『霊能一代(増補改訂版)』(砂澤たまゑ、二見書房、2024)という本を読んだ。 amazonでレコメンドされて、はじめてその存在を知った本だ。
まだ出版されたばかりなのに、レビューの数と熱度が高い。いずれもやらせレビューではない。これは読まねばなるまいと、勝手に決めてすぐにポチ。どうしても、この手のタイトルに惹かれるものがあるのだ。なぜか「引き寄せ」てしまう。いや、AIの解析結果のレコメンドに過ぎないのだが(笑)
内容は、帯に書いてあるとおりだ。「伏見稲荷のオダイが辿った数奇な運命の物語。希有な霊能者が語るお稲荷さんの不思議な力と神秘体験の数々・・・」。 いかにも読みたくなるコピーだな。
「オダイ」とは「お代」、神さまの代わりに、神さまのことばをとりつぐ霊能者のことだ。具体的にいえば、「稲荷大神様」の「行者」(ぎょうじゃ)である。 伏見稲荷といえば、京都の伏見稲荷である。
本人もなぜそのような人生を送ることになったのかわからない、と語っているように、自分の意思とは関係なく、神さまに選ばれてしまったのだから仕方がないのだ。
最終的に覚悟を決めて、その道に進むことになったが、それはもう厳しい修行の道であったことが語られている。塩水だけの「百日断食」なんて、まずふつうの人には不可能だろう。
この本は、長年にわたってオダイから聞き取りを行ってきた翻訳著述業に従事する内藤賢吾氏が、聞き書きの内容を整理し、構成と執筆を行って2004年にでた原本の「増補改訂版」である。
「第一部 神様に導かれて歩んだ」と「第二部 信者さんたちとともに歩んだ道」の二部構成になっている。
20年後の「増補改訂版」では、出版にいたる経緯をまとめた内藤氏による「まえがき」と「追記」、「あとがきに代えて」が加えられている。なによりも内藤氏による「註」に意味がある。著者の語りの記憶違いなどを、できるかぎり事実関係の検証を行っているからだ。
通読してみて思うのは、タイトルから連想されるような「オカルト本」ではない、ということだ。激動の日本近現代史を生きたひとりの女性のライフストーリーである。それがたまたま「霊能者」であったということに過ぎない。そんな読み方も可能だろう。
とはいえ、そんな霊能者の言うこと(・・いやいや違う、霊能者の口をつうじて神さまが言うことだ)に耳を傾ける悩める人たちが、熱心な信者になっていったということ。その意味では、ごくごく普通の日本人の精神世界を描いているともいえる。
社会の表層がいかに「近代化」しようが、深層にある日本人の精神世界は連綿としてつづいている。「稲荷信仰」は現在なお根強い人気がある。「商売の神さま」というだけの存在ではない。
語り手である著者が本拠地にしていたのが京都府の福知山だ。わたしは福知山にはそれほど土地勘はないが、聞き語りになんどもでてくる舞鶴は生まれ故郷なので、なんだか親近感を感じるものがあった。
著者が語っているのは、「信じる者は救われる」ということに尽きる。そのためには、「素直な心」が重要だと説いている。
「素直な心」といえば「経営の神さま」となった松下幸之助が残したことばを想起するが、本書によれば幸之助翁は若き日に伏見稲荷で熱心に行(ぎょう)を行っていたらしい。 なるほどそういうことだったのか。著者の砂澤たまゑは、実際に何回か直接会っているという。
また、痔の治療薬であるボラギノールは、福知山出身者の創業者が、悩み多き若き日に伏見稲荷に籠もっていたときに思いついたのだという。福知山で活動していた著者ならではの話だ。
ただし、本書全体をつうじて著者が語るところに耳を傾けるかどうかは、読者次第であることは言うまでもない。
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目 次増補改訂版まえがき復刊に至るまでの奇妙な出来事はじめに第一部 神様に導かれて歩んだ第二部 信者さんたちとともに歩んだ道おわりに増補改訂版『霊能一代』の註【追記】最晩年の砂澤増補改訂版のあとがきに代えて 砂澤は「生きていた」
著者プロフィール砂澤たまゑ(すなざわ・たまえ)1922年、兵庫県朝来郡和田山村(現在の朝来市)に生まれる。稲荷信仰の行者(オダイ)。稲荷神など神の声が聞こえる稀代の霊能者だった。若いころから厳しい行をおこない、京都府福知山市の内記稲荷神社を世話しながら神様を祀っていた。独力で京都・伏見稲荷大社の支部である三丹支部を立ち上げ、多くの信者を集めた。2009年9月11日に逝去。2021年9月、第13代・伏見稲荷大社名誉宮司の故・坪原喜三郎氏とともに同社内の霊魂社に合祀される。(書籍カバーおよび出版社の書籍サイトより)
PS 『お稲荷さんと霊能者』(内藤憲吾、河出文庫、2021)
『お稲荷さんと霊能者』(内藤憲吾、河出文庫、2021)を読むと、『霊能一代(増補改訂版)』(砂澤たまゑ、二見書房、2024)成立の経緯がよくわかる。
『霊能一代』が内藤氏のよる聞き書きであることは同書にも記されているが、『お稲荷さんと霊能者』にはその事情がより詳細に記されているので、あわせ読むといいだろう。
不思議な現象に翻弄されながらも、次第次第に霊能の世界に目覚めていく著者の体験記でもある。1995年に会社を辞めてフリーになってから、著者が霊能者の口をつうじて語られる神さまのお導きで生き延びてこられたのである。
それが著者自身の実感であり、主観的だとはいえ、著者にとっての「真実」なのだということも。まこと「信じる者は救われる」のである。「素直な心」がいかに大切なことであることか。 (2024年3月5日 記す)
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