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2021年6月16日水曜日

書評『ロバート・フック ニュートンに消された男』(中島秀人、朝日選書、1996)―「科学革命」の黎明期の「巨人」フックには、なぜ肖像画すらないのか?

 
先々週のことだが『ロバート・フック ニュートンに消された男』(中島秀人、朝日選書、1996)という本を読んだ。科学史家による科学者の伝記ものだ。 

わずかに「フックの法則」に名を残しているロバート・フックだが、一般になじみがないのは、それこそ「ニュートンに消された男」だからだろう。 

ちなみに「フックの法則」とは、ごく簡単にいってしまえば、ばねの伸びは、おもりにはたらく重力に比例するというものだ。式であらわせば F=kx となる。を「ばね定数」という。

中学校の理科で習った記憶があるが、フックがどんな人かなど考えたこともなかったな。 

だが、そのフックは、じつは17世紀半ばのイングランドでは、押しも押されぬ科学界の「巨人」だったらしい。

顕微鏡をつかったミクロの観察から望遠鏡をつかった天文学まで、それこそ同時代に生きたオランダのホイヘンスなどと並ぶような存在だったのだ。ちなみにホイヘンスとは、波の干渉にかんする「ホイヘンスの原理」で有名で高校物理に登場する。

そんなフックが、なぜ科学史における影が薄くなってしまったのか? これがこの本のテーマである。 

科学研究においてなによりも重要な「実験や観察」よりも、机上の計算で「万有引力の法則」を導き出した後発組のニュートンが、その「犯人」である。

「ロンドン王立協会」(=ロイヤル・ソサエティ)の総裁として20年以上にわたって君臨し、学会ボスとして科学界の覇権を握った際、宿命のライバルであったフックにまつわるすべてを抹殺したのである。業績から実験器具にいたるまでのすべてを、である。おお、恐ろるべき「男の嫉妬」だな。 

推理小説のようなタイトルで、なかなか読ませる内容だが、読み進めながら疑問がつきまとっていたのは、なぜフックの肖像画がないのか、ということだった。これまたニュートンの仕業だったらしいフックがどんな顔していたかわからないのもそのためなのだ。 

となると、もっとニュートンについて知りたくなるというものだ。 

そこで、この本が誕生するキッカケとなった『ニュートン』(島尾永康、岩波新書、1979)を読んでみたら、古い本だがなかなか面白かった。これも今回が読むのは初めてだ。 

ニュートンについて物理学以外の活躍(?)についても多面的に記述されていて、なかなか面白かった。造幣局長時代の話や錬金術、そして聖書研究の話など、すべてが網羅されている。 

ニュートンの有名なフレーズに「巨人の肩に乗って」というものがあるが、科学史家の島尾氏の本によれば、フックのことを揶揄した含みもあるらしい。 

フックは小柄でしかも猫背気味だったらしく、「科学界の巨人フック」に対する皮肉の意味がこめられているのだとか。ニュートンは、ほんとイヤなヤツだね(笑) 

アインシュタインの相対性理論が登場するまで世界を支配してきたニュートン力学だが、どうもわれわれはニュートンを過大評価しすぎているようだ。 

「実験と観察」という、科学研究の基本中の基本の意味を再確認するためにも、ロバート・フックの存在を知っておく必要があると感じている。 





目 次
序 ワイト島への旅立ち
1 科学者フックの誕生 
 第1章 ワイト島からオクスフォードへ 
 第2章 科学者フックの誕生 
 第3章 王立協会とグレシャム・カレッジ 
2 フックの科学的業績 
 第4章 ミクロの世界の探究
 第5章 気体研究への取り組み
 第6章 フックの日常生活
 第7章 フックの法則
 第8章 天文学者フック
 第9章 17世紀のレオナルド-技術改良家としてのフック
3 二人の巨人 
 第10章 ニュートンの登場-光学論争の始まり
 第11章 巨人の肩に乗って-美しき和解?
 第12章 落体の軌道についての論争
 第13章 『プリンキピア』-決定的破裂
終章 ニュートンに消された男 
あとがき-若き日の先端研に捧ぐ
 

著者プロフィール
中島秀人(なかじま・ひでと)
1956年東京生まれ。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。1985年東京大学大学院理学系研究科科学史・科学基礎論博士課程満期退学。東京大学先端科学技術研究センター助手、ロンドン大学インペリアルカレッジ客員研究員を経て、1995年より東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授。専攻は科学技術史、STS(科学・技術・社会論)。主な著書に『ロバート・フック ニュートンに消された男』(朝日新聞社、大佛次郎賞)『 日本の科学/技術はどこへいくのか』(岩波書店、第28回サントリー学芸賞・思想・歴史部門受賞)などがある。




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・・生物学者の昭和天皇もまた「王立協会」の名誉会員であった


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2020年12月12日土曜日

新著『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』(ディスカヴァー携書、2020)が来る12月18日に発売されます!ー人生初の新書本

 
『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』(ディスカヴァー携書、2020)が12月18日に発売されます。出版者は、ディスカヴァー・トゥエンティワン。私にとっては、初の新書本となります。これで、ソフトカバーとハードカバーの単行本、文庫本、新書本と、ほぼすべての判型の著作をもったことになります。

「グローバリゼーションが強制終了した「中世から近世の移行期」を振り返り激動の「新・鎖国時代」の乗り越え方を学ぶ」というコンセプトの世界史の本であり、また自己啓発書でもあります。ビジネス書のフォーマットによる歴史書です。

「目次」は以下のとおりです。

はじめに
第1章 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で「第3次グローバリゼーションが終わった」 
第2章 「第1次グローバリゼーション」がもたらした地球規模の大動乱(16世紀) 
第3章 「第1次グローバリゼーション」の終息(17世紀) 
終章 ビジネスパーソンはグローバリゼーションが終わった「17世紀の世界史」から何を学ぶべきか
終わりに


判型は異なりますが、もちろん『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』は独立した書籍として製作されておりますが、前著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』(2017年)の続編、あるいは姉妹書と考えていただいて問題ありません。

今年は、5月に『ガンディー 強く生きる言葉』、おなじく5月に『超訳 自省録』の中文繁体字版が『超譯 沉思錄』として台湾で発売されており、合計3冊新著が出たことになります。いずれも、新型コロナ感染症(COVID-19)のパンデミック状況を生き抜くために役に立つ内容の本になっているはずだと考えております。
  
『世界史で読み解く「コロナ後」の現代』は、ぜひ冬休みの読書計画に咥えていただきたく思います。



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2020年9月21日月曜日

書評『誰も語らなかったフェルメールと日本』(田中英道、勉誠出版、2019)― 17世紀の「オランダの黄金時代」に与えた同時代の日本の影響



日本にはフェルメールのファンが多い。日常生活の何気ない仕草をテーマにした作品に親しみを感じるからだろう。

西洋美術だと身構えることなく、これといった背景知識を知らなくても受け入れることができる点も好まれる理由の1つだろう。聖書の知識もギリシア神話の知識も必要ない。ほぼ同時代とはいえ、おなじく17世紀オランダを代表する画家レンブラントとの大きな違いだ。

ちなみにフェルメールは、1632年生まれで没したのは1675年レンブラントは、1606年生まれで1669年に没している。ほぼ一世代違うが、おなじ時代におなじオランダに生きていた。

日本でフェルメールがブームになったのは、どうやら2000年以降の現象らしい。世界的にみても、かつてはそれほど人気があったわけではないようだ。

すでに一昔前の話だが、1980年代前半に過ごした大学時代に受けた「美術史」の授業でフェルメールが取り上げられていた記憶はない

とりたててフェルメール好きではない私も、全点には遠く及ばないものの、日本で開催された美術展に足を運んで何点か見ている。フェルメールは、画集やネットで見ている限りはディテールまで細かく見れるが、実物はえらくサイズが小さいことに驚かされる。近くに寄ってじっくり観察したいのだが、出展の目玉であるので並んでいる人が多すぎるのは困ったことだ。


■フェルメールと同時代の日本

『誰も語らなかったフェルメールと日本』(田中英道、勉誠出版、2019)という本が面白い。美術史家の著者が、フェルメールを見る上で黙殺されがちな同時代の日本の影響について、詳細に語ったものだ。

フェルメールは言うまでもなく17世紀オランダの画家だが、17世紀というのはオランダの黄金時代であり、その富をもたらしたのは東インド会社などによる貿易であった。

そして、この時代の日本が、ヨーロッパ勢力で唯一関係をもっていたのがオランダである。江戸幕府は、カトリックのスペイン・ポルトガル勢力を排除して、オランダとイングランドを選択したが、最終的に残ったのはオランダであった。

オランダの画家フェルメールが生きたのは、3代将軍・家光から4代将軍・家綱の時代である。

中継貿易を行うオランダ東インド会社(VOC)が日本にもたらしたのは中国の絹製品が中心であったが、それ以外にも東インド(・・現在のインドネシア)のバタフィア(=ジャカルタ)を拠点にアジアに張り巡らせたネットワークを活用して、さまざまな物品を日本にもたらしていた。

その対価が日本産の「銀」(シルバー)であったことは世界史の常識だろう。日本から銀が調達されなくなったあとは、銅がこれに代わる。資源国日本も資源が枯渇してきたからであり、国内で貨幣として使用するために必要であったからでもある。銅は、東インド会社が解散されるまで日本から販売されつづけた。

貿易というのは双方向の活動であり、帰国する船が空身で戻ることはない。銀のほかにも、さまざまな日本物産を積んで、貿易ネットワーク上の各地に持ち込んで販売している。もちろんん、陶磁器などオランダ本国まで持ち帰っていた物品もある。

その筆頭にあげられるのが、貿易の返礼品として将軍から下賜された小袖(こそで)だ。

出島にあるオランダ東インド会社の商館長(カピタン)は、幕府の家来として貿易をさせていただいていることを感謝するために、毎年1回、献上品を持参して江戸に赴き、将軍に謁見を賜わることになっていた。参勤交代のようなものだと考えていいかもしれない。その返礼品が大量の小袖だったのだ。この日本産の小袖が、同時代のオランダでは大人気となっていたらしい。

「ヤポンセ・ロック」という名前で、支配階層や富裕層のあいだではガウンとして大流行していたのだ。これは、フェルメールを含めた同時代のオランダ画家の作品に登場することでわかる。

本書には、こういった話だけでなく、光の画家フェルメールとおなじくデルフトの住人であった生物学の父レーウェンフック(・・顕微鏡をつかって、はじめて微生物を観察した人だ)レンズ磨きの職人だった哲学者スピノザとの関係など、興味深い話が登場する。

もともとユダヤ系商人の家に生まれたスピノザは、オランダ東インド会社の日本貿易のことも知っていたようだ。『神学・政治論』には、キリスト教を禁止されていた日本に駐在するオランダ東インド会社社員の話がでてくる。


このように面白い内容の本なのだが、著者の着眼点は素晴らしいものの、確実な証拠がないまま推論のみで結論づけている点が多く見られる。やや牽強付会ではないか、と感じてしまうのだ。

とはいえ、こういう見方もあるのだと知って、フェルメール作品を鑑賞してみるのは、大いに意味あることだろう。フェルメール好きの人はもちろん、そうでない人も読んで損はない1冊だと思う。


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目 次
 はじめに 
第1章 フェルメールが生きた時代、オランダそして日本
第2章 神の光と自然の光、フェルメールとスピノザの交流
第3章 『天文学者』と『地理学者』の世界
第4章 フェルメールのフォルモロジー研究
第5章 オランダとフェルメール

 

著者プロフィール
田中英道(たなか・ひでみち) 
1942年生まれ。歴史家、美術史家、東大文学部卒、ストラスブール大学Phd. 東北大学名誉教授、ローマ、ボローニャ大学客員教授。 主な著書に『日本美術全史』(講談社)、『日本の歴史』(育鵬社)、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(講談社)いずれも欧語版、『芸術国家 日本のかがやき』『高天原は関東にあった』『日本の起源は日高見国にあった』『天孫降臨とは何であったのか』『日本人を肯定する』『邪馬台国は存在しなかった』(勉誠出版)他多数。



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2014年4月18日金曜日

「ジャック・カロ ― リアリズムと奇想の劇場」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年4月15日)― 銅版画の革新者で時代の記録者の作品で17世紀という激動の初期近代を読む



「ジャック・カロ-リアリズムと奇想の劇場」(国立西洋美術館)にいってきた。会期は、2014年4月8日から6月15日まで。 

ジャック・カロといってもピンとこないかもしれないが、その銅版画(エッチング)の作品を見れば、あああれかと思う人も少なくないだろう。

特に有名なのが、山口昌男が『道化の民俗学』の単行本の箱カバーに使用されていたイタリアの喜劇コメディーア・デラルテの道化を描いた作品だ。現在は文庫化されているが、文庫版のカバーもまたもカロの銅版画が使用されている。

そう、ジャック・カロといえば、エッチングである。カロはイタリアで新しい技法を学び、試行錯誤を重ねたすえにエッチングをほぼ完成の域にもっていったエッチングの革新者である。


エッチング技法の完成とイラスト入り書籍の流通

エッチング以前の版画には木版とエングレーヴィングがあったが、エングレーヴィングは、金属板に直接刻みをつける技法だが一枚仕上げるのに時間がかかり、しかも熟練を要するのが問題であった。

エッチング(=ハードグラウンド・エッチング)は、銅板のうえに耐酸性の物質(=グラウンド)を塗り、そのうえに先端のとがった金属のニードルで自由に素描し、線描部分を酸性液のなかで腐食させる技法である。グラウンドには蜜蝋やアスファルト、松脂をまぜて加熱したものが使用される。

筆圧がそれほど必要とされないので、線の太さや濃淡で明暗をクリアに表現することができるようになった。これなら高校生でもまねごとくらいなら可能である。高校で美術を選択した人なら一度はエッチングの技法を試したことがあると思うが、じっさいにやってみればわかることだ。


(1645年発行の銅版画技法書で解説されているカロの技法)


腐食を版画の技法として応用するようになったのは16世紀に入ってからだという。エッチングだと、バロック美術の様式である光と影のコントラストをクリアに表現できるだけでなく、何度も刷ることができるのもすぐれた点だ。つまり複製が技術的に容易になったことであり、それにともないひいては製造コストも下がったということだ。

グーテンベルクの発明による金属活字を使用した活版印刷が「16世紀メディア革命」つながったが、17世紀にジャック・カロによってエッチングの技法が完成の域に達したことによって、銅版画のイラスト入りの書籍(illustrated books)が従来よりも廉価に供給可能となったのである。

ジャック・カロのエッチング作品も書籍のイラストとして製作されたものが多く、実際に美術館でみるとサイズは小さいものが大半である。


ジャック・カロが生きた17世紀という初期近代

ジャック・カロ(1592~1635)は、17世紀初頭のロレーヌ地方が生んだエッチングの革新家であり、時代の記録者でもある。

彼が生きたのは「宗教戦争」の時代であり、プロテスタント側に対してカトリック側ではイエズス会を中心とした「対抗宗教改革」の時代である。美術史的にいえばバロック時代である。

カロは43年という短い生涯であったが、王侯貴族などのパトロンのために製作したエッテングは生涯で1400点以上にのぼるということだが、たしかになんらかの形ですでに目にしたことのある作品も多い。


(コメディーア・デラルテに登場する道化を描いたエッチング作品)


ジャック・カロが描いたテーマでもっとも有名なのが、コメディーア・デラルテの道化だが、「最後の宗教戦争」あるいは「最初の国際紛争」ともいわれる「三十年戦争」(1618~1648)三十年戦争を描いた作品も一度でも見たことのある人は忘れることができないだろう。『戦争の惨禍』と題されたシリーズだ。

『大きな惨禍』のシリーズが出版された1633年は三十年戦争によってロレーヌ地方がフランス軍から(!)侵略を受けていた年である。

カロが生まれたロレーヌ公国はフランス語では Duché de Lorraine(ロレーヌ)、ドイツ語では Herzogtum Lothringen(ロートリンゲン)と、フランス語圏の東端でドイツ語圏と接する地域にある。
いわゆるアルザス・ロレーヌ地方である。

フランス語地帯とドイツ語地帯の境界領域であるが、こういう地域はウクライナもそうだが、とかく紛争に巻き込まれやすい。カロの死後のことであるが、三十年戦争終結後のウェストファリア条約(1648年)でロレーヌ地方は神聖ローマ帝国から切り離されてフランス王国領となる。

『戦争の惨禍』と題されたシリーズは、傭兵たちによる略奪と放火、見せしめの死刑、戦争によって不具となった兵士など、その当時の戦争の記録としてきわめてすぐれたものだ。


(絞首刑 1633年)


もっとも有名なのが「絞首刑」(1633年)という作品だろう(上掲写真)。

離れて見るとブドウの房がぶら下がっているように見えるが、近くによって見ると、首を縛ってつるされた死体が多数ぶらさがっていることがわかる。あきらかに「見せしめ」の効果も狙ったのであろう。多くの人が見物している光景からもそれがわかる。

展示会場の解説には、この版画を「反戦」という文脈で見ることを戒める文章があったが、まったく同感だ。中世だけでなく初期近代においても、21世紀の先進国に生きる人間とは「感覚」(センス)がまったく違うのである。これは西欧だけでく、同時代の日本でも同じだったことは言うまでもない。

『略奪の法観念史-中・近世ヨーロッパの人・戦争・法-』(山内進、東京大学出版会、1993)には以下のような記述がある。、

ルターは 「殺戮し強奪し放火しあらゆる災害を敵に加えること」を「戦争の慣わし」と規定し、その通りに振る舞うことを「愛の行為」と呼んで憚らない。・・(中略)・・ 住んでいる世界つまり「人間環境全体」が、そして「法観念」が違うのである。

ヨーロッパでも19世紀まで、死刑が見せ物として公開されていたことは「常識」として持っておく必要がある。『アンデルセン自伝』にも少年時代の思い出としてでてくる。カロの版画では登場しないが、魔女狩りの嵐が吹き荒れたのが初期近代だ。悪魔のイメージは具体的な図像としてカローにも登場している。



国立西洋美術館の所蔵作品

今回の展覧会は、国立西洋美術館の所蔵作品だという。だから、入場料を大幅に安くできているのだろう。

展覧会の案内文をそのまま引用しておこう。

本展覧会では、国立西洋美術館のコレクションに基づいて、初期から晩年に至るカロの作品を、年代と主題というふたつの切り口からご紹介します。カロの活動の軌跡をたどりつつ、リアリズムと奇想が共演するその版画世界をご覧いただきます。さらに、作品を通して、当時の芸術的潮流や社会の諸相に対するカロの姿勢を探っていくことも、この展覧会の狙いです。

ジャック・カロの作品と17世紀の欧州に関心のある人は、足を運んでみる価値のある美術展である。

それにしても、ジャック・カロのエッチング作品を多数所蔵している国立西洋美術館のアーカイブ機能と、研究教育機関としての役割には大きなものがあると、あらためて感心している。




<参考書>

国立西洋美術館が発行している『ポケットガイド 西洋版画の見かた』(渡辺晋輔、国立西洋美術館、第3版、2011)がよい。ミュージアムショップで730円で販売しているので、ついでに1冊購入しておくとよいだろう。エッチング技法の説明は、この本を参考にさせていただいた。

ジャック・カロの画集は現在では入手不能状態なので、図録(2,400円)を購入しておくのもよいかもしれない。

近代西欧の版画については『図像観光-近代西洋版画を読む-』(荒俣宏、朝日新聞社、1986)がある。いずれも著者が自腹を切って収集した版画がふんだんにカラーで収録されている。

(2014年6月15日 情報追加)




<関連サイト>

「ジャック・カロ-リアリズムと奇想の劇場-」(国立西洋美術館 公式サイト)

カロの銅版画にみる宗教政治の惨禍 (吉田八岑、早稲田大学図書館)

出品リスト(PDFファイル)



<ブログ内関連記事>

山口昌男の『道化の民俗学』を読み返す-エープリルフールといえば道化(フール)②
・・単行本も文庫版もカバーに使用されているのはジャック・カロによるコンメディーア・デラルテを描いた銅版画

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・「三十年戦争」の惨禍のなかを生き抜いた男を主人公にしたピカレスク・ロマン。舞台背景は、価値観大転換が起こった大激動期、「最後の宗教戦争」あるいは「最初の国際紛争」ともいわれる「三十年戦争」(1618~1648)当時の、分裂し、疲弊しきったドイツ

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③
・・「1648年のドイツ三十年戦争の終結によって、絶対君主制のもと正規軍として再編されていくさまが本書にはよく書かれている」。ジャック・カロの世界を理解するための必読書

「アラブの春」を引き起こした「ソーシャル・ネットワーク革命」の原型はルターによる「宗教改革」であった!?
・・「宗教戦争」を激化させたのはルターの言動と活版印刷によるビラの流通

映画 『王妃マルゴ』(フランス・イタリア・ドイツ、1994)-「サン・バルテルミの虐殺」(1572年)前後の「宗教戦争」時代のフランスを描いた歴史ドラマ
・・ドイツで「三十年戦争」が起こる前、フランスでも激しい宗教戦争が戦われた

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む
・・日本の戦国時代と欧州の宗教戦争の時代はパラレルな現象

歴史のなかの鉄炮伝来-種子島から戊辰戦争まで-』(国立歴史民俗学博物館、2006)は、鉄砲伝来以降の歴史を知るうえでじつに貴重なレファレンス資料集である
・・西洋史とパラレルな関係にある日本史だが、いちはやく戦国時代を終わらせて徳川時代に入っていた日本は銃器の開発は遅れたが、1648年のウェストファリア条約締結まで三十年戦争という恒常的な戦争状態にあった欧州は、その後も戦争が銃器の開発を推進していた

エル・グレコ展(東京都美術館)にいってきた(2013年2月26日)-これほどの規模の回顧展は日本ではしばらく開催されることはないだろう
・・17世紀前半まで対抗宗教改革の中心地スペインに生きたエル・グレコ(1541~1614)

書評 『そのとき、本が生まれた』(アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ、清水由貴子訳、柏書房、2013)-出版ビジネスを軸にしたヴェネツィア共和国の歴史

「泥酔文化圏」日本!-ルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』で知る、昔から変わらぬ日本人
・・ジャック・カロと同時代の日本を布教にあたったイエズス会士が記録

(2014年8月22日 情報追加)


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