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2020年6月20日土曜日

書評『ペスト大流行 ー ヨーロッパ中世の崩壊』(村上陽一郎、岩波新書、1983)ー 感染症爆発とトビバッタの大発生による食糧危機は同期する!?


『ペスト大流行-ヨーロッパ中世の崩壊』(村上陽一郎、岩波新書、1983)を読んだが、面白い事実を発見した。

著者の村上陽一郎氏は、日本を代表する科学史の大家の一人。大学学部時代にヨーロッパ中世史のゼミにいたこともあり、この本は出版された時点ですぐに読んでいるのだが、いくら探しても本が見つからない。仕方ないので、今回の新型コロナウイルスのパンデミックで復刊されたので先日購入した。 

じつに37年ぶり(!)の再読となるわけだが、当然のことながらディテールなどまったく記憶から消えていた。14世紀に地中海沿岸を含むヨーロッパ全域に拡大したペスト被害の恐怖がユダヤ人をスケープゴートにしたという点だけに注目していたからかもしれない。この点は、いま大きな問題となっている米国の不当な黒人差別と同根だ。 感染症爆発は分断と差別、そして暴力を生み出すのは人間の悲しい性(さが)である。

本書で興味深いのは、感染症爆発とトビバッタの発生がほぼ同時期に発生していることが、歴史的に確認できるという記述だ。 


奇妙なことに、ペストの流行とトビバッタの大発生とは、不思議に暗合する(P.57) 


アフリカ東部で大発生し、食糧を食い荒らしているアフリカトビバッタ(locust)の群れが、インドでも被害を拡大させている事態が、ようやく日本語メディアでも報道されるようになっているが、感染症の爆発とトビバッタの大発生は、無関係の現象ではないと考えるべきかもしれない。


 
(サバクトビバッタの大群 東アフリカからパキスタン・インドに被害が拡大(ロイター よりキャプチャ)


引き続き『ペスト大流行』から引用を続けよう。


14世紀に入って、ヨーロッパのみならず当時歴史を記し得た文化圏に共通に、気象の変化が起こっていた。打ち続く旱ばつ、寒冷な夏、洪水などによって農村は極度の疲弊に追い込まれた」(P.56) 

14世紀に入って、中国大陸は、洪水、旱ばつ、地震に加えて、大蝗害にも見舞われていた」(P.58)  

14世紀ペストの世界的大流行が、古今未曾有の伝染力をもつペスト菌によって支えられていた(・・中略・・)その背後には、こうした自然環境の極度の悪化や、それに伴う飢饉によって、人びとの抵抗力が予想以上に低下していたこと(・・後略・・)」(P.60) 


蝗害(こうがい)とは、イナゴの食害のことだ。基本的に、トビバッタの食害とおなじである。

感染症爆発とトビバッタの大発生による食糧危機は、いずれも地球環境の変化がもたらした自然災害と関係があるということだ。トビバッタの大発生は、土中の湿度変化が影響しているのである。

 14世紀の場合は「地球寒冷化」であったが、21世紀の現在は「地球温暖化」だ。寒冷化と温暖化では方向が違うとはいえ、いずれも正常な状態からの逸脱であることには変わりない。

ペスト菌という「細菌」と、新型コロナウイルスという「ウイルス」の違いがあっても、感染症爆発という点は共通している。 細菌は生物だが、ウイルスは生物ではない。生物と無生物の中間的存在だ。

現在の地球温暖化は、太陽黒点などの自然現象に由来するものもあるが、化石燃料の消費増大という人為的な要因もすくなからずある。 

新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた人類だが、根本要因にさかのぼって地球環境問題について真剣に反省し、アクションを起こす必要があると痛感する。 






<ブログ内関連記事>

JBPressの連載コラム第74回は、「繰り返される中国とイタリアの悲劇的な濃厚接触-パンデミックはグローバリゼーションを終わらせるのか」(2020年3月24日)

書評 『ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在-』(山内一也、みすず書房、2018)-こういう時期だからウイルスについて知る

映画『コンテイジョン』(米国、2011)を見た-その先見性の高さに脱帽

スワイン・フルー-パンデミック、すなわち感染症の爆発的拡大における「コトバ狩り」について

大飢饉はなぜ発生するのか?-「人間の安全保障」論を展開するアマルティヤ・セン博士はその理由を・・・

「ジャパニーズ・ミラクル」?「ジャパニーズ・ミステリー」?-念ずれば通ず、かな?


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2020年5月30日土曜日

書評『ウイルスの意味論 ― 生命の定義を超えた存在』(山内一也、みすず書房、2018)― こういう時期だからこそウイルスについて知る



『ウイルスの意味論-生命の定義を超えた存在-』(山内一也、みすず書房、2018)を読了。新型コロナウイルスのパンデミック最中だからこそ、ウイルスについて、よく知っておく必要があると思うので読む。 

著者の山内一也氏は東京大学名誉教授でウイルス学の第一人者である。1931年生まれなので、この本が出版されたときは87歳。そのとおりで、まさにウイルス研究の生き字引のような人だウイルス学じたい、歴史はきわめて短い。 

この本は、「ウイルスとは何か?」という問いに対して、一言で「こうだ!」と述べているような教科書ではない。

生物ではないが無生物でもない、たんなる情報とも言い切れない物質がウイルスだが、生物誕生の初期段階にウイルスがかかわっているといわれることもあるくらい、ウイルスは太古から存在するのだ。 

ホモサピエンス(人類)とは比較しようもないほど古くから、ウイルスは存在するのである。ホモサピエンスは、たかだか20万年くらいの歴史しかない。 

しかも、生息場所は地上だけではないのだ。水中、しかも深海にも、それこそ無数に存在するのがウイルス。ウイルス学で解明されているのは、そのごくごく一部に過ぎないのである。 

そんなウイルスについて、著者はウイルス研究の歴史を振り返って、あらたしい研究成果が出てくるたびにウイルスについて書き換えられてきたことを、みずからの経験も振り返りながら淡々と記述している。 

全部で11章で構成されているが、最初の8章までは、そういった研究の拡がりと深まりに応じて書き換えられてきたウイルスについての話である。 

第9章からようやく、いま私たちがもっとも知りたい感染症を引き起こすウイルスについての話になる。 

「第9章 人間社会から追い出されるウイルスたち」では、天然痘と麻疹(はしか)、そして牛疫について語られる。現在のところ、完全に根絶されたのは天然痘と牛疫だけだ。前者はヒトの感染症、後者はウシの感染症だ。著者は、この両者の根絶にかかわっている。 

ホモサピエンスが家畜をともなう農耕を始めたのが約1万年前、天然痘はその頃にさかのぼることができる。野生動物を家畜化し、動物と「共生」していたウイルスが強毒化し家畜に蔓延、家畜からヒトに感染し、ヒトからヒトへと感染が拡がる。この基本的パターンが、今回の新型コロナウイルスも含めて何度も繰り返されてきたわけだが、たかだか1万年程度に過ぎないわけなのだ。 

「第10章 ヒトの体内に潜むウイルスたち」では、ヘルペスウイルスや水痘ウイルスなど人間の内部に潜伏し、免疫が低下すると活性化するウイルスについて語られる。このほか、ガンを引き起こすウイルスや、すでに潜伏ウイルス化しつつあるHIVなど。 

「第11章 激動の環境を生きるウイルス」では、ここ数十年の人間生活の激変が、あらたなウイルス環境を作り出していることについて警鐘を鳴らしている。 

都市化とグローバリゼーションで人間の接触が密になっただけでなく、おなじく密な環境である養豚場や養鶏場のここ数十年の急拡大で、ブタやトリに共生してきたウイルスが強毒化しているのである。 

人間社会を急速に激変させてきた近代文明が、ウイルスの生存環境もまた激変させてきたことを知ると、やはりどこかで減速するなり、ブレーキをかける必要があるのだと実感されるのである。 

ざっとこんな感じだが、ウイルスは人類誕生以前から存在し、動植物や人類と「共生」してきたわけであって、ウイルスそのものが悪いのではないことがわかる。圧倒的大多数のウイルスは、知らないうちに人類と「共生」してきたのだ。 

生物ではないが無生物でもないウイルス、しかし生物と密接な関係にあるウイルス。じつに不思議な存在ではないか! 現在わかっていることは、ごくごく一部であって、目に見えないウイルスについて、人類はもっと謙虚にならなくてはならないと思わされるようになった次第。 


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目 次 

はじめに ウイルスとともに生きる 
第1章 その奇妙な“生"と“死" 
第2章 見えないウイルスの痕跡を追う 
第3章 ウイルスはどこから来たか 
第4章 ゆらぐ生命の定義 
第5章 体を捨て、情報として生きる 
第6章 破壊者は守護者でもある 
第7章 常識をくつがえしたウイルスたち 
第8章 水中に広がるウイルスワールド 
第9章 人間社会から追い出されるウイルスたち 
第10章 ヒトの体内に潜むウイルスたち 
第11章 激動の環境を生きるウイルス 
エピローグ 
あとがき 
 
索引 



著者プロフィール 

山内一也(やまうち・かずや)
1931年、神奈川県生まれ。東京大学農学部獣医畜産学科卒業。農学博士。北里研究所所員、国立予防衛生研究所室長、東京大学医科学研究所教授、日本生物科学研究所主任研究員を経て、現在、東京大学名誉教授、日本ウイルス学会名誉会員、ベルギー・リエージュ大学名誉博士。専門はウイルス学。 主な著書に『エマージングウイルスの世紀』(河出書房新社、1997)『ウイルスと人間』(岩波書店、2005)『史上最大の伝染病 牛疫 根絶までの400年』(岩波書店、2009)『ウイルスと地球生命』(岩波書店、2012)『近代医学の先駆者――ハンターとジェンナー』(岩波書店、2015)『はしかの脅威と驚異』(岩波書店、2017)『ウイルス・ルネッサンス』(東京化学同人、2017)などがある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2020年4月21日火曜日

JBPressの連載コラム第76回目は、「原発事故を隠蔽したソ連は崩壊、中国の命運はいかに-新型コロナ感染拡大は「生物学的チェルノブイリ」か』(2020年4月21日)


JBPressの連載コラム第76回目は、原発事故を隠蔽したソ連は崩壊、中国の命運はいかに-新型コロナ感染拡大は「生物学的チェルノブイリ」か(2020年4月21日)
⇒ https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60200

1986年4月26日に発生した「チェルノブイリ原発事故」。ソ連共産党による初動の遅れと情報隠蔽が、結果として1991年末のソ連の崩壊に繋がった。

2019年12月に感染が発覚たとされる「新型コロナウイルス」。中国共産党による初動の遅れと情報隠蔽が、感染爆発と世界規模のパンデミックにつながった。

いま米国では「新型コロナウイルスのパンデミック」は、「バイオロジカル・チェルノブイリ」ではないか、という議論が出てきた。

新型コロナウイルスのパンデミックによって、中国共産党はどうなるのか?「巨大事故」との比較で考えてみよう。

つづきは、本文にて。 ⇒ https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60200





<ブログ内関連記事>

『チェルノブイリ極秘-隠された事故報告-』(アラ・ヤロシンスカヤ、和田あき子訳、平凡社、1994)の原著が出版されたのは1992年-ソ連が崩壊したからこそ真相が明らかになった!

「チェルノブイリ原発事故」から 25年のきょう(2011年4月26日)、アンドレイ・タルコスフキー監督最後の作品 『サクリファイス』(1986)を回想する

『ソビエト帝国の崩壊』の登場から30年、1991年のソ連崩壊から20年目の本日、この場を借りて今年逝去された小室直樹氏の死をあらためて悼む(2010年12月26日)

書評 『ソ連史』(松戸清裕、ちくま新書、2011)-ソ連崩壊から20年! なぜ実験国家ソ連は失敗したのか?

JBPressの連載コラム第67回は、「アフガニスタンはいつから泥沼の紛争地になったのか-国家の崩壊につながった、ソ連にとっての「ベトナム戦争」」(2019年12月17日)


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2020年3月30日月曜日

映画『復活の日』(1980年、日本)を初めて見た-生物兵器と核兵器で2度滅亡した人類の「復活の日」

(画像をスマホでキャプチャ 以下同様)

アマゾンの prime video に『復活の日』があったので、はじめて視聴してみた。2時間36分。
   
1980年の角川映画いまからもう40年前!の映画か。たぶん当時は大学受験勉強中だったためだろう、この映画の存在も知らなかったように思う。まったく記憶にないのだ。

原作は『日本沈没』で有名な小松左京のSF作品。中学生の頃、ベストセラーになって社会現象となったいたことを覚えている。『日本沈没』は読んだ記憶がある。だが、『復活の日』のほうがSF作品としては古いのだな。原作は読んでないが、1964年の発表らしい。



こんなストーリーだ。米軍が開発したウイルスによる生物兵器が何者かによって盗み出されて漏洩、これが原因となって原因不明の感染が拡大。しかも、いちばん最初に感染が爆発したのがイタリアのミラノというのが、今回の新型コロナウイルスとよく似ており、偶然とはいえ不思議な感さえある。謎の肺炎は「イタリアかぜ」と名づけられ、全世界に感染が拡大していく。



次々と起こる医療崩壊。そして、感染拡大はとどまるところなく、全世界がほぼ滅亡残ったのは、たまたま寒冷地の南極基地にいた各国の人間と、潜水艦の乗組員などのみ。南極基地には2年分の食糧があるので、残された男性たちと圧倒的に少数の女性たちだけが生き残ることになる。

米ソ冷戦時代ということもあり、生物兵器だけでなく、核兵器も炸裂し人類は2度絶滅するという、なんとも救いのない設定だ。もちろん、「復活の日」というタイトルなので、最後に救いらしきものはあるのだが・・・




日本映画なのだがセリフのほとんどが英語で(日本人のセリフもかなりの部分が英語)、キャスティングもほとんどが外国人。出版業以外に多角化した事業でブイブイ言わせていた頃の角川春樹は、こんな映画を制作していたのだなあという感慨。興味のある人は、見たら面白いと思う。

設定自体は妙にリアリティがあるが、なんせ40年前の作品なので、妙に古くさい気がしなくもない。まあ、これだけテクノロジーの発展スピードが速い時代に生きていると、それはそれで仕方がないかな、と。



 

<関連サイト>

小松左京はなぜ『復活の日』を書いたのか(デイリーBOOKウォッチ 2020年4月10日)

(2020年4月17日 項目新設)


<ブログ内関連記事>

書評 『人類が絶滅する6のシナリオ』(フレッド・グテル、夏目大訳、河出文庫、2017)-人類滅亡シナリオの第1位は「スーパーウイルス」だ!

「サリン事件」から25年(2020年3月20日)ー「生物化学兵器によるテロ」という観点から、いまこそ振り返る必要がある!

映画 『猿の惑星』の原作は、波乱万丈の前半生を東南アジアで送ったフランスの作家が1963年に発表したSFである

書評 『人間にとって科学とはなにか』(湯川秀樹・梅棹忠夫、中公クラシック、2012 初版 1967)-「問い」そのものに意味がある骨太の科学論

梅棹忠夫の幻の名著 『世界の歴史 25 人類の未来』 (河出書房、未刊) の目次をみながら考える
・・「梅棹忠夫は、「科学や知的探求は、人間の業(ごう)であるから制御できない」という意味の発言を1970年の時点でしていたという。(・・中略・・)思えば、1970年頃は梅棹忠夫のような発言はけっして異様ではなかった。当時でたローマクラブによる暗い未来図など、進歩がうたわれる反面でかなり暗い未来図が提示されていた時代であった」

書評 『梅棹忠夫の「人類の未来」-暗黒の彼方の光明-』(梅棹忠夫、小長谷有紀=編、勉誠出版、2012)-ETV特集を見た方も見逃した方もぜひ
・・「1970年前後というのは「未来学」がブームになっていた頃である。その未来学をリードしたのが梅棹忠夫や小松左京といった人たちだ」

(2020年4月1日 情報追加)


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