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2023年9月7日木曜日

『イスラーム思想史』(中公文庫、1991)を30年ぶりに読む。巻末付録として収録された「TAT TVAM ASI (汝はそれなり) バーヤジード・バスターミーにおけるペルソナ転換の思想」(1989年)という論文がすばらしい

 

ちょっと前のことだが、必要があって『イスラーム思想史』(中公文庫、1991)を30年ぶりに手に取って読んだ。といっても、全部ではなく一部ではあるが。  

著者は、世界的なイスラーム学者で、日本を代表する哲学者であった井筒俊彦(1914~1993没)。ことし2023年は、早くも没後30年ということになる。

代表作は『意識と本質』(岩波書店、1983)。この本は岩波文庫に収録されてロングセラーとなっている。井筒氏の本は、真に理解できているかどうかは別にして、リアルタイムで単行本を購入し、ほぼすべて読んできた。 

『イスラーム思想史』の初版は1975年だが、もともとは1941年に刊行されたものが原本。すでに80年以上前になるわけだな。

この本の存在をはじめて知ったのは高校時代か、大学時代か忘れてしまったが、箱入りの単行本として岩波書店から出版されていた。いっこうに売れずに自宅から近い駅ビルの書店の棚の上方に鎮座していたのをいつも眺めていた。岩波書店の本は日本の書籍流通のなかでは例外的に「買取制」なので、そういう事態が発生するのだ。

井筒氏の生前に出版された中公文庫版には、「TAT TVAM ASI (汝はそれなり) バーヤジード・バスターミーにおけるペルソナ転換の思想」(1989年)という論文が巻末付録としてつけられていて、これがじつにすばらしい内容なのだ。 この一編を読めるだけでも中公文庫版の価値がある。

8世紀のイランに生きた、神秘主義スーフィーの思想家バーヤジード・バスターミーが、古代インドの「ウパニシャッド」の「梵我一如」に影響を受けていることを実証したのがその内容だ。 

バーヤジード・バスターミーは、井筒氏の知られざる名著であった『神秘哲学 第2部 ― 神秘主義のギリシア哲学的展開』(人文書院、1978)の「第2章 プラトンの神秘哲学」にも登場する。そこでは、「ギリシア神秘思想の東洋的展開というべき回教神秘主義」のひとつとして紹介されている。この本も2019年に岩波から文庫化されて入手が容易になった。原本は1949年の出版である。

インドの「梵我一如」の思想は、「神人合一」と表現することも可能だ。東アジアの人間にはそれほど違和感のないこの思想も、アッラーという人格神を中心に据えた一神教のイスラームにとっては、きわめて危険なものとなる。 あえて説明するまでもあるまい。

バーヤジード・バスターミーは、いかにしてその危険を回避し得たのか、そのスリリングな思想ドラマが井筒氏によって手に取るように記述されているのだ。それにしても、はたして30年前にその議論をどこまで読めていたのかは、はなはだ疑問ではあるが・・・。

7世紀に誕生したイスラームは、その後、西から古代ギリシアの知的財産を存分に吸収して「文明」として確立された。それだけでなく、東からはインドの影響を受けているのだ。イランは東西文明の交差点、あるいは結節点のポジションにある。

日本人はインドというと、大乗仏教が中国を経由して日本に影響した側面だけを考えがちだが、そうではないことを知らなくてはならない。

そういえば、梅棹忠夫氏はインドは東洋でも西洋でもなく「中洋」であると主張していたな、と思い出す。 イランもまた「中東」というべきか、それとも「中洋」というべきか。そんなことを、あらためて考えてみる。 


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目 次 
第1部 イスラーム神学  ― Kalam
第2部 イスラーム神秘主義(スーフィズム)― Tasawwuf
第3部 スコラ哲学(Falsafah)― 東方イスラーム哲学の発展
第4部 スコラ哲学(Falsafah)― 西方イスラーム哲学の発展
後記
人名索引
TAT TVAM ASI (汝はそれなり)「TAT TVAM ASI (汝はそれなり) バーヤジード・バスターミーにおけるペルソナ転換の思想」

著者プロフィール
井筒俊彦(いづつ・としひこ)
1914年、東京に生まれる。1937年、慶応義塾大学文学部卒業。1968年まで慶応義塾大学文学部言語文化研究所教授。翌年、カナダ・モントリオールのマックギル大学イスラーム教授に就任、1972年、パリ Institut international de Philosophie 会員、その後、イラン王立哲学アカデミー教授を経て、慶応義塾大学名誉教授、日本学士院会員となる。文学博士、専攻は東洋哲学、言語哲学。1993年没。


<ブログ内関連記事>




・・『華厳経』への言及がされており、「自他未分離」の状態でイノベーションが生み出されると体験者が語る。それはなにかが生み出される根源である「カオス」状態と言い換えていいかもしれない

・・インドから「西方」に拡がった仏教を「薔薇十字仏教」として語る。その痕跡はいまでもトレース可能


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2015年12月30日水曜日

書評『講義ライブ だから仏教は面白い!』(魚川祐司、講談社+α文庫、2015)ー これが「仏教のデフォルト」だ!


この本は面白い。ほんとうに面白い。

帯に記された「ニートになれ。世界を終わらせろ。」というコピーに違和感を感じたなら読むべきだ。読めば一般読者の「仏教」観は完全にくつがえされるだろう。いや、へたに「仏教」について予備知識がなければ、逆にすんなり理解できるかもしれない。

『講義ライブ だから仏教は面白い』(魚川祐司、講談社+α文庫、2015)は、もともと電子書籍版として出版されたものを、加筆修正のうえ文庫本として書籍化したものだ。

著者は1979年生まれの「仏教研究者」。ミャンマーのヤンゴンで瞑想修行の実践を行いながら仏教教理の研究をすすめている。著者が「仏教徒」と名乗らないのは、特定の宗派の立場からする説法ではないからだ。

著者は、聞き手との対話の形式をつかいながら「初期仏教」、すなわちブッダ(=仏陀)が言っていることを仏教経典に即して解説している。聞き手の合いの手がちょっと過剰ではないかという気がしないでもないが、ライブという臨場感が伝わってくるのがよい。

この本で解説されていることは、いわば「仏教」のデフォルト、つまり「初期設定」なのである。その後の「仏教」の展開は二次創作的なバリエーションだから、この初期設定についてただしく理解しておくことが大前提になるのだ。

ミャンマーは、スリランカとならんでテーラヴァーダ仏教(=上座仏教)の中心地。テーラヴァーダ仏教は、「初期仏教」の特徴を現代までよく伝えているといわれる。

そのほかタイやラオス、カンボジアという「上座仏教圏」においては、「上座仏教」は、出家者ではなくても、一般民衆の思考に多大な影響を及ぼしている。
  
さらに、いまグーグルなどアメリカのIT系大企業で社員教育の一環として本格的に導入されている「マインドフルネス研修」は、「テーラヴァーダ仏教」のウィパッサナー瞑想法を応用したものだ。マインドフルネス(mindfulness)とは「気づき」の状態に満ちていることである。

日本の「大乗仏教」に慣れている人には、本書の内容はとんでもなく奇異な印象さえ受けるだろう。現代日本人の「常識」とは相容れないからだ。だが、「初期仏教」についての理解がないと、根本的な認識を誤ることにもなりかねないはずだ。

まさに「仏教はヤバい!」のである。最近の若者風にいえば、「ヤバい!」は「スゴい!」という意味になる。ヤバいほどスゴいということだ。その意味は、本書を読んでいけば実感できるはずだ。

まあ、だまされたと思って、読んでみることを強くすすめますよ。読み終えたとき、これが「仏教」のデフォルトだと理解していることだろう。



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目 次

はじめに
第1回 仏教はヤバいもの
第2回 仏教の核心
第3回 仏教の基本
第4回 無我と輪廻をめぐって
第5回 「世界」を終わらせるということ
第6回 仏教の実践
第7回 「悟り」はあるかないか問題
あとがき
解説: 宮崎哲弥


著者プロフィール

魚川祐司(うおかわ・ゆうじ)
1979年、千葉県生まれ。著述・翻訳家。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程満期退学(インド哲学・仏教学専攻)。2009年末よりミャンマーに渡航し、テーラワーダ仏教の教理と実践を学びつつ、仏教・価値・自由等をテーマとした研究を進めている。処女作『仏教思想のゼロポイント「悟り」とは何か』(新潮社)が話題となる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<関連サイト>

ミャンマー仏教書ライブラリー ~英緬仏教書の翻訳・公開~(著者のサイト)


<ブログ内関連記事>

書評 『知的唯仏論-マンガから知の最前線まで ブッダの思想を現代に問う-』(宮崎哲弥・呉智英 、サンガ、2012)-内側と外側から「仏教」のあり方を論じる中身の濃い対談

書評 『仏教要語の基礎知識 新版』(水野弘元、春秋社、2006)-仏教を根本から捉えてみたい人には必携の「読む事典」


■上座仏教全般と初期仏教

『ブッダのことば(スッタニパータ)』は「蛇の章」から始まる-蛇は仏教にとっての守り神なのだ

今年も参加した「ウェーサーカ祭・釈尊祝祭日 2010」-アジアの上座仏教圏で仕事をする人は・・

タイのあれこれ (4)-カオパンサー(雨安吾入り)

書評 『「気づきの瞑想」を生きる-タイで出家した日本人僧の物語-』(プラ・ユキ・ナラテボー、佼成出版社、2009)-タイの日本人仏教僧の精神のオディッセイと「気づきの瞑想」入門


■ミャンマーの上座仏教(=テーラヴァーダ仏教)

ミャンマー再遊記(8)-熱心な上座仏教徒たち

三度目のミャンマー、三度目の正直 (6) ミャンマーの僧院は寺子屋だ-インデインにて (インレー湖 ⑤)

三度目のミャンマー、三度目の正直 (8) 僧院付属の孤児院で「ミャンマー式結婚式」に参列


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