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2023年10月2日月曜日

書評『プーチンの敗戦 ー 戦略なき戦術家の落日』(池田元博、日本経済新聞出版、2023)ー タイトルにすべてが言い尽くされている

 
先々月末のことになるが、『プーチンの敗戦 ー 戦略なき戦術家の落日』(池田元博、日本経済新聞出版、2023)を読了した。 内容は、タイトルにすべてが言い尽くされている

自分が執筆した新聞記事を利用して、再構成して単行本にまとめたものだ。

連載ものを加筆修正しただけで単行本化することの多いのが、日経にかぎらず新聞社系に多いが、そういったものとは違って、この本は読んでいて違和感はない。執筆記事がすべて自分自身によるものだから可能なのだろう。

「現在」を理解するために、即座に「過去」にさかぼる。このパターンの繰り返しが最初から最後までつづく。

現在と過去を行ったり来たりするこの手法は、うっとおしいと思う読者もいるだろう。だがわたしは意外と面白いなと思った。そのつど過去を検証することが可能になるからだ。人間は近過去のことでも、あっという間に忘れてしまう存在である。ましてや20年前のことなど遠い記憶ですらない。

全体の流れを見るだけでなく、プーチン本人とは関係のない勝手な「期待感」と、大きく期待するがゆえの「失望感」。この「失望感」はだんだんと大きなものへと変化していく。

「裏切られ感」とさえいっていいような失望感が閾値(いきち)を超えたとき、それはプーチンにとってだけでなく、その他の世界にとっても「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えてしまったことが見えてくるからだ。

プーチンが大統領代行に就任した1999年からほぼ四半世紀がたつ。この間の著者による観察と考察を読んでいると思うのは、以下のようなことだ。

プーチンの思考は、最初から戦略的なものではなかったのだ。柔道家としての戦術家的なリアクション的反応に過ぎないのである。技をかけられたら、それに反応するだけである。相手のリアクションをその場で判断して技をかけるだけ。

2022年2月に始まったウクライナ侵攻は、技をかけたのはプーチンの側であったが、その後の状況をみていると、まさにそうとしか言いようがない。

大国ロシアの復活という「野望」は、プーチンにとっては「願望」に過ぎず、その「ビジョン」は「戦略」をともなったものではない戦略を欠いたそのビジョンは、まさに文字通りの「幻影」でしかないのだ。

エリツィンに見いだされなかったなら、中堅のFSB官僚で終わったであろう人物がプーチンである。独裁者スターリンもそれを支える官僚群がいなかったら成り立たなかった存在だ。プーチンもまた然り。

ロシアの行く末について語るのはまだ時期尚早とはいえ、プーチンの落日がロシアの衰退の道に、そのまま直結していることは言うまでもない

日経新聞の連載をもとにしたものなので、もうすこし経済関連の記述が多いと「期待」していたのだが、ちょっと「失望」を感じている。

というのは、おなじ日経記者による『帝国自滅-プーチン vs 新興財閥-』(石川陽平、日本経済新聞出版社、2016)は、経済を中心に描いていたので、よけいにそう思うからだ。

もちろん、純粋に経済のみで語ることができないのがロシアという存在であり、現在の世界情勢が政治経済学と軍事をふくめた安全保障という枠組みで考えなければならない以上、当然といえば当然ではあるのだが・・・




目 次 
プロローグ
第1章 未来への希望 
第2章 協調から敵対へ 
第3章 大国主義と国家統制 
第4章 強権統治と命の重さ 
第5章 裸の王様 
第6章 しぼむ大国 
第7章 日ロ関係への視座
エピローグ
あとがき
プーチン関連年表
【主要な参考文献】
【注】


著者プロフィール
池田元博(いけだ・もとひろ)
日本経済新聞編集委員。1982年東京外国語大学ロシア語科卒、同年日本経済新聞社入社。東京編集局産業部、国際部、証券部などに在籍するとともにモスクワ特派員、モスクワ支局長、ソウル支局長を歴任。帰国後は論説委員会で長年、ロシア・旧ソ連や朝鮮半島情勢を中心に国際問題を担当。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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