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2024年4月10日水曜日

『日米ビジネス30年史』(植田統、光文社、2019)で「バブル崩壊後」の日本企業の栄枯盛衰を整理する。みずからの立ち位置を知るために、ビジネスにおいても歴史的思考が重要だ!

 

『日米ビジネス30年史』(植田統、光文社、2019)でバブル崩壊後の日本企業の栄枯盛衰を整理する。

これまた積ん読のままだった『日米ビジネス30年史』(植田統、光文社、2019)という本も読む。  

こちらは、1980年代のバブル時代を「前史」として、その後の1990年代から2010年代までの「日米逆転」の30年を、金融の世界で生き抜いてきた国際ビジネスマンが振り返ったものだ。 

ファクトベースで淡々とした記述がつづく本だが、バブル時代を含めた40年は、わたし自身の「自分史」と重なるので、いろいろ思うこともある。 

30年を一世代(ジェネレーション)と考えれば、1990年代以降の30年は、なんといったらいいのか、「自分史」においては、ひたすら問題処理にあけくれた日々のような気がしてくる。目を自分から他に転じても、大企業の不祥事は目に余るものがある。 

それはさておき、「30年前のリアルタイムの事象」など、ほとんど忘れていることも驚きである。そんな企業もあったなあ、と。そんな事件もあったなあ、と。 

つまり、『逆・タイムマシン経営論』で抱いた感想とおなじである。きわめて多くの企業が、「同時代性の罠」にはまって滅びていったのである。しかもライバルはいまや米国企業だけではない。テーマの性格上、記述はないが中国企業の台頭というあらたな事象がある。 




ビジネス界の栄枯盛衰は、ある意味では「愚行の歴史」でもある。いまが絶頂期の企業もまた、滅びていくのであろう。盛者必衰である。ビジネスにおいても、歴史的思考が重要なのだ。 

たんなる「逆張り」では成功する保証はないが、それでも「同時代性の罠」にはまることなく、つねに本質を考え続け、適切なタイミングで適切な行動を行うことが重要なのだと認識する。 

なぜなら、この30年間を生き延びてきた企業、あらたな芽を育ててきた企業もあるのだ。雑音に耳を貸すことなく、わが道をゆくという気概が大事なのだ。 

とはいえ、言うは易く行うは難し、ではあるが・・・。 


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目 次
序章 マクロ的にみる日米ビジネスの30年 
第1章 80年代 ― Japan as No.1 とアメリカの変革 
第2章 90年代 ― バブル崩壊から抜け出せない日本経済と IT化、グローバル化するアメリカ経済 
第3章 00年代 ― 20世紀モデルで立ち止まる日本経済と21世紀型への変革を遂げるアメリカ経済 
第4章 10年代 ― 20世紀モデルから抜け出せない日本企業と IT化で疾走するアメリカ企業
第5章 日米ビジネス30年史から見えてきたもの
おわりに
参考文献

著者プロフィール
植田統(うえだ・おさむ)
1957年生まれ。弁護士、税理士、国際経営コンサルタント、名古屋商科大学ビジネススクールMBAコース教授。東京大学法学部を卒業し東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンを経て外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。かたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。2014年独立し青山東京法律事務所を開く。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



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2024年4月9日火曜日

『逆・タイムマシン経営論 ー 近過去の歴史に学ぶ経営知』(楠木建/杉浦泰、日経BP、2020)を読んで、リアルタイムに進行する事象は認知バイアスを意識をして冷静に観察し、見極める力を養うために事物の本質を考えることが大事だとあらためて認識する

 

前々から気になっていたが、積ん読状態になっていった『逆・タイムマシン経営論 ー 近過去の歴史に学ぶ経営知』(楠木建/杉浦泰、日経BP、2020)を読む。  

内容的にはすでに日経ビジネスオンラインでその趣旨は読んでいたが、あらためて書籍として読んでみると、リアルタイムに進行する事象を、人間に特有の認知バイアスを意識して観察することの重要性を認識することになる。 

著者たちが強調しているのは「同時代性の罠」。人間が生きているのは「過去」でも「未来」でもなく、いまこの「現在」であるが、リアルタイムで進行している事象には無意識のうちに多大な影響を受けている。 

ことビジネスのようにカネがからむ活動においては、なおさら「同時代の罠」に捕らわれやすい。(ビジネス以外の非営利組織も同様だが、経済活動の観点からいえばタイムラグがある)

バズワードに踊らされ、流行り物の経営施策に飛びついてしまいがちなのだ。 

著者たちは、おおきくわけて3つのトラップ(罠)として整理している。「飛び道具トラップ」「激動期トラップ」「遠近歪曲トラップ」の3つである。 

これを採用すれば勝てるという「飛び道具」いまは激動期だという「激動期トラップ」隣の芝生は青く見えるという「遠近歪曲トラップ」である。 

具体的な事例は、いずれもリアルタイムの事象を紹介した経済記事であるが、これらを現時点から「すでに過去になった現在」として読み返すと、人間というものはなんと愚かなものだと思ってしまうのだ。いまから考えるとアホやねえ、と。 

ところが、リアルタイムではそうは思えないのである。これがさまざまな罠がもたらす認知の歪みであり、本質的な思考を深めることなく、販売サイドのプッシュ攻勢に巻き込まれてしまうのである。

そのあげくは、なんでこんなもの買ってしまったのだ、大枚はたいてなんとやらというわけだ。 もちろん、これは企業活動だけでなく、個人の消費行動についても当てはまる。

リアルタイムに進行する事象は、つねに一歩身を引いて見て考えることをマインドセットにしておきたいものだ。 


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目 次 
はじめに 「逆・タイムマシン経営論」とは何か
第1部 飛び道具トラップ
 第1章 「サブスク」に見る同時代性の罠
 第2章 秘密兵器と期待された「ERP」
 第3章 「SIS」の光と影
 第4章 「飛び道具サプライヤー」の心理と論理
 第5章 「飛び道具トラップ」のメカニズム
第2部 激動期トラップ
 第6章 「大きな変化」ほどゆっくり進む
 第7章 技術の非連続性と人間の連続性
 第8章 忘れられた「革新的製品」
 第9章 激動を錯覚させる「テンゼロ論」
 第10章 ビジネスに革命はない
第3部 遠近歪曲トラップ
 第11章 「シリコンバレー礼賛」に見る遠近歪曲
 第12章 半世紀にわたって「崩壊」を続ける「日本的経営」
 第13章 人口は増えても減っても「諸悪の根源」
 第14章 海外スターCEOの評価に見る遠近歪曲
 第15章 「日本企業」という幻想
おわりに


著者プロフィール
楠木建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授。1964年生まれ。1989年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年から現職。専攻は競争戦略。

杉浦泰(すぎうら・ゆたか)
社史研究家。1990年生まれ、神戸大学大学院経営学研究科を修了後、みさき投資を経て、ウェブエンジニアとして勤務。そのかたわら、2011年から社史研究を開始。個人でウェブサイト「The社史」を運営している。
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの



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2021年12月18日土曜日

書評『太平天国 ― 皇帝なき中国の挫折』(菊池秀明、岩波新書、2020)― 現代中国を理解するために「太平天国」について知ることは不可欠だ

 

ことし2021年は「太平天国」が1851年に誕生して170年目にあたる。 

科挙に3回挑戦したが失敗して挫折した「客家」(ハッカ)出身の洪秀全が、キリスト教の濃厚な影響のもとで始めた新興宗教が巨大化し、中国南部から北上する軍事勢力となったのが「太平天国」だ。

南京を占領して首都とするに至り、南京から南をほぼ支配下に置いたのである。 太平天国そのものは、その14年後の1864年に清朝の反撃によって壊滅したが、一時は清朝を壊滅の瀬戸際まで追い込んでいたのである。太平天国の乱による死者は2,000万にも及ぶとされる。桁違いの多さである。


■日米中でほぼ同時進行で発生した「内戦」

米国史上最大の内戦となった「南北戦争」(The Civil War)は、1861から1865年。にかけて起こっている。南北戦争における米国人の死者は60万人強、第二次世界大戦における米軍兵士の戦死者より多いという。米中ともに南北戦争であり、しかも南部が敗者となった点は共通している。

黒船来航は1853年で明治維新は1868年。「内戦」となった戊辰戦争は1968年から翌年にかけて起こっている。戊辰戦争の死者は1万人強と推定されている。こちらは西南と東北の戦いであり、東北が最終的な敗者となった。

19世紀半ばに、日米中で同時進行で大規模な政治変動が進行していたのだ。 


■「太平天国」の位置づけは時代で変化してきた

「太平天国」については、世界史の教科書にはかならず記載されているし、名前ぐらいは耳にした記憶があるはずだ。だが、中国の近現代史における位置づけは、時代とともに変遷してきた。 




かつては「中国革命の先駆者」としての位置づけであったが、2019年の「中華人民共和国建国70年」を経た現在では、かつてのような礼賛一辺倒というわけではなくなっている。 それに応じて、かつて日本で出版された「太平天国の乱」の関係書もニュアンスの違いが反映している(*上掲写真を参照)。

歴史家と同時代認識の関係である。具体的にいえば、『太平天国』(増井経夫、岩波新書、1951)は、「太平天国100年」を記念した出版物であり、中華人民共和国誕生からわずか2年後のものである。ただし、同時代人として上海で太平天国の動向を観察した高杉晋作など日本人が見た太平天国の記述は現時点からしても興味深い内容だ。

『洪秀全と太平天国』(小島晋治、岩波現代文庫、2001 初版1987)は、「太平天国150年」を記念して文庫化された作品だ。すでに中華人民共和国建国から半世紀以上たった時点での文庫化であり、前者と違ってかなり公平な見方が可能となってきた時点での最新成果であった。

『「ゴッド」は神か上帝か』(柳父章、岩波現代文庫、2001 初版1986)もまた、「太平天国150年」を記念して文庫化された作品だ。太平天国を直接扱った作品ではないが、翻訳論の専門家による God の漢訳をめぐるストーリーは、太平天国という新宗教をつくりだすきっかけとなった中国におけるプロテスタント布教と受容をたどることで明らかになる異文化論でもある。

過去の中国史においては「常識」といっていいが、王朝の滅亡は宗教が主導する民衆暴動がきっかけになったことが多い。それだけに宗教を敵視し、徹底的に宗教弾圧に向かっている習近平体制は、はたして新興宗教であった太平天国をどう評価していくのだろうか。 

そうでなくても近現代史というのは、立ち位置によって解釈が大きく異なるので扱いが難しいが、中国共産党が支配を続けている限り、中国近現代史について正確な歴史認識をもつには限界がある。平気で歴史を捏造するのが中国共産党であり、歴代の中国王朝である。


■『太平天国-皇帝なき中国の挫折』(2020)は現代中国を理解するための必読書

先日のことだが、『太平天国-皇帝なき中国の挫折』(菊池秀明、岩波新書、2020)を読んだ。ことし2021年は「太平天国170年」にあたる年である。

すでに見てきたように、太平天国について書かれた本は少なくないが、この本は最新の研究成果を織り込んだコンパクトな1冊で、読みやすく、しかも読みごたえがある。著者は、太平天国研究の現在の第一人者といっていいだろう。  

帯にもあるように「人類史上最悪の内戦」というのは、誇張でもなんでもない。少なく見積もっても、2,000万人以上(!)が殺されているのである。太平天国壊滅後に処刑された者を含めての人数だ。 

著者のスタンスは、現代中国を理解するためには太平天国を理解することは不可欠、というものだ。 

著者は「結論」で以下のように書いている。 (*太字ゴチックは引用者=さとう)


急速に大国化に向かう現在の中国を見るとき、太平天国に現れた中国社会の問題点は、なお未解決のまま残っていることがわかる。自分とは異なる他者を排斥してしまう不寛容さと、権力を分割してその暴走を抑える安定的な制度の欠如は、中国国内だけでなく、台湾や香港、少数民族をはじめとする周辺地域に深刻な影響を与えている・・ 


太平天国には、中国が抱える問題点が集約的に現れていたわけなのだ。「皇帝なき中国」を目指したはずの太平天国も、結局は中国の伝統的統治モデルをなぞるしかなかった。 

現在を理解し、近未来を考えるために必要なのが歴史的思考だ。中国共産党支配がもたらす問題点に冷静に対応するためにも、太平天国については最低限の知識をもつ必要がある。

そのためには、昨年2020年に出版されたこの本は最適だろう。ぜひ読むべきだ。 


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目 次

はじめに 
1 神は上帝ただ一つ 
2 約束の地に向かって
3 「地上の天国」の実像
4 曽国藩と湘軍の登場
5 天京事変への道
6 「救世主の王国」の滅亡
結論
あとがき
参考文献
図版出典一覧
関連年表


著者プロフィール
菊池秀明(きくち・ひであき)
1961年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、東京大学大学院人文社会研究科博士課程修了。博士(文学)。中国広西師範大学、広西社会科学院に留学および在学研究。その後、中部大学国際関係学部国際文化学科講師、助教授、国際基督教大学准教授などを経て、国際基督教大学教授。専攻は中国近代史。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<参考> 19世紀半ばのほぼ同時期に内戦状態にあった日米中

◆中国: 太平天国の乱(1851~1864)
◆米国: 南北戦争(1861~1865)
◆日本: 戊辰戦争(1868~1869)



<ブログ内関連記事>

・・「(ヴォーリスは)中国ミッションの困難と苦難に関する講演を聴いている最中、キリストの姿(=ビジョン)を幻視し、キリストから直接語りかけられたという劇的な回心を体験し、キリスト教の海外伝道という自らの使命(=ミッション)に目覚めた結果、建築家になる夢をあきらめ、後ろ盾もなく身一つで英語教師として日本に渡った」

・・宣教師ネットワークでつながっていた米中の深層底流

・・カトリックの中国ミッションの歴史



・・東アジアにおけるキリスト教土着は日本だけでなく、朝鮮半島でも中国大陸でも


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2010年6月10日木曜日

書評『日本人へ リーダー篇』(塩野七生、文春新書、2010)ー ときどき「おお、これは鋭い」と思えるような指摘がある




ときどき「おお、これは鋭い」と思えるような指摘がある

 本書は表題のテーマであらたに書き下ろされたものではなく、月刊「文藝春秋」の巻頭言を時系列で集めたものだ。本書には、2003年6月号から2006年9月号までの約3年分の文章が収められている。

 いずれも時事的なテーマをネタに書かれた文章であるから、いまから考えると「ああ、そんな事もあったなあ」という感慨にとらわれる。本書に収められた文章は、私はリアルタイムではまったく読んでいなかったので、現時点で過去をリアルタイムに再体験する意味では面白い読書体験となった。

 長年にわたって塩野七生の読者であるが、必ずしも熱狂的なファンではない私には、本書に収められた文章のすべてがすばらしいとは思わない。

 しかし、ときどき「おお、これは鋭い」と思えるような指摘があるので、結局最後まで読んでしまう。

 なによりも、巻頭におかれたカエサル(=ジュリアス・シーザー)の名言は噛みしめるべきものである。

人間ならば誰でも、現実のすべてが見えるわけではない。
多くの人は、見たいと思う現実しか見ていない(ユリウス・カエサル)

 もちろん著者自身、このワナにはまる危険を十二分に意識しつつも、完全には逃れ得ないという自覚をもっているように思われる。そもそも人間がかかわる以上、それは避けてとおれないものであろう。

 著者は自らを「歴史研究者」ではなく、「歴史家」であると自己規定している。事実関係を明らかにするのを主目的にしているのが歴史研究者であるとすれば、「人生で蓄積したすべて」を深く関与させて「文献をどう読み解くか」(P.200)が勝負の世界に生きているのが、歴史家である。

 現在では、インターネットで検索すればたいていの情報は入手できるというのに、人によってアウトプットに大きな差がついているのは、情報を解釈するチカラの差であるのだ。
 これは重要な教訓である。

 『ローマ人の歴史』執筆がまさに終わろうとしている時期に書かれた文章を読んでいると、その後の「帝国」であった英国も、米国も、中国もローマ帝国とはまったく異なる存在であることが指摘されており面白い。

 その意味では、専門家ではない著者の中国に対する「ものの見方」が非常に新鮮に感じた。

 中国を「政治外交小国」と断じている著者の視点は専門歴史研究者にはできないものだろう。こういう文章を読んだ瞬間、読書のよろこびを感じるのである。





PS 読みやすくするために改行を増やした。本文に手は入れていない。 (2014年3月3日 記す)。


<初出情報>

■bk1書評「ときどき「おお、これは鋭い」と思えるような指摘がある」投稿掲載(2010年6月6日)
■amazon書評「ときどき「おお、これは鋭い」と思えるような指摘がある」投稿掲載(2010年6月6日)


*再録にあたって、字句の一部を修正した。


<ブログ内関連記事>

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)

『フォーサイト』2010年4月号(最終号) 「創刊20周年記念号 これからの20年」を読んでさまざまなことを考えてみる

賢者が語るのを聴け!-歴史小説家・塩野七生の『マキアヴェッリ語録』より

600年ぶりのローマ法王と巨大組織の後継者選びについて-21世紀の「神の代理人」は激務である

書評 『想いの軌跡 1975-2012』(塩野七生、新潮社、2012)-塩野七生ファンなら必読の単行本未収録エッセイ集

(2014年3月3日 情報追加)






                    

2010年3月27日土曜日

『フォーサイト』2010年4月号(最終号) 「創刊20周年記念号 これからの20年」を読んでさまざまなことを考えてみる




 『フォーサイト』2010年4月号(最終号)を読んだ。

 3年間の継続購読をしていた私は、2010年2月で購読期間がきれたのだが、のこり2冊を購読するため追加料金を払って入手した。やはり長年読んできたし、最後まで見届けたいという気持ちもあったからだ。画竜点睛を欠くわけにはいけないしね。


署名記事の是非という本質問題を考える

 あらためてここで振り返って考えておきたいのは、署名記事の是非についてである。

 『フォーサイト』は署名記事であり、先行していた『選択』と比べて新鮮味があったのは事実である。

 記事に署名を入れることで責任の所在を明確にし、執筆者のバックグランドまで含めた個性を把握した上で、掲載記事や掲載論文を読むことを可能にする点、これは大きなメリットであるし、現在では新聞記事も署名記事が増えているのはその流れであるといえよう。

 一方、先に名前を出した『選択』英国の『The Economoist』は現在でもかたくなに、無署名記事を中心にしている。

 署名記事にしない理由は、『選択』の場合は、情報ソースを明かさないことでディープなインサイド情報を書くことができることであり、実際メディア関係者が覆面で執筆しているようだ。『The Economist』の場合は、昔からそうしているという以上の理由は見いだしにくいが、執筆者そのものよりも編集長の個性が何よりも中心にあるという姿勢のあらわれであろうか。

 署名記事と無署名記事のメリット/デメリットはよく知ったうえで、情報を取り扱う必要があるし、そのためのノウハウも確固として存在する。

 さて、『フォーサイト』はどうであるか、ということにかんしては、署名記事ゆえのメリットもあるが、デメリットも少なからずあるような気がしなくもない。署名記事の場合、内容もさることながら執筆者名でその記事や論文を読む選択をすることがあり、せっかく中身がよくても執筆者が自分の好みでない場合、オミットしてしまうことも多々あるからだ。もちろん逆の場合のほうが多いことは確かだが。

 また、掲載している記事や論文が玉石混淆で、非常に優れた内容のものもあれば、なんだこれはというような記事も少なくない。総花的な編集方針なので、政治経済の記事以外の企業関係の記事には少しがっかりさせられるものが多い。これは先にもみたように署名記事の限界が現れているものと思われる。

 「世間」のなかで生きている日本人にとって、しかもメディア関係者という、さらに狭い「世間」のなかで生きていく人間にとって、本当の意味での記事は書きにくいだろう。

 命かけてまで書くという気概をもったジャーナリストもまた、この国では生きるのは難しい。無署名原稿でなければ書けない記事というものがある。とくに企業関係の記事は、キレイごとだけの記事だと面白くともなんともない。

 こういった本質的な問題を、ウェブ版ではどう解決していくのか、あるいは現在のフォーマッットのままただ単に発表媒体を印刷媒体からインターネットに移行するだけなのか、注視したいと思う。


■ 「創刊20周年記念号 これからの20年」?

 以上、本質的な話について考えてみたが、最終号の特集について触れておこう。 「創刊20周年記念号 これからの20年」と題して、さまざまな特集記事を掲載している。目次を哨戒しておこう。太字ゴチックは私の注目記事。

「待ち受ける「2つの未来」」(インタビュー:ニーアル・ファーガソン)
「社会保障改革に立ちはだかる「既得権益層」」(鈴木亘)
「人口減少社会でも「豊かさ」は実現できる」(大竹文雄)
「暗雲垂れこめる「製造業の未来」」(新田賢吾)
「アジアの養殖業は世界の胃袋を満たせるか」(中田誠)
「激化する「食料」と「環境」の相克」(井田徹治)
男たちへ、女たちへ、若者たちへ(書面インタビュー:塩野七生)

人物篇 次の20年の20人
地域篇 これからの20年の世界
アメリカ/ロシア/中国/朝鮮半島/ヨーロッパ/中東/インド/東南アジア/アフリカ/中南米

今後20年のフォーサイト・スケジュール


 ざっと読んでみて「これからの20年」といえるような記事は、正直いってあまりなかった。ほとんどの記事が、現時点の問題をそのまま延長線上のものとして取り上げているに過ぎないからだ。

 このブログでも何度も書いているように、「20年先のことを透視できる」のはいかさま相場師たちや預言者たちだけであろう。それですら大半がはずれるというのが、この世の常である。

 私は、経営企画担当として経営企画業務を長年やってきているが、5年先ですらわからないのに、なんで10年先や20年先がわかろうか、というものだ。

 そんななかでも読むに値する論文が、「人口減少社会でも「豊かさ」は実現できる」(大竹文雄)であった。将来推計の人口分布をもとにした経済学者の論文は読む価値のあるものである。これはぜひ目をとおすべきだと推奨しておきたい。

 また、「男たちへ、女たちへ、若者たちへ」(書面インタビュー:塩野七生)は、もちろん読む価値がある。20年後は確実に死んでいると明言している、1937年生まれの作家の若者へのアドバイスはきわめて潔よい。塩野七生の『男たちよ』は私の人生の指南書でもあるが、司馬遼太郎ではないが、塩野七生にはぜひ若者向けに遺書(?)を残して欲しいものだと思う。


ニーアル・ファーガソンという「今後20年間で」注目しなければならない歴史学者

 結局のところ、いまのような激動期は、10年先や20年先の確実な予測などできるわけがない。その意味では、「待ち受ける「2つの未来」」(インタビュー:ニーアル・ファーガソン)は面白い。

 ニーアル・ファーガソン(Niall Ferguson)という歴史家の名前は、恥ずかしながらこのインタビュー記事を読むまで知らなかったが、現在ハーバード大学の歴史学教授とハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の経営管理学教授を兼任し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の歴史学と国際関係論の教授を兼任する気鋭の歴史学者である。Wikipedia(英語版)の記述によればそうある。

 1964年にスコットランドに生まれた気鋭の歴史学者である。専攻は金融史と経済史、および植民主義の歴史とのことで、日本語に翻訳された著書には、『憎悪の世紀 上下-なぜ20世紀は世界的殺戮の場となったのか-』(仙名紀訳、早川書房、2007)『マネーの進化史』(仙名紀訳、早川書房、 2009)があるようだ。「今後20年間で」注目しなければならない歴史学者のようだ。

 詳しくは直接『フォーサイト』の本文を読んでいただくのがよいと思うが、私の心に「刺さった発言」を引用しておく。太字ゴチックは引用者によるもの。

ファーガソン まさに歴史的なターニングポイントです。大きな視野でいうならば、「西洋の上昇の終焉」という歴史的転換期です・・(中略)・・こうした西洋(この場合、日本も含む)の衰退と裏腹に、中国やインドを筆頭とする東洋は、経済危機から打撃を受けることもなく、成長を続けている。
 私の見通しが正しければ、西洋はいま、500年以上居座ってきた支配的地位からすべり落ちようとしている。つまり07年の危機は単なる経済危機ではなく、世界的な力のバランスが西から東へと移行していく歴史の転換期なのです。

ファーガソン 歴史学者として学んだのは、「未来」は一つではないということ。未来は「フューチャーズ」(*)と複数で語るべきなのです。そして、私たちには複数の未来の中から道を選び取っていく選択肢がある。

(*引用者注:フューチャーズ futures と複数形にすると「先物」(さきもの)のことをさす。さすが金融史専攻の歴史学者である。日本語版の編集者はこういうシャレをきちんと日本語で説明しておくことが必要。いまひつ気配りが足りないな・・・)

ファーガソン 中東からアフリカにかけての出生率の高い地域で、満たされない思いを抱える若い男性が危険なエネルギーをためている。百年前はこれがドイツであり日本であった。こうした怒れる若者の圧力が、領土拡大の背景にあった。だが、高齢化し、成熟した日本やドイツにそんな圧力はない。その意味でも沸点は移動した


 つまるところ、 「創刊20周年記念号 これからの20年」特集の、私にとって最大の収穫は、ニーアル・ファーガソンという「今後20年間注目すべき歴史学者」を発見したことに尽きるかもしれない。ファーガソンの著作は、時間をみつけて読んでみたいと思っている。

 いまほど歴史学の重要性が増している時代もないだろう。歴史作家の塩野七生は、「日本人は垂直(歴史)思考が不得手」と述べているが、歴史ドラマや歴史小説が好きでも、それは歴史的思考とは異なるものである。ドラマや小説は、時代背景を過去に設定しただけの現代ものであり、いくらドラマをみても垂直的(=歴史的)に思考する訓練を行うことはできない。もちろん、エンターテインメントとして楽しむのはまったく問題ない。

 まあ、私などの表現を使えば、垂直的は通時的といいかえてもいいが、「通時的」(ディアクロニック)な思考と「共時的」(シンクロニック)な思考、いいかえれば歴史的思考と構造的思考の両面でものを見なければ、ワンランク上のビジネスパーソンにはなることができないだろう。

 この点にかんしては、歴史的には衰退過程にあるとはいえ、まだまだ西欧に学ぶべきものは多い。その上で、市場としての中国やインドでビジネスチャンスを発掘していくことが、これからの日本人ビジネスパーソンに求められる課題ではなかろうか。

 こんな期待に応えてくれるインテリジェンス雑誌が欲しいものである。

 ウェブ版の『フォーサイト』が、この期待に応えてくれることを望みたい。

 

PS 読みやすくするために改行を増やし、小見出しを加えた。本文には手を入れていない。また写真を大判にした。 (2014年年3月3日 記す)。


 
<参考サイト>

niallferguson.org(歴史家ファーガソンの公式ウェブサイト 英語)
Niall Ferguson on Twitter(歴史家ファーガソンのつぶやき)


<ブログ内関連記事>

未来は過去に読む-歴史研究から

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

書評『1492 西欧文明の世界支配 』(ジャック・アタリ、斎藤広信訳、ちくま学芸文庫、2009 原著1991)


塩野七生の歴史的思考

賢者が語るのを聴け!-歴史小説家・塩野七生の『マキアヴェッリ語録』より

書評 『日本人へ リーダー篇』(塩野七生、文春新書、2010)-ときどき「おお、これは鋭い」と思えるような指摘がある

600年ぶりのローマ法王と巨大組織の後継者選びについて-21世紀の「神の代理人」は激務である

書評 『想いの軌跡 1975-2012』(塩野七生、新潮社、2012)-塩野七生ファンなら必読の単行本未収録エッセイ集

署名=ブランドの意味について考える

「セルフブランディング」と「セルフプロデュース」、そして「ストーリー」で「かたる」ということ-「偽ベートーベン詐欺事件」に思う (2014年2月)
・・「署名記事」にはゴーストという疑惑が100%できないという問題点もある。そもそも雑誌記事といえども編集者の手によって加筆修正がされ、タイトルが変えられることは常識である。記事そのものについても署名記事の署名は、信用を担保するという意味においてブランドとしての機能と同じである

(2014年3月3日 情報追加)


      

       
P.S. この記事をもって、ブログ掲載記事が300本目となった。250本目のときにも書いたが「継続はチカラなり」、ブログ開設から11ヶ月で300本書いたが、これで「ほぼ毎日更新中」の公約は、看板に偽りなしと実証できているものと、自分をちょっとだけ褒めてやりたい。仕事が忙しくなってから(・・でないとまた困るのだが)も、「ほぼ毎日」できるか、私にとって限界への挑戦となる。
 今後もさらに、350本目、400本目を目指して、とりあえず小さな目標(苦笑)でがんばります!
 読者の皆様には、この場を借りて感謝申し上げる次第です。






(2012年7月3日発売の拙著です)








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