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2023年10月24日火曜日

書評『イーロン・マスク 上・下』(ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳、文藝春秋、2023)ー 人類の未来を憂い、資本主義とビジネスの枠組みでフロンティア開拓に突き進むクレイジーな天才。その軌跡をオープンエンドの現在進行形で中継

 

『イーロン・マスク 上・下』(ウォルター・アイザックソン、井口耕二訳、文藝春秋、2023)をようやく読了。ことし2023年の9月13日に「世界同時発売」された本だ。

上巻の帯に「悩める天才」とあるが、それもさることながら「進軍の巨人」というべきかもしれない。

長い、じつに長い本であった。上下あわせて900ページ超。読み終えるまで3日かかったが、正直いって、読むのにくたびれてしまった。イーロン・マスク(Elon Musk)という「超人」が、止まることなく「進軍」している、そのエネルギーの熱量のせいだろう。

上巻の途中からぐんぐん面白くなってくるが、読者は最後の最後までイーロンに振り回されっぱなしである。

レオナルド・ダヴィンチから始まり、アインシュタインからスティーブ・ジョブズまで、「天才の伝記」を書かせたら右にでる者はいないという、伝記作家で経営者のアイザックソン氏。2年間にわたって密着取材を行ったとのことだが、それはおなじだったのではないか? 

イーロンの下で働いてきた人たちにとっては、言うまでもない。いや、現在進行形で振り回されている。

上下あわせて全95章。ほぼ時間軸に沿って進行していく形式になっているのは、イーロンがスペースX や テスラ といったハイテク製造業だけでなく、それ以外のニューラルリンク、さらにはまた昨年2022年からはSNSのツイッター(現在はX)まで同時進行させているからだ。


(とある書店の店頭ショーウィンドウに飾られているもの)


下巻は、2020年から2023年まで、足かけ4年の現在進行形の出来事を、リアルタイムで中継しているような記述である。

とりあえず、2023年4月で中継が終わっているが、まだまだ現在進行形で進軍がつづいている。オープンエンドなのである。


■かつてのモーレツな日本企業と日本人のような

「ひとつの事業に全集中して、すべての資源をその事業に投入せよ」というのは、伝説の大富豪アンドリュー・カーネギーの成功セオリーだ。

だが、そんな「常識」をはなから無視しているのがイーロン・マスクだ。現時点で、全部で6つの会社を陣頭指揮しているのである。

「超人的」というよりも、「超人」そのものではないか!

1971年生まれで、現在52歳のイーロンは、まさに「知力・体力・気力が一体」となって、「前へ前へと進軍」をつづけているディスラプターである。ディスラプターとは、既存事業という過去をスパンと断ち切ってしまうディスラプション(disruption)の実行者のことである。

「撃ちてしやまん」という、日中戦争下の日本のスローガンを想起させるものがある。敵を打ち破るまで戦いはやめるな、というマインドセットである。

しかも、徹底した「現場主義」であり、「コスト削減の鬼」といってもいいマイクロマネジメントの実行者である。まるでかつての日本の製造業のようだ。

経営者が現場で寝泊まりするのも当たり前朝から夜中まで働きづめで、いきなり深夜に部下に召集をかけることもたびたびである。昔風にいえばモーレツ社長そのものだ。現在の日本なら、ブラック企業だとして糾弾されることだろう。

無茶ぶりに見えるが、生産管理の世界でいう「ムリ・ムダ・ムラをなくせ」というセオリーどおりである。その実現のためには無茶も必要だということだ。

マーケティング依存の「マーケットイン」ではなく、製品そのものが魅力的ですばらしければ、かならず売れるはずだという「プロダクトアウト」の発想。ビジョンの実現と危機感の解決のためには、目に見えるカタチとしての、魅力ある製品がなければ説得力がないという哲学。

需要はつくるものだという信念であり、そのためには徹底して設計と製造の融合を実行させる。サプライチェーンは短ければ短いほうがいい。だからアウトソーシングや系列化など論外で、部品からすべて内製化すべしというの姿勢。

製品ユーザーとの距離は、近ければ近いほうが開発には都合がいい。だから、工場は市場の近くにつくる。米国と中国とドイツである。

アイデアはおなじ空間で働いているほうが生まれやすいから、リモートワークはダメだ、全員出社せよ。まるでホンダの「ワイガヤ」だな。

考えてみれば、自分自身の経験を振り返っても、日本企業も昔はこんなこと当たり前だったような気もする。それだけ、日本企業にも、日本製品に魅力がなくなってしまったということか。日本は進むべき方向を間違っているのかもしれない。

だからこそ、イーロン・マスクのような存在は、日本にも必要だ。こんな超人と付き合うのは、それこそミッション・インポッシブル(=実行不可能なミッション)であろう。とはいえ、過激にみられがちなイーロンの言動だが、日本企業にとってもヒントになることは多いのではないか?

たとえば、ミニカーなどおもちゃが量産プロセス構築において参考になるという話や、部品点数はできるだけ減らしてミニマムにする、マテリアル(素材)への注目などなどである。

そんなヒントが、イーロン自身の発言として、この本のなかには無数にちりばめられている。ディテールにも注目してほしい。


(Author Walter Isaacson talks new Elon Musk biography)


■イノベーションはクレージーな人間の意思と行動なしには生まれない

ミッション・インポッシブルであればあるほど燃える男。困難や苦難はエネルギー源なのだ。アドレナリン出しっ放しである。

飽きてしまうことをなによりも恐れている男何もしていないことに耐えられない男。無理矢理にでも問題をつくりだしては、みずからをむち打つだけでなく、関係する人びとを巻き込んで尻を叩きまくる。

超絶的なワーカホリック。「ワーク・ライフ・バランス」などということばは、イーロンの辞書にはないのだろう。「ワーク・イズ・ライフ」なのだ。

どう考えても実現不可能としか思えないデッドライン設定して公表し、自分とチームを崖っぷちに追い込む修羅場。切迫感。無茶ぶり。実現不能と思える高い目標を設定して、みずからが先頭にたってチーム全体を追い込む姿勢。

たしかに、そうでもしなければイノベーションなど生まれないこともたしかだ。人間は追い詰められて、追い詰められて、はじめて局面打開の知恵が生まれてくる。いや、降ってくるというべきか。



Falcon Starship 英語版の裏表紙。日本語版は下巻の裏表紙に)


火星ミッション実現のための第一歩である、民間企業のスペースX が存在しなければ、米国の宇宙開発は過去の話になってしまっていたことだろう。

「スターリンク」がなければ、ウクライナは戦いつづけることなどできなかっただろう(*ただし、イーロン・マスク自身は、スターリンクはあくまでも民生利用に限定したいようだ)。

いまだ道半ばとはいえ、「テスラ」が存在しなければ、ロボタクシーなどの自律走行の自動運転など夢のまた夢というところだろう。

アイザックソン氏が巻頭に記したイーロン・マスクとスティーブ・ジョブズのことばは、説得力をもって迫ってくる。

最後まで読み終えて、ふたたび巻頭にもどってその2つのことばを読むと、心の底から納得しないわけにはいかない。




感情を逆なでしてしまった方々に、一言、申し上げたい。
私は電気自動車を一新した。
宇宙船で人を火星に送ろうとしている。
そんなことをする人間がごくふつうでもあるなどど、
本気で思われるのですか、と。(イーロン・マスク、2021年5月8日)

 




自分が世界を変えられると本気で信じるクレイジーな人こそが、
本当に世界を変えるのだ。(スティーブ・ジョブズ)
 

ただし、イーロン・マスクとスティーブ・ジョブズには決定的な違いがある。

ジョブズはデザインには、それこそクレイジーなまでのこだわりがあるが、製造は外部にまかせてもかまわないという姿勢であった。

これに対して、イーロン・マスクは真逆である。デザインだけでなく、製造も自分でやらなくてはダメだという姿勢である。

その意味では、同類でありながらも、イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズのアンチテーゼであり、かつての日本企業のデジタル時代における「超進化形」といえるかもしれない。

日本の企業人も再考が必要だろう。



■本人は人間にはあまり関心がないが、その人物そのものは好奇心を誘発する存在

イーロン・マスクという「人間」は、事業以外の側面でも面白い。

ビジネス活動をつうじて、「人類」を救うという壮大なビジョン実現には邁進するが、個別の「人間」関係にはほとんど関心がない。アスベルガーを自称していることもあり、脳の配線がどうも一般人とは違うようだ。


(イーロン・マスクがモデル?といわれる映画『アイアンマン』2008年)


複数の女性とのあいだに子どもを何人もつくっているが、その多くが人工授精や代理母をつかっている。人類の数を減らすなという理由もあるようだが、どこまで本気なのかでまかせなのかわからない。

浴びせられてきた金持ち批判に嫌気がさして、不動産をすべて売却してしまい、転々と住む場所を変えながら生活している。コレクションや所有には関心はないのである。

そもそも金儲けじたいが目的ではなく、しかも慈善事業にもほとんど関心がない。かれにとっては、ビジネス活動そのものが、人類への貢献なのである。その意味では、松下幸之助にも通じるものがあるというべきかもしれない。

みずからが信じる「フロンティア開拓」に全財産をつぎ込む姿勢掛け金をずべてぶち込む「オールイン」型の新事業投資。のるかそるか、である。

リスクテイカーなんていうレベルではない。ほとんどギャンブルである。リーマンショックの2008年には、それこそ破綻すれすれまでの財務的綱渡りを演じている。それにしても壮絶だが、もしかすると無意識レベルでは破滅願望があるのかもしれない。




「AIが人間を凌駕させないための戦い」はドンキホーテ的でさえあるが、こういう人は世の中には必要だろう。

2023年に突然に始まり、急激に進化する「生成AI革命」で、2045年に想定されていた、AIが人間の能力を凌駕してしまう「シンギュラリティ」(特異点)が一気に早まってしまったといわれる。

わたし自身は、AIが人類を凌駕してしまうかもしれないが、残念ながらなってしまえば、それはそれで仕方ないだろうと思っている。だが、それは「絶対にダメだ」と論陣を張るだけでなく、実際の製品(モノ)をつうじて世の中に訴えかけるイーロン・マスクの姿勢は希有なものである。


(Optimus, aka Tesla Bot Wikipediaより)


テスラで開発をつづける「人型ロボットのオプティマス」もまたその一つである。

遠隔操作するロボットではなく、ロボット自身に人間の言動を「学習」させるヒューマノイドを開発するという姿勢。さすがである。「学習」という点にかんしては、わが子の X の成長ぶりも参考になっているようだ。

そんなイーロンにとって、機械学習のデータ源として、テスラによる動画だけでなく、ツイッターに投稿される文章や画像や動画もつかえることがわかったというのは、予期せぬ副産物だったようだ。

現在は、データを握った者が、すべてを握る時代なのである。だからこそ、その競争に勝つことは、イーロン・マスクにとって至上命題なのである。負けてはいけないのだ。





■はたして火星にコロニーが建設されるのはいつの日か?

壮大なビジョンと強い危機感。最初から最後まで振り回されっぱなしで、ついていくのはたいへんだ。アイザックソン氏によるこの評伝は、まさにイーロン・マスクそのものである。

「撃ちてし止まん」タイプの超人。こんな人間こそイノベーターとして、「フロンティア開拓」を行うのである。サイエンス・フィクション(SF)から、フィクションを取り除くとのがかれのミッションだ。

はたして、かれが生きているうちに火星にコロニーはつくれるのか? いつまで走りつづけることができるのか?

おそらく、というより間違いなく、枯れるということはないだろう。ある日、突然バタンと倒れて終わる。そんなことになるのだろう。まさに「撃ちてしやまん」である。

とはいえ、現在進行形のイーロン・マスクは、まだまだ当分のあいだ目が離せない存在であり続けることは間違いない。

すでに70歳を超えているアイザックソン氏に、続編を書くことはあるのだろうか? 文庫化される際には多少の追補がなされるであろうが・・・。


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<関連サイト>



(南アフリカでの子ども時代のイーロン) 





「講談社の書籍紹介」より
驚異的な頭脳と集中力、激しすぎる情熱とパワーで、宇宙ロケットからスタイリッシュな電気自動車まで「不可能」を次々と実現させてきた男――。シリコンバレーがハリウッド化し、単純なアプリや広告を垂れ流す仕組みを作った経営者ばかりが持てはやされる中、リアルの世界で重厚長大な本物のイノベーションを巻き起こしてきた男――。「人類の火星移住を実現させる」という壮大な夢(パーパス)を抱き、そのためにはどんなリスクにも果敢に挑み、周囲の摩擦や軋轢などモノともしない男――。いま、世界がもっとも注目する経営者イーロン・マスクの本格伝記がついに登場!イジメにあった少年時代、祖国・南アフリカから逃避、駆け出しの経営者時代からペイパル創業を経て、ついにロケットの世界へ・・・・・・彼の半生が明らかになります。(講談社BOOK倶楽部『イーロン・マスク 未来を創る男』
 



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(2023年12月20日 情報追加)


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■先行する「天才」起業家。同類のモーレツなディスラプター





■イノベーションとディスラプション






■宇宙ビジネスと火星移住




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■イーロン・マスクの原点である南アフリカ



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