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2021年10月19日火曜日

コリン・パウエル将軍が亡くなった(2021年10月19日)-また一人「湾岸戦争」の老兵が消えていった・・

 
コリン・パウエル将軍がお亡くりなった。コロナとの合併症だという。享年84歳。ジャマイカ移民で、はじめて四つ星の将軍まで上り詰めた米国人だ。 

パウエル将軍は、1990年の「湾岸戦争」(The Gulf War)のとき統合参謀本部議長として、現場指揮官のシュヴァルツコフ将軍とのコンビで米国をパーフェクトゲームで勝利に導いた陸軍軍人。 

MBAコースに留学して米国生活を送っていた時期と重なっていたので、リアルタイムでニュースを視聴していた頃を思い出す。 

パウエル将軍は、陸軍から派遣されてMBA(経営学修士号)を取得していることもあり、尊敬だけでなく親しみも感じてきた。派遣されてのMBA取得(システム専攻)について、政治将校へのキャリアパスについては、日本でも出版された『マイ・アメリカン・ジャーニー -コリン・パウエル自伝 上中下』(角川文庫、2001)に詳しく書かれている。  

退役後は国務長官としても活躍されたが、2003年の「イラク戦争」(=第2次湾岸戦争)では、開戦のきっかけとな大量破壊兵器文書にもとづいた国連演説が汚点として残ったが、この件については『リーダーを目指す人の心得』(飛鳥新社、2017)でも振り返っており、過ちを認めて真摯な反省の弁を述べている。その誠実な姿勢がまた、あらたな尊敬をまた生み出す源泉となったことは間違いない。 


『リーダーを目指す人の心得』は、今年2021年になってからはじめて読んだが、これはほんとうにすばらしい本だ。  

軍隊時代と国務長官時代の具体的で豊富なエピソードを引き合いに出して語りながら、どのポジションにおいてもリーダーとしてどう振る舞うべきかについて説かれている。しかも、上から目線ではまったくない。パウエル氏の人柄や人徳をしのばせる内容の本になっている。 

英語のオリジナルのタイトルは、"IT WORKED FOR ME  In life and and Leadership" (それは自分には役に立った-人生において、リーダーシップにおいて)というものであり、けっして万人にあてはまるなどと大言壮語しない。それがまたすばらしい。 

そんなコリン・パウエル将軍がお亡くなりなったのは、ほんとうに残念だ。哀悼の意を表したい。ご冥福をお祈りします。合掌 




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2021年6月21日月曜日

苦境の経営者を救った『超訳 自省録』!-「月刊 PRESIDENT」の最新号(2021年7月2日号)の小特集「絶対外れなし。超!超!超一流24人のわが生涯最高の本一冊」に『超訳自省録』が登場!

 

大和ハウス工業社長CEOの芳井敬一氏が「厳しいときに助けられた哲学書」として取り上げてます。担当編集者からの連絡で知りました。 

「PART2. 実践 リーダーと組織のあるべき姿」6冊のなかの1冊です。

本書との出会い 2019年
 「非常に厳しい経営環境に置かれたとき、後輩がプレゼントしてくれた本であ る。本書のなかにある「運命がもたらすものを歓迎せよ『すべては織り込み ずみだ」との言葉を読み、とても助けられたいまも、よいときも、厳しいときも、 傍らに置いて読む、私にとっての大切な哲学書になっている

1冊の「哲学書(超訳)」が、厳しい経営環境のもと苦境にあった経営者を救ったわけですね! 

素晴らしいことです。人助けになったわけです。ああ、この「超訳」の仕事はやってよかったな、と強く思います。この機会に皆さんもぜひ!






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2020年3月20日金曜日

映画『野性の呼び声』(2020年、米国)-カナダ西海岸とアラスカの大自然にどっぷり浸かる



映画 『野性の呼び声』(2019 米国)をやっと見てきた。

いまやパンデミックとなった新型コロナウイルスの影響で、映画館のような密閉空間に2時間もいるのはどうかなという気がしないでもないが、さすがにマスクを着用したうえで見ることにする。

というのも、ようやく今週月曜日に一仕事が片付いたので(=4冊目の執筆完了!刊行は今年5月予定)、見たかった映画を見に行くことができるからだ。公開からもう3週間もたっているので、ぼやぼやしていると公開が終了してしまう。

『野性の呼び声』(The Call of the Wild)は、アメリカ文学の古典、ジャック・ロンドン『野性の呼び声』(あるいは『荒野の呼び声』というタイトルの日本語訳もある)の実写化だ。カナダ西海岸とアラスカの大自然にどっぷり浸かることのできるスケールの大きな映画だ。




「野性の呼び声」に覚醒した飼い犬バック(Buck)を主人公にした物語である。

ポスターやトレーラーでは、主演がハリソン・フォードのような印象を受けるが、本当の主演はバックを演じたイヌである。この賢い大型犬の本名はなんというのかな?

この映画をつうじて、人もイヌも、自分が自分の人生の主人であることを取り戻していく。熱い思いがわき出してくる。いい映画だ。 

ある種のロードムービーでもある。バックが飼われていたカリフォルニアから、イヌさらいに誘拐されてアラスカへ。貨車に入れられて、西海岸をひたすら北へ。

貨物船にのって到着したのはアラスカだ。アラスカで郵便配達のための犬ぞりを引っ張るイヌとして転売されたのだ。新たな主人は、フランス系カナダ人のカップル。

そこで待っていたのは、過酷な自然だけではない。犬ぞりというチームの一員になることだ。バック自身が、イヌ社会に溶け込み、どう自分の役割を果たすか、である。最終的に気が優しくて力持ち(!)のバックは、持ち前のリーダーシップ能力を発揮して、犬ぞりのイヌたちのリーダーとなる。リーダーシップもまた、この映画のテーマである。

世の中が電信の時代に移行すると、犬ぞりによる郵便配達事業は採算がとれなくなり撤退。イヌたちも路頭に迷うことになる。そして再会したのが、息子を失って孤高な世界に生きる老人。これが、この映画の「助演」のハリソン・フォードが演じる主人公だ。




亡くなった息子の夢を追体験するために始まった "You and I" の旅。この旅をつうじて、さらに「野性の呼び声」に突き動かされたバックは、狼の世界に溶け込んでいく。最終的に自分の「居場所」を発見することで、主体性を回復し、幸せをつかむことになるのだ。

それにしても、ジャック・ロンドンの原作が素晴らしいのだ。

西海岸カリフォルニアのサンフランシスコに生まれ、カリフォルニアで育ったジャック・ロンドンは、船乗りとして日本近海に来たこともあるし(小説のテーマにもなっている)、新聞記者として日露戦争の従軍記者として来日し、朝鮮にも渡っている。それだけでも、日本人としては親近感を感じる存在だ。

映画が小説と違うのは、なんといってもカナダ西海岸(ブリティッシュ・コロンビア、ユーコン)とアラスカの豊かな大自然の美しさを映像として堪能することができることだ。雄大な大自然にどっぷりと浸る映像体験。せせこましい日常から抜け出す冒険の旅の疑似体験となる。もちろん相棒はバックだ。 

ああ、アウトドアの旅に出たい。「野性の呼び声」の促しだ!







<関連サイト>


That Cuddly Kitty Is Deadlier Than You Think(New York Times, Jan. 29, 2013)
・・これぞまさに「野生の呼び声」に応答したネコ。ネコは小さな野獣。小さな肉食獣。

     
<ブログ内関連記事>

映画 『正義のゆくえ-I.C.E.特別捜査官-』(アメリカ、2009年)を見てきた・・ハリソン・フォード主演

映画 『コン・ティキ』(2012年 ノルウェー他)をみてきた-ヴァイキングの末裔たちの海洋学術探検から得ることのできる教訓はじつに多い

映画 『ラサへの歩き方 祈りの2400km』(2015年、中国)をアンコール上映で見てきた(2018年1月7日〉-チベット人一家の五体投地による「カイラス山巡礼」



『ニッポンの犬』(岩合光昭、平凡社、1998)-イヌは日本犬に限る!(2018年の干支はイヌ①)

「羊飼い」と「聖ベルナール」は性格が真逆の大型犬(2018年の干支はイヌ③)

猛暑の夏の自然観察 (3) 身近な生物を観察する動物行動学-ユクスキュルの「環世界」(Umwelt)


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2019年4月25日木曜日

カエサルの『ガリア戦記』を読了-カエサル、この男はじつにすごい!


カエサルの『ガリア戦記』を読了(*)。岩波文庫版で読みかけたが断念して30数年。聞き慣れないガリア人の固有名詞がカタカナでごちゃごちゃと大量にでてくるのも、読むのを断念した理由の一つ。 (* 読了したのは昨年12月のこと)

これなら読みやすいかもと思って、あらたに購入した國原吉之助訳の講談社学術文庫版すら「積ん読」で20年以上たっていた(汗)

ふとしたきっかけで読み始めてみたら、こんどは面白いので最後まで読了。電車での移動中に読むから、聞き慣れない固有名詞が大量にでてきても、面倒なので読み飛ばしてしまう。よほどのことがない限り、注も見ない。それが、かえってよかったのかもしれない。 

属州のガリア総督の職にあったカエサルが、9年間の任期中に毎年おこなったガリア遠征を元老院に報告したスタイル簡潔でキビキビした文体が読んでいて心地よい。 

全部で8巻あるが(カエサルの執筆は第7巻まで)、最初の2巻をすぎて第3巻に入ると、がぜん面白くなる現在形を多用した簡潔な文体、描写が具体的で、戦闘シーンだけでなく、ロジスティクスや陣地構築を含めた戦闘準備、政治的なかけひきをふくめた戦争全体の描写が興味深い。 

読んでいて、紀元前の共和制ローマのカエサルは、20世紀でいえばアメリカのマッカーサーのようなタイプの人物だな、と思った。自信満々で、やや尊大なところが似ているのだ。

いやそれ以上だろう。軍人でかつ政治家という人物でさえ、そうなかなかなかいるものではないが、弁説の才もあって、さらにこれだけの作品を自分で執筆する能力というのも希有なことだ。 

なるほど、西欧世界では2000年以上にわたって、カエサルがリーダーのモデルとされてきた理由がよくわかる。あらためて、そう思った。






PS カエサルの『内乱記』(國原吉之助訳、講談社学術文庫)

ついでに、これも「積ん読」のままだったカエサルの『内乱記』(國原吉之助訳、講談社学術文庫)も読み始めた。すぐに読み始めたのだが、途中で中断。つい先日読み終えたばかりだ。

『内乱記』もまた、カエサルがみずからの行動を描いたもの。これだけの作品が描ける文筆の才は大したものだと思う。行動の人であり、思索の人であり、弁説の人であり、文筆の人でもある。

共和制末期のカエサル自身は皇帝にはならなかったが(・・その養子のアウグストゥスが初代皇帝)、皇帝に準ずる存在だと見なしたなら、ローマ皇帝で後世に残る書き物を遺したのは、カエサルとマルクス・アウレリウスだけである。

ともに書ける才能をもった二人であったが、資質の点ではまったく異なる。リーダーシップという観点からみたら、間違いなくカエサルである。だが思索の内容の深さでいえば、マルクス・アウレリウスである。

そんな観点から、二人を比較してみるのも面白い。そのヒントをもらったのは、『ローマ人の物語』で古代ローマ史を一人で描ききった作家・塩野七生氏のエッセイ『ローマから日本が見える』(集英社、2005年。文庫は2008年)である。同書に収録された歴代ローマ皇帝の成績表が興味深い。もちろん塩野七生氏の独断と偏見によるものだが、カエサルを絶賛する塩野氏らしい個性的なものだ。







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veni vidi vici -ユーリウス・カエサル(Julius Caesar)

マンガ 『テルマエ・ロマエ 全6巻』(ヤマザキマリ、ビームコミックス、2012~2013)を一気読み-キリスト教が「国教」化される以前のローマ帝国は、じつに日本とよく似ている!

『超訳 自省録 よりよく生きる』(マルクス・アウレリウス、佐藤けんいち編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2019)が、来る2019年4月27日出版されます-わが人生初のハードカバー!

JBPress連載コラム第50回目は、「世界のリーダーたちが座右の書としてきた『自省録』(前編・後編)(2019年4月23・24日公開)


 
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2018年4月8日日曜日

書評 『なぜリーダーはウソをつくのか-国際政治で使われる5つの「戦略的なウソ」-』(ミアシャイマー、中公文庫、2018)-国家指導者が意図的にウソをつくことの意味について考察した興味深い内容の本


政治家も官僚もウソつきばかりという世の中だ。そんな状況のなかでは、こんなタイトルの本に目が行くことになる。 

『なぜリーダーはウソをつくのか-国際政治で使われる5つの「戦略的なウソ」-』(ジョン・ミアシャイマー、中公文庫、2018)がそのタイトルだ。原著のタイトルは、Why Leaders Lie: The Truth About Lying in International Politics by John J. Mearsheimer 2011 日本語版はほぼそのちぃおくや句といってもいい。出来の良いタイトルは、あえて意訳する必要はないということだろう。

ここでいうリーダーとは国家指導者のことである。国家指導者が意図的にウソをつくことの意味について考察した興味深い内容の本だ。 

国際政治学者の著者は、国際政治でつかわれるウソを以下の5つに分類している。


① 「国家間のウソ」(inter-state lies) 
② 「恐怖の扇動」(fearmongering) 
③ 「戦略的隠蔽」(strategic cover-ups) 
④ 「ナショナリスト的な神話」(nationalist mythmaking) 
⑤ 「リベラル的なウソ」(liberal lies)


国家指導者は他国との国家指導者とのあいだだけでなく、国民に対してもウソをつくことがある。だが、それは功利主義的にいって合理的な選択なこともあるので、かならずしもウソだから悪いとは言い切れないケースも少なくないのだ。 

著者が引き合いに出しているケースでは、ケネディ大統領時代の「キューバ・ミサイル危機」(1962年)だろう。 じつはケネディはフルシチョフとのあいだで、キューバからのソ連の核ミサイル撤去の交換条件として、米軍がトルコの基地に配備した核ミサイルを撤去するという「密約」を結んでいたが、「密約」の存在はアメリカ国民には隠し通した

だが、そのおかげでミサイル危機は回避され、冷戦が熱戦になることはなかったのであるから、結果オーライというべきなのだろう。これはウソの効用だ。 もちろんこの「密約」は現在では情報公開されているので、すでに歴史的事実となっている。

意外なことに国家指導者どうしはウソはつかないのに、自国の国民にはウソをつくことが多いという事実を著者は研究によって明らかにしている。 

国家と国家のあいだに存在する世界は、「万人の万人に対する闘争」というホッブス的世界であり、「性悪説」を前提にしているのに対し、国家内では「性善説」とまではいかないまでも、民主義国家においては自分たちが選んだリーダーである政治指導者に対して基本的に信頼があるので、国民は政治家の言うことを信じやすいのである。もちろん、国民の政治指導者に対する信頼が失われたとき、政治家の言うことを誰も信じなくなりウソが突き通せなくなることは、現在の日本がまさにその実例であると言うべきだろう。 

ウソのそれぞれについては、本文を読んでみることをおすすめしたい。著者が収集して分類した国際政治上の具体的なウソの事例が面白い。理路整然としてロジカルで明快な文章が、じつに読みやすい。日本語訳も読みやすい。



目 次
 

 
まえがき
 
イントロダクション
 
本書の狙い
 
本書の主な議論と構成
 
第1章 「ウソをつく」とはどういうことか 
 
第2章 国際政治で使われるウソの種類 
 
第3章 国家間のウソ 
 
第4章 恐怖の煽動 
 
第5章 戦略的隠蔽 
 
第6章 ナショナリスト的な神話 
 
第7章 リベラル的なウソ 
 
第8章 国際政治で使われるウソの難点 
 
第9章 結論
 

 
訳者解説
 
訳者あとがき

 
著者プロフィール

ジョン・J・ミアシャイマー(John Mearsheimer)
1947年生まれ。シカゴ大学のウェンデル・ハリソン特別記念教授。専門は国際関係論で特に安全保障分野。『大国政治の悲劇』で「オフェンシヴ・リアリズム」という国際関係論の理論を提唱。また中国の拡大を警戒する「米中衝突論」を主張し、2003年には米軍のイラク侵攻を批難してネオコンたちと対立した。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)  

訳者プロフィール

奥山真司(おくやま・まさし)
1972年生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学卒業後、英国レディング大学大学院で博士号(Ph.D)を取得。戦略学博士。国際地政学研究所上席研究員、青山学院大学非常勤講師。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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「JFK-その生涯と遺産」展(国立公文書館)に行ってきた(2015年3月25日)-すでに「歴史」となった「熱い時代」を機密解除された公文書などでたどる

キューバの「カストロ議長」死去(2016年11月25日)-「反米主義」のカリスマであったフィデル・カストロ





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2014年3月2日日曜日

書評『国の死に方』(片山杜秀、新潮新書、2012)―「非常事態に弱い国」日本を関東大震災とその後に重ね合わせながら考える



じつに「読ませる本」である。ストーリー展開がじつに巧みである。

2011年の「3-11」後に雑誌連載されたものだが、歴史研究をアクチュアルな状況を考えるために活用する仕方が見事である。いや、見事であるというよりも、著者自身の危機意識の高さがじかに伝わってくる。

じつはこの『国の死に方』(片山杜秀、新潮新書、2012)という本を読むことにしたのは、ビジネスパーソン向けの「日経ビジネスオンライン」の記事にで著者のインタビュー記事を読んで、おおきく納得したからだ。「持たざる国」の教訓を学ばない日本-ネトウヨなど都知事選で明らかになった民主主義国家破綻の兆し」(2014年2月21日)。

戦前日本の右翼思想の研究者でもある著者のインタビュー記事は、何度も繰り返し読みたくなるほど納得感が高い。著書も読んでみたいと思ったのはそのためだ。


権力集中を巧みに回避するべく設計された明治憲法

「明治国家」の設計ミスという論点
は、問題提起としてもきわめて重要だ。さすがに法学部出身の近代日本思想史研究者ならではのものがある。

著者は大正時代の進化論を思想的バックグラウンドにもっていた動物学者・丘浅次郎の「権力は低きに流れる」という説を紹介しながら、組織の権力が時間の経過とともに上から下へ、中心から周辺へと拡散し、権力中心が空洞化していくことを示している。鎌倉幕府も室町幕府も、そして江戸幕府もみなそうであった、と。

なぜなら、日本では権力が特定のリーダーに集中することを極度にいやがり、なんとかしてそれを回避しようとするからだ。もちろん、これは日本だけではないのだが、日本に即してみれば、明治維新政府も同様に、権力が集中しないように巧みに設計したのである。

組織論的にいえば、「自律分散型組織」は自立して自律できる個人の存在が前提になるが、それだけでは十分ではない。組織全体の方向性をあやまらないようマネジメントできるトップの存在が不可欠だ。そういうトップが不在では、組織に遠心力が働いてバラバラになってしまう危険をつねにはらんでいる。

日本では官僚組織が縦割りで省庁単位で縄張り意識がきわめてつよいのは、そもそもの「明治国家」の設計にあるのだ。著者はそれを「権力者の生まれえない構造-明治憲法という自爆装置」(第3章)と表現している。

そうでなくても遠心力の働きがちな官僚組織をまとめていたのが、明治憲法においては超法規的な存在としての元老(げんろう)であった。明治憲法がタテマエとしての「顕教」(けんきょう)であるなら、元老という超法規的な存在はホンネを支える「密教」(みっきょう)であった。

維新の功労者であた元老たちは、しかしながら生身の人間であり一人また一人と消えていく。明治憲法の欠点が露呈し始めたのは日露戦争後のことであった。

雲を目標にしながら「坂の上」を登りきったあと、ふと足元を見たらそこは断崖であったのだ。日露戦争後に日本人が劣化したというのが司馬遼太郎説であるが、明治憲法に設計ミスがあったとする著者の主張には説得力がある。


「非常事態に弱い国」日本

明治憲法の問題点が大きく裏目にでたのが1923年の関東大震災。「震災で、近代国家は一時的に死んだ-関東大震災と朝鮮人虐殺」(第4章)とあるように、帝都東京が壊滅的打撃を受けたことにより事実上の無政府状態が発生したのである。

そんな状態のなかで朝鮮人虐殺が発生したのである。アナーキスト大杉栄の一家が憲兵によって虐殺されたのである。機能不全状態の東京において、想像を絶する恐怖心が、民衆にも官憲にも存在したのである。火災保険の震災免責条項の存在が、持ち家を焼かれた一般民衆の怒りの矛先が向けられたのである。すでに第一次世界大戦末期の1917年には、ロシア革命によって労農政府が成立していた。

「非常事態に弱い国」日本が露呈したのが、関東大震災であったのだ。

日露戦争後の日本は、国民全体をまとめる大きな物語を喪失し、まさに内憂外患のなか最終的な破局である大東亜戦争へと、坂を転げ落ちるように突き進んでいくことになる。閉塞感の打破としての戦争勃発に熱狂した日本国民であったが、熱しやすく冷めやすい国民性は、何度も何度も繰り返される。

見たくないものは見ないことにしてしまう、聞きたくないことは聞かなかったことにしてしまいたいという、「見ざる言わざる聞かざる」の日本人をめぐる物語。この物語は、登場人物と舞台設定を変えたうえで再び上演されるのか?

1986年に発生したチェルノブイリ原発事故から5年で崩壊したソ連。2011年3月11日からすでに3年、あと2年でこの国も死んでいくのであろうか? もちろん国は死んでも日本人は生きていかなくてはならないのではあるが・・・

最終章の「第14章 そんなに国を死なせたいのか-半身不随の「国体」」にはおおいに考えさせられるものがある。「ポツダム宣言」受諾の条件であった「国体護持」はなされたのか否か。「国のかたち」としての天皇制はからくも存続したが、それはひじょうに重要なものを欠いた「国体」ではないのか、というのが著者が読者に提示している疑問だ。

その点にかんしては、本書が出版された以後のことになるが、国民の命を守るために力の限り陣頭指揮をとった、福島第一原発の所長であった吉田昌郎氏が事実上の「殉職」となったことは、日本国民にとっては、ある意味では数少ない「救い」であるのかもしれない。

この場を借りて、あらためて吉田昌郎氏のご冥福を祈るとともに、その「犠牲」(サクリファイス)の意味を深く考えたいと思う。日本国民は、故吉田昌郎氏のことを絶対に忘れてはいけない。


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目 次

序章 民族のトラウマ
第1章 権力は低きに流れる-猿の群れからファシズムまで
第2章 国家をわざと麻痺させる-ヒトラーの命がけの遊び
第3章 権力者の生まれえない構造-明治憲法という自爆装置
第4章 護憲思想栄えて国滅ぶ-勝手にがんばろう!日本
第5章 上意下達の徹底と崩壊-ロシア革命からソ連崩壊まで
第6章 「負け組」が怒り出す前に-国防のための保険数学
第7章 震災で、近代国家は一時的に死んだ-関東大震災と朝鮮人虐殺
第8章 いかなる非常時にも「社会公衆の安固」を-戦時特殊損害保険
第9章 舌先三寸と気分の衆愚選挙-普通選挙で国滅ぶ
第10章 衣食足りずして礼節を知らず-「土の怨念」が生んだテロ
第11章 東北が叩きのめされた-国内外で捻れる産業政策
第12章 政党が国民の信任を失う-世界大恐慌と農業恐慌
第13章 死に体政治に未曾有の国難が迫る-ゴジラが象徴した厄災
第14章 そんなに国を死なせたいのか-半身不随の「国体」
あとがき
参考文献

著者プロフィール

片山杜秀(かたやま・もりひで)
1963年生まれ。思想史研究者、音楽評論家。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学法学部准教授。著書に『音盤考現学』、『音盤博物誌』(ともにアルテスパブリッシング、この2冊で吉田秀和賞、サントリー学芸賞を受賞)、『近代日本の右翼思想』などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに情報追加)。


<ブログ内関連記事> 

書評 『未完のファシズム-「持たざる国」日本の運命-』(片山杜秀、新潮選書、2012)-陸軍軍人たちの合理的思考が行き着いた先の「逆説」とは


関東大震災(1923年)以後の日本近現代史

書評 『震災復興の先に待ちうけているもの-平成・大正の大震災と政治家の暴走-』(山岡 淳一郎、2012)-東日本大震災後の日本が「いつか来た道」をたどることのないようよう

書評 『成金炎上-昭和恐慌は警告する-』(山岡 淳一郎、日経BP社、2009)-1920年代の政治経済史を「同時代史」として体感する

書評 『原発と権力-戦後から辿る支配者の系譜-』(山岡淳一郎、ちくま新書、2011)-「敗戦国日本」の政治経済史が手に取るように見えてくる


突発的に襲ってくる危機としての原発事故、自然災害

書評 『官邸から見た原発事故の真実-これから始まる真の危機-』(田坂広志、光文社新書、2012)-「危機管理」(クライシス・マネジメント)の教科書・事例編

書評 『原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎、岩波新書、2000)-「市民科学者」の最後のメッセージ。悪夢が現実となったいま本書を読む意味は大きい
・・原子力産業草創期にエンジニアとしてかかわった著者の軌跡

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む

「チェルノブイリ原発事故」から 25年のきょう(2011年4月26日)、アンドレイ・タルコスフキー監督最後の作品 『サクリファイス』(1986)を回想する

『チェルノブイリ極秘-隠された事故報告-』(アラ・ヤロシンスカヤ、和田あき子訳、平凡社、1994)の原著が出版されたのは1992年-ソ連が崩壊したからこそ真相が明らかになった!

「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる
・・「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実」(寺田寅彦)

鎮魂・吉田昌郎所長-『死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-』(門田隆将、PHP、2012)で「現場」での闘いを共にする


かならず到来が予想されるため「想定内」としなくてはならない「危機」

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

書評 『警告-目覚めよ!日本 (大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)-"いま、そこにある危機" にどう対処していくべきか考えるために

書評 『ソ連史』(松戸清裕、ちくま新書、2011)-ソ連崩壊から20年! なぜ実験国家ソ連は失敗したのか?


日本人に絶対不可欠なマインドセット(心構え)

What if ~ ? から始まる論理的思考の「型」を身につけ、そして自分なりの「型」をつくること-『慧眼-問題を解決する思考-』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2010)
・・「もし~どうなる?」という発想法。日常動作レベルまでにしてしまわないと・・・


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