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2020年5月4日月曜日

『法然の衝撃-日本仏教のラディカル』(阿満利麿、人文書院、1989)は、タイトル負けしていない名著。現在でもインパクトある内容だ


『法然の衝撃-日本仏教のラディカル』(阿満利麿、人文書院、1989)という本を取り上げたい。すでに30年も前の出版だが、タイトル負けしていない名著といっていいだろう。なぜいまこの本を取り上げるのか、まずはその背景となる理由を簡単に記しておく。

***

FBで「7日間ブックカバーチャレンジ」というチェーンメールのようなものが行われている。4月後半から続いている。

新型コロナウイルスのパンデミックによる「緊急事態宣言」の最中、自宅にステイすることを余儀なくされている人たちが多いなか、少しでも読書文化の向上に貢献しようという取り組みのようだ。趣旨そのものはともなく、あるテーマに関連して7冊をセレクトするという行為には意味があるので、その試みに乗っかってみることにした。

最初は、引きこもり(stay-at-home)関連で4冊セレクトしたが、4月25日早朝に父が臨終に近いという緊急連絡を受け取ってから、病院に直行、臨終には間に合わなかったが、葬儀一式にかかわるためバタバタしていた。初七日までは喪に服すと決めて、FBへの投稿をいっさい行わず、5冊目からの再開は、4冊目の後の5冊目だから「四五」すなわち「死後」と定めて、その関連の本を取り上げることにしたのである。

5冊目は、『唯葬論-なぜ人間は死者を想うのか-』(一条真也、サンガ文庫、2017)。この本は、葬儀一式にかかわった機会にはじめて読んだ本。この本については、内容をふくらませた上で、のちほどブログにアップすることにする。

6冊目に選んだのは今回紹介する、『法然の衝撃-日本仏教のラディカル』(阿満利麿、人文書院、1989)。亡くなった父が浄土宗であり、その関連から自分自身も浄土宗について知る必要を強く感じていたので、かつて2回ほど集中的に読み込んだ時期がある。いまからもう四半世紀も前に読んで、強い印象を受けた本が、この1冊だ。

以下、FBに投稿して、内容を紹介した一文をそのまま再録しておこう。

***

法然なくして親鸞なし!

日本仏教の二大勢力は親鸞を宗祖とする浄土真宗と、日蓮を宗祖とする日蓮宗だが、その親鸞は法然の弟子であり、法然の「革命性」を認識しなければ、いわゆる「鎌倉新仏教」を理解できないことを示した内容。

法然とその後継者である親鸞、法然と徹底的に対決した日蓮。南無阿弥陀仏という「六字の名号」で成仏できるとした革命性阿弥陀仏にのみ帰依するという、ほとんど一神教に近い性格。戦国時代末期の一向一揆の原動力がこれだ。

私自身は、特定の教団や教派に属すつもりはないが、もともと浄土系の家に育っているので、浄土宗や浄土真教とは何か、という問いには強い関心がある。

浄土系の仏教は、生きるチカラが湧いてくるという類いの教えではないが(と自分は思っているが)、安心して死ぬ、安心して死者を送るためには、ほんとにすぐれた教えであり、体系であると、今回あらためて確信した。

阿満利麿氏は、経歴によれば元NHKディレクターの宗教学者。阿満氏の著書は、かなり読んだが、この本が一番だと思う。それだけ内容が濃く、タイトル負けしていないインパクトの強い本なのだ。

***

旧著紹介ということで、ここで取り上げた次第。





<ブログ内関連記事>

「法然と親鸞 ゆかりの名宝-法然上人八百回忌・親鸞聖人七百五十回忌 特別展」 にいってきた

『選択の人 法然上人』(横山まさみち=漫画、阿川文正=監修、浄土宗出版、1998)を読んでみた

「法然セミナー2011 苦楽共生」 に参加してきた-法然上人の精神はいったいどこへ?

善光寺御開帳 2009 体験記

葬儀は究極のサービス業である(2020年5月2日)-4月25日に永眠した父の葬儀一式にかかわって思うこと

書評 『唯葬論ーなぜ人間は死者を想うのか-』(一条真也、サンガ文庫、2017)-「なぜ生者は死者を弔うのか?」という問いを全18章で論じ尽くした渾身の一冊



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2011年11月7日月曜日

書評 『法然の編集力』(松岡正剛、NHK出版、2011)-法然は「念仏」というキーワードを膨大な大乗仏教経典のなかからいかに抽出したのか?


法然は「念仏」というキーワードを膨大な大乗仏教経典のなかからいかに抽出したのか?

 法然は、「念仏」と「南無阿弥陀仏」というキーワードを膨大な大乗仏教経典のなかから、いかに抽出し「選択」することになったのか?

 法然の日本仏教史における意味についてすこしでも関心がある人なら、すくなくとも一度は疑問に思ったことがある問いではないだろうか。

 本書は、編集工学の大家が「編集」というキーワードによって、その謎を解き明かす試みに着手したものだ。こういう読み方もあるのか、というおどろきも感じる法然論である。法然の「方法論」を解明することによって、法然を理解するための「補助線」が引かれたことになったといっていいだろう。空海や良寛といった日本仏教を代表する人物をとりあげてきた松岡正剛にとっても、法然はあらたな分野の開拓にもなったようだ。

 本書は「編集論」として読むのもよいが、やはり「法然論」として読むべきものである。とはいえ、「編集」という概念によって法然を解説することには、大きな違和感を感じる人も少なくないのではないだろうか?「編集」という知性の営みと、信仰との接点をどこに求めるかが問題になるからだ。

 その意味では、第三部の異色の比較宗教学者・町田宗鳳氏との「特別対談」は必読である。この対談を読んだことで、「3-11」の意味を主体的に受け止めた法然論、仏教論がやっと出てきたのかという安心感をわたしは覚えている。法然を「思想の革命家」とみなす町田宗鳳氏の発言は、「3-11」後を生きる日本人が法然を考えるための道しるべとなるに違いない。

 法然の主著 『選択本願念仏集』 は、じつは法然による口述筆記を弟子たちがまとめた編集物で、自ら書き下ろしたものではない。この重要性が第一部で指摘されているが、本書もまたほぼ全編が「語り」を編集した本であり、「法然の方法論」を実践した内容にもなっているといえようか。第二部の「絵伝と写真が語る法然ドラマ」もまた、国宝絵巻「法然上人行状絵図」を掲載したカラーページをつうじて、法然をぐっと身近なものに引きつけてくれることだろう。

 「3-11」後に生きる日本人にとっての「法然入門」としても本書を推奨したい。





<初出情報>

■bk1書評「法然は「念仏」というキーワードを膨大な大乗仏教経典のなかからいかに抽出したのか?」投稿掲載(2011年11月7日)
■amazon書評「法然は「念仏」というキーワードを膨大な大乗仏教経典のなかからいかに抽出したのか?」投稿掲載(2011年11月7日)


目 次

第一部 法然の選択思想をよむ
 忘れられた仏教者
   六字名号の謎
   宗教は「編集」されてきた
   法然に吹く風
 専修念仏への道
   父の遺言
   浄土思想との出会い
   末法を生きる
   法然の読書法
   専修念仏の確信
   山から町へ
   乱想の凡夫として
 法然のパサージュ
   兼実の「仰せ」
   「選択」とは何か
   法然のブラウザー
   リテラシーとオラリティ
 「選択」の波紋
   南都北嶺の逆襲
   浄土でつながる
   多重な相互選択
   親鸞と光也 

第二部 絵伝と写真が語る法然ドラマ(カラーでみる国宝絵巻「法然上人行状絵図」)

第三部 特別対談 松岡正剛×町田宗鳳 「3-11と法然」

  大震災を経て
  辺境から生まれる希望
  仏教の土着化
  日本仏教の系譜
  仏教とイメージ
  法然の引き算
  仏教を再統合する
  「悪人」とは誰か
  仏教における死

あとがき


著者プロフィール

松岡正剛(まつおか・せいごう)

1944年、京都市生まれ。早稲田大学仏文科出身。東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て、編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。1971年に伝説の雑誌『遊』を創刊。日本文化、経済文化、デザイン、文字文化、生命科学など多方面の研究成果を情報文化技術に応用する「編集工学」を確立。日本文化研究の第一人者として「日本という方法」を提唱し、私塾「連塾」を中心に独自の日本論を展開。一方、2000年にはウェブ上でイシス編集学校と壮大なブックナビゲーション「千夜千冊」をスタート(本データは『松岡正剛の書棚-松丸本舗の挑戦-』(松岡正剛、平凡社、2010)刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

 浄土真宗門徒の宗教学者・阿満利麿、臨済宗の禅僧 20年の体験をもつ宗教学者・町田宗鳳ら、京都生まれの仏教者たちによる、浄土宗の外部からの法然論が面白い。松岡正剛もまた京都生まれである。

 口述筆記による語りを編集したという、法然の主著『選択本願念仏集』。おそらく法然が繰り返し、さまざまな人たちを相手に語ってきたことが、アタマのなかで何度も何度も繰り返し反芻されることによって熟成した思想が文字となったのであろう。法然のパトロンであった前関白・九條兼実の求めによってはじめてまとめられることになったという、他律的な動機もまたよい。

 法然はあえて自ら筆を執ることなく、口述筆記という形を意識的に「選択」していたのではないかという松岡氏の指摘もまた、おそらく正しいのだろう。

 口述筆記による論文執筆といえば、思い浮かぶのは国文学者で民俗学者であった折口信夫である。偶然であろうが、筆名を釋超空としていた折口信夫は、大阪の門徒の家に生まれた人である。中将姫伝説で有名な当麻寺(たいまでら)の「山越えの阿弥陀如来像」に想を得て創作した『死者の書』は、古代日本人の死相観を小説化したものだ。

 これはたんなる連想といえば、連想に過ぎないのであるが、古代からあった日本人の他界観が浄土仏教の西方浄土観と合体したところに「山越えの阿弥陀如来像」があることを考えれば、「法然なかりせば」という気持ちになるのも自然なことではあるまいか。


山越えの阿弥陀如来像


<ブログ内関連記事>

松岡正剛関連

『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻-読書術免許皆伝-』(松岡正剛、求龍堂、2007)で読む、本を読むことの意味と方法

書評 『日本力』(松岡正剛、エバレット・ブラウン、PARCO出版、2010)

書評 『脳と日本人』(茂木健一郎/ 松岡正剛、文春文庫、2010 単行本初版 2007)


■法然上人と念仏関連

善光寺御開帳 2009 体験記
・・善光寺は宗派には関係ないが、とはいえ天台宗と浄土宗が中心になって管理運営している。極楽浄土を願い庶民信仰のお寺である

「法然セミナー2011 苦楽共生」 に参加してきた-法然上人の精神はいったいどこへ?・・既成教団への失望感を、率直な気持ちとしてつづった

「没後50年・日本民藝館開館75周年-暮らしへの眼差し 柳宗悦展」 にいってきた
・・『南無阿弥陀仏』という著書をもち、「妙好人」を讃えていた柳宗悦は、法然や親鸞のそのさきの一遍上人を見つめていた

『選択の人 法然上人』(横山まさみち=漫画、阿川文正=監修、浄土宗出版、1998)を読んでみた

書評 『法然・愚に還る喜び-死を超えて生きる-』(町田宗鳳、NHKブックス、2010)

書評 『折口信夫 霊性の思索者』(林浩平、平凡社新書、2009)
・・国文学者で民俗学者であった折口信夫は、じつは大阪の浄土真宗の門徒の家に生まれた人でもあった。

Memento mori (メメント・モリ)と Carpe diem (カルペー・ディエム)-「3-11」から 49日目に記す
・・カトリック中世ではよく知られていた標語「死を忘れるな」にからめて書いた生きる意味について


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