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2022年5月9日月曜日

書評『プーチンの実像 ー 孤高の「皇帝(ツァーリ)」も知られざる真実』(朝日新聞国際報道部 駒木明義/吉田美智子/梅原季哉、朝日文庫、2019)ー 期待は裏切らることのない、読むに値する面白いノンフィクション

 
 

いまさらプーチンでもあるまい、そう思っていたが、書店の店頭で平積みになっていたので、ふと気になって手にとってパラパラめくってみると、1枚の写真が目に入った(下記の写真「プーチンの靴」)写真資料からも迫るアナリシスも行っていたのか! これは読むべきだな、と。 


購入してさっそく読み始めたが、期待は裏切られることはなかたった。読むに値する、じつに面白いノンフィクションであった。 

2014年の「クリミア侵攻」を機に、国際的な孤立状態となって、内向き状況となっていったロシアとプーチンについての分析なのだが、2022年の現時点から振り返ってみると、なるほど、プーチンのさまざまな特徴というものが、的確にあぶり出されていることに気がつく。

 とくに、プーチンが大統領になった初期段階で親しくなった日本人関係者とのやりとりの証言が興味深い。それは柔道の山下泰裕氏と、森元首相だ。プーチンの「人たらし」ぶりは、演技だと言い切ってしまうのは、難しいような印象を受ける。どこまでが演技か、心情か。

朝日新聞に連載された企画連載を単行本化のようだが(単行本は2015年刊、2019年の文庫版は、さらに加筆)、朝日新聞は読んでいないので知らなかった。いわゆる新聞文体ではないので読みやすい。珍しいことである。

ここのところ、ウクライナ戦争関連の解説者としてTVやネットに登場することの多い駒木氏の、国際ジャーナリストとしてのすぐれた力量がうかがわれる。駒木氏は、北方領土返還交渉がらみで、かの有名な「引き分け」発言がでたときに現場に居合わせた当事者でもあることも、本書を読んでわかった。そういった臨場感も読みどころだ。 

もちろん、文庫版も2019年の出版なので、それ以後の状況を踏まえたものではない。だが、読んでいると「プーチン後」のロシアには、「混沌」しかないのではないかと思わざるをえない。 

それほど、すくなくとも2010年代までは、プーチンによってロシア社会の安定が確保されていたのだ。だが、かつて見せていた「冴え」は、もはや69歳のプーチンから失われてしまったようだ。しかも、民主的選出システムをもったロシアではあるが、民主主義の制度を欠いた中国共産党とくらべてさえ、権力継承の仕組みが不透明である。 

1917年のロシア革命後にロシアは内戦状態となった。日本を含んだ外国勢力の介入も招いた。幸いなことに、1991年のソ連崩壊後には旧ソ連諸国の独立を認めたことで、内戦は回避することができた。 

だが、2022年以降ロシアはどうなるのか、きわめて不透明だとしかいいようがない。 




目 次
はじめに プロローグ 
第1部 KGBの影
 第1章 ドレスデンの夜
 第2章 国家崩壊のトラウマ
 第3章 KGBとプーチン
 第4章 人たらし
第2部 権力の階段 
 第5章 初めての訪日
 第6章 改革派市長の腹心
 第7章 権力の階段
 第8章 インタビュー
第3部 孤高の「皇帝」 
 第9章 コソボとクリミアをつなぐ線
 第10章 G8への愛憎
 第11章 権力の独占
 第12章 欧州が見たプーチン
 第13章 「皇帝」の孤独
 第14章 プーチンはどこへ向かう
第4部 大統領復帰後のプーチンと日本
 第15章「引き分け」の舞台裏
 第16章 日本首相、10年ぶりの公式訪ロ
 第17章 プーチン訪日への模索
エピローグ


著者プロフィール
駒木明義(こまき・あきよし)
1966年生まれ。1990年東京大学教養学部卒業、朝日新聞社入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部、モスクワ支局長などを経て、2017年9月より論説委員。共著に『検証 日露首脳交渉』。(文庫本カバーより)


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