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2012年6月9日土曜日

書評『ブーメラン ー 欧州から恐慌が返ってくる』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓


■欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「比較国民性論」とその教訓

アメリカ人の金融ノンフィクション作家マイケル・ルイスが案内する「リーマン・ショック」でメルトダウンした欧州経済ツアー(The Meltdown Tour)である。

タイトルの「ブーメラン」とは、自分が投げたブーメランが自分のもとに戻ってくることを示唆している。
    
遠い対岸の欧州の出来事も、いずれ「リーマンショック」の震源地である米国に戻ってくるのだ、ということを言っているのだ。

原書のブッカカバーのデザインがまた巧みである(右下の写真)。BOOM-RANG と、経済が加熱する「ブーム」を赤で強調したものになっている。

事前に徹底的にリサーチしたうえで、徹底した現地取材を行うスタイルは、暴走するマネーに踊らされたひとびとの狂奔ぶりと、その後の「祭りの後」を微に入り細にわたり描きつくしている。

異常事態をつうじてあぶり出された欧州の「国民性」(民族性)比較論といってもいい、じつに興味深いノンフィクション作品になっているといえよう。


■「メルトダウン・ツアー」はアイスランド、ギリシア、アイルランド・・・そして

「メルトダウン・ツアー」は、まずは、人口たった30万人の北海の孤島アイスランドから始まる。

著者にとってもはじめての訪問であり、日本人でもあまり訪れた人の多くないアイスランドだけに、ひじょうに面白い。のちほどアイルランドも出てくるが混同しないように。

アイスランドの漁師が投資家になったというのは理解できる話だ。「板子(いたご)一枚下は地獄」という表現が日本語にもあるように、漁師というのはつねに危険と隣り合わせで、しかもかなりの程度ギャンブル性の高い仕事である。また、日本の株式用語には「水揚げ」など漁業関連用語が多い。

バイキングの末裔で、デンマークから独立した北海の孤島アイスランド国民が金融バブルに踊ったのも理解できないことではないのだ。

つぎは「破綻国家」ギリシアである。

ギリシアの女子禁制のアトス山にあるヴァトペディ修道院。ここがまさかギリシアの腐敗の中心にあったとは(!?)と思いながらページをめくっていくと、ギリシア財政問題の構造が手にとるように理解できる仕組みになっている。これ自体が読み物としてバツグンに面白い。

そして、かつて「ケルトの虎」(Celtic Tiger)ともてはやされたアイルランド。

ともに島国であるアイスランドとアイルランドについては、利益を先食いしてしまった点において、おなじく島国で、すでにバブル経済を経験した日本人には理解できなくないのに対し、ギリシアについては、それだけではなく、ユーロ導入に際して行った統計操作や、ギリシアは「相互不信社会」の最たるものであることが、経済に重点を置いた記述から読み取ることができるのだ。

果たしてギリシアは、日本にとっての未来像であるかどうか、これは読者自身がみずから考えてみるべき課題だろう。


■その対極にあると思われているドイツもまた・・・

アイスランド、ギリシア、アイルランドのあとにでてくるドイツは、まさにその正反対の存在である。秩序と規律をこよなく愛すドイツ人は、ギリシアとはまさに正反対にあるこことは言うまでもない。

だが、そのドイツにも落とし穴があったことを指摘するルイスはじつに鋭い。「リーマンショック」の際、ドイツの金融機関が無傷であったわけではないのだ。

「ルールを偏愛するがゆえの脇の甘さ」という指摘はじつに示唆に富む。米国の金融機関が、まさかルールにはずれたことをしているとは想定もしなかかったという脇の甘さを指摘しているのだ。

ドイツ人の二面性にかんする考察が、なんと民俗学者アラン・ダンデスのドイツ論をベースにした洞察を読ませてもらうことになるとは予想だにしなかった。『鳥屋(とや)の梯子と人生はそも短くて糞まみれ-ドイツ民衆文化再考-』(新井皓士訳、平凡社、1988)として日本語訳されている本である。

米国のような回転ドアの存在しないドイツの金融界においては、金融マンのビヘイヴィアは日本に近いような気もする。

さらに、「ドイツははたしてヨーロッパ化されたのか」という根源的な疑問が欧州で復活していることも見逃せない。

ナチス以後の「ユダヤ人を欠いたドイツ金融界」は、考えてみれば日本と同じである。これは、英米の金融界との大きな違いであることは間違いない。このことが何を意味しているかは、いろいろ考えてみる価値はある。


■そしてブーメランはアメリカに戻ってくる・・・

アメリカ人はヨーロッパ人ではないが、日本人が見る視点ともまた違う。現代の金融業の中心である米国の視点を知ることができるのも、元金融マンである著者の作品ならではである。

最終章のカリフォルニア州とカリフォルニアの地方都市の財政問題の記述は、財政破綻した地方自治体の実情をアメリカ国内の事例として読者の前に示したものだ。公共サービスの削減によってもたらされた事態のシミュレーション材料として受け取る必要があろう。

欧州「メルトダウン・ツアー」は、欧州からも米国からも遠い極東の日本は関係ないと言い切れるのかどうか。情報網によってグローバルがつながっている現在、とくに金融リスクはシステミック・リスクとして瞬時に拡散してしまう。

たとえ、欧州の金融危機は、日本の1998年ですでに体験したデジャビュー(既視感)があるとしても、けっして対岸の火事とは言い切れないだろう。

本書を読んで、「ぞっとする」感じをもつこと、これは日本人読者にとっても必要なのではないだろうか。





目 次

序章 欧州危機を見通していた男
第1章 漁師たちは投資銀行家になった(アイスランド)
第2章 公務員が民間企業の三倍の給料をとる国(ギリシア)
第3章 アイルランド人は耐え忍ぶ
第4章 ドイツ人の秘密の本性
第5章 あなたの中の内なるギリシャ
解説 それぞれの不幸(藤沢数希)



著者プロフィール

マイケル・ルイス(Michael Lewis)
1960年ニューオリンズ生まれ。プリンストン大学から、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)に入学。1985年ソロモン・ブラザーズに職を得る。ちょうど、ソロモンが住宅ローンの小口債券化を開発した時期に立ち会い、その債券を売ることになった。その数年の体験を書いた『ライアーズ・ポーカー』(1990年 角川書店)で作家デビュー。金融ノンフィクションの古典となった。2008年のリーマン・ショックを引き金とする世界恐慌のさなか、この恐慌を予測して大相場をはった一握りの男たちのリストを入手し、『世紀の空売り』(2010年 文藝春秋)を著す。2011年著書『マネーボール』が、ブラッド・ピット主演で映画化されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

訳者:東江一紀(あがりえ・かずき)1951年生まれ。北海道大学卒。ドン・ウィンズロウ『犬の力』など訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



PS 2014年9月に文春文庫から文庫化された (2014年10月27日 記す)



<ブログ内関連記事>

書評 『世紀の空売り-世界経済の破綻に賭けた男たち-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文芸春秋社)-アメリカ金融業界の周辺部からリーマンショックに迫る人間ドラマ

映画 『マネーボール』 をみてきた-これはビジネスパーソンにとって見所の多い作品だ!


■国家債務危機

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

書評 『警告-目覚めよ!日本 (大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)-"いま、そこにある危機" にどう対処していくべきか考えるために

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)-新聞記者が足で稼いで書いた 「ギリシアからみたギリシア危機」レポート

書評 『物語 近現代ギリシャの歴史-独立戦争からユーロ危機まで-』(村田奈々子、中公新書、2012)-日本人による日本人のための近現代ギリシア史という「物語」=「歴史」


■リーマンショック以後のユーロ

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている 

書評 『ユーロが危ない』(日本経済新聞社=編、日経ビジネス人文庫、2010)

書評 『本当にヤバイ!欧州経済』(渡邉哲也、 三橋貴明=監修、彩図社、2009)

「円安バブル崩壊」


■「勝ち組」ドイツについての考察-はたしてドイツはヨーロッパか?

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る

書評 『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー-』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!
・・「西洋民主主義とは、その最も狭い意味において、その出発点において、その創設的中核というものは、フランス、イングランド、アメリカ合衆国だからです。つまりはトックヴィルの世界なのです。今日、歴史的な西洋というのが、当初から政治面でドイツを含んでいたなどという考えは、妄想というべきなのです」(トッド)

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?
・・怒濤のように「反原発」になだれ込んだドイツ。なにか危ういものを感じるのはわたしだけだろうか

(2014年8月27日、2015年7月7日、8月1日 情報追加)



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2012年2月3日金曜日

「GRIPS・JBIC Joint Forum"After Fire and Flood: Thailand's Prospects"」と題したタイの政治経済にかんする公開セミナーに参加してきた(2012年2月2日)


昨日(2012年2月2日)、政策研究大学院大学(GRIPS)で開催された「GRIPS・JBIC Joint Forum"After Fire and Flood: Thailand's Prospects"」と題した公開セミナーに参加してきた。JBIC は日本の国際協力銀行のことである。

セミナーのタイトルは "After Fire and Flood" と、F ではじまる英単語で頭韻を踏んでいるが、それぞれ、2010年のバンコク市街戦と、2011年の大洪水のことを指している。テーマは、現在のタイの政治経済についてである。講演者は、英国人のクリス・ベーカー博士とタイ人のパースック博士。タイ研究の世界では知らない人のいない著名人である。

ふたりの共著『タイ国-近現代の経済と政治-』(北原淳/野崎明/日タイセミナー 訳、刀水書房、2006) という大著が日本語にも翻訳されているほか、英文で数多くの著書が出版されている。

また、パースック博士の著書のうち、『マッサージ・ガール-タイの経済開発と社会変化-』(パスク・ポンパイチット、田中紀子訳、同文舘出版、1990)と『タイの経済発展とインフォーマル・セクター (ASEAN等現地研究シリーズ)』(パスク・ポンパイチット/糸賀滋=編集、アジア経済研究所、1997)が日本語訳されている。

一方、英国人のクリス・ベーカー氏は、タイで何か問題が起きる度にTVのコメンテーターとして意見を述べているので、英語で情報収集をしている関係者は、顔を見たことはあるはずだろう。パースック博士は今回はじめて見たが、優しい声できれいな英語をしゃべる方であった。

公開セミナーの概要についてはJBICの公式サイトに掲載されているので、そのまま引用させていただこう。


国際協力銀行(JBIC)は、国立大学法人政策研究大学院大学の協力を得て、2012年2月2日(木曜日)に、「GRIPS・JBIC Joint Forum"After Fire and Flood: Thailand's Prospects"」と題した公開セミナーを開催いたします。
 タイは、日本人にとって最も親しみのある国のひとつです。また、多くの日本企業にとって有望な進出先であり、自動車、電機・電子、精密機械、食品加工などの分野で長年にわたり直接投資が行われています。
 一方、2011年後半には、タイを襲った洪水が甚大な被害をもたらしました。このため、自然災害などに対して堅固な国土の整備・開発の重要性への認識が高まっており、とりわけ都市や広域のインフラ整備とそのためのファイナンスが新たな課題となっています。
 こうした経済面での新たな課題に加え、2011年8月のインラック政権発足後も、タイ国内ではタクシン派と反タクシン派との対立を背景とする政治問題が存在しています。
このような背景から、タイの政治と経済の将来展望を得る試みの一環として、当該分野の研究業績により国際的にも極めて高い評価を得ている研究者をお招きし、公開セミナーを開催致します。本セミナーに、是非とも多くの方々にご参加頂きたく、謹んでご案内申し上げます。

記
1.日時: 2012年2月2日(木曜日) 15時00分~17時00分
2.場所: 政策研究大学院大学 1階 想海樓ホール
3.主催: 株式会社日本政策金融公庫 国際協力銀行(JBIC)
4.協力: 国立大学法人政策研究大学院大学(GRIPS)
5.参加費: 無料
6.使用言語: 英語(英日同時通訳あり)
7.プログラム(予定) 15:00-15:10
ご挨拶  西沢利郎 JBIC 外国審査部長
歓迎の辞  原 洋之介 GRIPS 特別教授
15:10-15:50  共同講演
パースック・ポンパイチット(チュラーロンコン大学教授)
クリス・ベイカー(京都大学東南アジア研究所 外国人研究員)
15:50-16:20  パネルディスカッション
(モデレーター 原 特別教授)
16:20-16:55  質疑応答
16:55-17:00  総括

クリス・ベーカー博士からは政治面、パースック博士からは経済面にかんするプレゼンテーションが行われたが、ビジネスマンの立場からは当然のことながら後者の経済面の話に関心がある。

だが、現在のタイが「middle income gap」、いわゆる「中進国のワナ」にはまって、プラトー(停滞)状態にある以上、政治面でのブレークスルーがないと、経済発展にも支障が生じていることは言うまでもない。政治と経済の両面からポリティカル・エコノミーとして見なければならないのはそのためだ。

フォーラムの内容をすべて紹介することはしないが、わたしにとって印象的だったのは、タイは1997年のIMFショック以降、インフラ投資が十分に行われてこなかったため、2011年の大洪水が、ある意味では「目覚ましコール」になったというパースック博士の指摘である。

実際問題、財政面の限界があるので、どこまで洪水対策に予算が割けるのかわからないし、抜本的な対策を行うためには財政を強化しなくてはならない。そのためには増税も視野に入ってくる。

勅令によって現在7%に据え置かれているV.A.T.(=付加価値税)を、本来の10%に戻すことは、おそらく行われるだろう。現在のタイの首相は、タクシン元首相の妹であるインラックであるが、基本的には経済政策はタクシノミックス(=タクシン経済)を継承しており、経済的不均衡解消策の一環として最低賃金引き上げ策を昨年2011年に導入した。これは同時に、国内需要を拡大策にもなっているので、この状態なら付加価値税を引き上げることは可能だろう。

付加価値税以外、とくに富裕層をターゲットにした資産税やキャピタルゲイン課税を実施するのは、政治的にはきわめて困難であろう。そもそも、相続税も存在しないのがタイである。国会議員の多くが富裕層であることから、富裕層をターゲットにした課税強化はきわめて困難だと考えるのが自然である。

このようなことがわたしの関心であるが、会場から「Xデイ後のタイ」について質問があった。不敬罪(lese majeste)が存在するタイ国内ではタブーな質問であるが、日本国内でかつ学術目的のセミナーであるから、大きな問題はないと思われる。

クリス・ベーカー博士は、「安定要因としての国王の役割は過度に評価されすぎている」として、大きな混乱が起こることはないだろうという回答をされていた。わたしもこの見解には賛成である。おそらく今後は、日本の天皇のように儀礼的な存在となっていくだろうというのがベーカー博士の見解であった。

わたしは、かつてこの二人が共著として書いたタクシンにかんする研究書を通読して、大いに得るものがあった。「Thaksin(Second Edition), Silkworm Books, 2010」 という本で、タイの英文出版社から刊行されている。

わたしが読んだのは2004年の初版だが、この本は十分な発行部数が期待できないと思われるので、日本語訳されることは残念ながらなさそうだ。だが、タクシンの登場を境にタイの政治経済が劇的に変化したことを考えれば、タクシンについてはメディア報道以上の突っ込んだ分析を背景知識として知っておくことは必須である。機会があればこの本もぜひお読みいただきたいと思う。

政策研究大学院大学は今回はじめてなかにはいったが、このようなセミナーは、ぜひ積極的に開催してほしいものである。


(*両博士の発言内容は、英語での発言をわたしの解釈において記したものであり、文責はわたしにあります。同時通訳者がどう日本語訳したかは知りません)









<関連サイト>

GRIPS・JBIC Joint Forum"After Fire and Flood: Thailand's Prospects"(JBIC公式サイト 日本語)

GRIPS・JBIC Joint Forum"After Fire and Flood: Thailand's Prospects"(GRIPS公式サイト 英語)


<講演者プロフィール>

パースック・ポンパイチット (1946~) (Wikipedia 日本語版 略歴)
Chris Baker (writer) (1948~) (Wikipedia 英語版 略歴)


<ブログ内関連記事>

書評 『タイ-中進国の模索-』(末廣 昭、岩波新書、2009)
・・タクシン政権誕生以後の現在のタイをしるうえでの必読書

書評 『消費するアジア-新興国市場の可能性と不安-』(大泉啓一郎、中公新書、2011)-「新興国」を消費市場としてみる際には、国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!
・・経済的不均衡の問題について考えるための好著

『Sufficiency Economy: A New Philosophy in the Global World』(足を知る経済)は資本主義のオルタナティブか?-資本主義のオルタナティブ (2)・・プミポン国王が説いておられる「足るを知る経済」哲学

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

「タイ・フェスティバル2010」 が開催された東京 と「封鎖エリア」で市街戦がつづく騒乱のバンコク(2010年5月27日)

「バンコク騒乱」について-アジアビジネスにおける「クライシス・マネジメント」(危機管理)の重要性

「バンコク騒乱」から1周年(2011年5月19日)-書評 『イサーン-目撃したバンコク解放区-』(三留理男、毎日新聞社、2010) 

来日中のタクシン元首相の講演会(2011年8月23日)に参加してきた

バンコクへの渡航は自粛を!-タイの大洪水と今後の製造業立地の方向性について(2011年10月26日)

「緊急企画 日タイ洪水復興セミナー」(JETRO主催 東京)が開催されます(2011年12月9日 入場無料)






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2011年11月30日水曜日

書評『国家債務危機 ー ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)ー 公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!


■「500年単位」の歴史の端境期にある欧州-「いま、そこに」ある危機の本質を冷静にとらえる■

 現代の賢者ジャック・アタリが警告する日米欧という先進国の10年後の姿。

 その未来像は、いまからちょうど20年前、ソ連が崩壊したときに世界中の人々が感じたユーフォリアとはほど遠く、むしろ暗く重苦しい未来像である。

 2010年5月にフランスで出版された原著からすでに一年半、事態はさらに悪化し、もしかすると共通通貨ユーロが崩壊するかもしれないという瀬戸際まで追い込まれつつあるのがいまの状況だ。

 しかもそれは空想上の絵空事ではもはやない。われわれはいま、それをユーラシア大陸の東端の日本から、ユーラシア大陸西端にある欧州にみているのだが、けっして対岸の火事ととらえることは出来ない。

 以前からこのブログで書いているが、わたしは 1492年に始まった「500年単位の歴史」は 1991年に一応の終止符を打ち、次の「500年単位の歴史」に入っていると考えている。この件については、書評 『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)も参照していただきたい。本書の著者ジャック・アタリによって 1992年に出版された本である。

 なぜなら、ユーラシア大陸の東西に位置する日本と欧州は、梅棹忠夫が『文明の生態史観』をつうじて述べているように、歴史を通じてパラレルに動いてきたからだ。ヨーロッパが興隆したのも衰退するのもパラレルだとすれば、当然ながら日本もまたタイムラグをおいて衰退していくのは必定である。

 そういった巨視的な歴史観は別にしても、欧州各国が抱えている国家債務問題よきわめて似た危機的な様相を示している以上、日本だけが例外とは言えないだろう。たとえ、日本国債の所有者の9割が日本国民だとしても、これから3年以内に臨界点に達するのはほぼ確実な情勢である。

 欧州金融危機は国債の暴落とそれを所有する金融機関の危機である。バブル崩壊と「失われた20年」を体験している日本人の目からみればデジャヴュー(=既視感)であるとともに、あらたなる危機のシミュレーションでもあるように映るのである。


■■主権(ソブリン)と公的債務の関係を欧米を中心に歴史的に概観し、「いま、そこに」ある危機の本質をを冷静に説く

 本書の議論は、「主権国家」(ソブリン・ステート)という概念と、それを発展させてきた欧州の歴史を見ることで、現在の国民国家(ネーション・ステート)危機が、国民国家の主権者である国民にとっての危機でもあることを明らかにしたものである。

 基本的に、公的債務と私的債務は、債務であるという点においては共通点があるが、一方では大きな相違点もある。私的債務は相続拒否をすれば、債権と同様にその人一代限りとすることも可能である。一方、公的債務はいわば無限責任であるから、たとえ革命によって政権が替わっても自らの意志で債務が免除になることはない。

 国王が唯一の主権者であった時代、債務は私的債務であったため、生身の国王一代限りでチャラになったのであったが、近代に入り「主権国家」が誕生すると国王死後も相続放棄できないものとなってゆく。そして、現代社会の主流である「国民主権」(=主権在民)の「国民国家」が18世紀に誕生すると、国家のもつ公的債務は、主権者である国民のものとなっていった。簡単に歴史を振り返ればこのようになる。

 重要なことは、国民主権の主権国家である以上、国家財政が破綻するということは、その国民にも多大な影響を及ぼすということだ。公的債務だからといって他人事とはいえないのである。なぜなら、先に見たように、主権国家の公的債務は、主権者である一人一人の国民にとっても債務であるからなのだ。

 財政破綻(デフォルト)した国家においては、公的サービスが著しく低下することになる。具体的に言えば、上下水道や警察、消防などもろもろの公共サービスに従事する公務員に給料が支払えなくなるので大幅に解雇せざるをえなくなり、その結果、教育レベルも下がり、犯罪も増加し、医療水準もさらに低下し、移民として国外に流出する流れも加速する。これは、まさにいまギリシアで起こっていることだ。

 以上が、アタリの議論の基本線である。歴史から得られる教訓については、第5章 債務危機の歴史から学ぶ12の教訓 で検討されることになる。

 内容にかんしては、まずは目次をざっと見ていただくのがよいだろう。

目 次

[日本語版序文]日本は、900兆円の債務を背負ったまま、未来を展望できるのか?
[序文]われわれは債務危機から逃れられるか?-いま世界は史上最大の過剰債務に脅かされている

第1章 公的債務の誕生-国家主権と債務の終わりなき攻防のはじまり
第2章 公的債務が、戦争、革命、そして歴史をつくってきた-覇権国家は必ず財政破綻に陥る
第3章 20世紀、<国民主権>と債務の時代-全国民が責任を負うことになった国家の借金
第4章 世界史の分岐点となった2008年-途上国から借金する先進国
第5章 債務危機の歴史から学ぶ12の教訓
第6章 想定される「最悪のシナリオ」
第7章 「健全な債務」とそのレベルとは?
第8章 フランスの過剰債務を例にとって考えてみると
第9章 債務危機に脅かされるヨーロッパ-ユーロは破綻から逃れられるか?
第10章 いま世界は、何をなすべきか?
[終わりに]債務についての哲学的なメモ


 忙しい人は、日本語訳に付されたアタリ自身による「日本語版序文」と「序文」を熟読したうえで、第5章 債務危機の歴史から学ぶ12の教訓、第6章 想定される「最悪のシナリオ」を読むべきだろう。もし時間的余裕があって、しかも「主権」(ソブリン)と国家をめぐる歴史的考察について知りたいのであれば、最初から順番に読むのもいい。

 第5章の「債務危機の歴史から学ぶ12の教訓」は、歴史から学んだエッセンスである。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言があるが、アタリが概観した主権(ソブリン)と公的債務の歴史から得られた教訓は以下の12に集約されている。 

第5章 債務危機の歴史から学ぶ12の教訓
 1. 公的債務とは、親が子供に、相続放棄できない借金を負わせることである
 2. 公的債務は、経済成長に役立つことも、鈍化させることもある
 3. 市場は、主権者が公的債務のために発展させた金融手段を用いて、主権者に襲いかかる
 4. 貯蓄投資バランスと財政収支・貿易サービス収支は、密接に結びついている
 5. 主権者が、税収の伸び率よりも支出を増加させる傾向を是正しないかぎり、主権債務の増加は不可避となる
 6. 国内貯蓄によってまかなわれている公的債務であれば、耐え得る
 7. 債権者が債務者を支援しないと、債務者は債権者を支援しない
 8. 公的債務危機が切迫すると、政府は救いがたい楽観主義者となり、切り抜けることは可能だと考える
 9. 主権債務危機が勃発するのは、杓子定規な債務比率を超えた時よりも、市場の信頼が失われる時である
10. 主権債務の解消には 8つもの戦略があるが、常に採用される戦略はインフレである
11. 過剰債務に陥った国のほとんどは、最終的にデフォルトする
12. 責任感ある主権者であれば、経常費を借入によってまかなってはならない。また投資は、自らの返済能力の範囲に制限しなければならない

 この12の教訓については、アタリと対談した大前研一もほぼ同意していることを記しておこうく。書評 『警告-目覚めよ!日本 (大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)-"いま、そこにある危機" にどう対処していくべきか考えるためにを参照されたい。



 「教訓6. 国内貯蓄によってまかなわれている公的債務であれば、耐え得る」の項目では、アタリは日本の例をあげて説明している。これは日本国内の議論と同じである。

 だが、われわれがアタマのなかに入れておかねばならないのは、日本も過去100年のあいだに国家としてデフォルト(=財政破綻)しているという歴史的事実である。すなわち、1945年の第二次大戦における敗戦による財政破綻である。

 さらにいえば、明治維新後も国家財政が空っぽに近い状態であったため、いかに財政を確保するかがきわめて重要な課題であったことも忘れるべきではない。


■フランスにおける反響

 フランス語原著のタイトルは、Tous ruinés dans dix ans ?  Dette publique : la dernière chance par Jacques Attali, Fayard 2010、 直訳すれば『10年後にはみな破産する-公的債務、最後のチャンス?』となる。2010年の出版であるから、2020年ということか。

 amazon.fr(amazonのフランス語版サイト)をみると賛否両論であることがわかる。

 なお、このフランス語原著出版後の2010年5月に行われたフランスTVのディベート型インタビュー番組の映像が、「10年後に国家破産の危機 ジャック・アタリ」というタイトルで YouTube に日本語字幕つきで 10分弱の映像がアップされているので、ご覧いただくと本書の議論がより明確に理解できることだろう。

 繰り返すが、欧州金融危機はけっして対岸の火事ではない。ただし、いたづらに不安を感じて悲観論に陥ったり、根拠のない楽観論に安住することなく、自分の身は自分で守るのは絶対不可欠だ。
 
 ユーラシア大陸の東端の国民であるわれわれは、大陸の西端で燃え広がりつつある危機を他山の石としてとらえなくてはならない。





詳細目次

[日本語版序文]日本は、900兆円の債務を背負ったまま、未来を展望できるのか?
[序文]われわれは債務危機から逃れられるか?-いま世界は史上最大の過剰債務に脅かされている


第1章 公的債務の誕生-国家主権と債務の終わりなき攻防のはじまり
 1. 債務という概念ができる前の「債務」
 2. イギリス-「主権債務」のはじまり
 3. イタリアの都市国家-「国債」と「公庫」の誕生
 4. フランス-「徴税請負人」の誕生

第2章 公的債務が、戦争、革命、そして歴史をつくってきた-覇権国家は必ず財政破綻に陥る
 1. 次々に破産していった覇権国の債務システム
 2. フランス大革命前、財政に何が起きていたのか?
 3. アメリカ独立の鍵を握った「主権債務」
 4. 旧体制の債務に翻弄されつづけたフランス革命政府
 5. 債務に頼らず戦争をつづけたナポレオン
 6. 19世紀、平和を謳歌するヨーロッパと独立する中南米
 7. 南北戦争によって借金体質へと回帰したアメリカ

第3章 20世紀、<国民主権>と債務の時代-全国民が責任を負うことになった国家の借金
 1. 第一次大戦から、第二次大戦へ-国際金融システムの形成
 2. 戦後の世界経済体制-インフレによる債務解消
 3. 債務によってコントロールされる途上国-ワシントン・コンセンサス
 4. アメリカ型資本主義システム-主権債務をレバレッジに利用する

第4章 世界史の分岐点となった2008年-途上国から借金する先進国
 1. 世界金融危機と激増する公的債務
 2. ワシントン・コンセンサスから、北京コンセンサスへ
 3. 破綻寸前にまで激増した公的債務-徴候としてのギリシア

第5章 債務危機の歴史から学ぶ12の教訓
 1. 公的債務とは、親が子供に、相続放棄できない借金を負わせることである
 2. 公的債務は、経済成長に役立つことも、鈍化させることもある
 3. 市場は、主権者が公的債務のために発展させた金融手段を用いて、主権者に襲いかかる
 4. 貯蓄投資バランスと財政収支・貿易サービス収支は、密接に結びついている
 5. 主権者が、税収の伸び率よりも支出を増加させる傾向を是正しないかぎり、主権債務の増加は不可避となる
 6. 国内貯蓄によってまかなわれている公的債務であれば、耐え得る
 7. 債権者が債務者を支援しないと、債務者は債権者を支援しない
 8. 公的債務危機が切迫すると、政府は救いがたい楽観主義者となり、切り抜けることは可能だと考える
 9. 主権債務危機が勃発するのは、杓子定規な債務比率を超えた時よりも、市場の信頼が失われる時である
10. 主権債務の解消には 8つもの戦略があるが、常に採用される戦略はインフレである
11. 過剰債務に陥った国のほとんどは、最終的にデフォルトする
12. 責任感ある主権者であれば、経常費を借入によってまかなってはならない。また投資は、自らの返済能力の範囲に制限しなければならない


第6章 想定される「最悪のシナリオ」
 1. 楽観的な主要先進国の指導者たち
 2. 第1段階:国家の過剰債務が、さらに増大する
 3. 第2段階:ユーロ破綻と世界的不況
 4. 第3段階:ドル破綻と世界的インフレ
 5. 第4段階:世界的不況から、アジアの失速へ


第7章 「健全な債務」とそのレベルとは?
 1. 公的債務の「過剰な増加」とは何か?
 2. 「健全な公的債務」の使途と管理
 3. 「健全なレベル」とは?-経済学はまったく役に立たない

第8章 フランスの過剰債務を例にとって考えてみると
 1. フランスの債務に対する挑戦と挫折の歴史
 2. フランスの公的債務の現状
 3. 公的債務の今後の見通し
 4. フランスにおける「最悪のシナリオ」
 5. 財政再建-未来から奪ったものを、未来に返す
 6. 社会モデルの再定義-国家の領域と市場の領域を明確にする
 7. 「健全な債務」のためのガバナンス
 8. 「健全な債務」を実現するのは、断固たる政治的意志である

第9章 債務危機に脅かされるヨーロッパ-ユーロは破綻から逃れられるか?
 1. ヨーロッパの「最悪のシナリオ」
 2. 財政危機の回避策-「ヨーロッパ債」
 3. ユーロの強化のために-「ヨーロッパ予算基金」
 4. ヨーロッパに必要な投資とは?

第10章 いま世界は、何をなすべきか?
 1. 主権債務を管理するための世界的な枠組みとは?
 2. 国際規模での債務の把握・長期分散・制御・管理・効果的利用
 3. 世界経済の持続的成長と世界の富の秩序だった増加のために

[終わりに]債務についての哲学的なメモ

付録 アタリ政策委員会と「第二次報告書」の概要について-フランスは、本書の理念をどのように実践しようとしているのか? (林昌宏)
 1 「アタリ政策委員会」について
 2 「第一次報告書」(2008年1月発表)について
 3 「第二次報告書」(2010年10月15日発表)について
 4 「第二次報告書」の構成
 5 「第二次報告書」が最緊急課題として掲げる「公的債務」対策の概要

訳者あとがき-林昌宏
著・訳者紹介

著者プロフィール

ジャック・アタリ(Jacques Attali)


1943年生まれ。わずか38歳で、フランスのミッテラン政権の大統領特別補佐官を務め注目を浴び、1991年、自らが提唱した「ヨーロッパ復興開発銀行」の初代総裁を務めた。1989年のドイツ再統一、1992年のEU成立の“影の立役者”と言われている。2009年、初のEU大統領選挙では、フランス側の有力候補となった。2010年10月、仏大統領の諮問委員会「アタリ政策委員会」が、フランスの財政再建戦略をまとめた「第2次報告書」を発表し、現在、激しい議論が戦わされている。この報告書は、本書『国家債務危機』の理念を基にまとめられた。「アタリ政策委員会」は、サルコジ大統領が、アタリ著『21世紀の歴史』(2006年刊)に感銘を受け、2007年、“21世紀フランス”を変革するための戦略づくりを、アタリに直接依頼した諮問委員会である。政界・経済界で重責を担う一方で、経済学者・思想家としても幅広く活躍し、まさに“ヨーロッパを代表する知性”として、その発言は常に世界の注目を浴びている。近年では、『21世紀の歴史』(2006年刊)が、翌年発生した「サブプライム問題」や「世界金融危機」を予見していたために、世界的な大反響を呼んだ。著書は多数あり、経済分析・哲学書・歴史書・文化論と幅広いが、主な邦訳書は以下である。『21世紀の歴史』『金融危機後の世界』(作品社)、『カニバリスムの秩序』『ノイズ-音楽・貨幣・雑音-』(みすず書房)、『アンチ・エコノミクス』『所有の歴史』(法政大学出版局)、『ヨーロッパ 未来の選択』原書房)、『1492 西欧文明の世界支配』ちくま学芸文庫)ほか多数(amazonの書籍紹介より転載)。

訳者:林 昌宏(はやし・まさひろ)

1965年、愛知県生まれ。名古屋市在住。立命館大学経済学部経済学科卒。翻訳家。アタリの金融関連書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに補足)。



<関連サイト>

10年後に国家破産の危機 ジャック・アタリ(YouTube フランス語・日本語字幕あり)

アタリ 「日本とドイツとロシアは消滅へ向かっている」(YouTube フランス語・日本語字幕あり)
・・人口動態からみた無意識的選択について



<ブログ内関連記事>

書評 『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)
・・ジャック・アタリの基本的歴史観が示された名著。このブログ記事には、ジャック・アタリにかんする詳細な解説をつけておいたので、ぜひ参照していただきたい

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む


■欧州共同体(EU)とユーロ経済圏の危機

師走の風物詩 「第九」を聴きに行ってきた・・・つれづれに欧州連合(EU)について考える

書評 『ユーロが危ない』(日本経済新聞社=編、日経ビジネス人文庫、2010)

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている

ドイツを「欧州の病人」から「欧州の優等生」に変身させた「シュレーダー改革」-「改革」は「成果」がでるまでに時間がかかる

書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓

書評 『本当にヤバイ!欧州経済』(渡邉哲也、 三橋貴明=監修、彩図社、2009)

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)

書評 『警告-目覚めよ!日本 (大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)-"いま、そこにある危機" にどう対処していくべきか考えるために


■主権国家と国民国家-主権在民(=国民主権)

「主権在民」!-日本国憲法発布から64年目にあたる本日(2011年5月3日)に思うこと


■敗戦国日本が体験したデフォルト(=債務不履行)

書評 『持たざる国への道-あの戦争と大日本帝国の破綻-』(松元 崇、中公文庫、2013)-誤算による日米開戦と国家破綻、そして明治維新以来の近代日本の連続性について「財政史」の観点から考察した好著

(2015年7月8日 情報追加)


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2011年11月29日火曜日

書評『国債・非常事態宣言-「3年以内の暴落」へのカウントダウン-』(松田千恵子、朝日新書、2011)-最悪の事態はアタマのなかでシミュレーションしておく


■「国債」を「国家債務」の略だと考えると問題がクリアになってくる■

 タイトルは『国債・非常事態宣言-「3年以内の暴落」へのカウントダウン-』とやや煽り系ですが、タイトルをつけるのは著者ではなく編集者に主導権があり、最終的には売る立場の出版社が決めるものですから、それは割り引いてとらえておきましょう。

 内容は、いたってまっとうな経済と財政にかんする一般書です。やさしい語り口は、とくに経済については詳しくない女性向けといえるかもしれません。

 金融や経済につよくない人は、第1章から順番に読み進めるといでしょう。ある程度まで「国債問題」の意味がわかっている人は、ぜひ第3章を読んでいただきたいと思います。

 「国債」とは国家が発行する公債のことですが、著者が言うように「国家債務」の略と考えると問題がクリアになってくるかもしれません。国家からみれば債務、国債の購入者からみれば債権であり債券です。債務と債権は、同じものを別の角度からみたものに過ぎません。当然のことながら、一方にとっての債務は、他方にとっての債権となり、金額的にバランスされるものです。

 国債を直接に所有していない人でも、預金や保険や年金をつうじて間接的に保有者になっているのです。ですから、国債の問題は、ほぼすべての日本国民にとって無縁の存在ではありません。

 日本国債は9割以上が日本国民が所有しているのだから、欧州とは状況がまったく異なるとよく言われていますが、たしかにそれには一理あります。

 とはいえ、おなじ状況であった第二次大戦末期の日本では、結局は敗戦によって国家財政が破綻し、戦費調達のために国民に買わせた戦時国債がハイパーインフレのために価値を失い、紙くずと化したという著者の指摘は忘れてはいけないでしょう。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というじゃありませんか。比較的短いスパンの経験だけで物事を語る専門家がいかに当てにならないかについては、つい最近も「3-11」の大地震と大津波でいやというほど味わったばかりですよね。

 「最悪の事態」は起こらないに越したことはありませんが、それでも「最悪の事態」がどんなものであるかはアタマのなかでシミュレーションだけはしておきたいものです。

 それにはまずは歴史に学ぶことですね。敗戦後の昭和21年(1946年)2月17日におこなわれた「預金封鎖」と「新円切り替え」は歴史的「事実」です。

 当時の大蔵省は現在では財務省と名前は変えましたが、組織体としては継続したものであることを考えれば、財務省が「最悪のシナリオ」として想定していても不思議ではありません。たとえそれがラストリゾートであるにしても。

 いたづらに不安を感じて悲観論に陥ったり、根拠のない楽観論に安住することなく、自分の身は自分で守るのは絶対不可欠です。非常事態の際には「お上」が守ってくれないことは、すでに数々の有事の際にいやというほど見ているではありませんか。

 自分、そして友人家族、これが同心円状に拡がっていく「つながり」をつうじて生きぬくこと、この覚悟と準備を日本国民の一人一人がもつべきなのです。

 「国債・非常事態宣言」や「暴落へのカウントダウン」が、政府によって公式になされることなど絶対にありえません。だからこそ、それは自分のアタマとココロのなかでしなければならないのです。

 あえて口にはしなくても、ひそかに覚悟と準備を始めることが、いざというときにあなたとあたなにつながる人たちを守ることになるのです。 

 希望的観測ではなく、覚悟と勇気をもって生きぬかなければなりません。





目 次

はじめに
第1章 国債と格付けの正しい関係-借金だらけの日本の国債が、なぜダブルAなのか?
 Ⅰ. 国債の何が問題なのか
 Ⅱ. 日本国債は大丈夫なのか
 Ⅲ. 債務の見方をわかっていますか
第2章 国債暴落のシナリオ-足りない資金、これから国債はどうなるのか?
 Ⅰ. 格付け会社の最近の動き
 Ⅱ. 今そこにある危機
 Ⅲ. 先送りが状況を悪化させる
第3章 国債暴落後の日本経済-やはり、ハイパーインフレがやってくるのか?
 Ⅰ. 最も悪いシナリオは何か
 Ⅱ. 本質的には何が問題なのか
 Ⅲ. X-Day に向けてどう備えるか

 Ⅳ. 次世代に向けた成長のために
参考文献


著者プロフィール

松田千恵子(まつだ・ちえこ)

首都大学東京大学院教授(経営学)。東京外国語大学外国語学部卒、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパン格付けアナリストを経て、国内外戦略コンサルティング会社のパートナーを歴任、戦略・財務アドバイザリーであるマトリックス株式会社を設立、運営。2011年より現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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書評 『持たざる国への道-あの戦争と大日本帝国の破綻-』(松元 崇、中公文庫、2013)-誤算による日米開戦と国家破綻、そして明治維新以来の近代日本の連続性について「財政史」の観点から考察した好著
・・「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

書評 『国債クラッシュ-震災ショックで迫り来る財政破綻-』(須田慎一郎、新潮社、2011)-最悪の事態をシナリオとしてシミュレーションするために

書評 『ゼロから学ぶ経済政策-日本を幸福にする経済政策のつくり方-』(飯田泰之、角川ONEテーマ21、2010)

「いまこそ高橋亀吉の実践経済学」(東洋経済新報社創立115周年記念シンポジウム第二弾) に参加してきた-「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

書評 『ジパング再来-大恐慌に一人勝ちする日本-』(三橋貴明、講談社、2009)

地震、津波、原発事故、そして財政危機。「最悪の事態」を想定しなければならない状態になっているが・・・(2011年3月15日)

書評 『ジパング再来-大恐慌に一人勝ちする日本-』(三橋貴明、講談社、2009)

書評 『民間防衛-あらゆる危険から身をまもる-』(スイス政府編、原書房編集部訳、原書房、1970、新装版1995、新装版2003)

書評 『未曾有と想定外-東日本大震災に学ぶ-』 (畑村洋太郎、講談社現代新書、2011)

自分のアタマで考え抜いて、自分のコトバで語るということ-『エリック・ホッファー自伝-構想された真実-』(中本義彦訳、作品社、2002)

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書評 『国債クラッシュ-震災ショックで迫り来る財政破綻-』(須田慎一郎、新潮社、2011)-最悪の事態をシナリオとしてシミュレーションするために


■すべてを「想定内」に!-財政破綻のシミュレーション小説とその解説を読んで自分のアタマのなかでシミュレーションしてみる■

 『国債クラッシュ-震災ショックで迫り来る財政破綻-』(須田慎一郎、、新潮社、2011)という本が、「3-11」から 3ヶ月たった今年の6月に出版されています。金融問題が専門のジャーナリスト須田真一郎氏が書いた本です。

 内容は、第1部がシミュレーション「2012年日本国債クラッシュ」、第2部が 解説「国債暴落」危機の真実になっています。この二つを順番に読むことで、アタマのなかで「最悪の事態」をシミュレーションする構成になっています。

 タイトルになっている「日本国債クラッシュ」とは、日本国債の国債価格の暴落、つまり長期利回り上昇によってもたらされる日本経済破綻のことを指しています。詳細な説明は書籍のほうにゆずりますが、具体的な数値で言えば、日本国債の長期利回りが 2% を越えたらクラッシュし、猛烈な「円安」に反転する恐れがあり、それを回避するためには消費税 "実質" 20%も覚悟しなければならないという議論です。

 現在は「超円高」ですが、これは日本経済のファンダメンタルが良好なためではなく、あくまでもユーロや米ドルなど日本円以外の通貨安の状況があるために相対的に価値が上昇しているに過ぎません。輸出政策においての「通貨安戦争」の敗者になっているのが現在の日本だといえるでしょう。

 日本が財政破綻(=デフォルト)したら日本国の信用も低下することになり為替は一気に「円安」に針が振れることになります。「超円高」が、突然「円安」に転換したらどうなるか? これを日本経済全体、金融機関や企業、そして個人の生活で考えてみようというのが本書の趣旨です。

 おそらく、バブルが崩壊してからタイムラグをおいて生活実感として感じられたのと同様、「国債クラッシュ」による「円安ショッック」を実感するには時間がかかるでしょうが、エネルギーを中心に輸入物価の高騰や公的サービスの縮小による不利益は想像を絶するものになると考えられます。

 シミュレーション小説の設定は 2012年10月ですので、もうすでに1年を切っています。2012年内に「日本国債暴落」が発生するかどうかについては、わたしは可能性としては小さいと考えています。

 ただし、これは計算可能な「リスク」というよりも、政治的な「不確実性」にかかわる話ですので、現時点でははなんともいえません。というのも、国債を扱っている債券ディーラーは、日本政府の動きをモニターして判断材料としているようですから、いかなるキッカケで日本国債に「売り」指令が出るかわからないからです。

 このままの状況が続けば、いまから3年後の2015年以降にはアウトの可能性があるということは、すくなくともアタマの片隅には置いておきたいものです。欧州各国とは違って、国債の引受先の 9割以上が日本国民である日本国債は絶対に問題ないという議論もありますが、何事にも限度というものがあります。わたしは、「国債クラッシュ」の可能性は「近未来」には起こりうる話だと考えます。

 「日本国債クラッシュ」を回避するためには財政健全化が必要ですが、それが経済成長の芽を摘んだのでは本末転倒。しかし、このままでは「国債クラッシュ」への道が進行してしまう恐れがあってじつに悩ましい。国民に増税を受け入れる覚悟ができ、政策として実施されるのか、それとも政治的迷走のなかで意志決定が先送りにされ、手をこまねいている内に財政破綻(=デフォルト)してしまうのか。

 財務官僚や経済官僚、政治家やといった政策立案と政策実行の「当事者」ではない一般の日本国民が行わねばならないことは、ミクロ的には「最悪の事態」を想定して個人生活や個人資産を守ることに努めるとともに、マクロ的な「最悪の事態」を回避するために、増税などの覚悟を国民の一人として受け入れることでありましょう。  

 現時点での可能性がたとえ小さなものであっても、中期的(=3年から5年)、長期的(=5年から10年)にはどうなるかわからないわけですから、すくなくともアタマのなかでシミュレーションだけはしておきたいものです。

 ハッキリしているのは、財政破綻した結果ハイパーインフレとなったとしても、人間は生きているし、生きていかなければならないということです。これはすでに破綻した夕張市などの自治体をみていれば理解できることです。

 「最悪の事態」をイマジネーションすることによって、「想定外」を一つでも減らしておくのが、その時になって狼狽しないためには不可欠ですね。こういうときには、いわゆる「専門家」ほど当てにならないのは、「3-11」でわれわれがいやというほど見たとおりです。ただし「杞憂」しすぎるのも禁物でしょう。

 世の中はなるようにしかならないというのもまた事実です。これは個人の信念や願望とはまったく関係ありません。

 そうなったらなったで、勇気をふるって生きる道をさぐる。最終的にはこういうことになるのかもしれません。エリック・ホッファーが言うように、あてにならない希望ではなく、確実な勇気をもって。






目 次 

はじめに 震災でいよいよ現実味を増す「最悪のシナリオ」
第1部 シミュレーション「2012年日本国債クラッシュ」
第2部 解説「国債暴落」危機の真実
あとがきにかえて


著者プロフィール

須田慎一郎(すだ・しんいちろう)

1961年東京生まれ。日本大学経済学部を卒業後、金融専門紙、経済誌記者などを経てフリージャーナリストとなる。民主党、自民党、財務省、金融庁、日本銀行、メガバンク、法務検察、警察など政官財を網羅する豊富な人脈を駆使した取材活動を続けている。週刊誌、経済誌への寄稿の他、「サンデー!スクランブル」、「ワイド!スクランブル」、「たかじんのそこまで言って委員会」等TVでも活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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書評 『民間防衛-あらゆる危険から身をまもる-』(スイス政府編、原書房編集部訳、原書房、1970、新装版1995、新装版2003)

書評 『未曾有と想定外-東日本大震災に学ぶ-』 (畑村洋太郎、講談社現代新書、2011)

自分のアタマで考え抜いて、自分のコトバで語るということ-『エリック・ホッファー自伝-構想された真実-』(中本義彦訳、作品社、2002)



 



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