム」を主張する排他的な「仏教ナショナリズム」の言説を拡散することになった残念な現実に注目する必要がある。

これはフェイクニュースが横行する民主主義国家すべてに共通する問題だが、とくに民主化プロセスの途上にある発展途上国ではきわめて大きな問題だ。軍政時代の情報統制が解除された結果、押さえが効かなくなったという側面もあるからだ。

そんな状況のなかで発生した2017年の「ロヒンギャ危機」だ。それ以降のミャンマー情勢を見ていくと、言論の自由が経済活性化をもたらしながらも、一方では政治的に難しい舵取りを要求される微妙な状況をもたらすことになったことがよくわかるのである。 

著者はこの状況をさして、アウンサンスーチー氏による「受け身のリーダーシップ」と表現しているが、憲法の規定上、依然として権力を握っている国軍に配慮する一方、排他的な「仏教ナショナリズム」にも流されないという姿勢を貫いていたことに注意を払うべきだろう。日本の一部ジャーナストが安全地帯からあげつらうような、政治感覚を欠いた人物ではないことがわかる。 

ロヒンギャ問題にかんして国際的な非難の的となり、「墜ちた偶像」扱いされたにもかかわらず、なぜアウンサンスーチー氏が「民族浄化」を否定し続けたのか? 

その理由について知ることは、欧米社会のように白黒ハッキリさせることがかならずしも適切ではないこと、そして日本政府の立場の評価にもつながってくることだろう。

もちろん、虐殺は肯定されるものではないが、文脈をまったく無視して非難するだけでは、まったく問題解決にはつながらない。それは、今回のクーデターについても言えることだ。

外国からの介入を極度に嫌うミャンマー国軍のメンタリティを考えれば、民主派と国軍の双方にパイプをもっている日本の役割はきわめて大きいのである。 

本書は、2017年の「ロヒンギャ危機」を中心にして、「民政移管」以降のミャンマーの政治情勢を知るうえで、まととない好著である。報告書のような文体だが、読めばかならず得るものがあるはずだ。


(画像をクリック!)


目 次 
はしがき
序章 難民危機の発生 
第1章 国民の他者-ラカインのムスリムはなぜ無国籍になったのか 
第2章 国家による排除-軍事政権下の弾圧と難民流出 
第3章 民主化の罠-自由がもたらした宗教対立 
第4章 襲撃と掃討作戦-いったい何が起きたのか 
第5章 ジェノサイド疑惑の国際政治-ミャンマー包囲網の形成とその限界 
終章 危機の行方、日本の役割
あとがき
主要参考文献
関連年表


著者プロフィール
中西嘉宏(なかにし・よしひろ)
1977年、兵庫県生まれ。2001年、東北大学法学部卒業。2007年、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科より博士(地域研究)取得。日本貿易振興機構・アジア経済研究所研究員などを経て、2013年より京都大学東南アジア研究所准教授、2017年、同大学東南アジア地域研究研究所(組織統合により改称)准教授。著書『軍政ビルマの権力構造―ネー・ウィン体制下の国家と軍隊 1962~1988』(京都大学学術出版会、2009年、第26回大平正芳記念賞)ほか。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

・・ミャンマー人のメンタリティとともに、国軍のロジックを知ることが問題構造を理解するカギになる。「27年間にわたりミャンマーの取材を続けているフォトジャーナリストの宇田有三氏」の見たミャンマー

あのとき、現場で ロヒンギャ問題を追う(Asahi Shimbun GLOBE+)
・・写真がナマナマしい

・・「ミャンマーの行方を考えるとき、とりわけその動向が注目されるのがアラカン軍だ。アラカン軍は西部の少数民族ラカインを中心に自治を求め、近年ミャンマー政府・軍と最も激しく争ってきた武装組織で、2019年だけで国軍兵士3562人を殺害したといわれる。そのため、国軍はアラカン軍を「テロ組織」に指定し、2019年には大規模な掃討作戦を行なうなど、徹底した鎮圧で臨んできた。
ところが、国軍はクーデタ後の3月11日、アラカン軍を「テロ組織」リストから除外した。そこにはアラカン軍が抗議デモに協力することを防ぐ目的があるとみられる。そのためか、他の少数民族が相次いで抗議デモ支持を表明するなか、アラカン軍は沈黙を保っている。
ここで抗議デモを支持せず、それでも最終的に事実上の軍事政権が崩壊すれば、アラカン軍は新体制のもとで立場を失う。しかし、逆に抗議デモを支持して、それでも最終的に国軍が勝てば、アラカン軍がようやく手に入れた「合法的組織」の立場はフイになる。アラカン軍はこのタイミングで動くことのプラスとマイナスを天秤にかけ、情勢を見極めようとしているとみられる。
今後、仮にアラカン軍が抗議デモ支持に踏み切れば、国軍の旗色は怪しくなり、ミャンマー情勢が大きく動く公算が大きい。とはいえ、それは同時に、ミャンマー全土が内乱に陥ることをも意味し、難民の流出などの形でこれまで以上に周辺地域に影響が拡大することにもなる。いくつもの矛盾の果てに発生したミャンマー危機は、最大の山場に向かいつつあるといえるだろう。」

(2021年2月14日 項目新設)
(2021年4月2日 情報追加)


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2018年8月17日金曜日

書評『五色の虹 ー 満洲建国大学卒業生たちの戦後』(三浦英之、集英社文庫、2017 単行本初版 2014)ー わずか8年の歴史しかなかった「満洲建国大学」という実験とその後


『五色の虹-満洲建国大学卒業生たちの戦後-』(三浦英之、集英社文庫、2017)を読んだ。いわゆる満洲ものであり、日本を含めたアジア現代史でもある。単行本は2014年の出版。 

建国大学とは、建国後に「五族協和」をうたった満洲国を支えていく人材を育成するために作られた高等教育機関のことだ。満洲事変の立役者で関東軍の陸軍参謀だった石原莞爾の強い思いが実現したものだ。構想をプランに落とし込んだのは、石原完爾の部下でかつ熱烈信奉者であった辻政信である。 

「五族」とは、日・漢・朝・満・蒙を指す。この五族から選抜されたエリートが入学し、濃密な人間関係のなかで青春時代の6年間を過ごしたのが建国大学であった。 

そこで保証されていたのは、徹底的な「言論の自由」。毎日のように学生同士で激論が行われていたという。まさに満洲ならではの「実験教育」であった。あまりにも時代を先駆けすぎていたのかもしれない。 

建国大学は8年でその歴史を閉じることを余儀なくされる。日本の敗戦により満洲国も崩壊、大学もその短い歴史に幕を閉じることになった。 

本書は、そんな建国大学に学んだ日本人、中国人、朝鮮人(=韓国人)、モンゴル人、ロシア人の「その後」を追ったノンフィクションだ。 

著者は、1974年生まれの朝日新聞の記者で、取材当時は35歳。取材対象は90歳前後。孫と祖父のような関係にあたるからこそ、素直に話を聞き取ることができ、かつ話をしてくれたのだろう。知らないからこそ聞ける孫世代、知らないだろうから話しておきたい祖父世代。 

取材の苦労とその後の出版に至るまでは「あとがき」に書かれているが、取材対象が老齢であること、いまだ「脱共産化」がなされていない中国在住の卒業生が置かれた立場の困難など、事実関係の裏付けの確認に手間取ったことが記されている。一度は出版は断念したらしい。

それにしても激動のアジア現代史である。敗戦後の日本人のその後もさることながら、「共産化」された大陸に生きることを余儀なくされた中国人とモンゴル人、ロシア人のその後は、運命に翻弄され、まさに波瀾万丈としかいいようがない。

「8月15日」にどこにいたかによって、その後の運命が決まってしまったのである。ただし、韓国では建国大学卒業生はエリートとして遇されたようだ。それぞれの国家が必要とした人材の違いである。 

そんな建国大学出身者たちの絆は深い。全寮制で寝食を共にし、激論にあけくれるような青春時代の6年間を過ごしたからだ。思想信条を越えた人間どうしの深い絆。これこそ、建国大学という「実験教育」の大きな成果だ。この存在をいまだに越えた大学が生まれていないのは、ある意味では仕方がないかもしれない。だからこそ、建国大学については知る必要があるのだ。 

私が建国大学について初めて知ったのは、安彦良和氏の『虹色のトロツキー』というマンガである。建国大学に入学したモンゴル人を主人公にした大河ドラマのような長編マンガ。このマンガでは、満洲国の建国大学そのものが扱われているので、このマンガはぜひ読むことを勧めたい。わたしのイチオシのマンガである。 

『五色の虹-満洲建国大学卒業生たちの戦後』に戻るが、最後の章は、カザフスタンに移住することになったロシア人卒業生の話である。最後のページまで読み進めたとき、心の奥底から熱い感情がわき上がってきた。日本とは何か、日本人とは何か・・・。 

ぜひ読むことをすすめたい。






目 次  
序  最後の同窓 
第1章  新潟  第2章  武蔵   第3章 東京  第4章 神戸  第5章  大連  第6章 長春  第7章 ウランバートル  第8章 ソウル  第9章 台北  第10  中央アジアの上空で  第11章 アルマトイ   
あとがき 
解説 梯久美子



著者プロフィール 
三浦英之(みうら・ひでゆき) 
1974年、神奈川県生まれ。京都大学大学院卒業後、朝日新聞社に入社。東京社会部、南三陸駐在、アフリカ特派員などを経て、現在は福島総局員。2015年、『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<ブログ内関連記事>

23年間「積ん読状態」だった藤原作弥氏の『満洲、少国民の戦記』(現代教養文庫、1995)を読んで自問自答する「日本人にとっての満蒙とは何か?」という問い


書評 『ノモンハン戦争-モンゴルと満洲国-』(田中克彦、岩波新書、2009)-もうひとつの「ノモンハン」-ソ連崩壊後明らかになってきたモンゴル現代史の真相
・・『虹色のトロツキー』について触れてある

書評 『カルピスをつくった男 三島海雲』(山川徹、小学館、2018)-カルピスの背後にはモンゴルと仏教思想がある

いまこそ読まれるべき 『「敗者」の精神史』(山口昌男、岩波書店、1995)-文化人類学者・山口昌男氏の死を悼む
・・山口昌男の『挫折の昭和史』(岩波書店)の第8章「読書する軍人」に石原完爾が取り上げられている

書評 『マンガ 最終戦争論-石原莞爾と宮沢賢治-』 (江川達也、PHPコミックス、2012)-元数学教師のマンガ家が描く二人の日蓮主義者の東北人を主人公にした日本近代史

『王道楽土の戦争』(吉田司、NHKブックス、2005)二部作で、「戦前・戦中」と「戦後」を連続したものと捉える


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2015年2月28日土曜日

「国境なき記者団」による「報道の自由度2015」にみる日本の自由度の低さに思うこと-いやな「空気」が充満する状況は数値として現れる

(「報道の自由度2015」 国境なき記者団の公式ウェブサイトより)

「国境なき記者団」というものがある。「国境なき医師団」が世界的に有名だが、直接の関係はないものの、ともにフランスに本拠地を置く非政府組織(NGO)である。フランス語で Reporters Sans Frontières (RSF)、英語では Reporters Without Borders (RWB)という。

「国境なき記者団」は、報道の自由を擁護するためにつくられたジャーナリストによる団体である。表現の自由が民主主義の根本にあるのと同様、報道の自由もまた民主主義の根本になくてはならないのは、市民がみずからのアタマで考え行動するためには、考えるための材料がただしく提供されなくてはならないからだ。

先日のことだが、「国境なき記者団」が毎年発表している「報道の自由度(World Press Freedom Index)」の最新版(2015年版)が2015年2月12日にプレスリリースがあったことについての記事だが、その内容はじつに驚くべきものであった。

報道の自由にかんして、日本がなんと世界で61位(!)なのだという。しかも、60位が隣の韓国というのだから、さらに驚きが大きい。



「報道の自由度」は、国境なき記者団の公式ウェブサイトに掲載されている世界地図をみると、それは一目瞭然だ。

「真っ黒」に塗りつぶされている中国(180ヶ国中176位!)やベトナム(175位)といった、いまや世界でも希少な共産党による一党独裁国や、中東のサウジアラビア(164位)などが報道の自由にかんして最悪なのは当然として、「真っ赤」に塗りつぶされているロシア(152位)や北アフリカやアフリカ諸国の順位が低いのも当然と受け止められる。

真っ黄色に塗りつぶされているフランス(38位)や英国(34位)、オーストラリア(25位)、それにアメリカ(49位・・スペースの関係からここでは掲載していない)は、報道の自由の高い国々である。

だが、日本は先進国であるのにもかかわらず、報道の自由にかんしてはけっして高い国ではなくなっている。もちろんジャーナリストによる主観的評価であるから、あくまでも参考値として受け取るべきであろうが、それでも世界180ヶ国中61位というのは恥ずべき数値ではないだろうか。

ロシアや中国、さらには北朝鮮や韓国などを批判的なまなざしで見ている割に、批判する側の順位が世界180ヶ国中61位という現実をいったいどれだけ考えているのだろうか

近年の「嫌韓論」の高まりから、なにかと低く評価しがちな韓国だが、61位の日本よりも韓国は上位の60位になっている。61位の日本が60位の韓国を批判し嘲笑する。こういうのを「目くそ鼻くそを笑う」というべきだろう。順位が韓国より下回っていることを直視すべきである。 

「国境なき記者団」の調査は、そうでなくても批判的な精神の持ち主であるジャーナリストたちによる、あくまでも主観的なものであることを考慮に入れても、世界180ヶ国中で61位とはまことにもって残念な話である。

時系列でデータを見ていると、2010年には日本は11位であり、国際的にもきわめて高く評価されていたことを考えれば、さらに残念としかいいようがない。

報道の自由度が低いということは、報道されるべきことが報道されていないということである。なんとなくいやな「空気」が充満する状況が数値の低さとして現れているというべきだろう。

外からの視線に敏感なのが日本人であったはずである。とはいえ、自虐的になる必要はない。しかし、夜郎自大になってはいけない。言いたいことが言える、報道されるべきことが報道される、そんな国であってほしいものではないか!





<関連サイト>

アングル:安倍政権への批判後退か、メディアの自粛ムード強まる (ロイター、2015年2月25日)
・・自分が実行している政策に自信があるなら正々堂々とやるべきだ。そうでないならば、なにかやましいものでもあるのか???


<ブログ内関連記事>

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)-「無極性時代のパワー」であるウィキリークスと創始者アサンジは「時代の申し子」だ

書評 『スノーデンファイル-地球上で最も追われている男の真実-』(ルーク・ハーディング、三木俊哉訳、日経BP社、2014)-国家による「監視社会」化をめぐる米英アングロサクソンの共通点と相違点に注目

書評 『官報複合体-権力と一体化する新聞の大罪-』(牧野 洋、講談社、2012)-「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある

「主権在民」!-日本国憲法発布から64年目にあたる本日(2011年5月3日)に思うこと

書評 『自民党憲法改正草案にダメ出し食らわす!』(小林節+伊藤真、合同出版、2013)-「主権在民」という理念を無視した自民党憲法草案に断固NOを!

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)-日本人を無意識のうちに支配する「見えざる2つのチカラ」。日本人は 「空気」 と 「世間」 にどう対応して生きるべきか?

書評 『醜いが、目をそらすな、隣国・韓国!』(古田博司、WAC、2014)-フツーの日本人が感じている「実感」を韓国研究40年の著者が明快に裏付ける

(2015年3月6日 情報追加)


 
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2010年3月23日火曜日

Google が中国から撤退!?(その3)



              
 Google が中国での検索事業から撤退するというニュースが、NHKではトップニュースとして今朝から何度も放送している。中国におもねりがちな「日本の公共放送」である「みなさまの NHK」 にとっては、太平洋を挟んだ米国と中国のつばぜり合いは「対岸の火事」として済ませるわけにはいかない一大事なのだろうか?
 Google なんて何のことかさっぱりわからないような、アナログ世代のシニア世代の多くの日本人にとって、果たしてトップニュースの意味があるのだろか? という感想がなくもない。Google をただ単に便利な検索ツールとしてしか思っていないような人たちにとっても、このニュースが果たして大きな意味をもつのかどうか?

 もちろん、私は重大事件だと考えているが、このブログでも過去二回にわたってこのテーマで書いているので、驚きはまったくない。
 ◆Google が中国から撤退!?-数週間以内に最終決定の見通し(2010年1月14日)
 ◆Google が中国から撤退!?(続き)(2010年1月15日)
 原理原則の国である米国を代表する企業 Google と、同じく原理原則の国である中国の共産党政権が、お互いの原理原則をぶつけあった結果、でてきた結論に過ぎないからだ。

 とりあえず、後日の検証目的で、ネット上の報道を要約して紹介しておこう。中国での検索事業からの撤退は以下のような内容である。

・2010年3月22日 12:03:00 PM(米国時間)にアップロードされた公式ブログのなかで、Google は、で、中国本土での「ネット検索サービス」を同日停止したと発表。
・Google は、中国政府による検閲の中止を求めてきたが、認められないことが明らかになったためとしている。
・中国版サイト「Google.cn」にユーザーがアクセスすると、香港版サイト「Google.com.hk」に自動転送される。
・検索停止の一方で、中国における研究開発事業や営業活動は継続する意向。

 実際にこのとおりかどうかは、直接自ら確かめていただきたい。

 Google の公式ブログにアップロードされた文章は、 A new approach to China: an update と題されている。ここらへんについては、英語の表現に気をつけてみておく必要がある。
 The new approach ではなく、A new approach と単数形の不定冠詞 a を使用している。そしてコロンのあとは an update とこれまた、単数形の不定冠詞である。
 つまりどういうことかというと、中国政府の検閲政策に対して、数ある対抗策の一つとして、Google が3月22日付けの結論に達したという現状報告を示しているわけである。
 定冠詞も不定冠詞ももたない日本語や中国語では表しにくいニュアンスを示しており、ある意味ではまだまだ交渉の余地がありますよ、譲歩の余地はお互いにあるのではないですか、というニュアンスを表明しているわけである。
 おそらく中国政府が折れることはないだろうが、今後は Google が採用した「新しいアプローチ」である、香港のサーバーに「検閲のない簡体字で検索」(uncensored search in simplified Chinese)できるサービスが果たしていつまでつづけられるかが焦点になることだろう。

 実際、Google は、Mainland China service availability というページで、Google が提供するサービスのうちどれが中国国内で可能で、どれが不可能かを毎日アプデートすると表明している(We will therefore be carefully monitoring access issues, and have created this new web page, which we will update regularly each day, so that everyone can see which Google services are available in China.)。
 後学のために、3月21日(米国時間)現在の状況は以下の通りである。左の画像をクリックすると拡大した画像をみることができます。
 
 Web(グーグルのウェブサイト): No issues(=問題なし*)
 Images: No issues(=問題なし)
 Youtube(動画サイト): Blocked(=完全にブロック)
 Sites(グーグルでつくるウェブサイト): Blocked(=完全にブロック)
 News(ニュース): No issues(=問題なし)
 Ads(ウェブ広告): No issues(=問題なし)
 Docs(ドキュメント): Partially Blocked(=一部ブロック)
 Gmail(メール): No issues(=問題なし)
 Blogger(グーグルでつくるブログ): Blocked(=完全にブロック)
 Picasa(画像投稿サイト): Partially Blocked(=一部ブロック)
 Groups(グループ): Partially Blocked(=一部ブロック)

 *(注):ただし、www.google.cn から自動的に www.google.com.hk にリディレクトされる。

 なお、Google が提供しているサービスの一覧はここを参照。

 私はこのブログでも書いたように、昨日(3月21日)まで約一週間ミャンマーに滞在していたが、ミャンマーでは Google の Gmail は使用できるし、しかも2010年3月20日と21日時点では Twitter(ツイッター)も使用できたことを確認した。
 ツイッター上の、私が書き込んだ過去ログを参照していただきたい。 http://twitter.com/kensatoken1985
 後学のために、ヤンゴンから書き込んだ「つぶやき」を再録しておこう。なお、投稿時間は日本時間となっているが、日本とミャンマーのあいだの時差は2時間半(・・中途半端でめんどくさいなあ)であり、現地時間は日本時間から2時間半引いたものになる。

ミンガラバー! お久しぶり! 現在ヤンゴンです。ツイッター使えますねー やってみるもんだなあ。これから友人の結婚式&お坊さんの法話会です。時差は2時間半。昨夜まで田舎にいたので、ウェブがつながりませんでしたが、ヤンゴンの高級ホテルは問題なし。ではまた。詳し話は後ほど。
10:16 AM Mar 20th webから

ツイッターはつながったが、Bloggerによるマイ・ブログはアクセス拒否だ。残念。まあどっちにしろ詳しい話は、帰国後に「三度目のミャンマー、三度目の正直」というタイトルで、ブログで連載しますのでこうご期待。 http://e-satoken.blogspot.com/
10:26 AM Mar 20th webから

ミャンマーは一年で一番暑い4月直前で、夕方なんかものすごく暑い。タクシーもエアコンないから、熱風が窓から入ってくる。首都はクルマが増えて空気が悪い。日本の中古車が自家用車もバスも現役で走り回っている。昭和のにおいをまき散らしてるねー。治安はまったく問題なし!バンコクより安全です。
10:46 AM Mar 20th webから

昨日は、ミャンマー式結婚式に出席、たいへん貴重な体験をすることができた。大僧正の法話はパーリ語でほとんどわからなかったが、ミャンマーの人たちも必ずしも全部はわからないようだ。食事会でうまいミャンマー料理を堪能、夜も中華街で生ビール浴びるほど飲んで、快適な一日を過ごしました。マル
10:21 AM Mar 21st webから


 やろうと思えばできるのに、ミャンマー政府が Gmail も Twitter も完全にブロックしていないのは、それなりの考えがあってのことだろう。もちろん外部からは検証のしようがないのだが。
 Gmail にかんしては、ミャンマーでは半年前も現時点でも大きな変化はない。中国政府も Gmail はブロックはしていないようだ。

 インターネットの検閲は、発展途上国では当たり前のように行われている。これはたいていの国で、一カ所で集中管理が可能なためだ。中国やミャンマーはいうまでもなくタイも同様で、反政府的な内容のウェブサイトやブログはフィルタリングに引っかっかって閲覧できない。アラブ諸国も同様であると聞いている。
 いずれの国においても自国のエンジニアだけでなく、外国人の専門家を雇っているらしい。そういう話も耳にする。


 今回の問題にかんしては、中国政府が正しいのか、Google が正しいのか、「表現の自由」(free speech)という価値観(values)にかかわるものだけに、どちらが一方的に正しいとは一義的には決められるものではない。
 もちろん、「表現の自由」が確保された日本という民主主義国家の国民である私は、米国のそれに近い価値観をもっているが、中国政府の抱えている問題がまったく理解できないわけでもないのである。
 Google のボードにおいても、中国からの検索事業撤退の利害得失と法的な問題にかんして、相当突っ込んだ議論と徹底的な検証が行われたものと推測されるが、おそらく中国事業を犠牲にしても、全世界における Google の評判(reputation)とブランド価値(brand equity)の維持を考慮に入れれば、撤退もやむなしという結論に達したのであろう。そう推測するのが自然である。

 この Google の意志決定が今後の米国や日本の中国ビジネスにどのような影響を与えていくのか、詳細にモニターしていく必要がある。もちろん、ソフトウェア系統とハードウェア系統はわけて考える必要があるが、現在ではほぼすべてのビジネス活動にソフトウェアが関わっているので、まったく何の影響も受けない事業活動はないと考えるべきだ。

 現時点では、まだよく見えてこないというのが正直なところである。


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